電話先
最近改稿した時期は、2019年2月22日。
「どうしたんだイナリ、顔色がどんどん悪くなっていくぞ? 医者のとこまで、私の背中に乗らないか?」
やばいやばいやばい・・・・・・あの女神が言ったとおりだ。本当だった。期待させるよう地球博物館内まで飛ばして、実は本当に異世界転移させました~とかで、絶望させるって、どんだけ悪質なんだよやつは・・・・・・。
「お、おいイナリ? なんか汗ダラダラだし、呼吸も荒れている・・・・・・本当に大丈夫なのか!?」
「・・・・・・あ、あ嘘だ・・・・・・」
「なにか困ったことでもあるのか? それなら、君の伴侶【未定】になるこのカナネに相談してくれると嬉しい。君の力になりたいんだ・・・・・・」
カナネさんは、少し照れて、そう力強く宣言したのだ。
その言葉に、オレは震えた。感動した。
場所どころか、帰り方すらもわからない異世界に放り込まれてから、オレはすごく頼りに見えるなカナネさんのこと・・・・・・。
先程オレたちがいた博物館は、オレ出身の世界にある文化についてのジャンルを取り扱っていたはずだ。
異界についての存在を、先程入場していた彼女は知っているかもしれない。
「・・・・・・信じてもらえないかもしれないけど・・・・・・」
っというか、オレも未だに信じられないけどな!!
そしてオレはこれまでのことを言った・・・・・・というか、荒ぶる自分の感情を制御できずに従うまま、まくしたてた。
簡単に異世界に飛ばされたなんて、そんな・・・・・・簡単に認められるか!!
そんなに時間は経っていない。二分程度だ。
言い終わって、喉が干上がり、胸が苦しくなったオレに対し、彼女カナネは、
「信じられないな・・・・・・」
そう呟いた。まあ確かにそれに関しては、残念ながらオレも同意できる。
いきなり女神だの転移だの、会って数分しか経ってない人から言われたってね・・・・・・。
だが、
「信じられない、信じられない、信じられるか!! そんな邪神が存在していることにっ!! 一体君に何の落ち度があった!? ふざけてるふざけすぎだぁっ!! あんにゃろおっ!!!!」
え!? そっちっ!!? ・・・・・・良かった。
でも、この人、話鵜呑みにしている? 少し、彼女の未来が心配になってきた。
安堵の息を吐いたオレに、カナネは、
「この私カナネは、何があっても君の味方だ! まあ伴侶【未定】だから当然だけどな!! 困ったこととかあったら何でも言ってくれ! 君の・・・・・・イナリの力になりたい!!」
お・・・・・・おお、まさか出会って数分で、従順になっちゃったのか? ちょろすぎだろ。
電話がいきなり鳴った。オレのズボンのポケットから。
ってか、こんな着信音だっけ? オレのスマホの。
「おい、なんだその音楽は? 音魔法使えるのか君?」
魔法・・・・・・そんなファンタジー的な単語をなにげに呟いたカナネの事で、本当に異世界に来たんだなぁと、非現実的な現実を突きつけられたオレであった。
っとのんきに考え事じゃなくて、すぐにでないと・・・・・・。
そしてオレはポケットから電話を取り出す。
だが、
「・・・・・・え? オレが持っていたのって、スマホじゃなかったけ?」
そう出てきたのは、スマートフォンではなく、・・・・・・ガラケーだった。二つ折りタイプの、見知らない物であった。
「何だその物体は?」
カナネはそわそわしだし、頬を染めていた。
オレがいた世界の物にでも、興味でもあるのかな?
「静かにお願いします」
よくわからないままその携帯を開いて、受話器が浮いてあるイラスト付きボタンを軽くタップ。
どうやら画面内の、先程白背景と数字羅列から、黒背景と電話の画像に切り替わったところを見て、通話開始成功らしいな。
その電話をオレの耳に寄せた時・・・・・・
(あれ、カナネさん電話の存在知らなかったよな? この世界に携帯あるのか? じゃあ・・・・・・誰がかけてきたんだろう?)
そんな思考が浮かび上がったのだ。
電話からいきなり、
『はいもしもし~あなた専属の女神 那賀 ですよ~』
見に覚えのあるあんちきしょぉの声が、オレの耳に・・・・・・脳にまで届いた。
ジャンクフード店で、シェイクを飲んでた悪神だ!
胃が縮まる。脂汗が、オレの背中に浮かび流れ込む。ストレスが・・・・・・流れ込む。
「お、まえ・・・・・・」
『元気そうで何より何より。それよりなろうテンプレでよくある、チートスキル今から稲荷にやるから』
「さっさとオレを元の世界まで帰せ!!」
通話途中で、カナネの事を気にかけたオレだが、やはり地球の日本に戻りたい。
カナネの顔を盗み見た。
彼女は、何やら不安そうな目で、オレを眺めている。
『何よ、せっかく車にぶつかった傷を治したり、そっちの世界の言語情報や莫大な生命力を君に与えてやったりしたのに失礼ねぇ・・・・・・
大丈夫よ。魔王とか倒したら戻してやるから。(まあでも、それを元にした小説、人気でたら、また稲荷を異世界に放り込んで、続編のネタ作ってもらうつもりだけどね♪)』
オレは電話を握りつぶしそうになった。
那賀という悪神は、
『まあ別に今戻してやってもいいんだけどね』
と言った。
「本当か!?」
『でも・・・・・・』
奴は少し間を置いた。不気味な音の空白だった。
那賀悪神は、オレの予想を越えることを呟きだしたのだ・・・・・・。
『他の人転移させるから』
一瞬・・・・・・一瞬だけ呆気にとられてしまった。自分の喉が干上がるのを止められない。
『それが嫌だとしたら面白いこと言ってやってみなさいな。つまらなかったらどんどん人間を投入しても構わないのよこっちは』
仕方ない・・・・・・。
「・・・・・・わかったよ・・・・・・。お前の要求を飲んでやるよ! だから、別の人には手ぇ出すな!!」
『了解それとありがとね♥ ちなみにあたしが今から書く小説は残酷表現を全面に出すから、できるだけ戦闘時には敵を酷い方法でぶち殺すようお願いよ。JK女神との約束だぞ?』
「・・・・・・ところでよ、何でオレはスマホじゃなくてガラケーを持っているんだ?」
『ぶち殺しどころをはぐらかしたわね。古臭いガラパゴス携帯のこと? プレゼント、あたしの御下がりだけど。遠慮なく使っちゃって~そのかわりあなたが使っていたナウイスマホは、こちらがプレゼントされちゃうわねごちそうさま』
「ふざけ・・・・・・」
『能力とそれらの情報を送信したから、すぐにでも使えるわよ稲荷クン。他の知り合い神々に、いらなくなったスキルとかを集めたものだけど、人間の下界じゃ結構役に立つはず。
いや~大変だったな。よく頑張ったな~あたし。
また今度電話かけるから、今からの敵の戦闘、がんばってね~』
早口に言った奴は、電話を閉じた。 ツー ツー と鳴り響く電子音だけがこちらに残る。
電話を耳に寄せたまま、呆然となっているオレの頭の奥底に、何やら得体の知れない文字やら数字やら図形やらの情報が流れ込んでくるのが感じ取れた。
つまりは 能力 とか 魔法 とかだの。
「イナリ・・・・・・」
カナネは不安そうにオレを見つめていた。
とりあえず、やることは決まった。
飲もうじゃないかその条件を・・・・・・オレみたいな人間が他にも出さないように、道化師を演じきってやる!!
「ねえあなた達? それそのケイタイデンワ? とかいうヤツ? その物体って、この世界になかった『異物』じゃないですか~?」
そうどこかの誰かが呟いた言葉を、オレが耳にした瞬間、自分とカナネと見知らぬ男一人を除く、往来していた人々が、何の脈絡もなく次々と倒れ込んだ。
「な・・・・・・何!?」
見知らぬ男が、こちらに歩み寄る。
彼の外見は、ツバ付きの丸みを帯びた帽子をかぶっている、痩せ型の男であった。
年齢は三十代後半? わかめみたいな髪の毛をしていた。前髪を目元まで伸ばしている。
「ボクは『石外壁』という組織の一人・・・・・・ジルコニーってやつですよ。
ようはあなたの持っているケイタイデンワを始めとした、異世界からこちら『ウェーデンス国』まで侵入してきた 異物 を排除する正義の隊員の一人ってやつですね」
そうヤツは着ていた布のコートの胸元に縫い付けてある、石造城の紋章を見せびらかしながら口にしたのだ。
次に、奴は言う。
「地球博物館の客に成り下がった君達の命ってやつを、頂きに来ましたよ。地球かぶれの売界奴な非国民がっ」
「上等だ・・・・・・」
オレは獰猛に笑った。
「今から演じてやるよ・・・・・・バイオレンスなチートスキル扱う道化師がよお!!」
読んでくださりありがとうございました。