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第四話 文なし勇者と杖なし魔法使い

「それで、あなたは何て名前なんです?」


 一通りの絶叫タイムを終えた後、金髪少女が俺に問いかけてきた。


「俺は照星無限。君と同じ、日本からやって来た転生者だ」


「げ、同じ日本からやって来たんですか。それにしても変わった名前をお持ちですねー」


「げ、て何だよ。そういう君の名前は何なんだ?」


 失礼な少女だ。


「私の名前……は、セリスです」


「はぁ?」


 思わず聞き返す。


「セリスって、君日本人だろ? どう考えたってセリスはおかしいだろ」


「ムゲンも大概だと思いますけどね。その、こっちに転生した時に、勢いで名前を外国風に変えてしまいまして……。もうセリスで通用してるので、セリスと呼んでください」


 ははーん、後悔先に立たずって奴だ。勢いで書いた秘密のノートが、後で黒歴史になる事とかと似ているだろうか。


「分かったよセリス、俺のこともムゲンで良いぜ。そこで、一つ提案があるんだが……」


「何でしょう?」


 小首を傾げるセリス。





「あの性悪女神に一つ、仕返しをしてやらないか?」


 異世界転生だなんだと期待させておいて、この鬼畜な世界をぶつけ、それに苦しむ俺達の姿を見て楽しむあの悪魔には、然るべき報いを受けてもらうべきだろう。


「そりゃあ私だってギャフンと言わせてやりたいですよ! でも相手は女神ですし……。私、もう死にたくはないですよ」


「何も死んで直談判しようって訳じゃない。まあ次に死んだら、とっておきの罵倒を食らわしてやるけどな。いいか、あいつが求めてるのはなんだと思う?」


 唐突な質問に少し戸惑うセリス。


「ええと、私達が苦しむ様子、ですか?」


「そうだ。つまり裏を返せば、俺達が苦しまず大成功を収めた時には、あいつは泣いて悔しがるだろう。だからまずは――」


 ふんふんと、熱心そうにこちらの言うことを聞くセリス。




「俺とパーティーを組まないか?」


 俺の渾身の提案に対し、彼女は乗り気で言う。


「いいでしょう! 私だって、こんなところで終わる女じゃありません! やってやりますよ! でも、その前に一つ言っておきたい事があるのでよろしいですか?」


 急にテンションが上がるセリス。つられて俺もなんだか気が大きくなる。


「ああいいぜ。何でも言ってくれ」










「ムゲン、服、着ませんか?」




 …………………………やだ、恥ずかしい。




 










 ギルドにパーティー申請をする前に、俺達は服屋に寄ることにした。このままでは出禁にされかねない。


「おっちゃん、この店で一番安い服はどれだ?」


 来店時からパンツ一丁の俺にドン引きしている店主のおじさんに声をかける。これが、「この店で一番高い服をくれ!」だったらもう少し格好がついたのにな。


「うーん、一番安いのってなると、そうだねえ……」


 困惑しつつおっちゃんが手に取ったのは、無地の白いシャツ。


「ま、これかねえ。値段は1000ゴールドだよ」


「無料にしてくれないか? 俺達一文無しなんだ」





「出てけっ!」




 即座に店を追い出され、きつく睨まれる。ダメ元だったがやはりダメだったようだ。はあ、服が恋しくなるなんて、元いた世界でも無かったぞ……。


「そりゃあ断られますよ! 何ですか、てっきり良い案があるのかと思ったら、人の情に訴えかけてるだけじゃないですか!」


 隣のセリスがうるさい……。そうだ!


「なあ、お前の帽子とマント、売っちゃダメか?」


「ダメに決まってるでしょ! なに考えてるんですか!? 寒さで頭がおかしくなったんですか!? 私だってもう杖売られちゃったのに……」


 杖売られちゃったのかよ、大魔法使い。




「はあ~、どおすっかなー」


 途方に暮れる俺を、セリスがダメな男を見る目で見てくる。ちくしょう!

 

「もう手立ては一つしかありませんよ。モンスターを倒してお金を稼ぐんです。杖も剣も無いですが、魔法は一応使えますから」


「まあ、そうなるよなあ」


 確かにセリスの言う通りだろう。何をするにもお金が必要。今は1ゴールドでも欲しいところだ。


「知恵の輪。この街付近の草原で、一番弱いモンスターは何だ?」


「? 何してるんです?」


「これは俺のユニークスキルさ。色々な情報を与えてくれるんだ」


 そういえば、セリスも転生者なのだから、何か特別なスキルを持っているのだろうか。


《はい、この付近で最も弱いモンスターは、イモータルラビットです》







 心臓が凍りつく。隣で、へー、便利ですね、なんてセリスが言っているのも聞こえないほどに。


「あれが、最弱……?」



「どうしました?」


「なあ……、モンスター討伐は止めにしないか?」


「な、何急に弱気になってるんですか!? 行きますよ~! ほらぁー!」


 セリスが俺の手をグイグイと引っ張ってくる。正直もう乗り気がしないが、仕方がないので俺達は草原へ向かう。俺はパンツ一枚でだ。道行く人々には引かれたが、何だかこの状況に慣れてしまった自分が嫌だ。


 街の門まで着き、門番に門を開けてもらうと、錆び付いた門が鈍い音を立てて開いた。忘れずに今週の合言葉を教えて貰い、草原へ出る。憂鬱な気分に対し、皮肉なほどに日差しは目映く照り映えていた。





「いましたよ! あれはレオベロスです!」


「お、おう!」


 門を出てから歩いておよそ五百メートル、俺達は早々に三つ首ライオンに遭遇した。セリスに聞いた所によると、街の周囲四百メートル位には強力な防御結界が張られているそうだが、それを抜けた途端にこれである。


「ガルルルル……」


 レオベロスは三つの首を唸らせてにじり寄ってくる。体長は三メートルほどだろうか。その牙は唾液で蜜のように光り、瞳孔が俺達の事を真っ直ぐ"獲物"として見据えてくる。


「行きますよムゲン! まず私が魔法を打ちます!」


「頼んだぞ!」


 野生の迫力に押されていた俺にとって、セリスの言葉は心強い。


「任せてください! 五穀豊穣(ごこくほうじょう)の舞!」


「は?」


 何だ? 今トンチンカンな魔法の名前が聞こえたが、俺の気のせいだろうか。


 見ていると、セリスの周りに米俵やら焼かれた肉の丸焼きやら野菜やら、新鮮な食材の山が出現する。呆気に取られる俺を尻目に、セリスの顔は得意気だ。


 レオベロスはそれをじっと見て、その次に俺達の方を見て、交互に首を動かし、結局二対一で食材の山を貪る事にしたようだ。


「さあ今です! レオベロスが私の食材トラップに掛かっている内に!」


「アホかーーー!」


 どうやらセリスは相当な残念スキルを貰ったらしい。異世界が厳しい上にスキルもこれとか、少しこいつが可哀想になってきた。


「それでも今は功を奏してる! 行くぞ! 『雷華豪輪』!」 


 湿った風が流れる草原に、突如猛獣の咆哮のような音が響く。『雷華豪輪』――。咲き乱れる雷の花はレオベロスを焼き、悲鳴を上げる暇も与えない。


 ホント、魔法の見た目は完璧なんだがなあ。起き上がるレオベロスを見ながら俺は頭を抱える。この世界では、雑魚(?)猛獣一匹も満足に仕留められないらしい。


「ここまで弱らせたなら後は大丈夫です。毒で死にますから!」


「毒? いつの間にそんなもん仕込んだんだよ?」


 何かの魔法を唱えたようには見えなかったが。


 そんな俺の疑問に対し、セリスは不適に笑い、


「ふっふっふ、先程召喚した食材の山、実はあれに毒が入っているんです! おかげで私のお腹は満たされませんが!」


「どんなスキルだあああああ!!」


 目に見えて衰えていくレオベロス。よもやこんなスキルに殺される事になろうとは、想像していなかったろうに。


 これで150ゴールドか。割りに合わねえ……。









 その後も奮闘に奮闘を重ねた俺達は、何とか1500ゴールドほど稼ぐことに成功した。もう西日が射し込み、身体中ズタボロだが。


「帰るか……」


「ですね……」


 疲労困憊。鉛のように重く、砂漠のように火照った体を引きずり、街に帰ろうとしたその瞬間。それは、"油断"という意識の狭間を突くかのように現れた。


「ムゲン! 逃げて!! 後ろ!」


「え?」


 振り返った時には、俺の頭はきりもみ回転しながら宙を舞っていた。え? え? 脳の処理が追い付かない。回転の最中残像ながら見えたのは、黒い影を纏った謎の人型モンスター。パッカリと開いた口だけが、影の外に出ていた。白い歯が狂気を踊らせている。



 なんだよ。死にイベかよ。


 








 電源の切れる音がした。

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