9.夢現
『つ、ついたぁぁ…!』
扉を開けるなり、その場で座り込んだ。
ーーー今、何時…。
携帯を見ると、2時過ぎだった。
思ったより早く帰ってこられたようだ。
ーーー…よし、早く寝よ!
気合いを入れて立ち上がった。
※※※※※※※※
ばふっ!と勢い良くベットに倒れこんだ。
ーーーー疲れたぁぁあああ…。
あの後、酔いに酔った橘を放置するわけにもいかず、タクシーを拾い御自宅までお届けした。
音海さんと私で橘の介抱をして、体調が落ち着くまで傍にいたので、結局こんな時間になってしまった。
『……ふぁぁあ。』
眠気に負けそうになるが、なんとか瞼を持ち上げ、気力で着替え始めた。
ーーー橘お酒弱いとは…意外だなぁ…。あ、音海さん、ちゃんと帰れたかなぁ…。
最後は少しグタグタにはなったが、楽しい食事会だった。
着替え終わり、再びベットに沈みこんだ。ひんやりとしたシーツが、火照った体に心地良い。
『……ふぁ…』
やって来た眠気に従って目を閉じた。
*********
ここは…何処だろう?
なんだか、空気が薄い気がする。
“……だめ…”
…?
声が聞こえた。なんだか、聞いた事のある声だ。
“……だめ……こっち、来ないで…”
……誰?
“………来ないで…近づかないで…”
大丈夫、近づかないから。
ねぇ、あなた、誰?
“……だめ……こっち、来ちゃ…だめ…戻って”
ねぇ、何がだめなの?
“……来ちゃ、だめ”
“……近づいたら……あなた……”
““壊れちゃう””
*******
ビクンッ、と体が動いて目が覚めた。
ドクドクと心臓が早鐘を打つ。
ーーー…なに?…今の、夢。
じんわりと嫌な汗が伝う。
水中みたいに、息が出来ない苦しさ。
それに、何処かで聞いた事のあるような声。
ーーー…怖かった。
気を紛らわすように窓の方に目をやった。
カーテン越しの外はまだ薄暗い。このまま起きるのには早そうだ。
ーーーもう一回、寝るか…。
ごろごろと布団の上で、眠気が来るのを待った。
※※※※※※※※※※
『………ふぉ…』
知らないうちに眠っていたようだ。
窓に目をやると、すっかり日が昇っている。
ーーー今日は休みだし…片付けして、カフェでも行こうかな…。
変な夢を見たのは覚えていたが、気分はすっかり直っていた。
※※※※※※※※※
軽く買い物を済ませ、カフェに向かった。
何処にするか迷ったが、以前橘と行った喫茶店の《銅板で焼くパンケーキ》を思い出し、そこに向かうことにした。
ーーーパンケーキ、楽しみ!
つい足取りも軽くなる。
店に入ると、思ったよりも空いていた。
お好きな席にどうぞ、と通され、以前橘と座った席に着いた。
座った瞬間、思い出した。
ーーーあ…あの声、
ここだ。
夢の中の声。
橘に連行されて、質問攻めにされた時に聞こえてきた、あの音。
ーーーあの音、同じだ。私、ここで聞いたんだ。
あの時も、店内は空いていた。会話している人も少なかった。
でも、妙にはっきりと聞こえた。
ーーー何が、どうなってるの?
あの声は、誰?