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4話


 「見せてやるよ……僕の『能力』」


 『空間支配』の能力者を自称する少女「アネット」を相手に防戦一方だったギミーだったが、ついに覚悟を決めたようにそう呟くと何かを差し出すかのように右手を前方へと突き出した。 

 すると、彼の手の平の上にひとりでに魔法陣が浮かび上がり、眩い光を放ち始めた。


 「…………!!」


 これまで一方的にギミーを蹂躙し、すっかり見下し切っていたアネットも光り輝く魔法陣からただならぬ気配を感じ、身体を強張らせる。

 光はますます強く、大きくなっていき、ギミーの身体を包みこんでいった。 あまりの眩しさにアネットは思わず瞼を閉じた。 


 そして…………


 …………ポンッ!


 「ピチチ……ピピーーッ!」


 軽い破裂音、と同時に何者かの鳴き声が周囲に響きわたった。

 アネットはゆっくり瞼を開き目を瞬かせると、目の前の光景に思わず息を呑んだ。

 ギミーを覆っていた激しい光は今や消え去り、代わりに彼の手の平にはふわふわの羽毛に包まれたまん丸の小鳥が1羽とまっていた。


 「……まさか……それがオマエの……?」

 「ああ……「手の平」から小鳥を「1羽」召喚する……これが僕の能力……! くらえっ!」


 ギミーが声を掛けると小鳥はそれに応えるように小さな羽を精一杯羽ばたかせ、真っ直ぐにアネットへと突進していった。

 しかし、小鳥はアネットにぶつかる数10cmほど手前のところでまるで見えない壁に阻まれるように空中で跳ね返った。


 「くっ! ピ、ピーちゃん!?」


 ギミーが慌てて声を掛けたが、小鳥は「ピィッ!」と短く鳴いた後、彼の方を振り返ることなくそのままどこかに飛び去ってしまった。

 その様子を見ていたアネットは、片手で頭を押さえながら、呆れたようにため息をついた。


 「……はぁ、一体何が飛び出すのかと思ったら……ちょっとでも期待したわたしがバカだった。 もういいや、終わりにしよう」


 アネットはそう言うと、ギミーの方に向かって一歩一歩と歩き始めた。 

 彼女が歩みを進めるたび足元から風が巻き起こり、スカートが揺れ、彼女の髪を靡かせていた。 その姿は美しくも不気味な威圧感で以て、蛇に睨まれた蛙の如くギミーの身体をその場に縛り付けた。 

 ギミーは背中に汗が伝い、指先が微かに震えているのを感じながらも、何とか喉から声を絞り出した。


 「ま……待て! 分かったぞ……お前の能力の「弱点」が!」


 一瞬の沈黙。 奇妙な余韻がその場の空気を支配する。 ギミーはゴクリと唾を飲み込み、自分の発言の威力を確かめる。 

 アネットは足を止めると、微かに瞳を見開き、それからゆっくり口を開いた。


 「……ふぅん。 何を言い出すかと思えば、『空間支配』の弱点だと? ……面白いじゃん。 言ってみろよ。 適当だったらぶっ殺すからな」


 そう言ってせせら笑うアネットの口調は軽いものだったが、最後の一言には単なる脅しとは思えない圧力が込められていた。

 ギミーは微かに怯んだように小さく息を呑んだが、それを振り払うようにふうっと息を吐くと、ゆっくりと、慎重に言葉を紡ぎ始めた。


 「……アネット、お前の力は確かに強力だ……それこそ、無敵に思えるほどの……。 だけど、お前の能力が本当にお前の言っていたとおり『空間支配』なら、いくつか不自然な点がある」

 「………………」


 ギミーが言葉を切ったが、アネットは何も言わない。 ただ鋭い、品定めをするような目つきでギミーを見つめているだけだ。


 「……お前の能力が本当に『空間を思い通りに支配する力』なら、逃げる僕をわざわざ追いかける必要はないはずだ。 空間を捻じ曲げるなり僕をワープさせるなり、いくらでも方法があるだろう……。 しかし、お前は逃げる僕をわざわざ「空を飛んで」追いかけてきた。 これは空間支配の能力者としては明らかに不自然な動きなんじゃないか? 

 それにその後、僕が煙幕を張った時はお前は一瞬だが僕を見失い、動揺していた……これも妙だ。 空間を支配するヤツにとって煙幕が妨げになるとは思えない。

 さらにその後、お前は煙幕を吹き飛ばすのに自分の周囲から風を起こしていた…… 。 思い出してみれば、最初に火の玉を作り出していたのも指先からだった……」


 畳み掛けるように喋っていたギミーはここで一息つくと、アネットの顔を見た。

 彼女は依然として黙ったままで、その表情からは何も読み取ることはできなかった。

 ギミーが再び口を開く。 指先の震えはもう収まっていた。


 「……お前の『空間支配』は万能じゃない。 何かしらの大きな制限があるんだ……。 おそらく、支配できる領域が決まっているんじゃないか?」


 これまでよりも力強いギミーの声が辺りに響き、彼は挑むような目つきをアネットに向けた。

 アネットは何も言わず、ただ僅かに驚いたように大きな瞳でギミーを見つめ返していたが、やがて小さく息を吐くと口元に微かに笑みを浮かべ、ゆっくり口を開いた。

 

 「……中々いい線ついてるじゃん。 ただ逃げ回ってるだけかと思ってたけど、大した観察眼だ。……確かにわたしの『空間支配』は決して万能じゃない。 この能力で支配できるのはわたしの身体から15cm以内の空間だけだし、力を使い過ぎれば体力も消耗する……」


 アネットはそう話しながら手の平を上に向け、先ほどと同じようにオレンジ色の火の玉を生み出した。 

 火の玉はメラメラ燃え盛りながらふわふわと空中を漂っていたが、彼女から離れていくにつれどんどん小さくなり、すぐに燃え尽きてしまった。

 その様子を見ていたアネットは火の玉が消えると瞳を閉じ、少し俯いたが、すぐに顔を上げてギミーを鋭い眼差しで捉えた。

 

 「だが、それがどうしたっていうんだ? 能力の弱点が分かっただけじゃこの状況は変わらない。 わたしが空間を支配し続ける限りオマエはわたしに触れることすらできないんだからな。 それとも、オマエの雑魚能力とくだらんガラクタでこの支配の結界を超える方法でも思いついたのか?」


 アネットが挑むような口調で言うと、彼女の周囲にバチバチと青白い火花が飛び散った。 

 しかし、ギミーは口をつぐんだまま何も答えなかった。 その様子を見てアネットは嘲笑うように鼻を鳴らした。


 「ふん、結局ただの時間稼ぎだったようだな。 ……執行士って言うからそこそこ腕の立つヤツかと思ってたんだけど、オマエにはガッカリだよ。 もう終わりにしよう。 ……でもそうだな、オマエが……」

 「ピー! ピピー!」

 「……って言うな……」

 「ピピピー!」

 「……てやらないことも……」

 「ピーー!!」 

 「ああああ! うるっさいなもう!! おい! あの鳥を黙らせろ!」


 アネットは最初は無視を決め込もうとしていたものの早くも限界に達し、けたたましい声で鳴き続ける小鳥を指差してギミーに命令した。 

 ギミーが召喚した小鳥はいつの間にか舞い戻り、今は2人の頭上を旋回しながら小さな身体からは想像もできないほど大きな声で鳴き喚いていた。


 「ピ、ピーちゃん! こっちにおいで!」


 ギミーが慌てて小鳥に向かって呼びかけたが、小鳥は全く反応を返すことなく依然として大声で鳴きながら頭上をぐるぐる飛び回っていた。


 「飼い主なんだから躾くらいちゃんとしておけよ! も〜〜!」


 アネットはあわあわしているギミーを怒鳴りつけると、空中に舞い上がり虫取り網を創り出して小鳥に向かって振り回し始めた。


 「おい! 大人しくしろって! このっ! このぉっ!」


 小鳥はアネットと付かず離れずの距離を保ちながらすばしっこく飛び回り、アネットが振り回す網をかわしながら囀っていた。

 しばらくの間空中での鬼ごっこは続いたが、飛び疲れて動きが鈍くなった隙をつかれ、ついに小鳥は捕獲されてしまった。 


 「ハァッ、ハァッ……やっと捕まえたぞ……」


 アネットは大きく息を弾ませながら、網に収まっている小鳥を睨みつけた。 空中を散々飛び回ったせいで髪型はくずれ、雪のように白かった頬は紅潮している。 

 一方の小鳥は先程までの大騒ぎが嘘のように大人しくなり、網の中で羽づくろいを始めていた。


 「ハァ、ハァ……ふぅ……雑魚のくせに余計な手間を掛けさせやがって。 だが、それももう終わりだ」


 アネットは呼吸を整えると、忌々しげな目つきで地上のギミーを睨みつけた。

 しかし、ギミーは臆することなく彼女に向かって右手を掲げていた。


 「……いや、僕は待っていたのさ。 この時を」

 「は? お前、何言って……」

 「僕もさっき、ちょっとだけ嘘をついたんだ……。 訂正するよ、僕の能力は小鳥を目に見える範囲『どこからでも』、『何羽でも』召喚する能力……」

 「なんだよ、それがどうしたって……、なんだ? 眩しっ……!」


 次の瞬間、空中に浮かんでいるアネットの足元あたりに魔法陣が描かれ、そこから1羽の小鳥が飛び出し、彼女に向かって突撃した。 


 「君の周囲15cm以内に小鳥を召喚した! これなら『支配』の結界は関係ないっ!」


 すると、今度は途中で見えない壁に阻まれることなく彼女にぶつかると服を啄んだり体当たりを仕掛けたりと勇敢に攻撃を始めた。


 「ちょっ、やめろ! く、くすぐった……あっち行けって!」


 アネットは小鳥から逃げるように空中で身を捩ったり、手で追い払おうとした。 しかし、小鳥はすばしっこくアネットの死角に回り込んで攻撃を繰り返した。


 「ひゃあっ! や、やめてっ!……って、何をやってるんだわたしは! こんなもの……!」


 予想外の攻撃に動揺していたアネットだったが、すぐに気を取り直し、能力を発動する。 次の瞬間、小鳥は金縛りにかかったように空中でピタリと静止した。

 アネットが安心したように息をついたのも束の間、地上からギミーの高らかな声が響く。


 「『支配』したってもう遅い! 『召喚』は既に完了しているっ!」


 次の瞬間、アネットの周囲に次々と魔法陣が浮かび上がり、そこから雪崩の如く小鳥が飛び出すとあっという間に彼女を取り囲んで黄色の羽で埋め尽くした。


 「ちょっ、待っ……キャアアアアアっ!?」


 小鳥の軍勢に動転したアネットは空中でバランスを崩し、そのまま地面に墜落していった。

 小鳥に囲まれていたおかげで落下のスピードは抑えられていたものの、彼女は完全に気を失って地面に転がっていた。


 「……か、勝った……」

 

 動かないアネットの様子を見て安心したのか、ギミーはその場にへたり込んで大きく息を吐いた。 

 そして月明かりが差す空き地の真ん中で、ゆっくりと拳を天に向かって突き上げた。

 

次回最終話は7/31に投稿予定です!

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