非科学的な法則
最近改稿した時期は、2019年9月6日です。
今の状況はこの通りだ・・・・・・。
オレとカナネに対する謎の男との距離は、目測十メートル以上・・・・・・。
周りに倒れてうずくまっている人達に、目立った外傷は見当たらない。
原因がわからない・・・・・・一体どんな手を使って?
カナネさんは、腰を落として八つの足で踏ん張り、いつでも奴に飛びかかれるようにしていた。戦いの素人であるオレすらわかるように、彼女は臨戦態勢でいたのだ。
敵対している相手は、詳細はわからないが異世界から来た物質を異物と称し、憎んでいる様子から、それそのものを扱っている博物館・・・・・・と、その館から出たオレ達を標的にしているだろう。
さて、気を引き締めるか・・・・・・本当は心底怖いのだが。
ジルコニーと名乗る男は、片手を軽く挙げ、そして、
「 火・水・土・風に属さぬ始祖なる元素よ・・・・・・我は 命じる その静寂なる牙にて 怨敵の血を荒らし 未知なる死を 与えるがいい !!」
この場にそぐわない意味不明な言葉の羅列を、早口に言った。
たしか奴の一人称は、ボクのはずでは・・・・・・。
もしやこれは・・・・・・魔法を発動させる引き金・・・・・・『呪文』??
ジルコニーが呪文らしき詠唱をし始めた時、カナネさんも動き出していた。
その八つの蜘蛛足を器用に動かし、真正面のルートではなく敵の掌先を避けるよう迂回して、突進したのだ!!
だが、
直後、カナネさんは急に走るのをやめ、八つの足全部が折れ曲がり、そのグロテクスなお腹を、重力に逆らわず地面にぶつけたのだ!?
「カナネさん!?」
呪文を唱えた後、ジルコニーは嘲るように言った。
「どこの世界に、遠距離戦に特化した魔術師が、敵達に堂々と姿を見せつけた後、のんきに意味ある詠唱するバカなやつがいますか、ば~かっ」
「う・・・・・・なんか・・・・・・だるい、気持ち悪・・・・・・」
カナネさんは、自身の口を片手で抑え、何やら吐き気をもよおしている?
弱りだした彼女と敵との距離は、かなり縮んでしまい、危険度が増してしまったぞ!!
ジルコニーは体を少し震わせて、
「・・・・・・くっくっく・・・・・・」
嘲笑が微かにこぼれる。
「クックッカッカッハァア~ハッハッハアアアァア!! さっきの詠唱はハッタリですよ気づけよボンクラっ!! ゲロインってやつになるつもりですかな君は?
もうボクが君達に姿を見せつける前からとっくに攻撃してたんだよ売界奴よ!!
どうだ? 無色透明無音無臭な魔法のお味は? ってか味なんてわかるわけねぇですかそうですよねそのまま分けわからないまま髪の毛禿げて死にやがれぇ・・・・・・っ!!」
「え? 禿げる?」
なんかさっきからオレの表皮奥ら辺に、今まで感じたことのない痺れに似たぬめぬめな感触を彷彿とさせる感覚が、微かに湧き上がる。
それは触覚を始めとした五感とも違う、通常の人間では持ちえないものだ。
那賀から貰った感知系の能力の一つが、自動発動しているな・・・・・・。
「この感じはたしか・・・・・・放射線が増えているってことか・・・・・・?」
先程何気なく呟いたオレの言葉に対し・・・・・・。
ジルコニーの顔が、面白いように極端に歪んだ。
「て・・・・・・てめえってやつ!! なんでわかったんだ!? ボクがガンマ線を魔法で放出してるってっ!! なんで??」
あっこいつ自分でばらしたな。完全に奴は挙動不審に陥っている・・・・・・。
まさか中世西洋風の国で、那賀からもらった能力『放射線覚』がいきなり役に立つとは・・・・・・。
おっと、早くカナネさんを助けないと、初めてだけど使うか。
非科学的な法則・・・・・・魔法を!!
「『非酸』」
オレは人生で初の魔法を発動させた。炎属性の攻撃らしい。
こんな戦闘時に不謹慎だが、魔法という伝説の物を扱えれることに、オレは少しわくわくしている。
敵めがけて自分の掌から、白色の火炎が勢いよく放出される。
数秒間発射した。
「くっ・・・・・・、これでも喰らえ!!」
オレに背を向けているカナネさんは、後ろから迫りくる火の壁に気が付けないまま、ポーチから小振りのナイフを取り出し、ジルコニーの喉笛を狙って弱々しく投げた。
次の瞬間・・・・・・。
カナネさんごと、飛ばされたナイフが、膨大な量の火炎に炙られて落ちたのだ。
・・・・・・・・・・・・。
制御が全然できてねえ、オレの魔法。すっげぇ広範囲に火が・・・・・・。
あの女神、とんでもない能力授けやがって!!
横に勢いよく跳んで避けたジルコニーは、慌ててまくしたてた。
「て・・・・・・てめぇ、仲間ごと攻撃しやがった!? 鬼ってやつなのか君は!!」
「いやいや大丈夫ですよ?」
「いや君汗ダッラダラじゃねぇか!? できなかったんだろ? 操りきれてなかっただろ!!? 売界奴どころか、仲間殺しってやつですかっ!!」
「いやいや大丈夫ですよ? ね? ね? カナネさん? ・・・・・・カナネサマ?」
「ああイナリ・・・・・・」
女性の高くて美しい声を聞き取ってしまったジルコニーは、信じられないようなまん丸になった目で、前方の溢れんばかりの炎を眺める。
ホッ、良かった。
そこには・・・・・・。
黒焦げか灰になるどころか、火傷一つも見当たらないアラクネ族のカナネさんが・・・・・・いた。
「・・・・・・火属性耐性魔法?」
唖然と呟くジルコニーに対し、
「ああ、違うな。私は魔法が全然使えなくてな。本来は射手に特化した冒険者なんだ。何だこの炎は? 体の吐き気と倦怠感が無くなってくるぞ? ・・・・・・ん?」
不思議そうに身の周りに包む白い炎と胸元を見下ろすカナネさん。
焼かれたナイフの金属製の刃物は、青白い灰に変わって舞ったが、木製の、『普通の火』に焼かれればすぐに炭にでもなりそうな持ち手部分は、一切無事であった。
そしてオレは解説を始める。
「その炎は特殊らしくてさ、『炭素を含まない全ての存在』を焼き尽くす魔法物なんだ・・・・・・生物には無害なのさ」
うむ! 一応最初に繰り出した魔法が、殺傷能力なしのを選んで正解だったな。
脅しの魔法では、あいつは退かないか・・・・・・。
「君さっき、安堵の息漏らしたんじゃないですか? それとなんでそいつが元気になるん・・・・・・」
「その放射線も灰に変えた」
「なっ・・・・・・!?」
恐々するジルコニー。ふぅ、カナネさんを火に包まらせてオレが焦ったことを誤魔化せることに成功したな・・・・・・。
あと言ってないが、『非酸』に焼かれて灰に変化した物は、触れた生物に潜む放射能を除去する効果も持つぞ。
・・・・・・なんか他人に、自分の魔法を披露するって・・・・・・良いな・・・・・・。
続けていくぞ!! 今度こそ相手にダメージを与えれる魔法だ!!
「喰らえ、水魔法!! 『浄魔』!!」
オレは再び、敵に向けて、掌を掲げる。
「ふんっ! 放射能の知識については少し君はかじっているようですが、まだまだですね。
ガンマ線ってやつは、水をすり抜けるんですよ?」
ふふふっ。そのくらい知ってるさ。
だが今から放つこの魔法は、放射線を全て浄化させる!!
オレの手先の虚空から、水が溢れ、溢れ、は? 溢れすぎってか、どうやって止めるんだこれは念じても止まらないぞっ!?
もはや自分の周り四方八方から、透明な水がドバドバ流れてぇっ・・・・・・!!!
・・・・・・博物館の外壁に跳ね返ってこっちに来てる!? 水がっ!!
「ああ金属製のアーマービキニが燃え・・・・・・ん、イナリ?!」
「あっおい!! 完全に制御できてねぇじゃないですか!? 君ってやつは!!」
水位は軽くオレの首まで上がり、
その激しく放出された波の矛先は、カナネさん、ジルコニー、周辺の倒れている人達、そして術者のオレ自身まとめて向かっており、津波のごとく全てを押し流した。
オレ・・・・・・カナヅチなのにぃいぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃいいい!!!!!!!!!!!!」
教訓:初めて扱う魔法は、決してぶっつけ本番では使わず、人気のないところで、安全性を確保してから、注意深く練習すること。
そうオレは、意識が朦朧とする中、自分の心内に誓うのだった。
『非酸』と『浄魔』は、造語です。
現実にはない言葉ですのでご注意ください。
主人公が、ジルコニーが放射線使いだと見破った理由を変更いたしました。