表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/18

13 真の親玉


 エマの魔法が洞穴の入り口に直撃し轟音を轟かせる。

 人一人通れるくらいの大きさだった入口は、大きく広がった。

 その音に反応したのか、中からはワラワラと盗賊が湧いてくる。

 

「今の皆の力量なら問題ない。落ち着いて」


 流石に生徒たちには緊張の色が見えるな。

 得物を握る手が軽く震えている。

 ふと、背後から声がした。


「あ、あの‥‥士官学校の?」


 見ると、監視兵と見られる兵士が四人立っていた。

 

「あ、監視兵の方ですね?お疲れ様でした。あとは俺たちがやっておくので本部で待っていてください」


 そう言うと、監視兵はお辞儀をしたのち去っていった。

 下っ端の盗賊が10人程か?俺たちの所に向かってくる。

 ボスらしきやつはいないみたいだな。

 

 生徒達はそれぞれの得意武器を使って、危なげなく処理していく。

 人を切ることに抵抗は大してないんだな。

 俺は後方で万が一に備えているぞ。

 

「バインド!」


 死なない程度に切りつけた盗賊をリオニーが魔法で縛り付ける。

 そして俺がそいつらを鎖で巻きつけていく。この流れの繰り返し。

 因みに鎖は能力で出すことができた。縄は無理だったがな。基準がよくわからん。

 

「フンッ、斬り甲斐のない奴らだ」

「まぁ、そう言うなよ。相手が弱いのはいい事だろう。さぁ、奥へ進もう」


 そう言ってオスカーが手招きをする。

 本当にカイとオスカーのやりとりは幼馴染みたいで憧れるな。

 いや、実際にそうなのか。 


 洞穴は迷路のように複雑だった。

 どっちに進めばいいのか皆目検討もつかない。

 そう思っていると、ランハートが口を開いた。

 

「こっちの道だけ少し通りやすくなってる気がするが、こっちっぽくないか?」

「確かに‥‥ランハートにしてはやりますね」


 おいおいカタリナ、そこは素直に褒めてやれよ‥‥

 

 そうして進んで行くと、薄暗い洞穴に似合わぬ豪華な扉に遭遇した。

 当たりっぽいな。


「アンロック‥‥だめだ、開かない」


 リオニー曰く、魔法を阻害する魔法が付与されているらしい。複雑だな。

 仕方ない。ルイーサに目線を送り、巨大なハンマーを創造する。

 

「よし、離れてて」

 

 そして、タイミングを合わせて思い切り扉に打ちつけた。

 ズドォォォンと轟音が響き、扉があった場所には大きな穴が空いていた。

 

「おぉ、さすがは英雄様」 


 おい、ランハート。俺をそう呼ぶのは禁止だぞ。

 今度お前の飯に大量のひよこ豆を潜ませてとくから覚えておけ。 

 それはともかく、その先には広めの空間が広がっていた。豪華な椅子に一人と、その周辺に五人の盗賊がいるな。


「とうとう来たか」


 こいつが親玉か?他の奴らよりはいい格好をしているが、細くてどうも弱そうに見える。

 あたかも強者かのような台詞を吐きながら豪華な椅子から立ち上がるが、声からは震えが隠しきれていない。

 まだ最初の街で出会ったチンピラの方が強そうだぞ。


「まさかあれがボスですか?随分弱そうですね」


 その親玉はタガーを抜き、こちらに歩み寄ってくる。


「くらえ!ファイヤースラッシュ!」


 そう叫びながら炎を纏うタガーで切りつけてくる親玉。

 カーティスも使っていたが、このスキルみたいな攻撃方法は何なんだ?

 ま、その攻撃もカイに軽く受け止められてしまったがな。

 そのままタガーを持っていた腕を切り落とされ、もがいている。

 他の奴らも軽く斬り伏せられていた。親玉らしき者は善戦したが、カイに傷一つ付けられずやられていた。

 余りにも弱すぎるな。


「親玉が弱すぎやしないか?」

「‥‥確かにね。まぁ、取り敢えず奥に進もうか」


 そう言って、俺達は玉座の裏の見えにくい位置にあった扉をくぐった。



 シグレ達が洞穴に入った頃。


「暇だな」

「まぁ楽でいいじゃん」


 小高い丘にエマとバナン、それに護衛の兵士3人が佇んでいた。

 バナンは持ってきていた盤上遊戯を広げ、エマに相手をさせていた。

 バナンが洞穴の方向を眺めている。

 

「お、監視兵が先生達に合流したみたいだぞ」

「なんか挙動がおかしい気がするのはエマだけかねぇ」


 エマは丘の下に目もくれず、駒を進めていく。

 流石は士官学校首席といったところか、バナン相手に善戦を繰り広げている。

 

「はぁ、結局洞穴の脱出口は一つしかないのか‥‥俺がここにいる意味なかったんじゃないか?」


 不気味な暗い森には、鳥の鳴き声だけが木霊する。


「あ‥‥そうでもないみたいだよ‥‥怒り狂う雷神よ、彼の者を地獄の底まで追いたまえ。ライトニングボウ」


 そう言った途端に、エマの前方に魔法陣が出現した。そこから稲妻が迸る弓が現れ、次の瞬間には3本の雷の矢が放たれた。

 エマによって放たれた矢はホーミング機能があるらしく、複雑な森の中を縦横無尽に飛び回る。

 その後は痛々しい断末魔だけが三度、辺りに響いては消えた。

 

「うーっわ。お前結構無慈悲だよな」

「ホーミングが一番楽なんだもん。ま、魔力の消費は大きいけどね」

「で、何故盗賊が逃げてるってわかったんだ?」

「急に鳥が飛び去ったから」 

「なるほどな」


 バナンは山の方を眺めながら顎に暫く手を当てた後、兵士を手招きして告げた。


「山の上部が怪しいと伝えてきてください。あとエマ、チェックメイト」


 兵士が敬礼をして、走り去っていく。

 この場にはバナンとエマの二人だけが残った。


「監視兵四名、只今戻りました!」

「あ、お疲れ様です」


 バナンが折りたたみ式の椅子から立ち上がり、水を手渡そうとする。

 エマは夢現でその様子を眺めていた。

 ふと、バナンが目を細める。


「あなた達って監視していただけですよね?‥‥じゃあどうして鎧に血が付いてるのですか?」


 監視兵は目を見開き、ニヤリと笑った。


「中々目ざといガキだな」

 

 そう言う監視兵の手には血の染み付いた大剣が握られており、月光を浴びて鈍く光っていた。

 他とは違う、威厳のある傷だらけの顔面と鋭い眼光がバナンを突く。

 

「‥‥なるほど、こいつが親玉ってわけだな」


 バナンの口調からは珍しく焦りが感じられる。

 監視兵、いや盗賊頭は肯定するかのように剣をバナンに向けた。

 バナンもそれに対して剣を抜き、エマを庇うように前へ一歩踏み出した。

 エマは後ろに下がり、何かを願うかのように丘の下を見下ろす。

 残りの監視兵も盗賊なのだろう。ケタケタと笑い続けている。


「‥‥エマ、いけるか?」

「ごめん、魔力不足」

「魔力水だ、飲め」

「‥‥エマにそれ意味ないんだよね」

「は?」

「ゴチャゴチャうるせえな。殺すぞ」

「結局殺すつもりだろ?だったら無駄でも足掻くさ」

 

 そう言って盗賊頭を斬りつける。

 しかし盗賊頭の斬り返しにより、剣は虚しく折れてしまった。

 バナンの頬を冷や汗が伝う。


「まだガキだからな。顔だけは綺麗に残しといてやるよ」


 次の瞬間バナンに向かって大剣が振り下ろされ、辺りには鮮血が飛び散った‥‥

 


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ