複数のサイド、炎使いと予知能力者
最初からは、三人称視点で始めさせていただきますが、途中からはキャラの一人称視点に変更いたします。
最近改稿した時期は、2019年の8月20日です。
「稲荷っ~、ご飯できたわよ~」
二階の部屋まで、初老的な女性の声が届いたのです。
「は~い。今行く~」
稲荷は、持っていたスマホの電源を切り、不機嫌そうに一階まで降りるのでした。
彼がいた部屋の勉強机の上には、何やらメモ帳に、アラクネだの、放射線だのと記帳されていたのです。
ダイニングルームに置かれてある一つの席についた稲荷の眼前テーブル上では、夕ご飯の蕎麦とそうめんが、並んでガラス皿に盛り付けられています。他にもマグカップにわさびチューブに生姜チューブ等も用意されていました。
「それじゃあ、頂きます」
特に何の特徴もなさそうな中肉中背の高校生徒は、両手を合わせ、自分のガラス皿に麺つゆを注ぎ、ネギも投入します。
そして蕎麦を箸で、自分の皿に入れようとした瞬間・・・・・・。
「だめよ稲荷!!? あなた・・・・・・蕎麦アレルギーあるでしょうが!!」
初老の女性・・・・・・稲荷の母 木津恵が、慌てて制止したのでした。
その張り上げられた言葉に、稲荷は一瞬、固まったのです。
次に、後頭部に手を添えて引き攣った笑みを繰り出した稲荷は、
「あ~いや~、そうでしたそうでした。うっかりしましたな~」
脂汗を流しては、そうめんを選びました。
「あら、珍しいわね」
木津恵の言葉に、 え? と、今まさに食べようとした時に、返答をした稲荷。次に彼女は、
「あなたご飯は注がないの?」
そう爆弾発言を、穏やかに起こしたのです。
「え、いやえ~と・・・・・・??」
「じゃあ私が注ぐわね。稲荷ってば、もぉ~お好み焼きでもフライドポテトでもうどんでも、何でもかんでも白飯のおかずにするんだから・・・・・・さっさと直したほうが良いわよ? それ」
と、木津恵は、ご飯茶碗に炊飯ジャーから白米をよそって、稲荷のそうめんが入ったガラス皿の横に並べたのでした。
女神の目から見てもありえないラインナップに、彼は・・・・・・自分の茶碗と皿を見下ろしながら黙考します。
(ちょっ・・・・・・稲荷あんた、大阪でもやらないわよこんな炭水化物コラボ!? って、このあごだし麺汁に浸かった小麦粉の麺を? ご飯のおかずに? いやいや、ラーメンやら餃子はともかく、これは無しだろ!! 全然普通じゃなかったあのモブ・・・・・・。くぅあいつ!! ・・・・・・まさかこの女神であるあたしを、こんな形で苦しませるなんて・・・・・・今に見てなさい!! ・・・・・・ってか、食べなきゃいけないの、これ?)
そう怨嗟の念を、この場に、この世界にいない誰かに向けて発していました。
現在、稲荷に变化した彼女・・・・・・那賀は、今更ながら後悔しだしたのです。
なぜ彼女が、人間の男子高校生に化けて、本人の演技をして、彼の家に滞在してるのかというと・・・・・・。
(実家で小説書くと、友人やらあのうざったい弟やらが妨害してくるから、邪魔されないように彼の住処を利用しているんだけど・・・・・・)
「あら? どうしたの俯いたまま黙って・・・・・・何か嫌なことでも遭ったの?」
「い、いや違うよ母さん。大丈夫だよ、あはは・・・・・・あはははははははっ・・・・・・」
(逃げようかしらね・・・・・・)
※次から、一匹称視点にし、舞台をウェーデンス国のとある山地に変えます。
(ヤバイヤバイヤバイっ!!?)
翼を生やしたモグラこと自分・・・・・・ ホール は、絶大的なピンチを迎えていたのであった・・・・・・。
今自分、茂みの中に隠れていて、そこから数メートル離れている見た目が幼い女性と、ゴブリン二匹の様子を観察しているのだ・・・・・・あちらもこちらの存在に、気づいてなきゃいいのだがな・・・・・・。
幼女の外見の特徴は、
まず髪型は金髪で、肩まで伸びているオールバックに、毛先が少し跳ねていた。
顔は先程、遠目で確認できた。青色の瞳をしている色白の肌を持った、人間でいうところの美人である。
服は、肩や胸元が大胆に露出していて、スカート部分がセンザンコウのたくさんの鱗をモチーフにしてるロングドレス。
腕にはアームカバーをしているのだが、左方は絹製の黄色に白ライン二本加えたデザインで、右はドレスと同じようなセンザンコウの鱗もどきを纏ってあった。
履物はヒール。片腕には分厚い本を一冊抱えている。
そして彼女は亜人である。エルフの耳を持ち、頭両サイドには、アイベックスというヤギタイプの大角が、生えてあったのだ。
絶対自分の存在がバレたら、助からない・・・・・・彼女に包まる空気が、オーラが、常軌を逸するほど凄まじく禍々しいものであり、まさしく只者ではないことを、顕著に表していたのだ。
もし誰かが、彼女が魔王だと呼んでいても、何一つも違和感がなく自分は信じれてしま・・・・・・。
「ダーティー魔王様。一体なぜこんな辺鄙な所まで、あなたみたいな偉大なお方が、わざわざお越しになられたのでしょうか?」
ゴブリンの一言で、確定、したよ!!
嘘だろ!? 本当にこの世界の魔王と出くわしたよ!! 滅茶苦茶ピンチ!!!
そしてダーティーと呼ばれた彼女の口が開く。
「口閉じてろお前。誰が私に質問していいっつったよ」
冷酷につぶやいた彼女は、遠慮なしに持っていた分厚い本の角を、ゴブリンの頭に叩きつけた!?
殴られたゴブリンは、自分が死んだのかと錯覚したのか、放心状態になり、もう一方は、脂汗まみれで急いで口を激しく閉じる。
再び彼女が喋りだす。命令ではなく質問を。
「クソカラスと内気メガネが、私を裏切りやがった。奴らの居場所とか知っていることあんなら洗いざらい話せ。それとお前らをボコしたヤツについても含めてだ」
うん、やっぱり命令だ。
「え・・・・・・っと、オイラ達に水球を投げつけたのは、黒髪の人間の男でして、ええ。
同士を斬り刻んで殺したのはハイエナの獣人です・・・・・・ところでカラスとメガネっていうのは・・・・・・?」
放心してない方のゴブリンが、まごまごしながらも返答する。
「知らねえんか、無能だなお前ら。つうか・・・・・・」
魔王は、ゴブリンの疑問を無視して、周りを見渡した。山地一辺には、実は先程から白い炎が揺らめいて溢れている。
「この炎・・・・・・要生風じゃねえな、多占風使って無機物燃やす魔法か・・・・・・初めて見たな・・・・・・」
要生風はウェーデンス国で『酸素』、多占風は『窒素』のことである。
・・・・・・それよりあの魔王・・・・・・神々が扱っていた魔法の正体を一瞬で、見破ったの・・・・・・。
「うっとおしいなぁ」
魔王は指を鳴らす。それだけで彼女の周囲だけなのだが、彼女にとっての初見であるはずの魔法が一瞬で消失した。
・・・・・・まじもんの魔王だ・・・・・・。曲がりなりにも神々クラスの魔法をこうも、・・・・・・あっさりと・・・・・・。
ゴブリン達も、開いた口が塞がらないでいた。
「それと」
まだ何かあるのか・・・・・・。
「おいそこでこそこそ隠れているモグラもどき。お前雇用タイプの召喚獣だろ? アルバイトだ。カラスタイプの人鳥と眼鏡の角を持った根暗発見したら、通信魔法で私に知らせろ。通信番号は02-****-****だ(※諸事情により、番号の一部を伏せ字にさせて頂きました)」
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え? ばれてる?
ひっそりと茂みから顔を出す自分。
ゴブリン達はこちらに気づいて、腰を抜かした。
魔王は背を向きながらも、自分に向かって、何かを投げた。
「これは・・・・・・」
眼前には、指輪と革製の財布が地面に落ちる。
「前払いだ、拾いもんだけどな。仕事したら大金積んでやるよ・・・・・・契約破ったら、お前とお前の雇用主、ぶち殺す!!」
・・・・・・まだ承諾や契約するなんて言ってないけど・・・・・・。
雇用主って、稲荷社長のこと・・・・・・?
背筋が現在進行系で凍り、呆然とする自分をよそに、魔王は、
「そいじゃあ、時間だ。行かねえとな・・・・・・忌々(いま)しい会議に」
そう呟いて、去ろうとする。
ゴブリンが反応して質問。
「会議・・・・・・魔王軍幹部達との定期会議ですか?」
「あん? ちげぇよ」
「え? ですが、それ以外考えられないのですが・・・・・・」
次のダーティー魔王の言葉に、ゴブリン二匹と自分は、完全に絶句した。
「徴兵命令、私に来たんだよ。断ることもできねえしな。つーかあのムカつく化け物たち、どうやったら殺せるんだろうかねー・・・・・・?」
※次からの舞台は、時間を少し遡り、山の麓にある王都に移り、モグラから新キャラに語り手を替えます。
(本当に大丈夫なのでしょうか・・・・・・)
魔王幹部の一人である私 メイ は、同じ魔王幹部の サイソウ 先輩と一緒に、暖かな灯り溢れる街中大通りを歩いていました。
私メイの特徴は、ウルフカットの濃い青髪で、質素なフード付きの革服を身に着けていました。
それと私は亜人です。頭の側面から、クリスタルの細長い角が、左右両対、前に突き出すよう生えていまして、その先に分厚い円形のグラスが、各一つずつあり、それらが接合してあるのです。・・・・・・要するに、メガネの角。
隣に並ぶサイソウ先輩の特徴は、羽の冠をかぶっている黒長髪な美少女さん。
布の服を身に着けています。どうやらその服装・・・・・・別の世界では、アメリカインディアンの民族衣装と似ているらしいとのこと。
彼女も亜人で、腕の代わりにカラスの翼が生えてあります。脚も鳥のそれ。ただし二本だけではなく、臀部の上らへんにも三本目の長めな脚があります。
「王都侵入成功ぉ~!! 本当に郊外と街の境界に配備されていた警備魔法陣が、浄化能力で無効化されているわぁ! 水魔法繰り出したどこの誰とも知れない方と、それを予知したメイちゃんに表彰状を差し上げたい」
サイソウ先輩は、腕の代わりの黒い両翼を高らかに夜空に挙げて、喜びを激しく表していました・・・・・・けれど・・・・・・。
私は喋ります。
「・・・・・・・・・・・・(ごにょごにょ)」
「え? なんて言ったのあんた」
あれ? 滑舌が、悪かったのでしょうか、・・・・・・ではもっとはきはき語ります。
「・・・・・・・・・・・・(ごにょごにょ)」
「あぁああもうっ!! 毎度毎度注意しているけど、あんたいっつも声ちっさい!! 全然聞き取れないじゃない!!」
ええっ、やはり聞こえませんか!? っでも・・・・・・一体どうしたら・・・・・・。
「あ~あ~おろおろしないのメイちゃん。こっちも声張り上げて驚かしちゃって悪かったから、だから涙目にならないの」
ああっ!! 先輩にまたお手数をかけてしまいました。申し訳なさすぎて、私、どうしたら・・・・・・!!?
「はいはい泣かない泣かない!! じゃじゃ~ん! 紙とインクが付いている羽ペンのご登場だぁあ~」
先輩がどこからともなく筆記用具を取り出し、私に渡します。
これなら、声が小さな私でも、無事意思を伝えられるのでしょう・・・・・・。
急いで自分の思いを書きます。そして先輩に、記述した内容を見せつけます。
「・・・・・・あんた・・・・・・」
良かった、ちゃんと伝わっ・・・・・・。
「文字もちっちゃくて、読みづらいじゃない!!」
文章もだめでしたか!?
「でも、読めないわけじゃあ・・・・・・無いわね」
あごに手を・・・・・・じゃなくて羽を添え、紙に顔を近づけて凝視した先輩は、やっと私の伝えたかったことが伝わりました!
「その魔法の火球、消したほうが良いですよ。ここは敵地で、派手な行為は控えたほうが、よろしいのですから・・・・・・と言いたかったのねメイちゃん」
いやですから先輩、大きな声で敵地とかを口にしないでください・・・・・・!
魔王様にこちらの居場所がバレたら、終わりですよ!!
そう、街に入る前から実は先輩は、宙に浮かぶじゃがいも並みの大きさを持つ火炎球を、自在に操って玩んでいたのです。
もちろん何かを燃やすためではなく、・・・・・・ほらあれです。ペン回しとかの意味のないクセみたいなものだと思えば差し支えはないです・・・・・・まあ危険極まりない遊びなのですけどね。
ただ先輩は、「必要ないじゃん」と言って、歩を進めました。
うっううう・・・・・・またもや忠告スルーされました~、慣れてますけどね・・・・・・。
「そいじゃあ、メイちゃん」
はい、何でしょうか?
「始めましょっか?」
彼女が操っている赤い火の玉が、一瞬で黒く染まりました。
※次の文章から、時間系列が進み直し、語り手が、稲荷一人称に変更いたします。
「・・・・・・・アード、服ありがとな。でもこれは・・・・・・」
オレ達は、今下山している。
先程、戦闘態勢を解いたアードから、彼女が持っている風呂敷に入っていた予備の服を渡された【びしょ濡れで土まみれ、上着をなくした】オレと【ビキニアーマー燃やされた】カナネさんは、王都の宿に向かって歩いていた。
「他に・・・・・・もっとマシなものなかったのか?」
「気に食わないんですか、何が。良いじゃないですか、似合ってますよ、その服」
「いや・・・・・・オレは男なんだが・・・・・・」
「以外だな。きさまもこんなおしとやかな服を持っているとは・・・・・・それとなぜ、ぺったんこな貴様がこんなでかいブラを持っているのか? このロリクソネコ!!」
「はぎとった戦利品なんすよ、女山賊からの」
先程アードからブラを渡され装着したカナネさんは、まだアードに敵意を剥き出し、発する言葉に棘を付けていた。
まだ円満な仲になるのは程遠いな・・・・・・。
はあっ・・・・・・。
口喧嘩・・・・・・というか、カナネさんが一方的にまくし立て、アードがなぜ怒られているのかわからず首を傾げて見当違いな答えを、ところどころ発していた。
そしてその答えも、ことごとくカナネさんにとっての逆鱗を擦り付け、増々口論が強くなる・・・・・・。
それにしても・・・・・・。
ため息を一つ付く。自分の身に着けているものを見下ろし、もう一回吐いた。
「ロングスカートの黄色いワンピースか・・・・・・」
ご覧くださりありがとうございました。
※作者は『アイベックス』を牛の類だと勘違いしましたが、正しくはヤギの仲間です。