表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巡る恋の終わらせ方  作者: aono_Rio
6/9

6.考え事は程々に




「…花緒さん、体調はどうですか?」

『あ…、大丈夫です。体力はまだ、完璧には戻ってないですけど。』



今1番会いたくない人(しかも休日)に、会ってしまった。

何となく微妙な空気が流れたので早急に立ち去ろうとしたのだが、音海さんの方から話しかけられてしまった。

そのまま店先で突っ立って話す訳にもいかず、近くのカフェに入る事になった。

そして冒頭の会話である。



「…今日暑いですね。病み上がりですから、普段以上に気を付けないといけないですね。」

『そうですね。お気遣いありがとうございます。』



つい事務的な受け答えをしてしまった。


ーーーだって何話して良いかわからないし…。


ぐるぐる悩みながら、何とか脳ミソから話題を引っ張り出した。


『そういえば、私の入院中仕事を引き継いで下さったそうで、ありがとうございました。音海さんもお忙しいのに、ご迷惑お掛けしました。』


課長から、休み中の事は聞いていた。

バタバタしていたとは言え、お礼と謝罪を忘れる所だった。


すみませんでした。と頭を下げた。


「いえ!気にしないで下さい!」

ぶんぶん、と勢いよく手を振って否定してくれたが、みるみる表情が曇っていく。


「…自分じゃ花緒さんの半分も…出来てないと思うので…。」

しょぼん、と落ち込んでしまった。


ーーーこれで落ち込むのか!…あれ?これパワハラ案件!?やばい、フォローせねば!

えーと、とりあえず、…誉める!



『いえいえ!もう本当に!初めてやる事ばかりだったと思います。あれだけやってくれて、凄いですよ!』


“………ったね!凄いじゃん!”

突然、何かの記憶が浮かんだ。


ーーーなんだ?今の…。自分が、誰かを誉めていたような……?



「…そうですか?」

『!え、ええ!助かりました!』

「良かったです…。」

音海さんの表情が和らいだ。


ーーーあ、危なかったー!


最近の若い子の扱いは難しい。




※※※※※※※※




引き継いだ仕事の話から少しずつ話題が広がり、今の話題は過去の職場での遣り取りについてだ。(もちろん私は覚えてない。)



「で、その時花緒さんが転びそうになって。」

『え、本当ですか?!』



正直、音海さんとこんなに話が弾むとは思わなかった。

最初は話題が無いと悩んでいたのに、今はそれが嘘のように会話が続く。



ーーーこういうの、居心地良い、って言うんだろうねぇ…。でも……



反面、何故だかわからないけど、早くこの場を離れたい気持ちもあった。



ーーー…一緒に居たいけど、居たくないとか…、意味わからん…。


矛盾した気持ちがずっと胸の中にある。



上の空なのを察してか、音海さんは唐突に話題を変えてきた。


「あの、花緒さん。」

『…はい?』

「その…敬語なんですが、使わないで欲しいです。自分の方が後輩ですし、元々自分に対して使ってなかったですから。」

『いや、それは…』


ーーー橘から聞いてます!呼び捨ての件からしてそうかな、って気はしてたけども!でもなんか…嫌!



初対面(ではないが、私からしたら初めまして)の人にタメ口は出来ない。



返事に詰まっていると、


「…花緒さんには、前のように接して欲しいんです。」

少し、ほんの少しだけ、寂しそうに言った。



ーーー…え、なんでそんな顔?



「自分、堅苦しいの苦手なんで」

へら、と笑った。


ーーーあれ、さっきのは見間違い…かな?


『…えーと、じゃあ、少しずつで、良いですか?

私、音海さんの事…よく知らないので、失礼かと…急には難しいです。』





「……本当に覚えてないんだ…」





『え?』


音海さんが小さい声で何か言ったが、聞き取れなかった。


「いえ。自分の事、覚えてないんですよね。急に知らない奴に言われても困りますよね。」


少し悲しそうな顔をされてしまった。



『す、すみません!思い出せるよう努力はしてるんですが…。』


ーーーしてないけど。なんなら思い出さなくても良いかなー、位に思ってるけど。


でもそんなこと、口が裂けても言えない。



『頑張って、思い出しますので…!』

本気感を出す為に語気強めで言ってみたが、果たして伝わっただろうか。


ちら、と音海さんを見る。


「ふはっ。はい、楽しみにしてます。」

とても良い笑顔だった。


ーー良かった!また笑ってくれた…。





……“また”?




今初めて見たはずなのに、この笑顔に既視感がある。


ーーーなんで…私知ってるの…?


妙な違和感を覚え始めた所で声を掛けられた。



「花緒さん。」

『!はい!』

「またこうやって話しませんか?」


『…へ?』

ーーーー…なん…だと?


「自分の事全く覚えてないのは聞いてます。

自分、花緒さんにはよくご飯とか連れてって貰ってました。だからまたこうやって話せて嬉しいんです。」

『…はぁ。』



ーーーまぁ橘から聞いてたけど。………でもなぁー、なーんか面倒くさいんだよなぁー…。……本当に、面倒くさいだけ、か?…なんか、一緒に居ると心がざわつくような……



「ーーので、ご飯行きましょう。」


ーーやばい、ボーッとしてた。

『はい!』

よく分からないのに、勢いで返事をしてしまった。



「楽しみです。」


ーーん?


『良かったです。』

訳が分からぬまま、その話題は終わってしまった。


ーーーまぁ、何とかなるでしょう…!



と、思いながらもその事が気になってしまい、

その後はあまり楽しめなかった。




※※※※※※※※※



音海さんとは駅で別れた。

電車に揺られながら、さっきの会話を思い出していた。


ーーーご飯行きましょう。の前、何か言ってたんだけど……、何て言ったんだろ?


ぐるぐる考えていると、ブブ、と短く携帯が震えた。


ーーー誰だろ…、あ。


音海さんからだった。




《今日はありがとうございました。明日、楽しみにしてます。》




ーーーんん?明日???




ーーー…あれ?……もしかして、ご飯行くの…明日??




どうやら、一番重要な部分を聞き逃していたようだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ