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異世界貴族につき・・・  作者: 茶と和
第1部 田舎の異端児
16/33

16 魔人との邂逅 1

 父や大叔父に魔人の情報を伝えたことで、特に何もすることがなくなった俺は、いつものスケジュールをこなしていた。父には1人で森に行ったことや、大叔父の後をつけたことは不問にすると言われたが、父が、近く王都に行く可能性があり、俺も同行する旨を母に説明した際、なんで俺まで王都に行くのか不思議がった母が父に詰め寄り、堪え切れなくなった父がついに俺の仕出かしたことを暴露してしまった。


 俺は母にこっぴどく叱られた挙句、最後には泣かれて「もう危ないことはしないと約束してね」といわれた。母にはさすがに申し訳ない気持ちになった。父は「不問にするとは言ったが、母さんが叱らないとは言っていない」と苦しい言い訳を残して逃げた。以来、丸1日会ってない。


 俺は再び森の空き地に行き、御使い様に、父や大叔父たちと決めた魔人への対応策について説明した。既に王都に一報を送ったので、王都に届き次第、捕縛部隊が派遣されるだろうと伝える。また、王都に行く可能性があることも話した。行ったら戻ってくるまでに1カ月ぐらいかかること、軍が来る前に王都に行くかも知れないとも説明しておいた。


「分かったわ。あたしは人から見えないので、いつもと変わらないけど、森にいる魔物や獣はちょっと可哀想ね。どのくらいの人が来るか分からないけど、あまり森を荒らさないで欲しいものだわ」

「捕縛に来る兵の規模は分かりませんが、魔人の捕縛だけでなく、大蛇の討伐もあるので、それなりの規模になると思います。もしかしたら2~300人は来るかも知れません」

「でも魔人が何人いるか分からないでしょう? もっと来てもおかしくないかも」

 そうか。肝心の魔人の人数が分からないや……父さんは15年前の反乱事件の生き残りといってたが、王家で人数を把握しているのだろうか。


「前に予想を申し上げた通り、隠れて住んでいるなら多くても50人くらいだと思います。それ以上だと、いくら森が大きくても食料確保が難しくなるでしょう。でも確かに人数は知りたいですね。そこで御使い様にお願いなのですが、ちょっと魔人の住処を調べたいので、御使い様が魔人を追っていった正確な場所を教えて下さい。多分あの岩山の付近に隠れ住んでいるのでしょうが、洞穴とかに隠れていると見つけにくいかも知れないので」


「本気で行くの?」

「捕縛部隊への情報提供もですが、王都に行く可能性があるなら、できるだけ情報が欲しいのです」

 洞穴に隠れているなら人数把握は無理だろうが、少なくとも居場所は分かるはずだ。俺の飛行魔法である程度の高さから偵察してみるのはどうだろう。見つかる恐れはまずないし、見つかっても何もできないだろう。


「お勧めはしないけど教えてあげるわ。一緒に行ってあげる」

「ありがとうございます」

 そういうと、俺たちはしばらく森の中を進んだあと、一気に上空に飛び出す。春とはいえ、地上から300メートルくらいまで上昇すると空気が冷えてきて肌寒いが、何とか耐える。そして岩山付近まで来ると俺は気になるところを空から覗いてみた。


 魔人の住処はすぐに見つかった。御使い様を引き返らせた精神に干渉する魔術はこの高さなら無効のようだ。岩山の裾野から続く細い崖下の道が岩山の中心に向かって伸びており、その行き止まりに少し広めの空間があって、そこに粗末な建物が6件ほどあった。


 近くの陽が当たる場所には畑らしいものが見える。何人か動いている魔人も見えたが、全部で何人いるかは把握できそうにない。でもあの規模なら2~30人が限度ではないだろうか。


 細い道が1本しかないので地上からたどり着くのは難しいが、捕縛するのは王都から派遣される軍隊だから何とかするだろう。


「しかし、隠れ住んでいるという事情があるとはいえ、よくこんなところに住めますね。魔人は体だけでなく精神も頑丈なのですね。人間ならすぐに音を上げるでしょう」

「人や亜人の暮らしは良く分からないけど、草木は少ないし、水も豊富とは言えないから生活するのは厳しいわね」


 先ほどから、魔人の住処が望める岩山に降りて魔人の住処を覗いている。実際の暮らしぶりやどんな武器を持っているのか、もっと近づいて調べたかったのだ。ここから魔人の住処までは大体100メートルくらいだ。

 魔人も、まさかこんなところから覗かれているとは思ってもいないだろうから、警戒するそぶりは見せていない。たとえ気づかれたとしても、すぐにはやって来られない筈だ。


「それにしても、畑もろくにないし、狩りが主な食料確保の方策なのでしょうね」

「そうね。それよりあたしがちょっと行って魔人がどれくらいいるか確かめてみるわ。上からなら呪術が効かないようだし」

「いや、でもほかの呪術があるかも知れませんし、もっと強力なのがあったら危ないじゃないですか。御使い様が見える魔人もいるかも知れません。これ以上,御使い様を危険な目に合せる訳には行きません」

「意志を強く持って警戒していれば魔術は大丈夫よ。それに物理的な攻撃はあたしに効かないし」


 そうはいっても御使い様に何かあってはまずい。俺は思いとどめようと御使い様の方に振り向いたところで何かに気づく。


「あれ、魔人の子供が崖の上にいますね。結構な高さですが足場が悪そうで危ないです」

 御使い様も気づいたようでじっと注意を向けている。

「確かに危ないわね。あの高さだと流石に身体能力が高い魔人でも落ちたら命がないわね」


 魔人の子供はだいたい地上から30メートルの高さの崖の上にいる。なんであんなところに1人でいるのか不思議だが、その少し上にひと1人が通れる道らしいものが見えるので、そこから降りたのかも知れない。でも子供の背丈では道に戻るのは無理だろう。そうしているうちに下にいた魔人も気づいたようで、子供のいる崖下に集まってきた。


「子供が崖から動けなくなったようですね。こういったとき魔人はどんな方法で助けるのでしょう? 魔法を使うならどんな魔法か見てみたいです」

「あんたみたいな魔法なんて多分ないわよ」

「えっ、では助けられないかもしれないじゃないですか?」

「そうね。最悪あの子は落ちて死ぬわね」


 そんな……。俺はどうしようか考える。魔人の誰かが助けるのが一番だが、もしだめなら俺が助けるしかないか。相手は反乱事件の逃亡者の可能性があるのだ。子供を助けたところで見逃すとは考えにくい。それにこれから王都に行って魔人のことを説明するのだ。今ここで接触するのはまずい。


 そこでふと考える。あれ、別にまずくはないのではないか。魔人と接触しようがしまいが、ようはうちの領地から出ていってもらえばいいのだ。それが円満にできるならなお良い。


 うちの領地は別に魔人の被害を受けてないし、不法滞在は事実だが、これといって実害はないわけだ。どうせ1カ月以内には王都から軍が派遣されるだろうから、どのみちここにはいられない。魔人の移動先に心当たりはないが、ここから北の地に向かうなら、山脈越えも1つの手だろう。これから夏を迎えるので越すなら今しかない。

 もし魔人と接触するなら、魔人の態度次第で逃走を勧めてみよう。ただし、それ以上の便宜は図れない。もちろん攻撃された場合はすぐに逃げる。


 ただ、王家にはどう説明しようか。うちらも魔人が逃げたことは知らなかったということにするか? 大蛇が街道近くに現われ領都で騒ぎが起こり、それを察した魔人が逃げ出したと説明しても良いかも知れない。概ね事実だし。


 もし、うちらが匿っていた魔人を逃がしたのだと難癖をつけられたのなら、この住処を見せればいい。真っ当な人間ならこの住処を見てうちが匿っていたとは思わないだろう。


「あっ、落ちる……」

 御使い様が声を上げる。まさにいま、子供が足元を滑らせて岩の足場から下に落ちたところだった。俺は咄嗟に岩山から空中に飛び出すが、間に合う筈もない。


 子供は地面に落ちる寸前に魔人の大人に抱きかかえられて一緒に地面へと倒れる。子供はショックで気を失ったようだが、何とか抱きかかえて地面に激突するのを免れたので、怪我はあっても死ぬことはないだろう。


 しかし、思わず飛び出してしまった。どうしよう。見るとこちらに気づいた魔人が何人かいる。女性や老人が多いようだ。落ちた子供を入れても全部で10人か。あとは狩りや採集にでも行ってるのだろう。


 俺は冷静に魔人たちの間合いを見極め、上空50メートルの高さを維持する。ここでも弓なら射程範囲内だろうから、自分の周囲に、防弾ガラスをイメージした見えない魔法障壁を作っておく。魔人たちは落ちた子供と、その子を下で見事にキャッチした大人1人を除いて全員がこっちを見ている。


「あなた方は魔人ですね。私の言葉が分かりますか」

 こんな子供でも人間だから、みんな警戒しているのだろう。誰も反応しない。のっけから滑った芸人の気持ちがいまなら分かる。でも、みんな呆けた顔をしている。咄嗟に武器を構えられなかったのは良かったが、もしかして言葉が分からないのか。それはさすがに考えてなかった。どうしよう……。


 こうなりゃ身振り手振りで会話するか? ボディランゲージなんていう言葉もあった。意外と何とかなるのかも知れない。やったことないけど……。


「あんたは誰だ? 人じゃないのか。どうして飛んでる!」

 そっちかーい! そう、人は決して俺のように空を飛ばない。人外であることをすっかり忘れてた。さて、どうするか。呆けて敵対する気もないうちに、要点だけを伝えてみよう。


「まずは、私は人間ですがこのように魔法が使えます。あなた方に伝えたいことがあります。そう遠くないうちに、ここにリエルタ王国軍が押し寄せて来るでしょう。もちろんあなた方を捕らえるためです。なぜ捕らえられるのかはあなた方もご存じでしょう。もうあまり時間はありません。逃げるなら早めに食料の確保や移動の準備をした方がいいです。一緒にあの大蛇も連れて行って下さい。因みに私を捕らえたところで、何も変わりませんよ」


 一気に要点だけを言ってみる。王国軍が自分たちを捕らえに来ること、逃げるなら今しかないこと、大蛇も連れて行ってほしいこと。最後に俺を捕まえても状況は変わらないことを伝えておく。


 リエルタ軍と聞いて女性の一部が動揺しているが、ほとんどは覚悟しているようで、黙って俺の言葉を聞いている。さすが15年間も逃亡していた連中だ。肝が据わっている。でも、玉砕覚悟で一戦交えるなんてことは考えないで欲しい。


 見たところ女性も多い。住人は全部で20~30人程度なのは確定だ。空から見たところ、ここ以外の住処はなかった。子供を差し引いて、大人が全員が戦っても20人ほどしかいないだろう。


 そんな事を考えていると、1人の老人が杖をついて前に出てくる。綿か麻の肌着は着ているようだが、外側はやはり獣の皮をなめしただけの粗末な皮の服をまとっている。だがなんとなく威厳がある。ここの長か?


「儂はアティリオ、ここの里長を務めておる。あんたが人間ならどうしてそんなことを教える? 儂らは王国に敵対したのだぞ」

 やはり長だったか。俺の話をまるっきり嘘だとは決めつけてないが、俺の真意が聞きたいのだろう。


「私はここの領主、グラセス男爵の息子のレオンです。あなた方は森の主と呼ばれるブラグスに、呪いのような魔術をかけましたね? それが全ての発端です。私はそのブラグスを倒し、魔術をかけた者の正体を追ってここまで来ました。あなた方がここに隠れ住んでいることは既に父も知るところです。王都には先日、一報を知らせる早馬を出しましたから、間もなく王都に到着し、王国軍が捕縛の準備を始めるでしょう。私としてはこの森で争って欲しくないのです。あなたたちが逃げてこの森を出ていくなら、逃げた言い訳くらいは何とかしましょう。険しいですが北の山岳地帯を抜ければあなた方の故郷である北の地に辿り着けます。誰もやってのけたことはないでしょうが、リエルタ王国軍と対峙するよりは、命を掛ける価値があると私は思います」


 アティリオはじっと俺の言葉を聞いていた。俺の言葉に嘘がないか確認しているのだろう。半信半疑なのは間違いないが、一報を受けてリエルタ軍が来ることはまず確実だ。決断は早い方がいい。


「そうか……確かにあのブラグスに隷属の呪術を掛けたのは我々だ。里に近づいて獲物が獲れなくなったので、呪術で行動を縛ったのだ」

 やっぱりか。狩りの邪魔になるから魔術で縛ったのか。こんなところに住んでいれば狩りの獲物は貴重な食料なのだろう。やむにやまれずといったところか。


「あの魔術は解除できませんでした。だから私が殺しました」

「そうか殺したのか……儂らも初めは殺そうとしたが、暴れられると狩人に気づかれると思い、隷属の呪術をかけたのだ。隷属の呪術は神の名で相手を従わせる術で、解除しようとすれば死ぬまで暴れ続ける」


 なんとまあ信じられない術があったものだ。神の名で術をかけたなら、御使い様でも解除は無理か……。でも、そんな強力な術は、当然本にも載ってなかった。秘術または禁術の類だろう。魔人特有の術なのかな?


「その呪術は魔人特有のものですか? 術が強力すぎて危険です」

「魔人特有というより、我々一族の秘術だ。ほかの一族でも同じような魔術を使うものはいるかも知れん。あの呪術は時間をかけなければかからない。儂らはブラグスの冬眠中を狙って術をかけたのだ。」


 やはり、魔人は様々な術が使えるのだな。改めて考えると、魔法の技術は人間よりも数段上かも知れない。なにせ、人間の本には魔素と反応させて魔法を使うなんて嘘が平気で書いてあるのだから。


「儂からも質問がある。王国軍が来るのは分かった。こうなってはもう避けられんだろう。それで、レオンだったか? 逃げた言い訳を何とかするというのはどういうことじゃ?」

「これでもリエルタの貴族ですから、貴族の体面もあります。あなた方がここを離れて逃げるなら、どのみちグラセス家でも言い訳をしなくてはなりません。今考えているは、あなた方の大蛇が街道近くに現れたことで、領都の住民が慌てた。それを察知したあなた方は、もうここで暮らせないと判断し住処を出ていった。といったところです。領都の住民に魔物の存在を周知したのは事実ですので、満更嘘とも言えません。あなた方が察知したのではなく、私が教えたとの違いだけです」


 俺は考えつく言い訳を述べる。アティリオは少し考えてからもうここには住めないことを覚悟したようで、「明日には里として方針を決めよう」と引き取った。俺もなんとか穏便に話ができてほっとする。

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