4.先生と検査
『……ふがっ?!』
ーーーハッ!寝てた?!
※※※※※
不覚。まさか玄関前の廊下で寝てしまうとは…。
ーーまぁ疲れてたし、30分位だし!
誰にするわけでもない言い訳を心の中で呟いた。
『いてて…、やっぱ板の間に直はダメだわ…』
体を擦りながらふらふらと部屋に入った。
ふとカレンダーが目に入る。
『あー…』
ーー明日病院だ…。
電話で先生には少しだけ伝えてある。
ーー検査って言ってたよなぁ……めんどくさ。
『……寝よ。』
こういう時は寝てしまう方が良い。私は早々に布団に入った。
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「花緒さーん、診察室にどうぞー。」
『あ、はい!』
朝一で検査に来たが、相変わらず大学病院は待ち時間が長い。何時来てもこんなに人が居ることに驚く。
「お、花緒さん。元気そうだね。」
『先生、お久しぶりです。と言っても1週間しか経ってませんけど』
「そうだよねぇ」
私達はどちらともなく、ふふ、と笑いあった。
担当の神津先生は、入院時にとてもお世話になった先生だ。比較的歳が近い事もあって、まるで兄のように接してくれた。リハビリが辛かった当時の私にとっては、癒しそのものだった。
あと若くてイケメンで、腕の良い評判の先生らしい。(入院中に看護師さんから耳タコになる位聞かされた。)
ーーうん、確かに目の保養だわ。
「何か1人だけ思い出せないんだって?」
『そうなんですよねー。
まぁ別に困らないし良いかなぁ、と思ったんですけど、上司が検査受けて来いって煩かったんで来ました。笑』
「もー、笑って言う事じゃないでしょ。相変わらず変なとこドライだねぇ。」
『そうかなぁ?』
久々に話せたのが嬉しくてついはしゃいでしまったが、先生は少し悲しそうな顔でこちらを見た。
「そうだよ。
花緒さんは、困らないから別に良い、って言うけどね、…記憶ってさ、大事なんだよ。
僕は、記憶や経験はその人を作るベースだと思ってる。
なにより、自分自身の人生を覚えてないなんて、寂しいじゃない。」
『………寂しい…?』
「うん。」
何故か先生の言葉がスッと胸に入ってきた。
私があの時感じたのは、寂しさだったんだろうか。
「とにかく、原因を調べてみよう。思い出さなくても良いかどうかは、それから決めても遅くはないよ。」
『…はい。』
それから、問診、血液検査、MRI、脳波、etc…。丸1日かけて検査をした。
「お疲れ様!これで検査は全部終わり。」
ーーつ、疲れた…!
「結果が出るまで少しかかるから、3日後にまた来てくるかな。」
『…はい。』
「帰ったらゆっくり休んでね。」
『はい、ありがとうございました。』
お礼を言って、診察室を後にした。
朝一で来たはずなのに、外は夕焼けだった。
ーーまたこのパターンか……!……自分へのご褒美でも買って帰るか…。
そしてお家カフェ時間を想像して、ニヤニヤしながら家路に着いた。