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翌朝。
布団の中で色々考えていたせいで、久しぶりに寝不足だ。
重たい体を起こし、教室へ向かう。
「先生おはよう」
「あぁオスカー、おはよう」
「珍しく眠たそうだな」
今日の俺は午前の授業を担当していないので、出席だけ取って職員室で授業案を練ることに。
いつもに増して、周りの教師から嫌な視線を感じる。
そんなに俺のことが嫌いなのかね。
「シグレいるー? お使い頼まれてくれない?」
「わかりました」
一時間ほど経ち、ヒョコッとルイーサが顔を出してきた。
キリもついたことだし、息抜きがてら行ってくるか。
そうしてあっという間に昼休みになり、笑い声や喋り声で校内は活気溢れている。
「あ、いたいた、先生! 昨日言っていた、前校長に詳しいのを連れてきたぞ」
「なんだ担任の先生のことだったんですかぁ」
教室に戻る途中、オスカーに声をかけられた。
その隣には、一切笑顔を崩さずに手をひらひらと振る女生徒が。
名前は確かフランツェスカだったな。
「フランツェスカ、前校長について知りたいことがあるんだけど……」
「長いからフランでいいですよぉ。ここじゃなんだし、場所移しましょっかぁ」
笑顔のまま、ゆったりとした喋り方でそう言う。
特待生専用寮の共有スペースで話を聞くことに。
「それにしても先生ってとっても強かったんですねぇ。私見直しちゃいましたぁ」
「嬉しい限りだよ」
「どこでそんな強さを手に入れたんですかぁ?」
「それは……詳しくは言えないかな」
いつかは俺が異世界人だと伝えるつもりではいるけど……それは今じゃない気がする。
俺が中途半端な返答をしたからか、微妙に気まずい空気が流れる。
おいオスカー、どうにかしてくれ。そのために同席しているようなもんだろ。
そう思っていた時、徐に奥の部屋の扉が開いた。
「ふわぁぁ、おはよー。ってせんせー?」
「エマちゃんおはよぉ」
「おはようって時間でもないだろ」
「あ、この人が前校長に詳しいフランツェスカちゃんね」
まだ寝ていたのかとも言いたくなるが、エマのおかげでだいぶ話しやすくなったな。
今回は見逃してやるとするか。
それにエマの言っていた、前校長に詳しい人ってのもフランだったのか。
これは期待が高まるな。
「それで、前校長がどんな人だったか教えて欲しいんだ」
「そうですねぇ……人望の厚い方でしたよぉ」
「人望が厚いか……」
「今いる教師の大半は、前校長の引き抜きですからぁ」
なるほどな……
俺と境遇は近いと言う訳か。尤も、元々教師はやっていたんだろうけど。
なら教師としての実力はあるってことなんだろう。
それに、人間性も高いはずなんだろうけど……
「フランは今の教師についてはどう思う?」
「腐りきっていると思いますぅ。だからシグレ先生も毛嫌いしてしまって……ごめんなさい……」
「それは仕方がないと思うし、気にしてないから大丈夫。で、教師のそれは元からだった?」
「いえ……少なくとも最初は謙虚で、優しくて……いい人でしたけどぉ……」
「なるほど」
「多分ですけどぉ、変わってしまった理由はルイーサ先生は魔法が使えないからだと思いますぅ」
魔法が使えない? それは初耳だな……
「知ってた?」
俺が目をやると、オスカーは首を横に振った。
オスカーが知らないのか。どうしてフランはこんなに詳しいんだ?
俺の視線で察したのか、フランが説明し始めた。
「私は小さい頃、親に捨てられたのぉ」
なっ……そんな過去があったのか……
エマとオスカーは知っていたみたいで、何も言わずに壁を見つめている。
こういう時はどんな反応をするのが正解なんだ?
「あ、もうずっと昔の話だし、私もあんまり覚えていないから、気にしないでぇ」
「そうか……」
「そんな私を拾って育ててくれたのが前校長。私からしたら本当のお父さんみたいなものよぉ」
なるほどな、だから詳しいのか。
それからしばらく前校長についての話を聞き、教師陣に対する対策を練ることにした。
「それにしても教師陣の魂胆がわからない……」
溜息混じりにオスカーが唸る。
「ルイーサを辞めさせたいんじゃないのか?」
「それ」
「エマも前校長に憧れてこの学校に入ったようなものだから」
「じゃあ反ルイーサ派!?」
「なわけないでしょ。図書室に前校長が遺した魔法書が大量にあるし。教師共がバカで読み解けないのが悪いんだよ」
バカって……
もう言いたい放題だな。
まぁ要するに前校長の魔法に憧れてこの学校に勤めることにしたのに亡くなってしまい、挙句ルイーサが魔法を使えないから嫌っているんだろうな。
そう考えると、魔法以外を教えている教師は関係なさそうだけどな。
「」




