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巡る恋の終わらせ方  作者: aono_Rio
3/9

3.知らない気持ち


ーーやっと、やっと家に着いた…!


玄関でずるずると座り込みながら、今日の事を思い出していた。

復帰挨拶、記憶喪失(一部のみ)発覚、後輩からの尋問……等々……。


ーーー疲れた…。


玄関先だか、思わず廊下に寝転んでしまった。

ぼーっと天井を眺めながら橘君、もとい橘に言われた事を思い返した。




**********



「ちなみに、音海さんもですよ。」

『へ?』

「音海さんも呼び捨てでしたから。」

『…私の事を?』

「なんでそうなるんですか。

…花緒さんが!音海さんの事!…呼ぶ時は、呼び捨てでしたよ。」

『…………は?』

「まじっす。てか音海さんの方が後輩なんだから、普通なんじゃないですか。」

『……………後…輩……だと?』


ーー全く予想していなかった!!確かに若かった気がするけども!


本当に、全く覚えていない事に愕然とした。

約2年同じ職場にいて、後輩で、仲が良くて…忘れる要素が無い。(階段から落ちはしたが)

でも忘れてしまった。

ーーどうなってるんだろう…。


ふと、気になった事を橘にぶつけた。


『…待って、音海さんて歳いくつ?』

「えーと、確か22でしたかね。」

『……』


ーーー7・歳・も・下!!


『…うん、ありがとう…。』


ーー衝撃が大きいわ…。


『…まぁ、また何かあったら橘k…、橘に聞くわ。今日はそろそろ帰ろうか。』


橘君、と言おうとしたら睨まれた。なにこの子怖いんですけど。


「わかりました。何でも聞いてください。…まぁ本人と話すのが1番早いとは思いますけど。」

『えー、それは無理ゲーだわー』


下らないやり取りをしながら喫茶店を出た。

駅までゆるゆると歩きながら、今後の事を話した。


「花緒さん、来週から完全復帰ですよね?」

『うん!一応そのつもり。…まぁ、検査結果次第だけどね。』

ハハ、と苦笑いしながら検査の事を考えると、気が重くなってきた。


「…分かんないですけど、たぶん大丈夫じゃないんですか?」

『えー?なんで?』

「だって、花緒さん前より元気そうですもん。」

『?前より?』

「入院前。なんかすごい元気無さそうというか、無理してる感じでしたよ。…だから、退院した花緒さんが前より元気そうで良かったな、って。」

『……』

思わず、足が止まった。


ーーどういう事?


『そ、そうかなぁ?たまたま忙しかったし、そう見えただけじゃない?気のせいかも!』

「そうなんですかねー?」


橘は、いや、気のせいじゃ、とか何かブツブツ言ってる。


『…ちなみに、それっていつからそんな感じに見えたの?』

何故か気になってしまった。いつもなら、そんな事無い、と一蹴するような些細な事。

この時は何故か、引っ掛かってしまった。


「えーとぉ…、あ、営業自粛明けて、少し経った位からですかね。そこから、入院するまで、なーんか、元気無かったですよ。」


ーー営業自粛。

1年程前から世界的に流行した新型ウイルス。感染力の強いこのウイルスはそれまでのワクチンが全く効かなかった。

感染力、致死率共に高い未知のウイルスへの対抗措置は、

"人と極力接触しない"

という原始的な方法だった。

世界中で外出自粛措置が取られ、抗ウイルス薬が出来るまでをどうにか乗り切った。


その影響で、つい数ヶ月前まで私の勤める会社も営業自粛をしていた。


『…そっか。ま、覚えてないし、そんな大した事じゃ無かったんだよ。とりあえず今は元気だし、大丈夫!』

「記憶はないですけどね。」

『うっ!それは…言わないで!』


目が合って、思わず2人で笑ってしまった。

久々にこうやって笑う気がする。

やっぱり人と話すのは楽しい。


そうこうしているうちに駅に着いた。

橘とはそこで別れ、家に着いた時にはすっかり日が沈んでいた。

そうして着くなり玄関に突っ伏したのである。



*********




『……はぁ…』

あれからまだ玄関で考え込んでいた。

自分の身に起きた事だが、どこか他人事のような気でいた。

ーーだって実害ないし。


そう、私に実害はないのだ。仕事の内容を忘れた訳でもなく、普段の生活ができなくなった訳でもない。音海さんには申し訳ないが、何の支障もないのだ。

こういう諦めの早さというか、さっさと切り捨てる所が自分の欠点だというのは自覚している。


思い出しても、出さなくても、何も支障がない人。

たった1人、思い出せないだけ。ただ、それだけだ。


…それだけのはずなのに…何故か落ち着かない気持ちになる。胸の奥に何かあるような…、何かを置いてきてしまったような、そんな気がする。


『…なんでだろう…。』



ぼそり、と呟いて目を閉じた。

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