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異世界貴族につき・・・  作者: 茶と和
第1部 田舎の異端児
11/33

11 魔物を探そう

 姉といた談話室を後にし、日課の魔法の練習をしようと1階に下りる。すると、団長のライネリオをはじめ、騎士団数人が完全武装で出かけようとしていた。俺は「何かあったの?」と声をかけてみた。


「レオンか、街道沿いで魔物の目撃情報があったから確認しに行くのだ」

 その団長自らがいう。大叔父の騎士団長が自ら行くということは、脅威になりそうな魔物なのか?


「今年は魔物が多いって聞いたけど、どんな魔物なの?」

「大きな蛇の魔物のようだ。この辺りにはいないから疑わしいが、確かめてくる。お前は家で大人しくしてなさい。大丈夫、騎士団は強いからな」


 安心させるようにそう言うと、大叔父は、2人いる副団長の1人に屋敷の警護を任せ、騎士5人をつれて馬に乗って出て行った。蛇の魔物ということは、昨日サンスが言ってたラノスなのか? 俺は気になったので、こっそり屋敷を抜け出して大叔父の後をつけることにした。大して多くない警備の目を盗むのは簡単なのだ。


 俺は屋敷のある高台から、既に遠くに見える大叔父の姿を見つめる。そして大叔父が街道に出て西に進み、領都の門を出るのを確認すると、人に見つからないよう大叔父の後をつけはじめた。一昨日、御使い様と森の泉に向かったときに使った風魔法だ。最小限の風圧で体を持ち上げ、地上5メートルほどの高さを移動する。


 林などに隠れつつ、こっそり後をつけるのは、ちょっと罪悪感があるがなかなか楽しい。


 大叔父たち一行は領都から5キロほど進んだあと、馬を降りて森に入っていく。ここが目撃情報のあった場所なのだろう。領都からは歩いても1時間ほどの場所だ。この辺りは民家こそないが、山菜を採りに領民が訪れることもある。また、近くまでぶどう畑や果樹園が広がっており、いわば領都の生活圏だ。


 街道から近いということもあるが、果樹園や領民への被害を懸念して、大叔父が直接確認しに来たのだろう。


 大叔父たちが入っていった森は、屋敷の裏にある森につながっている。でも、この辺りは土地勘がある人以外はあまり近づかないので、道は獣道ぐらいしかない。間伐もされていないので、昼間なのに薄暗い。


 いまは大叔父の指示なのか、騎士が20~30メートルくらいの間隔で横1列に並び、何かを探すように、地面を見ながら少しずつ奥に進んでいる。蛇の痕跡を探しているようだ。俺は大叔父に見つからないよう、できるだけ距離を取って後をついて行く。


 しばらくついて行くと、1番右側を歩いていた騎士が大叔父を呼ぶ。大叔父が急いで駆け寄ると、何かを見つけたのか、その騎士はしゃがんで地面を指さし何かを伝えている。ほかの騎士も集まり大叔父と何か話している。


 大叔父はときどき何か考える仕草をしたり、騎士に意見を求めるように話しているようだが、残念ながら会話の内容までは聞き取れない。でも、大叔父たちからは緊迫した様子であるのが感じ取れる。


 このまま魔物を討伐するなら、大叔父にばれるのを覚悟で俺も協力しようかと覚悟を決める。だが、大叔父が何か話したのを最後に全員がこちらに向かってきた。どうやらこれ以上は捜索せず、森を出るようだ。俺は慌てて身を隠してやり過ごす。


 結局、大叔父たちは再び馬に乗り、来た道を戻っていった。領都に帰るのだろうか。でも、大叔父たちが魔物の痕跡か何かを見つけたことは間違いないだろう。

 そして、それ以上後を追わず、来た道を戻ったということは、この人数では魔物を仕留められないか、準備が必要だと判断したのだろう。もしかしたら討伐を諦めたという可能性もあるかも知れない。


 大叔父たちが戻っていったあと、俺は何かを見つけた場所へ行ってみる。すると、幅が50センチはあろうかという、何かを引きずったような跡が森の奥へと続いていた。


 これが大叔父たちの見つけた魔物の痕跡なのか? 蛇の魔物なら這って動くからこういった跡がつくかもしれないが、それにしてもサイズが大きすぎて想像すらつかない。俺が見たことある蛇なんて、せいぜい全長1~2メートル、幅は大きくても10センチほどだ。こんな跡になるはずがない。


 この痕跡が蛇の魔物であるなら、大叔父たちが深刻そうに話していたのも頷ける。襲われたら人なんて丸のみだろうし、締め付けられれば骨が砕けるだろう。ラノスであるなら毒まで持っているのだ。


 だが、ここで考える。もし痕跡の正体がラノスなら、森の主に呪いをかけた者の正体が掴めるかも知れない。ラノスはこの辺りに生息せず北の地に住むといわれている。同じ北の地に住む魔人は魔力が強く呪術が使えると御使い様は言っていた。同じ北の地というキーワードで両者につながりがあると考えるのは、飛躍しすぎだろうか?


 そもそも、北の地から遠く離れたこんな森にラノスがいること自体がおかしいのだ。たとえラノスじゃなくても、誰かが連れてこなければこんなサイズの蛇がいるはずがない。大叔父だって蛇の魔物なんてこの辺りにはいないと言ってたのだ。


 とまれ、跡は森の奥へと続いている。俺には魔法がある。いざというときの秘策も考えている。俺は普段ならまずしない選択を行う。そう、奥に行って確かめてみようという選択を……。


 ◇   ◇


 森は奥へ行くほど更に暗さが増していき、併せて湿気も増してくる。森には保水力があるとテレビで言ってたな。そういえば、魔素が多いところは自然が豊かと書いてあったが、ここなら湿気が多いから水魔法で水が出しやすいだろう。案外そんなのが積み重なって、魔素なんていうデマができ上ったのかも知れない。デマなんてそんなものだ……。


 俺は、風魔法で地上10メートルのところを行く。この高さなら地上から襲われてもまず届かないだろうし、地上を這う魔物を見逃す恐れもない。もうすでに自分がどこからきて、どの方角に進んでいるのか分からないが、風魔法でもっと上空に上がれば問題ないだろうと、自分の魔法を過信している。


 ときどきは立ち止まって木の上から周囲の様子を窺う。落ち葉を踏みしめた音や、何かの気配を感じたりする。リスやウサギでもいるのか? 音は明らかに小動物のような小さく軽い音だが、もしフォレロカやヤックといった人を襲う魔物なら、木を伝って襲ってくるかも知れない……と、一応警戒はしておく。


 いざという時には火を見せて追い払うか、風魔法で吹き飛ばす、あるいは当初の予定である上空に逃げるかの選択肢を考えている。そして、もし攻撃魔法が必要になった場合のある秘策も思い浮かべる。なるべく使いたくはないが、死にたくないのでそのときは遠慮しない。


 大分奥まで進んだが、今のところ魔物が襲ってくることはない。ラノスかどうかは分からないが、巨大な蛇に恐れをなして、他の魔物や動物は逃げ出したのかもしれない。その蛇のような痕跡はというと、相変わらず森の奥へと続いている。俺の魔力はまだまだ大丈夫だ。


 ようやく何かの気配がする。遠くでガサガサと地上を這う音が聞こえてきた。正面を見ると岩か何かが動いているように見える。そして、動くものの正体が明らかになり、俺は息を飲んだ。そこには冗談かと思うような、黒地に茶色や白が混じった大蛇がいた。


 すぐさま大木に身を隠し、まずは相手に気づかれていないか確認する。大蛇とは50メートルくらい離れており、ときどき首をもたげて周囲を見回しているが、俺に気づいた様子はなく、ゆっくり移動している。まるで、この辺りに自分を相手できる敵などいないと言ってるかのように、堂々とした姿だ。それにしても、まさかここまで大きいとは……。


 大蛇の長さはおよそ20メートル、長いというより太い! と言いたくなる。目なんて俺の頭ほどもありそうだ。人間どころか牛だって飲み込めそうな口、シュルシュルと口から飛び出る途中で2つに分かれた黒い舌、そして何よりあの同体だ。黒光りしていてうろこを持ち、まさに蛇の体そのものだが、スケールが違いすぎて、映画のCGを見ているかのような錯覚さえ覚える。


 その大蛇がようやく長かった森を抜け、ごつごつと岩が飛び出た地形を、器用に身をくねらせながら進んでいる。正面奥には岩山があり、そこまで同じような地形が続いている。もしかしたら、この先の岩の隙間にでも巣があるのかも知れない。巣穴に潜られると厄介だなと思っていると、岩山の方から何かが飛び出てきた。俺は慌てて身を隠す。


 岩に隠れて飛び出てきたものの正体を確認すると、アニメや映画で見た原始人ように、毛皮で作った簡素な服を着た人だった。手に短い槍を持ち、腰に剣を差している。

 肌の色が浅黒く大人の男性のように見えるが、特徴的なのはその耳だ。遠すぎて断定はできないが、耳がとがっていてエルフのように見える。肌の色が浅黒いから、ファンタジー小説に出てくるダークエルフのようだ。


 そこではたと気づく。そういえば御使い様が言っていた魔人の特徴にそっくりだ! まさか本当に魔人なのか? なんでこんなところに。ラノスと魔人のつながりを疑ったが、本当につながるとは……。


 しかも、大蛇は魔人が姿を見せても攻撃どころか警戒すらしておらず、まっすぐ魔人の方へ向かっている。魔人も大蛇の前に姿を現したのだから警戒していないのだろう。これで大蛇が普通サイズなら、まるでペットと飼い主のようだ。


 これは当たりか! しかし、ラノスとみられる大蛇と魔人が関係しているとなると、魔人と敵対することも想定しなければならないのか。こんな森の奥の岩山に隠れているということは、何かを企てているのか? 父の領地に入り込んで隠れているなんて、ろくな理由じゃないだろう。森の主の呪いもその1つなのかな? 何かを企てているなら1人じゃない筈だ。仲間がいると考えた方がいい。


 いろいろ考えてはみるが、俺1人で対処できる問題ではなくなったといえる。これは早目に父に相談して、何らか対応を考えてもらおう。でもそうすると、まず間違いなく俺は怒られるだろうな。父が「よくやった」なんていうわけない。下手すりゃ森への出禁どころか、当分屋敷からの外出禁止だってある。


 そうだ! 御使い様に相談しよう。御使い様なら呆れるだけで怒らないだろう。森の主の呪いや俺の魔法力も知ってるから、むしろ積極的に協力してくれるはずだ。


 そう考えをまとめると、再び魔人の方へと目をやる。御使い様に相談するにも、ある程度情報が欲しい。今のままでは「森の中で北の地に住むといわれるラノスのような大蛇を目撃し、後をつけたら、森の岩山近くで魔人らしき者と会ってました。魔人と大蛇は近づいても敵対せず、まるで飼い主とペットのようでした」と伝えることになる。

 まあ、これでも十分だな……。でも、折角なら魔人のアジトか大蛇の行き先は知っておきたい。両者がここから行動を共にするなら都合がいい。


 だが、最重要なのは絶対に見つかってはいけないということだ。俺に隠密や尾行のスキルはない。魔人は魔法に長け、魔術や呪術も使うという。もし複数人いるのなら、見つかれば手も足も出ずに捕まり、最悪殺されるかもしれない。そうなると選択肢は大蛇を追うことか? でも1匹だから大蛇の方が安全なんて絶対にありえないし……。


 そう考えていると、もう1人魔人らしき人が現れた。今度は俺くらい小さい。子供か? よく見ると確かに子供のようで、大蛇に近づき何かを話すような仕草をしている。大蛇はやはり近づいた子供にも攻撃する様子はない。


 子供がいるとなると、家族で暮らしているのだろうか? もちろん子供がいるから悪事や何かの企みに手を染めたりはしない、ということではない。だが、あの簡素な服を見ると、ここに長く住んでいるのではないかとも思えてくる。もしかしたら流民の可能性もあるのか。御使い様が知っていれば、魔人の服装や暮らしぶりも聞いてみるか?


 結局、あの子供の登場が俺の考えを鈍らせ、どちらを追うのも止めた。御使い様に相談してから決めることにする。大蛇も目撃されただけで、人や物の被害はまだないだろう。魔人が何かを企んでいるにしても、その計画の中に森の主が入っていたなら、倒したことで時間が稼げたかもしれない。もちろん、来るべき魔人との対決に備え、対魔人用の攻撃魔法や、身を守る魔法などを早急に考えなくてはならない。


 俺は、魔人と大蛇が離れていき、それぞれの姿が見えなくなると、再び魔法を使い森の中へと引き返した。

次回は魔人サイドのお話しです。

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