夜間の下山、複数の語り手
投稿物凄く遅れて申し訳ございませんでした。
最近改稿した時期は、2018年11月12日。
最初の語り手は、放射線使いのジルコニーから始まります。
「灯りがどこにも見当たらないな・・・・・・一体どうなっている?」
夜道にたたずむボク・・・・・・ジルコニーは、町の大通りを見回して歩きながら、町民たちのどよめきや怒声を耳にしていた。
そう今まさに見渡す限り、月と星灯り以外に、輝くものが見つからない。
停電ってやつですかね・・・・・・。まあこの世界には電化製品は存在しなかったんですけどね・・・・・・。
彼らは、あたり一辺にある松明やろうそくらの光源をいきなり見失って、混乱しているようですな。
その非科学的な出来事の原因は、ボクにもよくわからない・・・・・・。
大概の人達は暗闇の中、頼りにしていた光を何の脈絡もなく一瞬で失えば、困惑するだろう。
大概の人達ってやつはな。
「線属性魔法『γ(ガンマ)探知』」
魔法名を唱えて、術式を脳裏にボクは念じた・・・・・・それだけで、先程まで視界いっぱいに広がった暗黒が薄まり、壁やら人達の輪郭などを、感じ取れるようになった。
つまりは光の代わりに、周辺にある放射線を利用して視覚的情報を得る魔法をボクは使ったのだ。
数秒立てば、くっきり目前が確認できる。
ひとまず近くに発見した亜人二人組に、この暗闇騒動について尋ねてみよう・・・・・・。
「こんばんわ。お嬢さんたち・・・・・・なぜか周りの明かりが見当たらないのだが、何が起こっているか、詳しく知らないかい?」
カラスタイプの人鳥が、口を開く。
「あらあなたはこの暗闇の中見えるの? いや、原因とかは知らないわねぇ・・・・・・なんか今夜からこの一帯で火をつけると、一瞬でその火が見えなくなるらしいのよ・・・・・・」
彼女がしゃべっているときに、なぜか眼鏡角女子は、おろおろ焦りだしている。
なんか隠しているのか? 犯人ってやつなのですか?
「え? メイちゃん何? 私の袖掴んで引っ張って。伸びちゃうじゃないの服が・・・・・・話後で聞いてやるから、おとなしくしてなさい」
そう人鳥が口にしたら、もう一人の方はおとなしくなって、ボクを見つめ始めてきた。
そして・・・・・・。
なぜか彼女の顔が、赤らめ始めた!!?
なんだ!? もしや先ほど眼鏡娘がおろおろし始めたのって、ボクに一目惚れしたからなのか!?
やばいぞ、ボクは今まで彼女なんてできたこともないのに!!
一体どう話しかければ・・・・・・ちなみにボクはいつでもウェルカムだ!!
しかし・・・・・・。
「それじゃあ、私達急いでいるので、これにて失礼しま~す」
カラスの人鳥が翼で、彼女の腕をつかんで牽引し始めたのだった!!?
ボクに背を向けて、どこか道の先まで去ろうとする二人・・・・・・。
「い・・・・・・いや、もうちょっと話できませんかね~・・・・・・」
「ね~メイちゃん。なにぼ~っとしているの? 顔も赤いし、大丈夫なの?」
「え? いやちょっと聞いている? 彼女メイちゃんっていうの? いい名前だね。住所とか教えてくれるとありがたいんだけど~・・・・・・?」
「そういやさあ、メイちゃん。さっき私に何を伝えようとしてたの?」
「あの~・・・・・・・もしもし?」
「ところで、こっちさぁ~この前レストランでラム肉のステーキ注文した時、意外な人見かけたんだよね~。あんまり世間じゃ有名ではないけど、・・・・・・そうそうあのチンピラヤンキー。あいつと目が合った時、生きた心地しなかったな~・・・・・・」
「いや!! もしもしぃ!! 人の話を聞いてけてめぇええええええええええっっ!!!!」
※次からは、語り手を人鳥に、変更いたします。
さてどうしようか・・・・・・? さっきこちらに呼び掛けたあのワカメ髪・・・・・・暗闇の中でも問題なく周囲を探知できるっぽい。作戦成功のため奴を消し炭にした方がいいかだめなのか、メイちゃんの予知に頼ろうかな。
それなら、呆然としているメイちゃんを正気にさせないとね!
「あのさ、メイちゃん。さっきあんたの顔が赤くなって、うわのそらだったけど、どうしたの?」
私達は、ある目的地に向かって歩を進めていた。
メイちゃんは、まだこっちに腕を掴まれたまま、抗うこともなく連れていかれていく。もちろんそのまま虚ろの顔で。
多分今、彼女は予知能力を使っているのだろう。
作戦成功に必要な情報を、誰よりも早く獲得できるのだ。メイちゃんと組めさえすれば、こちらは悪手にかかることはないだろうね・・・・・・。
「なんか『見た』? なんならこっちにも教えてよ~メイちゃん」
彼女はやっと意識をこちらに戻しているらしい。こっちの言葉に反応して、首肯を軽く一回。
次に彼女は、予知らしき情報をこっちに言い放った!!
「・・・・・・・・・・・・(ごにょごにょ)」
※次からは、語り手を、主人公稲荷に変更いたします。
「・・・・・・大事なこと思い出してしまった・・・・・・」
アラクネ族とかに属するらしいカナネさんは、街へと繋がる山道を、オレ達と並んでカサコソ歩く途中で、顔を青ざめ呟いていた。
オレは特に考えも持たずに「何を?」と尋ねる。
冷たい風が、木々と人々の間を、抜いていく中、大地に灯した白い炎を頼りにとぼとぼコソカサオレ達は足を動かす。
夜空に一つの流れ星が、緑の月の傍で飛翔していくのを、ハイエナ獣人アードは発見しながらも、とことこスサスサ進んで行く。
どこか遠くにいる狼らしき獣が、高々と遠吠えするのを耳にし、がさがさゴソゴソ土を踏みしめて行く。
「言えよっ!!?」
ついオレは言葉を荒げてしまった。カナネさんが先ほど思い出した内容が気になって仕方がなかった。
ずっと黙っているんだもの。
それに対してカナネさんは、意を決したのか重々しく口を動かす。
「私たちが向かう王都の入り口には、門番と楼門が立ちふさがっているだけではなく、その手前の地面には透明の魔方陣が設置してあるんだ。国民登録されてない者が踏むと、警報が鳴るシステムのな・・・・・・」
「ふ~んそうなんだ・・・・・・」
適当な相槌を打っていたオレは、すぐさま気づいた。
オレ登録されてないじゃないか・・・・・・検問受ける前から即御用? 嘘だろ・・・・・・こんな腹減って疲れて眠たくて今にも倒れこみたいくらいに頭ん中フラフラするのに、街に入ることもできないのか!!?
今更焦ったオレの困惑を表情で察したのか、カナネさんは軽く頷いた。
ハイエナ獣人アードは尋ねる。
「どうしたんすか? 今更王都警報方陣の話なんかして」
「ああ実はオレ異世k」
答えようとしたオレの口を、急いでカナネさんが塞ぎだした?!
え・・・・・・どういう・・・・・・ああそうか!!
「何? ・・・・・・実はって。してるんじゃないっすか、隠し事をおいらに・・・・・・」
アードは怪訝な顔を隠さずに、オレとカナネさんを凝視しているよ・・・・・・。
つまりはアードはオレが異世界出身だなんて知らないし、もちろん登録申請なぞしていない・・・・・・もしそれが彼女にばれてしまったら、容赦なくオレを食い殺そうとするだろう・・・・・・どうやら国に登録されてない人が殺害されても国が関与しないらしいから。
ただ単に彼女はオレが法的に護られていると勘違いしているから、今は襲ってこないだけなんだ・・・・・・。
カナネさんが、オレをかばうため、ぎこちない声で弁解しようとする・・・・・・。
「いやぁあ実はなアード。イナリは実はどっかにある魔道学院にある部活の一つ演劇部の一員で実は今度この世界に女神に無理やり転移させられた勇者の役を担当することになったのさだから彼がこれまでもこれから怪訝な言動をも実は全部役作りってわけだな実は」
いや・・・・・・カナネさんその言い訳はちょっとあんまり・・・・・・。
「何回言うんですか、実はをカナネさん。あっほら、見えてきましたよ、王都の楼門が」
アードはアードで、カナネさんの言い訳に白けている。
彼女の指さす方向先に、オレの世界にあった高層ビルの半分くらいの高さがありそうな城壁が、そびえていた。まさしく西洋ファンタジー創作ものならおなじみであろう切り抜いた岩々を組み立てて建てられた防壁。
しかし・・・・・・。
様子がおかしかった。
木製楼門がなぜか大部分がえぐれているのが、月明かりでぼんやりと確認できた。
そしてその奥にある都全体から光が見当たらなかった。
いくらこの世界に電化製品の明かりの類がなくても、まがりなりにも首都が真っ暗闇なのは異常すぎる・・・・・・松明やら蝋燭にランプの火・・・・・・いやこの世界なら魔法の灯りもあるだろうに、それらをオレの視界の端すらも捉えられない。
しかもこれがどうも正常ではないらしく、街中から住民と思しき人達が、助けを求める
叫びや人数確認の点呼らも耳にできた。
「なんだこれは!? なぜ誰も明かりをつけないんだ!?」
「してるんですかね? 町全体が闇鍋パーティを、・・・・・・残念だな~おいら。お腹いっぱいなんですよ今」
うん、絶対に無いと思うぞ。そののほほんイベント。
「すぐに入って異常の原因を探りたいが、むやみに突っ込んでいては危険極まりすぎる・・・・・・イナリ!!」
「え?」
何? カナネさん。
「いや え? ではなく、ナイトロジェイム!! ほらあの白い安全な炎・・・・・・!!」
「あっ! はい!!!」
そうだオレには『非酸』があるんだった。
オレは念じた。無動作の呪文無しで・・・・・・たったそれだけのことで発動させた。
「・・・・・・それにしてもやはりすごいな・・・・・・まさかここまでの範囲をものの数秒で・・・・・・」
「驚いているんですか? 今更何を、カナネさん。山地地帯に灯したんですよ、トライさんの白い炎でね」
アードは平気そうだが、カナネさんは身を引いて驚いていた。ま、そりゃそうか・・・・・・。
「ものの数秒で、街全域から火を噴きださせるとはな・・・・・・」
そう、今や首都から夜の闇を退かせ、くっきり建物が見えるようになった。
「ふふふ、この炎は生物は無害だし、有害ガスは出ないし、それに燃料である無機物もそうダメージを受けないよう設定しておいた。半日続けて燃やしても表面が焦げる程度でね」
そうオレは自慢気に呟く。
「これで中の様子が安心して調べられるな・・・・・・」
「さあ行きましょうっす」
・・・・・・ねえ聞いて。どうやらオレは自分の能力聞いてもらうのけっこう好きみたいなんだよ。
まあこれで首都の光源は問題無しだ。さあ先ほどの暗闇の原因は何なのか調べてこようか・・・・・・。
そう決めて歩みだした時、間髪入れずに。
「ぎゃぁああああああああああっ!!! いきなり炎がぁあああああっ!!!!!!???」
「た、助けてくれ! まだ死にたくない!!! なんだこの変な色の火は!?!」
「せめて子供だけでもお願い!! わたしはどうなってもいいから助けてあげて!!!!」
町人と思しき老若男女の絶叫が、首都からあふれ出した・・・・・・。
「イナリ・・・・・・」
「当然っすよね、まあ・・・・・・」
そうか・・・・・・そうだよな。
いくら痛みも熱さも無いとはいえ、暗闇の中いきなり何の脈絡もなく自分の周囲に炎が出現したらパニックを起こすのが普通だよな・・・・・・。
オレは口を開く。
「カナネさん? アードさん?」
「ああわかっている」
「何っすか、トライさん」
「頼むからこの炎の術者がオレだってこと黙ってください・・・・・・」
「まあ・・・・・・な」
「おごってくれたらいいですよ、何かをおいらに」
アードの条件をオレは応じた・・・・・・もしも首都に点火したのがオレだと住民に知れ渡ったら、たとえ目的が人助けでも、袋叩きで済まさないだろうな・・・・・・。
背筋に嫌な感覚が滑る中、オレが考えこんだ瞬間だった。
そう瞬間。一瞬のこと。
何の見間違いだこれは・・・・・・?
別にオレは住民の皆さんに怖気ついて、術を解除した覚えがない・・・・・・。
確か『非酸』は、水をかけたくらいでやすやすと鎮まるものではなかったよな?
じゃあなんだこれは・・・・・・。
オレが繰り出した白い炎が、消失した。
いや、一瞬で黒く染まった。
ご覧くださりありがとうございました。