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第一話 七十億分の十の幸運

 どうも皆さんこんにちは! 初投稿の驚地動天と申します。拙作ですが、楽しんで頂けると幸いです。

 ある日、地上に女神が降りてきた。

 待ってくれ、嘘じゃない、少し話を聞いてくれ。 


 それは俺が生まれる二百年程前だったか。ある時突然天に光が満ち、女神が地上に降り立ったというのだ。それも十人。多いだろ? 俺だってそう思うさ。でも事実なんだから仕方がない。


 それでその女神の一人がこう言うわけだ。




「近頃あなた達人間の信仰心は弱まっていくばかりです。そのせいで、今私たち天界の神の力が薄れかけています。私たちは威光を取り戻すため、あなた方の中から年に十人、神々の恩恵を授ける事に致しました。すなわち、異世界! 転生! です」


 訳が分からない! とか、自分達の口から威光を取り戻すなんて言ったらダメだろ! とかそんなツッコミは今は無しだ。


 とにかくその年から、本当に年に十人、選ばれたものが忽然と消え話題になった。そしてある時、向こうの世界から書物が送られてきたんだ。そう、俺が今読んでいるような異世界転生小説だよ。ま、正確には日記だけどな。


 その内容は輝かしいものだった。異世界に旅立った者は特典としてスペシャルなスキルを与えられ、ついでに容姿も良くなり、あっちの世界で無双劇を繰り広げているというんだ。


 当然、そんだけ強くてカッコ良ければモテる。そう、モテモテの異世界美少女ハーレムだ! 誰もが胸を踊らせた事だろう。もちろん俺もその一人だ。世界では十人に選ばれるための宗教なんかも始まった。本当に女神の作戦は上手くいったって訳だ。あ~あ、俺も異世界転生がしたいなあ……。


 そして今日、運命の転生者が決まる。

 俺は誰に対してか分からない語りを止め、テレビをつける。チャンネルはもちろん八番だ。


「転生~! クライマックス!」


 テンションマックスな司会の掛け声がドラムと共に会場に響く。いよいよ今年も始まったな、と俺は思う。もはや毎年の恒例行事で、年末宝くじと同じような感覚だ。皆自分が当たるはずがないと分かっていても、捨てきれない夢を見るのだ。



「ではでは、今年も女神の皆さんにご登場して頂きましょ~う! こちらです!」


 ワッと空気を割るような歓声と共に、画面の前に女神たちが登場する。最近ではムードも糞もなく、普通にテレビ出演をしている女神だが、もはやこれが自然なんだからと、誰も疑問には思わない。



「人間の皆さん、こんにちは。女神ルピアです」


 穏やかに微笑む、人間の許容範囲を越えるレベルの美女がそこにはいた。思わず嘆息が漏れる。女神ルピア。金髪ロングの髪は美しく束ねられて輝き、モデルのような手足とグラビアアイドルのようなナイスバディをしている。ネットの推し女神スレッドでも不動の一位を獲得している、人気の女神だ。



「はい、早速ですが今年の転生者さんを発表していきたいと思います」


 透き通るような声で女神ルピアが言う。この瞬間は十七になった今でも緊張する。もしかしたら自分が? と、淡い期待を抱く。いや、そんなわけもないか。勉強が急にどうでも良くなった、親不孝ニートの俺に運なんて回って来るわけ――




「では次の方です。日本、照星 無限(てるほし むげん)さん!」




 ――時が止まったかと思った。俺の名前! 俺の名前!


「俺の! 名前だぁ~~~~~!!!!」

 

 嘘だろ、これは夢なんじゃないか? 頬をパチパチと叩き、つねり、机に頭をぶつけても覚めない。夢じゃない、これは現実だ! てことは、くるのか? あれがくるのか?



「では、転生者の皆さ~ん! 転送!」



 ふわりと体が光に包まれる。きたきたきた! 転生者に選ばれた者は一旦会場に送られ、転生するか否かの選択を迫られるのだ。俺の答えはもちろんイエス! 無限大のイエスだ! 母さん、ごめん。俺、行ってくるよ~~! 親不孝な息子だったけど、異世界では元気にハーレムを満喫するから!


 次の瞬間、俺は会場にいた。今年の会場は奇しくも日本の東京。風が俺の方に吹いているに違いない! 見渡せば会場には数万の人。あるものは好奇の目で俺達を眺め、ある者は悔しさで泣き腫らしている。ふふん、選ばれたのは俺だったというわけだ。


 と、近くに絶世の美女神、ルピアがいる。生で見たのは初めてな上、女子と学校ですらろくに関わっていない俺はドキマギだ。うわ、なんか良い匂いがする……! 


 そうしている間にも、次々と他の転生者が女神達に連れられて天に昇っていく。どうやら断ったものは一人も無いようだ。そりゃそうだろう、この先にあるのは人類の夢なんだから!



「あなたの担当は私ね。エリファよ。よろしく」


 差し出された手を辿ると、そこにはこれまた絶世の美女神がいた。桃色の短めの髪が耳元で揺れ、胸も背も無いものの不思議な妖艶さを放っている。悪戯っぽそうな青い瞳が揺れ、今にもこぼれ落ちそうだ。白く光る衣を身に纏うその姿は、女神というよりもはや天使だ。



「は、はい! よ、よろしくお願いします!」

 

 緊張が絶頂に達していた俺は上ずった声で応対する。それを見てふふ、と笑うエリファ。ああ、笑うと滅茶苦茶かわいいなあ……。


「さ、いきましょ」


 エリファに手を引かれ俺は天へと昇っていく。ああ、今俺は最高の気分です、母さん……!


 真っ白な光に目を細めると、そこは広大な青空の下だった。立っている場所にはふわふわした雲が敷き詰められ、ここが天国かと勘違いしてしまうほど穏やかだ。見ると、目の前に金色の荘厳な扉がある。


「さあ進んで! その扉の先は、夢の異世界よ!」


 エリファが高らかに叫ぶ。夢の、夢の異世界……! ゴクリと、俺は唾を飲む。この日を何年待ち望んだことだろう。学校でも家でも異世界のことばかり考えて俺は過ごしていた。シミュレーションは完璧なはずなのに、いざこの状況に立たされると足がすくむ。



 いや、今こそ変わるときだ! 俺は生まれ変わって、モテモテの異世界ハーレムを作る! 



「今回は本当に、俺なんかを選んで頂いてありがとうございます! 俺、異世界を平和に出来るよう頑張ります!」


 エリファに対し意気揚々と宣言する。昨日までのニートで自堕落な俺はもういない。異世界転生は俺の心を洗い流したのだ!


「ええ、頑張ってね。ああ、一つ言い忘れていたけど、向こうに着いたらあなたにカードが付与されるから。そこにあなたのスキルが表示されるわ」



 カード、スキル……! ますます異世界転生らしくなってきた! 俺の胸は高鳴り、幸福感でいっぱいになる。どんなスキルが貰えるんだろう? やっぱり、敵を全てなぎ倒せるような大魔法か? 魔法なのか?



「分かりました! それでは言って参ります!」


 ワクワクを隠しきれない俺は、早足で扉へと向かう。その取っ手に手をかけ、バタンと両扉を開いた。扉の先は真っ暗で見えない。



「何もかもが未知ってことか……!」


 俺は身震いする。深呼吸を一つし、そして遂に、その一歩を踏み出した!


「いってらっしゃ~い」


「異世界! バンザーイ!」


 扉に吸い込まれた俺の視界は黒く染まる。何も見えない不安は刹那。そこはもう、異世界だった。


 ヒュオオと、優しく風が頬をなぜる。降り立ったのは緑深い草原。近くには少し大きめの街が見える。まさに冒険の始まりにふさわしい場所だ。さらに、いつの間にか俺の格好は部屋にいた時のジャージ姿から、黒と紫を基調とした忍者のような鎧に変わっていた。腰にはご丁寧に琥珀色の剣が差してある。


 

 配慮もバッチリかよ! と、俺は感動する。そして重要な事を思い出した。そう、カードだ。天からひらりと落ちてきたそれを拾い、ドキドキしながら見てみる。一体どんなスペシャルなスキルが手に入るんだ……?



 そこに書いてある情報は、以下の通りだった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 照星 無限

 体力・攻撃力・防御力・魔法適正・俊敏 オールA

 ユニークスキル

・知恵の輪 森羅万象あらゆる知識を取得できる


・剣聖 剣の技が達人の域に達する。また、あらゆる物を斬るために成長を続ける


・雷魔法(極) 失われた古代の秘宝、雷魔法を修行次第で全て使用できる


――――――――――――――――――――――――――――――――――

 


 き、き、き、きたああああ!! やった、やった、やったー! 万が一外れスキルだったらどうしようかと思っていたが、どうやら最強のスキルを揃えたようだ。ステータスもオールA! しかも雷と剣なんてファンタジー物の二大カッコいいじゃねえか! 

 

 俺は思わずガッツポーズをし、狂喜乱舞する。


「向かうところ敵無し! どんな魔物でもかかってくるがいい!」


 有頂天になり、思わず決め台詞まで吐いてしまう。く~~っ! 誰かに俺のスキルを披露してえなあ!


 そう思う俺の前に、ひょこひょことウサギのようなモンスターが近寄ってくる。よく見ると一本角が生えていて、やはりここは異世界なのだと実感させられた。


 そう言えば知識を与えてくれるユニークスキルを取得したな。早速使ってみるか。


「知恵の輪! あのウサギはなんて名前だ?」


 すると、俺の脳内に電子音が流れ込んでくる。


《あれはイモータルラビット、ですね。獰猛な種で群れると非常に危険です。ご注意を》 



 ……獰猛? 何を言ってるんだこの電子音は。こんなに可愛いのに。これが、森羅万象あらゆる知識を取得できる、っていう謳い文句なのは詐欺なんじゃないか? 名前も不死のウサギって、少しいかつすぎるだろ。


 俺は何の疑いもせずに、ウサギに近づき一撫でし――



「…………え?」


 撫で始めた途端、ウサギの体がみるみる大きくなっていく。筋肉は膨張し、牙は音を立てて伸び、その巨体は…………巨体は…………、優に俺の体の三倍はあるようだ。



「冗談、だろ?」


 不意にウサギが唸り声と共に大口を開け、バックリと俺を飲み込み、


「って、させるか『剣閃』!」


 間一髪で俺は頭に浮かんだ剣技を繰り出しウサギの喉を貫く。剣を引き抜くと、口内からはおびただしい量の血が出た。血がぼとぼとと柔らかな土の上に滴り落ちる。


 うえええ、俺血とかダメなんだよ……。なんか、思ってた異世界ファンタジーと違うぞ? こんなにリアルでグロテスクなのかよ。


 内心でぼやきつつ、俺はその場を立ち去ろうとする。しかし、



「オゴァァァァァ!!」

 

 背後から、獰猛な肉食獣の叫び声。振り返ると、さっき串刺しにしたはずのイモータルラビットが立っていた。


「おいおいおい! どうなってる、知恵の輪!」



《はい、イモータルラビットは、その名の通り不死とは言わないまでも、強靭な再生能力を備えています。ご注意を》


「再生能力!? そんなん四天王とかが持ってるやつじゃねーのかよ!?」


 驚愕で声が裏返る。まさかここは、平和に見えて魔王軍の城の前だったりするのか――?


「とにかくやるしかねえ!いくぞ『剣閃』!」


 一回では倒れないのは分かっている。ならば死ぬまで斬りつづけるだけだ!


「『剣閃』! 『剣閃』! 『剣閃』! 『剣閃』!」









 ――――三十分後。


「ハー、ハー、ハー……」


 自分が滅茶苦茶にしたイモータルラビットの死骸を眺めながら、俺は肩で息をする。まさか最初のエンカウントでこんなに苦戦することになるとは……。意地を張って『剣閃』だけで倒そうとしたのが仇だったか? 


 しかし報酬もあった。そう、経験値とゴールドだ。経験値がどういう扱いなのかはまだ知らないが、お金があって困ることは無いだろう。

 


「そうだ知恵の輪、経験値は何に使われるんだ?」


 俺は早速この便利道具に頼る。さっきの事で、もう信じられるのはこいつしか居ないと悟った。


《はい、経験値はステータスの増強に使われますが、そちらの影響は微々たるものです。メインの使い道は新スキル獲得とスキル強化となりますので、ご注意を》


 使い道は分かったが、さっきからご注意をご注意をって、それは言わなきゃいけないのか? ともかく、当面の目的は寝床の確保とギルドへの入会だろう。

 

 少し雲行きが怪しいが、さっきのイモータルラビットはきっと超強いレアモンスターに違いない!

 そうだ、俺の冒険はここから始まるんだ!





 ――しかし無限は知らない。イモータルラビットが、この世界の食物連鎖の最底辺に位置していることを。そして女神エリファが、この様子を見ながら天界で紅茶をすすり、笑い転げていることを!

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