1話
部屋の窓から飛び込んできた小鳥たちの囀り声でギミー・ピックは目を覚ました。
むくりと起き上がり寝ぼけ眼を擦りながら大きく伸びをすると、ベッドの軋む音が狭いアパートの一室に響いた。 胃袋の中で昨日の夜食べたピザとコーラが跳ね、ギミーは少し顔をしかめた。
コンクリートの壁に取り付けられた窓からは、既に高く昇った太陽の光が僅かに差し込んでいた。 とはいえ今日は特になんの予定もないギミーは大して焦る様子もなく、軽く息を吐くとのっそり立ち上がりもう一度大きく伸びをした。
そして、朝食を食べる前に枕元のテーブルに置いてある、奇妙な紋章が刻まれた電子手帳を起動した。
「さーて、今日はどんな依頼が来てるかな、っと……」
手帳の画面には無数の依頼書と依頼の危険度を表すランクが表示されている。
ギミーは執行士として働き始めてから約8年間、いつもなるべく危険度が低く、楽にこなせる依頼ばかりを探して執行していた。 おかげで執行士管理委員会からの評価は低かったが、何より平穏な生活を求める彼にとってはそんなことは些細な問題だった。
この日も危険度C-、できればD+くらいの依頼は無いかと端末の画面を適当にスクロールしていたが、1つの依頼書を目にすると指を止めた。
「『逃走中の異能犯の捕獲(詳細不明) 危険度:B-……エクト市ヴァイジュヤ地区周辺で障害、建造物破壊事件を起こした異能犯の捕獲。 事件後、犯人は北に逃走。 尚、犯人の能力の詳細は不明』……結構近くだな。 こいつもしかして、昨日ファンゴニュース(※1)で見かけたやつじゃないか?」
いつもなら危険度C以上の依頼などには目もくれないギミーだが、この依頼に関しては事情が少し違っていた。
「『能力の詳細は不明』……なるほど、こりゃ久しぶりにチャンスかもしれないな」
ギミーは依頼書の本文を復唱すると、ニヤリと口元に笑みを浮かべた。
統一政府からの依頼書は犯人の特徴や依頼内容について詳細が明記されているものがほとんどだが、中には詳細が掴めないまま発行される依頼書も存在する。 そしてそういった依頼書は不明点を考慮して通常よりも危険度や報酬が高く設定されるのだ。
だが、ギミーはこの依頼者の犯人の能力にある程度のアタリを付けていた。
「目撃情報からして犯人の能力は単純な肉体強化系、恐らく難易度で言ったらC-程度だろう……『ファンゴニュース』の情報は眉唾もんだって言う奴もいるが、こういう時、役に立つんだよな……さて、そうと決まれば管理委員会が詳細を掴む前にさっさと解決して、たんまり報酬ゲットしてやるぞ……!」
ギミーは早速依頼書を受注すると手早く着替えを終え、街へと繰り出して行った。
※1ファンゴニュース……一般市民が自由に情報を発信できるアングラ系のニュースサイト。 デマも多いがここから情報を得て依頼を執行する執行士も多い。