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なろうテンプレを装ったなろうテンプレでないチーレム小説  作者: 大錦蔵
ジャンクフード店~首都『トックホルムス』
22/23

複数の烏合の衆、烏を狙う漁夫

 ※最近改稿した時期は、2019年10月6日。

 最初は語り手を、三人称視点に致します。

 足場がさも悪そうな崖上に、一人の男が立っていました。

 彼はぼさぼさの黒髪を持ち、新品の黒マフラーにぼろぼろの黒マントを身に着けているのです。

 その下には黒タンクトップと短ズボンを着用。

 左側の肌が緑、右側が灰色の肌を持っているのです。

 そして彼の手には得物だろうか、一メートル超えの下先端に鏃がある木製のオールを握っていました。

 そう彼はダーティー魔王軍幹部の一人であるコーフィン。


 彼はクール気味に見下ろします。

 視線先には、日に照らされた鮮やかな木々と補填されてない土の道を駆けている一つの馬車があります。


 「そうか、なるほどな・・・・・・」

 呑気に呟くコーフィン。


 「魔王城を攻略すると言ってた少年とその仲間達が乗っているのは幌タイプの馬車だが、あれは木製箱型だな・・・・・・。自分の標的とは別。

 とりあえず公共馬車の停留所まで戻るか・・・・・・ポトゾルと共に行くべきだった」

 人気のない周りをしばらく見渡すコーフィン。

 

 「・・・・・・ここはどこだ?」 

 彼は迷子になっています。



 ※次からは語り手をイナリに代え、舞台を木々が生い茂る山岳地帯へと変更いたします。


 今オレ達は集落地から出て、馬車で移動している。手綱を取っているのはネクロ。

 彼女は今・・・・・・。


 「♪フレイア殿はおっしゃりになら~れ~た~♬

 ハープしか持~たぬ~わ~たくしにっ~♬

 ・・・・・・殺してやる!! 塵にしてやる!! ~と~、この歌は彼女の容赦なく凄まじい士気を畏れる歌~♬」

 という内容の歌をのりのりで歌っていた。

 どうもその歌詞は、このウェーデンスの隣国であるマルウェーで有名な吟遊詩人が作詞しており、題名は『嗚呼、可憐なサラマンダー』らしい。

 

 まあそんなことより、

 「よくこんな乗り心地の悪い乗り物で呑気に寝られるな」

 オレは馬車の揺れでできた尻の痛みに耐えながら、うとうと寝ている紫音とアードを眺めて呆れていた。


 ちなみに紫音の膝には『魔術は実在するという』というタイトルの本があり、出版元は日本である。

 それの表紙に写真で載ってあるいかついおじさんは著作者らしく、名前ははくらん きょう


 紫音の本を勝手に読もうと手を伸ばした時に、カナネさんが話しかけてくる。

 「確かイナリがいた世界では、油や雷で動く鉄の車とかあるのだな?

 その車では揺れがほとんどなく出せるスピードも馬車とは桁違いだとか」


 石油を油、電気エネルギーを雷と呼んでいるらしいな、カナネさんを始めとしたこの世界の住人達は・・・・・・。

 「ああ他にも自分でペダルを漕いで走る自転車に、深海を突き進む潜水艦に空を飛ぶ飛行機、レールの上に沿って移動する鉄道・・・・・・挙げたらきりがないな」


 「是非もっと教えてはくれないだろうか、イナリ。私はこの手の話が大好きなんだ。

 ・・・・・・いつも思ってたのだがなぜこの国では、本当は異世界の機器を造れる技術力を持っているのにも関わらず、全然それを見かけないのだ?

 技術力のある証拠として、たしかあのスパイもトランシーバーなるものも持っていたはずなのだが」


 「スカイエルフ神道」

 カナネさんが不思議がっている時に、起きて欠伸しているガルムが話しかけてきた。

 「それの経典に『異界から侵入してきた異物は、この世界にある天と地と海と人々の心を汚し、埋もれさせる災厄をもたらせる・・・・・・だからできる限り排除しなければならない。異界人もその災いを助長させる』という教義がある。

 そのせいで、下手に異世界技術で街を工事したら、敬遠なるスカイエルフ神道信者が怒り狂ってテロを起こすかもしれないってな・・・・・・。

 だから未だにここじゃ井戸や煙突なんか現役なんだぜ?

 現にてめえのいたとこでも人口爆発だとか何々層破壊だとか温暖化だとかで騒がれているらしいな。

 まあうちはフェンリル教徒で世界破滅を望んでんだから、そっちのほうがありがてえんだけどよ」


 「なるほどそういうことだったんだ」


 「まあ乗り心地が悪いってのは同感だz・・・・・・ぐはっ!?」

 ガルムが何かに衝突した!?


 「敵襲か!?」

 弓矢を慌てて装備するカナネさん。


 オレ達はガルムに激突したものに、目を向ける・・・・・・。

 それは・・・・・・。


 「『乗り心地が悪い』・・・・・・?

 本格的に運転手であるボクとコシュタンをバカにしているのかな・・・・・・?」

 ネクロの頭だった。


 「って、ネクロ何運転中に頭を幌室内に投げてるんだよ!?」

 よそ見運転なんてレベルじゃないぞ! さっさと現場に戻って!

 余談だが、彼女の前髪には葉が一対ある紫陽花型の髪飾りが身に着けてあった。


 「うう・・・・・・コシュタンをバカにするなんて許さないから・・・・・・」


 「わかったわかったから、別にバカになんてしてないよ」

 オレはネクロの頭を持ち上げ、運転席まで向かおうとする。


 「おい、何だあの馬と運転手は・・・・・・首がねえぞ化け物の馬車か!?」


 「どうしますか親分? 狙うのやめますか? 祟られそうで怖いんすけど・・・・・・」


 「おい、おれ聞いたことあるぞ・・・・・・首無し馬と首無し御者・・・・・・確か相手の死を宣告しにくる死神みたいな妖精・・・・・・デュラハンだ!!」


 なんか外がざわついているな。道中の人達を驚かせてしまったのか。

オレは頭部のみのネクロと外に出る。

少し奥には、乗馬している人達が見た感じ数十人くらいいた。

 どうやら全員武装しているみたいで、失礼だが武骨さが嫌でも滲み出て、華さがまるでない。


 ネクロの体部分が、コシュタンの手綱を引っ張って停止させる。

 「うん? もしかしてあの人達・・・・・・」


 「ひっひぃいいいいいいいい生首がしゃべったぁああああ!! しかもあの男はそれをわし掴みにしているっ!! 親分逃げましょう」


 「いや、あのなんか御用でしょうか・・・・・・」


 「やかましぃいいいいいぃぃいいいいいいっ!!」

 親分と呼ばれているイノシシを擬人化したような男が、オレの質問を遮るように怒鳴り散らした。

 彼の特徴は、ずんぐりむっくりとした体形に、麻のシャツと短パンを身に着け、その上に鎖帷子と軽鎧を装備し、斧を得物としている、見た目の年齢三十代越えのおっさんだ。


 「あ? なんだいきなり馬を止めるなんざ」


 「う~ん、何っすか? 寝てたのに、せっかく」


 「イナリ・・・・・・敵襲か!?」


 不機嫌そうに吐き捨てるガルムに、片目をこするアード、弓矢を構えたカナネさんが馬車から出てくる。


 「敵襲だよ。馬車の運転で疲れてるから、さっさと片付けるんだけど」

 

 敵襲・・・・・・さっきの村の時、カナネさんがここら辺で賊が出てくるって言ってたな・・・・・・おいおいまさかまじで盗賊とかそういう類の相手と今から戦うのか!?

 


 値踏みするようオレ達をじろじろと眺めてくる賊達。そしてこちらをほっといてあちこち好き勝手に私語を漏らす。


 「おいおい・・・・・・女のうち下半身が蜘蛛のアラクネとデュラハンか・・・・・・顔とか及第点超えるんだけど、微妙だな~」


 「はっ!? おい亜人フェチの俺にとって、聞き捨てならねぇこと吐きやがったな!」


 「おい女達攫って犯すていで話してねぇか・・・・・・?

 今我らのグループに余計な奴を養うほどの余裕は無いぞ」


 「つーか、あの男女四人も侍らせてんぞ。やだやだ羨ましい限りだね~」


 へ~ほうふぅ~ん羨ましいんだ? オレ達を狙ったことのある食人鬼や性病を周囲にばら撒きたい邪教徒スケバン、のほほん超マイペースなくせいざという時得体のしれない術を使う魔術師、精神年齢お子ちゃまスパイ、そしてその内三人の首を狙っている女性を侍らかしていることがかっ!?

 

 盗賊の一人が尋ねてくる。

 「おい、身ぐるみと女共を置いておけば、命だけは助けてやるぜ・・・・・・」


 「いやだ・・・・・・と、言ったら?」

 挑発的な態度をとるガルムが、にやにやしながら要求ををつっぱねた。


 「そりゃぁあ、もちろん・・・・・・」

 盗賊の一人がほくそ笑みから戸惑うように表情を変える。

 「いやあんたその首輪。奴隷だろ?

 なんで奴隷が主君差し置いて答えるんだ。おかしいだろ?」


 あ、そういえばガルム奴隷だった。


 「か~、わかってねぇなあ・・・・・・」

 言われたガルムはやれやれと肩をすくめて、

 「うちはただの奴隷じゃねぇ・・・・・・」

 自分に指し、

 「泣く子も黙らせる奴隷(スレイウ゛)大将ジェネラル様だ」

 不敵な笑みを浮かべては、自信満々気に言い放ったのだ。


 少しの間、敵対者はざわつき始め、

 「奴隷(スレイウ゛)大将ジェネラル・・・・・・ってなんだそれ?」

 すぐにそこに困惑の空気が流れる。

 「お前、聞いたことあるか?」


 「いやねえぞ。なんだその黒歴史に残りそうないかにも稚拙な名前は」


 「まあいろいろと酷い目に遭ってきたんじゃね? ・・・・・・みじめな自分の境遇を誤魔化すためにそう傲岸不遜なもの名乗ったんじゃないの?」


 「可哀そうに・・・・・・」


 そして盗賊達は挙句の果てに、獲物でもあるガルムに、憐みの瞳を向け始めてしまったのではありませんか!

 

  「・・・・・・おいお人好し、ちょっと袖めくって腕出せ」


 はっ、どういうこと? とオレは言いながら、特に警戒することもなくガルムの言うとおりにする。

 彼女はオレの片腕に、魔杖であるひしゃげたパイプをぐりぐり押し付け・・・・・・?

 

 「付加魔法・・・・・・『根性ネイチャエンチャントき』」

 

 「あちゃぁああっ!?」

 いきなりそのパイプから、耐えがたい熱を感じた!!

 パイプに触れたオレの肌は、黒い焦げが生まれ、少々の白煙が立ち昇った。

 酷いな!? いくらオレがプラナリア並みに生命力を、女神から押し付けられたとはいえ、痛みの耐性は全然つけてもらってないんだぞ!!


 「何をす・・・・・・ん? あれ、胸の中が熱くなってくるぞ」 

 

 「『根性ネイチャエンチャントき』は、かけた相手の士気を底上げする魔法だ」

  そして・・・・・・ と、ガルムは言葉をいったん区切り、

 「喧嘩だ馬鹿やろぉおっ! うちを舐め腐りやがった賊共には、恐怖の惨劇を見せつけてやるぜごらぁあぁあああああああああっ!!」

 その整った顔を歪みに歪ませ、美声が台無しになるよう荒く叫んだ!


 おおっ! ガルムの魔法でテンションが上がりまくりのオレは、一旦冷静になって・・・・・・。


 「カナネさん! 紫音を警護してくれないですか! ・・・・・・・・・・・・カナネさん?」

 あれ? オレの呼びかけにカナネさんは今まで無視したことなんてないぞ?

 とりあえず自らの視線を、盗賊達から彼女の方に向けると・・・・・・。 


 (わ~・・・・・・私の好みの男ばかりではないか! モヒカン、スキンヘッド、いかつい顔つき・・・・・・ポヤ~・・・・・・)


 カナネさん!? え、今彼女は顔を赤らめてもじもじしているけど、もしかして敵達に見惚れている!?

 ワイルド系がドストライクだったのかカナネさんは!!

 どうりで童顔のオレには、どうしても恋愛対象として見てくれなかったわけか!!

 畜生羨ましいぞ盗賊共!!


 「カナネさん!!」


 「わっ! え!? イナリ、どうしたんだ?」


 「紫音を警護してくれないでしょうか!」


 「わかった! ところでイナリも車まで避難しないか? 君はグロテクスな光景に耐性はないのだろう?

 凄惨な場面を君に見せたくなはいんだ」


 「はぁあっ!?」

 カナネさんの甘言に、ガラにもなくオレは反発したくなった!

 「せっかく魔杖も買って未使用の魔法も練習したいのに、オレを甘やかさないでくれませんか!?

 というか、凄惨な場面なんて何? もしかしてカナネさん達が奴らを虐殺・・・・・・?

 残念ですが、オレはタイガから見損なわれたくないから、奴らを死なせず穏便にドチート魔法で全員蹴散らすつもりですので、カナネさんこそ幌内まで待機してくれませんか・・・・・・?

 ていうか、あの雑魚共はオレ一人だけで充分だぜっ!!」

 本当に反発してしまった・・・・・・恩義のあるカナネさんになんて大人げないことを・・・・・・。


 それもこれも、ガルムがオレに余計な魔法をかけて興奮させたせいだ!!


 そんなオレにカナネさんは、

 「甘いことを言っているのはどっちだっ!! 君には戦場の恐ろしさというものがまるでわかってはいない!

 君は平和な世界で生きてきたから、これからも争い事に関わるのはやめろ!

 あとはプロである私達に任せるだけでいいんだ!」

 始めてオレに対して声を荒げた・・・・・・なんかすごく傷つく。


 「ねぇもう襲っていいっすか? 待ちくたびれましたよおいら」

 左手に弓ノコギリ、もう片手に大ノコギリを構えているアードが、イライラしながらオレ達の口論を聞き流しながら待機して、


 「え? 車で待機しろって? ボク疲れてるから、ありがたくそうさせてもらうんだけど?」

 欠伸をしているネクロは、幌内まで下がろうとする。


 「貴様は国と民を守護する騎士なはずだが!? おいさっさと持ち場に戻れ、村にいた時、意気揚々に盗賊を退治するって発言したのは虚言か? このものぐさが!」


 「ねえねえ今の聞いた? みんな・・・・・・平民冒険者の分際で、国王に仕えている高貴なボクに暴言を吐いたんだけど? チクっちゃお~かな~」


 「おいうちのことほっとくなよ! さっさとあの賊共を・・・・・・」


 ガルムが、口喧嘩しているカナネさん達に話しかけた瞬間。


 「え? 親分何を・・・・・・」


 親分と呼ばれていたイノシシ男がしびれを切らしたのか、自分の馬から降り、斧を持ってない方の手で、身近にいた別の馬の前足を掴み、味方であるはずの乗っている奴ごと軽々と持ち上げ・・・・・・。


 「うっ・・・・・・うぁぁああぁああああああっ!?」

 なんてこともないようにぶん投げたっ!? 

 その馬筋肉隆々で、低く見積もっても重さ三百キロ以上あると思うぞ!!

 投げ飛ばされた馬とそれにしがみついている賊は絶叫しながら、驚異的なスピードで、目視十数メートル先にいるネクロの馬コシュタンめがけて向かってきている。


 「はあやっとっすか」

 待ちくたびれたアードが俊敏に動き、ここぞとばがりに得物にしている大ノコギリで迎え討とうとする。

 こっちに飛来してくる馬の背に、彼女はノコギリの刃を当てようとした・・・・・・まさかその分厚い馬の体を一刀両断する気か!?


 と、思いきや、


 「うぐっぅううす!?」

 傍から何かが飛んできてアードの腰にぶつかった!?

 怯んでいる彼女をよそに、体だけのネクロが、空中でじたばたしている馬を優しくキャッチし受け止める。


 「た・・・・・・助か、ぐはっ!」

 ちゃっかりと体だけのネクロが、無事着地した賊一人を踏み倒す。


 「痛たた・・・・・・なんすか、もう」

 

 「賊はいくら死んでもどうでもいいけど、馬は無罪だから攻撃しちゃだめなんだよっ!」

 アードの足元に転がっているネクロの頭が、不満を漏らした。


 そうか・・・・・・アードが馬を攻撃しようとしたから、ネクロは自分の頭部を投げて彼女を妨害したんだな。気持ちはわかるが、仲間割れしている場合か!?


 まあオレも実は、

 「てめぇこのイノシシ野郎ぉっ! 何、人と馬を投げてんだよふざけやがって!!

 味方じゃなかったのか!?」

 ブチ切れてんだよ!!


 「『非酸ナイトロジェィム』」

 オレがそう呟いた瞬間、生物に無害な白炎を呑み込ませた・・・・・・範囲はもちろんオレ達がいる山岳地帯全域に!


 「ぎゃぁなんだこの変な火は!」


 「た、助けてくれぇっ!!」


 「うっ! おいお人好し、なんだこの魔法は!?」


 「ボクまだ死にたくないんだけど!!」


 そういや、ガルムやネクロは『非酸ナイトロジェィム』初見だったっけ?

 武器や防具の金属部分を全部燃やせば、奴らも慌てて逃げるだろうよ。

 そして数秒経ち、オレは白い炎を消す。


 さて盗賊達の得物は燃え・・・・・・え?

 燃えたよな・・・・・・それじゃあ、オレの視界に入っている斧や槍とかは、何なんだ!?


 「なんで燃えてないんだよ・・・・・・無機物を好きなように燃やせる神々クラスの魔法なんだぞ!?」

 オレがそう震えながら呟くと・・・・・・。


 「ごらっ! やっぱてめぇのせいか! 驚いちまったじゃねえかこのバカ野郎がぁあっ!」


 「うわっあああガルム! 連続ローキックはやめてくれぇっ! そんなことしている場合じゃないんだ! なぜ炭素を持たない物全て燃やせれる炎使ったのに、奴らの武器は平気なんだ!?」


 「炭素・・・・・・? 多占土のことか」

 蹴りをやめたガルムが、先程の白い炎であたふたしている盗賊達の手元にある武器を、じろじろ眺めながらなんてこともなく言い放つ。


 「あれ鋼製だろ? 鋼って、微量だが多占土・・・・・・てめぇが言うところの炭素含んでいるんじゃなかったっけか」

 ・・・・・・まじで?


 ということは・・・・・・。


 「おいてめぇら! さっきの白い魔法はこけおどしだ! さっさと片付けるぞ!!」


 奴らの武器燃やせないじゃん!!

 

 「かっかれぇえええええええええぇぇえええええっ!!」

 親分と呼ばれたイノシシ男が、斧を虚空に振り落とす!

 その瞬間に・・・・・・。


 盗賊達は、

 「何をやっているお前達・・・・・」

 こちらに向かって、馬を走らせることは無かった。


 「いやですよ親分! さっきのあのハーレム野郎、一瞬で白い炎を噴出させたんですよ?

 それだけ、奴の魔法の間合いが尋常じゃないくらい広いということです!

 もし別の攻撃魔法繰り出してきたら、俺達全員瞬殺されるかもしれないんですが!」

 ああ、ビビらせることには成功したな。


 「もし臆せば、・・・・・・俺様がお前らを虐殺するぞ?」

 イノシシ男の重低音の脅しで、やっと怯んでいた盗賊達がやむを得ずこちらに攻撃してくる。


 「来るぞ! みんな気を引き締めて・・・・・・て、あれ?」

 オレが魔杖『ソードフェイカー』を鞘から抜いて左手に持ち、視線を仲間達に向けた時、一瞬だけ呆然とした。

 なぜなら・・・・・・。


 「うわぁあああああトライ イナリ助けてくれなんだけど!」


 「ばれないですよ? 国王様から。ここでおいらに喰い殺されても。だってあなたの上司は思うじゃないっすか、おいらではなく盗賊が下っ端騎士を殺害したと」

 

 (うわ~勇ましいな。こちらまで向かってくるぞ。あの筋肉質な体で抱きしめてもらいたい・・・・・・ポヤ~)


 「うしっ! うちはさっきの村で忘れ物してきたからちょっと取ってくる。あとで傷を回復しとくから、あばよ~」


 アードがネクロの頭に醤油をかけ、カナネさんが再び盗賊達に顔を赤らめ、ガルムがとんずらここうとしていたから・・・・・・。


 「何をやっているお前達!」

 オレは急いでアードとカナネさんとガルムの顔に水魔法『浄魔クリアクア』の塊をぶっかけて喝を入れる。


 「アード! ネクロの頭を持ち主の体に返せ! もし喰い殺してもオレが国王にチクるからなっ!!

 カナネさん、気持ちはすごくわかるけど紫音を護ってくれないでしょうか! ガルムは神官名乗るなら逃げるんじゃねえっ!!」


 オレの能力スキル放射線ラジエーションセンス』で、ソードフェイカーから出てくる放射線を感じている。


 最前列にむかってくる敵とオレとの距離は一メートルにも満たない、

 奴らも奴らで訓練を受けているであろう洗練された動き・・・・・・だが!

 「『ソードフェイカー』の効果でてめぇらの行動一つ一つスローモーションのように見えるぜ! ど素人の拳を受けてみろ!!」

 そう叫んだオレは軽く飛翔して避け、ソードフェイカーを持ってない方の手で、一番近くにいる敵を殴り飛ばした!

 ・・・・・・虚弱体質寄りなオレのパンチで大男を倒せれるなんて・・・・・・。


 実はソードフェイカーから発される放射線は、水素を沢山体に摂取している魔導士に、身体能力向上と五感鋭敏化などの効果を与えるのだ! 

 あの女神からは生命力は与えられたけど、なぜか膂力や動体視力は上げてもらえてなかったから、この魔杖はすごく助かる。

 

 「へぇ~剣持ってんのに徒手空拳か・・・・・・『剣士ソードマンパンチ』と、言ったところだな」

 ガルムがにやにや笑いながら、先程のオレの攻撃に、変な技名をつけようとする。


 「ガルム! アードかネクロの方に行って護ってもらえ!」


 「なめんなよ。さっき逃げようとはしたが、別に自衛の術はねえ、とは言った覚えがないぜ?」


 盗賊の男一人が馬から降りて、ガルムに駆け寄る!

 もしや奴は、神官と呼ばれたガルムは非力だと判断して、彼女を人質にするつもりだろう。


 「おい逃げろ!!」


 「だからなめんなって。『外道ウ゛ァン流棒術』」

 ガルムは少し屈み、鉄パイプを下段に構え・・・・・・。

 「『玉殴り獄連打』っ!!」

 向かってくる盗賊の・・・・・・ん~と、『急所』を無遠慮に鉄パイプで何度も殴りつける!?


 「フゥォオオォオオオオオッ!?」

 うわぁあっ・・・・・・攻撃を受けた方は、白目になって股間を両手で抑えて後退りした後、地に伏して震えていた。

 なんとも気の毒な・・・・・・オレ絶対あの技を喰らいたくない。


 おっとのんびり傍観している場合じゃないな、敵をさっさと倒さないと。

 先程と同じ要領でオレはジャンプし、相手が攻撃する前に蹴り飛ばす。


 「う~ん、『魔導士マジシャンズキック』」

 もう技名付けなくていいってガルム!


 周囲を見渡すと、アードから頭部を返してもらったであろうネクロが自分の頭を振り回し、敵軍を吹き飛ばしているのがわかる。まさしく一騎当千の上、ちゃんと馬に攻撃を当てないよう気を配っているな。

 アードの方は弓ノコギリで、戦線の奥にいるイノシシ男を狙うも、奴は斧で受け止めた。刃と刃がせめぎ合う!

 それでカナネさんが奴の隙を付き、流暢に矢を飛ばす!


 「危ない親分!」

 しかし盗賊の一人がイノシシ男の手前に半透明のシールドを魔法で発生させたのだ!

 その壁は高さは二メートルぐらいで、幅は五メートル程大きい。

 攻撃が防がれてしまった。矢が地に力なく散らばる。


 「くっ! 一筋縄ではいかないか」


 「なあおいお人好し。うちは財布がちゃんと標的を撃ちぬいたとこ見たことねぇぞ。得物選択間違えてんじゃねぇか?」

 

 「あ~それ思ったすよ、おいらも。強いんじゃないんすか、蜘蛛の体で圧し掛かるほうのが」


 「オレも実はそうおも・・・・・・って何失礼なこと言ってんだ!

 やめなさい! カナネさんが傷つくだろ!?

 ああほら、カナネさんがうなだれて悲しんでいるじゃないか!」


 嗚咽し、泣き始めたカナネさんに・・・・・・。

 「敵ながら哀れだな・・・・・・」

 盗賊達が憐みの瞳を向け始めてしまったではありませんか!!


 そんな奴らに、オレは氷の弾丸を大量に虚空に生み出させ、猛スピードでぶつけて蹴散らした。


 「ぐすっひく・・・・・・イナリ。その魔法は、たしか烏女と闘った時に繰り出したものだな」


 カナネさんの質問に、オレは嬉々として説明する。

 「ご名答。さっきの氷属性の魔法『寒喩コールドメタファ』は、術者のふところが寒ければ寒い程威力と操作性と応用度が高まるんだ。

 (翼土竜を始めとした)召喚獣にけっこう給料支払ったから、魔法の修練度は高まっているぜ。

 っておい、貴様ら!! 何敵であるオレに憐みの瞳向けてんだ! 自分で望んで貧乏になってんだから、同情なんかするんじゃねえっ!!」

 

 イノシシ男の方に視線を配ると、

 

 「ぐうぅ離せてめぇっ!!」

 

 「ぎぃこぎぃこぎこぎこ」


 アードが、イノシシ男の得物である鋼鉄製と思しき分厚くて硬そうな斧を、大ノコギリで押して挽いているじゃねえかっ!?

 もしや彼女のノコギリは、相手の武器、もしくは防具を破壊することに特化してんのか!!


 「離せこの野郎ぉおおっ!」

 イノシシ男がアードの腹を無遠慮に蹴り上げる!

 アードは遠くまで吹っ飛び、彼女のノコギリは、未だに敵の斧にはまったままだ。


 「大丈夫かアード! ガルム、彼女を回復してやってくれ」


 「ち、しゃーねーな~」


 「てめぇこれでも喰らえ!」

 オレは奴に氷塊をぶつけて無力化しようとするが・・・・・・。


 「危ない親分!」

 手下っぽい盗賊が、前と同じ半透明の障壁をイノシシ男の手前に生み出させ、防いだ!!


 「そいつは、てめぇの仲間をぶん投げた薄情者だぞ! なんで守ろうとするんだ!?

 てめえもいつかただの道具として利用され意味もなく殺されるかもしれないのに!」

 ソードフェイカーの効果で機動力が上がったオレは、怒りをぶちまけながら、イノシシ男手前にある障壁までいっきに進んだ!


 「うるさいぞお前! これが盗賊流の戦いだ! 利用できるものは利用する! それは恩があろうが、なかろうが上だろうか下だろうか関係なくな!

 それと、このシールドはあらゆる攻撃を防ぐぜっ」


 「それはどうかな・・・・・・?

 利用できるものは利用する・・・・・・それはこちらのパーティーも同じだ!!」

 オレは足を止めずに、例の半透明防御壁に掌を向ける。・・・・・・この状況でしか活用できないから、今使うぞ!!


 「『パス障壁バリア』」

 雷属性の魔法だ! オレの片手先の空間から紫電が現れて暴れるよう飛び回り、例のシールドめがけて殺到する。


 「ばかめっ! このシールドは伝導性が最悪だ」

 障壁魔法を繰り出した賊が嬉々として言い放った直後。


 「あぶぁぶぁぶぁぶぁぶぁあぁあああっ!?」


 紫電が敵の障壁を通過して、イノシシ男や他の盗賊達めがけて迸った!

 オレの魔法を喰らった奴のほとんどは、黒煙を体中に排出し、煤だらけになった後、力なく倒れる。


 しかし、あまりダメージを受けてないような男がいた。

 「ふんっ・・・・・・何があらゆる攻撃を防ぐ・・・・・・だと?」

 そう例のイノシシ男だ・・・・・・蔑むような目で、先程の雷撃で焦げて倒れている障壁使いの仲間を見下している。


 オレは拳を振り上げ、イノシシ男に狙いを定めた。


 「ろくでもない魔法しか作れないなら、・・・・・・てめぇ自身が壁になれ、この能無しがっ!」

 イノシシ男が、障壁使いをおもいっきりオレ目掛けて蹴り上げる。


 強化された動体視力ですら対応しにくい速さで蹴り飛ばされた障壁使いは、まず例の障壁を突き抜け、次にオレを巻き込む!?

 はるかかなたまで敵と共に宙を舞って、岩壁に激突し、地に転がったオレは、すぐに立ち上がろうと・・・・・・。


 飛んできた。

 何がって・・・・・・?

 ノコギリで傷つけられたイノシシ男の得物らしき斧がだっ!?

 

 すぐにオレは顔を横にずらし、猛スピードで向かってくる凶器を避ける。 

 なんとか回避に成功したが、斧にぶつかった岩壁は、派手な破壊音を鳴らして、土煙を漂わせ、その一部を無数の礫に変えた!

 どうやら今のは、イノシシ男からの追撃攻撃らしい。


 ・・・・・・なあ、オレはそんなに詳しくないが、ファンタジー小説や漫画で出てくる盗賊ってさ・・・・・・。

 弱いイメージがあったんだ。

 だけど・・・・・・。


 あいつ滅茶苦茶強くねぇかっ!?


 

 ※次からは、少し時間を戻し、三人称視点に変更させて頂きます。


 「あの雷魔法・・・・・・どうも通過している防御壁の質が高くなれば高くなる程、比例するよう高威力になる特徴を持ってるっぽいな・・・・・・。

 いいな~あたしもあ~ゆ~の習得すれば、うざってぇ障壁使いの敵も一網打尽じゃん」

 岩壁の崖上から、イナリ達の戦闘を見下ろす騎士が二人いました。


 「レパント・・・・・・早く彼らを助けないといけないのではないでしょうか・・・・・・」

 片目をほつれた前髪で隠している騎士が、褐色肌の同僚に催促します。


 「いやいや・・・・・・ウシミツ。

 せっかく平民共が盗賊ダニ退治してくれてるのに、わざわざこっちが出向くことねぇだろめんどくせぇ」


 「そういうわけにも・・・・・・いきません!

 騎士であろうとする者は、市民の命も守らないといけませんから・・・・・・それに盗賊退治の報酬をもらいたくはありませんか・・・・・・!」


 「もらいたいぜ? だから奴らが疲弊した時に、乱入してゆっくり確実に捕えていけばいいじゃねぇのか?」


 「奮闘した冒険者から、獲物と褒賞横取りしたら・・・・・・彼ら、納得しませんよ・・・・・・?」


 「あ~・・・・・・そん時はあれだ。不満漏らしてこっちに突っかかってきたら、そいつらに公務執行妨害だって脅せばいい・・・・・・それとも、騎士に逆らってるから国家反逆罪で逮捕するのもいいかもな」


 「・・・・・・・・・・・・またそのパターンですか・・・・・・」


 「つ~ことで、しばらくは奴らの戦闘ショーを楽しもうぜ」


 「駄目ですよ! ・・・・・・もう私だけ助けに行きます!」


 「やめろバカっ! 今行ったら危ねぇぞ! もっと奴らが弱っている時まで待て!」


 「それでも騎士なんですかっ!?」


 「お前は頭があれだ・・・・・・固すぎんだよ!」


 「レパントがだらしないだけでしょ! この給料泥棒!!」


 「何だと!? お前だってあたしの戦闘スタイルは黙認しているくせに!!

 あんただけ常識人ぶるなっ!」


 「もうレパントなんか知らないっ!!」


 「こっちのセリフだっ!!」


 烏合の衆がここにももう一群。

 


 ご覧下さりありがとうございます。

 蛇足かもしれませんが、ウェーデンス国騎士のウシミツは市民の命そのものは重要視しますが、負傷の場合は後で治癒魔法で回復させておけば大丈夫だと軽視しています。

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