二柱、料理店
本編再開です。
ちなみにイナリ達がなぜ魔王城への道のりを知っているのかというと、王都から旅立つ前に冒険者ギルドで、事前に情報収集したからです。
この物語の世界では、雷属性の魔法をある程度習得できれば、簡単に水素水を入手できます。
※訂正箇所①ハイエナ→猫科ではなくハイエナ科 ②アイベックス→牛ではなくヤギ。
※イナリは放射線感知能力を那賀から得ました。
最初は三人称視点から始まり、舞台は稲荷がいた高校です。
「稲荷君、ちょっと放課後、体育館裏に来てくれないのでございましょう?」
楕円の眼鏡をかけたワンレン髪の女子高生が、校内の一教室にて、同じく黒髪の男子を誘います。
「あら、いいけど・・・・・・」
何気なく了承した稲荷に、丸坊主の男子高校生がフレンドリーにつっこみました。
「おいお前女の娘に興味ないってこの前言ってなかったかな~? 愛の告白じゃないのか、その誘い」
「藤川君は黙って下さるかしら? 別にそんな理由で呼んだわけでないのでございますが」
「ちぇっ、なんだつまんね~」
稲荷達を傍から眺めていた女子生徒達は、不審がりました。
「あの紫音が、冷淡な態度を・・・・・・?」
そして放課後。
「さて、人気は感じないわね・・・・・・」
夕日に照らされながら、薄暗い待ち合わせにて紫音はきょろきょろ見渡している。
「紫音・・・・・・要件ってなんなの」
稲荷の問いに、ジト目で返す紫音。続けて
「地球とは別の世界『聖魔界』でもう一人の紫音がいるはずよね? それなのになぜ紫音である自分が今、東京の高校にいるのかわかる? 本当はもう気づいているはずでしょうに、あなた」
「何を? ・・・・・・紫音。オレは忙しいのに」
片手で頭を抱え、もう一方の片手で自分のこめかみをぐりぐりする紫音。
「まさか・・・・・・わざとしらを切っている? というより流石にわかっててふざけてないと神々の威厳そのものにヒビが入るんだけど・・・・・・」
そう言って紫音の足元からいきなり白い煙が激しく噴き、彼女の全身を包みます。
「あら・・・・・・」
稲荷は、白煙を纏ってる彼女の様子に声を出しましたが激しくは驚いていません。
白煙が晴れた瞬間に、紫音の姿が見当たらなくなった・・・・・・のではなく、彼女は変身を解いたのでした。
セーラー服姿の紫音が立っていた場所に、今は白いキトンを身に着けた癖毛の強い妙齢の女性が佇んでいます。
衝撃を隠せない稲荷。
「アンレンスさん!?」
「ふん、今更気づくと・・・・・・」
「人間の分際でアンレンスさんに魔法を使って変化したとでもいうの!! 紫音、なんと不遜な・・・・・・!!」
ずっこけそうになるアンレンス。
「本人じゃぞこの大虚けがぁああああああああああああっ!!」
※次からは本当のイナリ達がいる聖魔界・・・・・・トックホルムス都近くにある村へと舞台を変更し、語り手をイナリの一人称視点へと代えます。
(なんだこいつら・・・・・・)って顔してるな~あのエプロンおじさん・・・・・・。
オレ達が居座る場所から距離をとっている店長らしきおじさんが、黙ってこちらを物珍しそうに仁王立ちで眺めていた。
あ、オレと目が合って気まずそうに顔を逸らしたぞおじさん。
まあ気持ちはすごくわかるが・・・・・・。
「非常食さん非常食さん。
食べてくださいな、遠慮せずにもっともっと。太りませんよ~? このペースじゃぁ」
「おい無理やりうちの口に肉を詰め込むなやめろバカ! 今うちはダイエット中だ!!」
「まあまあ過度の食事制限は健康と美容の大敵でございますのよ?
頬はこけてらっしゃり、腹の虫も先程からよくお鳴きになってられるではありませんか・・・・・・かわいそうに、自分も大将さんが召し上がるのを手伝わせて頂きます・・・・・・さあお口を開けて下さいまし」
「お前も何やって・・・・・・むぐむぐ」
「面白そうだね羨ましいんだよ? ボクにもあーんしてあーん。サンカン シオン、トライ イナリ、誰でもいいから・・・・・・はーやーく!」
「ふむ・・・・・・自分が持った食べ物を相手に食べさせる行動は恋人同士らしいな・・・・・・イナリ、私達も『あーん』とかいうものをやらないか・・・・・・?
・・・・・・待てよ。今私の持っているフォークは、自分の唾液がついている・・・・・・そんな不衛生的ものをイナリの口に付けてはならないな・・・・・・そこのウェイトレス! 新しいフォークを用意してきてはくれないだろうか?」
オレ達は今、赤いレンガを積んで建てられたおしゃれなレストランで昼食を取っていた。
「カナネさんやめてっ! ウェイトレスさんに余計な面倒かけてくれないでほしい!
それと美少女のついた唾液は、実はご褒美の類なんじゃないかな!?」
オレが慌ててついうっかり本音を叫んだ後、店内の喧騒は一瞬だけ凍り付き・・・・・・。
「うわっおい、まじかよ・・・・・・変態お人好し」
「おいしいっすものね~、たしかに人間や亜人のつばってのは」
「唾液がご褒美・・・・・・? どういう意味なのか詳しく伺ってもよろしいでしょうか」
「トライ イナリ が少女の唾液に性的に興奮する趣味がある情報をメモメモ・・・・・・ボクの唾液もあげるから、それで特別扱いしてくれるのかな?」
「他人の唾液を美化しているとは・・・・・・生きている人間の思考回路というものは、まだまだ自分では理解できてないことが多い・・・・・・興味深い事例だ」
「あぁああああっ! もぉおおおおおおおおおおおっ! これじゃまるでオレが変質者じゃないか!
もう落ち着いて食事もできないのかこのパーティーじゃぁああああああああああぁっ!!
それと種族がゾンビだがなんだかわからない見知らぬお兄さんもごく自然にこちらの会話に交じってこないでくれないかな!?」
「それは済まなかった」
こちらとは少し離れたカウンター側の席についている男が、素直に軽く頭を下げた後、オレ達に背を向け自分の食事に戻った。
そいつは、ぼさぼさの長い黒髪が特徴的で、口元に新品らしき黒マフラーを巻き付けぼろぼろの黒マントを身につけた、左半身が緑で右側が灰色の肌を持つ、クールの雰囲気を纏ったのんびり口調の若者であった。見た目の年齢はオレよかちょっと上っぽい。
青い左目の焦点が常に左端に向いている。
ちなみにオレ達は一つの四角卓を囲むようソファーに座っている。
カナネさんに至っては下半身事体が大きいので背もたれの部分にも後ろ足をつけていた。
「う~、もう食べれないっす・・・・・・」
アードがそんなにボリュームが多くない料理をけっこう残して、その顔を青ざめギブアップしようとするも・・・・・・。
「へんっ! うちには無理やり食わせようとしたくせに、てめーは何だその様は!? ・・・・・・あいつ見習えよ!」
呆れて苛立っているガルムが親指で、先程こちらに話しかけた黒髪お兄さんの、隣の席についている巨体の男を示す。
「ぐっ・・・・・・まだまだ吾輩は諦めるわけにはいかぬ・・・・・・武人の意地を見せてやろうぞ・・・・・・!」
どうも彼はこの料理店で注文できる早食いチャレンジに参加しているようだ。・・・・・・たくさん積まれた皿の横には砂時計が置かれてあった。
「ポトゾル・・・・・・なんでいつもいつも早食いや大食いチャレンジで連敗しているのに、懲りずに挑戦する・・・・・・?」
巨体の男と知り合いなのか黒髪お兄さんが話しかけた。
「ふ、コーフィンも戯言を言うのだな・・・・・・漢として生まれたからには、何事もあらゆる困難に立ち向かいたいではないのか?
それに見知らぬ嬢さんが吾輩の勇姿を見届けている。それに応えぬわけにはいかぬのでな!
うっ・・・・・・今、余裕は無いから本当に無いから今まで詰め込んだオートミール吐きそうだ」
「なっ? てめぇもあいつみてぇに無理して食えよ」
ガルムは今までの鬱憤を晴らすべく、嗜虐的に笑い、ここぞとばかりにアードを追い詰めようとする。
「無理っす無理っす」
ああかわいそうに、食べかけのチキンソテーの前でとうとう泣いてしまったよアード。なんか彼女の泣き顔ってけっこうレアかもしれないし、萌える。
そして紫音がポケットからハンカチを取り出し、アードの目元を拭う。
オレが三杯目の水素水を口に含んでいる時に、
「あーもートライ イナリ! さっさとあーんするんだよ!」
うわっ! ネクロが自分の頭をこっちに差し出してきた! 便利だなデュラハンっていう種族は。
「わかったわかった」
くそ~・・・・・・こっちまだあんまり食べてないんだよ。
そしてオレはネクロの頭を肘で抱えて、彼女の口にオレが注文していた蒸したポテト入りのパンを食べさせる・・・・・・何? この猟奇的絵図?
ネクロはほくほくとした笑顔で咀嚼している。
体から離れているはずなのに、彼女の口内に通った食べ物は喉の断面から出ない・・・・・・喉と胃の空間って繋がっているのか?
とりあえず彼女の体に頭を返した。
「ところでイナリ・・・・・・この村から離れた地域に盗賊団が現れると、ここに駐屯している騎士から聞いたのだが、何かいい作戦とか企てているのか?」
「いや、オレ戦闘に関してはど素人ですけどカナネさん。戦術なんてもの組み立てれないよ・・・・・・」
「まあファンタジー小説で有名な盗賊さん達と会えるのでございますか!? その際には、彼らのサイン等を頂きたいのでございましょう」
いや、多分遭ったら犯されそうになると思うぞ、紫音は美人だから。
「ふふふ・・・・・・残念ながらサインはもらえないと思うんだけど?
だってこのエリート騎士であるボクが、盗賊団なんて雑魚を全員撲殺してやるんだ!!」
「おいバカ! 店内で自分の頭を振り回す奴があるか!」
オレが無理矢理、自身の力をアピールしているネクロを押さえつけようとしたら、何の拍子か、三つ編みを掴んでいる彼女の手が緩んで頭が離れ、そして・・・・・・。
「ぐっぐわぁああああっ!? オートミールのお替りが来たと思ったら、嬢ちゃんの頭がトッピングされた!?」
ぎゃぁああああああああああっ!! ポトゾルとか呼ばれた大男の皿に、飛来したネクロの頭が落下!
「ちょっと何やってんだよわしの店で!」
流石に店長もブチぎれた!
「うっ! 生首なんてもの見たら溜まっていた物が一気に・・・・・・」
「どうした? ポトゾル」
「ちょっとトイレ行ってくる」
こちらを一瞬向いたポトゾルの特徴・・・・・・。
なんと二メートル超えのカナネさんよりも背丈が高くすごく筋肉質な体をしていた。
腹も少し出てたけど。見た目の年齢は四十代越えか。
前と頭頂部のみが禿げている白髪。ごつい顔つきに垂れ目。青白い肌を持っている。
上半身が裸で肌に直にショルダーガードを身に着けている。ずんだれた布のズボンを大きな鎖と錠でベルト代わりにして縛っている。土に汚れたブーツ。
そして彼は亜人である・・・・・・額には二つの角が生えていた。鬼?
「何呆然としているの? さっさと助けてほしいんだけど」
あっごめん・・・・・・オレは席を離れ、オートミールとか呼ばれた穀物粥まみれの彼女の顔を持ち上げる。
オレは息を吐いた。
「こんな調子で魔王城を攻略できるのだろうか・・・・・・」
そんなことを呟いたオレに対し、コーフィンと呼ばれた黒髪兄さんは、オレ達の方を向いて、軽く片眉をピクリと動かしていた・・・・・・。
食事を終えたオレ達は、今回もカナネさんがお勘定をして、店から出る。
本当は今すぐにでもメイさんを助けたいけど、ガルムやネクロが文句を垂れ流すもんだから、やむを得ず馬車には戻らず村中を散歩。・・・・・・少しくらいの寄り道なら彼女も許してくれるかな?
王都とは比べ物にならないくらい小さい集落だが、その都との距離が短く交流も多いらしいからか、物資が少ない印象は無い。冒険者ギルドの支部もある。
この村少し周ってわかった。豪奢な石造がほとんどなく村の中心部にレンガ瓦の建物が密集してあり、外壁に近づくほど茅葺屋根土壁の民家が目立ってくる。
「カナネ タランマ。さっきここに駐屯している騎士に盗賊の情報を聞いたんだよね?
その騎士って、どんな特徴をしてたの?」
「ああ、貴様も一応騎士の下っ端だったなスパイ。たしか褐色肌の女性と片目を黒髪で隠している娘だが」
「ふ~ん、レパントとウシミツのことかな?」
「雑貨屋さんだぜ。お人好し、寄ってかねーか?」
ガルムの提案にオレ達は賛同し、年季が入ってそうな木造店に入る。
「歩きたくないっす。ううお腹いっぱいだから」
「アードさん、店の外にあるベンチで御休憩なされてはいかがでしょう?」
「うぉおおおっ見ろよ! なんか頭でっかちで顔をしかめている荒い作りの木製人形に、小汚ねぇ犬型の置物、禍々しいデザインの爪切り、用途が一切不明な木塊、くそまずそうな食品サンプル、錆まみれの水筒・・・・・・よくこんな購買意欲を失わせるようながらくたを仕入れようと考えるよな!」
「そんな暴言、店主の前で吐いちゃダメだろガルム!」
なんか彼女が、子どもみたいにはしゃぎだしたんだけど。
「この紫陽花を模した髪飾り可愛いな~・・・・・・カナネ タランマ、買ってくれないかな? 買わないと君が騎士の命に背いたことを国王様にチクるんだけど?」
「ほう・・・・・・? もしや私がスパイの言いなりになるとでも思っているのか?」
「おいお人好し、身なりに気を遣うんなら、この頭巾なんかどうだ?
うち達を侍らかしているてめぇにお似合いだと思うぜ?」
ガルムがいきなり、紫を基調としていて、二足立ちのハイエナと狼とその真ん中に紋章盾の絵が描かれたデザインの布を、オレの頭に無理矢理被せてくる。
「いや確かにあんたやアードと旅をしているからその頭巾の絵とオレをイメージで結び付けれるとも言えないこともないんだけど・・・・・・これなんか酢の臭いがするぞ?」
雑貨屋の店主である老婆が説明する。
「それは仕立て屋ギルド『サバングル』製の高級品ですごく貴重なものですよ?
種族がゾンビだがなんだかわからないお兄さんから買い取ったものです。洗っておけば大丈夫でしょう」
「大丈夫なわけあるか!」
ゾンビだかなんだかわからないお兄さんって、さっきオレに話しかけてきたコーフィンってやつじゃないのか!? そいつが身に着けた物を正直被りたくないんだけど!
「あ~あ、お人好しが勝手に被ったせいで、もうこれ買わなくちゃいけないな~。せっかくの貴重な商品がフケだらけになっちゃった~、お人好しのせいでよ~♪
やらかすのかまさかまさかの汚し逃げ~♪」
・・・・・・もしやオレが甘やかしすぎたせいで、ガルムが図にのっているのでは・・・・・・?
結局ガルムが買え買え言うもんだから、カナネさんにまた負担してもらった・・・・・・。
もうあいつが奴隷だからといって情けをかけるのをやめよう・・・・・・。
「買って買って買って!!」
なんか駄々をこね始めるネクロに、
「まあそんなに紫陽花の髪飾りが欲しいのでございますか・・・・・・?
では、自分が奢らせて頂くのでございますよ・・・・・・」
「おお、ありがとだけど。サンカン シオン」
紫音が紙幣を取り出そうとする。それも・・・・・・日本の。
「ああもうわかったわかったから!! スパイに紫音! もう髪飾りの一つや二つ買ってやるから少し黙ってくれ!!」
※次からは三人称視点にし、舞台を先程主人公達がいたレストランに戻します。
「あーすっきりした・・・・・・」
種族がオーガである巨体の男・・・・・・ポトゾルがトイレから出て、自分がいた席まで戻ります。
「さて、死闘の続きを挑むとするか・・・・・・!!」
ポトゾルがスプーンを握りしめ、自身を奮い立てます・・・・・・大食いチャレンジの続きをするつもりです。
「お客さん・・・・・・お客さんがトイレに立てこもっている間に砂時計の砂は全部落ちたよ。残念」
エプロン掛けのおじさんがポトゾルまで歩み寄り、冷酷な結果を冷徹に突き付けます。
「え・・・・・・あの・・・・・・」
「オートミール大皿二十枚完食チャレンジ失敗、はい罰金銀貨一枚」
おじさんが、戸惑っているポトゾルの前で無遠慮に掌を広げます。
ポトゾルはズボンのポケットから布財布を取り出し、開口します・・・・・・中身は全部銅の金数枚です・・・・・・全然足りません。
「なあ吾輩が座ってる席の隣にいる不死と非不死を組み合わせたようなお兄さんはどこにいるか知っている? そいつ吾輩の同僚で・・・・・・」
「彼なら代金しっかり払ってさっさと一人で出てったよ」
「・・・・・・・・・・・・おじさん・・・・・・つけで・・・・・・」
「無理。こんな過疎地域の村で一枚貰うか貰わないかで店の明暗が左右されるからな・・・・・・それにあんた、旅行者だろ? わしがつけを認めたら踏み倒されるのがオチだ」
「・・・・・・・・・・・・」
ポトゾルとエプロンのおじさんはしばらく黙っていました。
「すまんおじさん。ちょっと通信魔道具で知り合い呼んでいいか? かわりにその人に代金支払わせるから・・・・・・」
ポケットから魔方陣が描かれている紙切れを取り出すポトゾル。
数十分後。
「この救いようのない大バカ者がぁあああぁああああああああああああああっっ!!」
魔王ダーティーが、例のレストランまで入店し、顔を真っ赤にしてポトゾルを怒鳴り散らしました。
「め、面目ねえ! ダーティー様」
「てめぇが緊急事態だから助けてくれと通信したから、部下のためにわざわざこの魔王である私が面倒な空間移動使ってへいこらやって来たと思った途端、・・・・・・大食いチャレンジの罰金を肩代わりにして欲しいっだとっ!? ・・・・・・本格的に魔王軍そのものを舐め腐ってんのかてめぇええっ!!」
怒り狂っている彼女を、
「まあダーティー。彼も反省していることだし、許してやったらいかがでして・・・・・・?」
この国の王カンディナウィアスがなだめます。
ポトゾルが恐れ慄きます。
「こ・・・・・・国王陛下!? なぜダーティー様とご同行を・・・・・・??」
「国政に疲れたから気分転換にお忍びで私に付いてきてるんだとよこの暇人は・・・・・・なんかお前、魔王軍幹部のくせに私より国王を敬ってないか? おいこら」
店の中がざわつく。
「お、おいあれって、あの方って国王陛下じゃないか!?」
「その隣にいるちっちゃいエルフは・・・・・・さっき魔王とか名乗ってなかったか!!?」
「なぜこんな辺鄙な店にビックな二人が!!」
「仲良さそうだな二人は・・・・・・王女姉妹・・・・・・」
客の一人が呟いた言葉を、
「「おい誰が王女姉妹だって? 処刑してやろうかこの野郎」」
ダーティーとカンディナウィアスが過敏に反応する。
ため息をつくダーティー。
「てめぇ曲がりなりにも魔王軍所属だろ? 金払えねえんなら、ここにいる店員共を皆殺しにして食い逃げしちまえばよかったのにな」
「あら、それちょっとした冗談かしら? まさかこの国の法そのものでもあるこのわたくしめの前でそのようなことを呟くなんて。お仕置きが必要みたいね?」
「本当に冗談だばーっか! 私達が長居すると他の客の迷惑になるからさっさと立て替えてやる。いくらだ?」
エプロン掛けのおじさんがおどおどしながら答えます。
「ぎ・・・・・・銀貨一枚です」
「ふん、はした金じゃねえか。ポトゾル・・・・・・こんな銀一つも払え・・・・・・」
「あら、いきなり黙ってどうかしたのかしらダーティー・・・・・・?」
「ポトゾルが通信魔法で要件言わねえで、来てくれしか連呼しないから、財布持ってくんの忘れた・・・・・・カンディー」
困っているダーティーに、カンディナウィアスは勝ち誇った笑顔でダーティーを見下しながら財布を取り出し、銀貨を颯爽と店主に支払った。
「貸し一つね?」
可愛げのある顔を歪めるほど悔しがっているダーティーは、ポトゾルに質問する。
「そういえばトックホルムス同盟会議後の日、私がテレポート魔法でてめえとコーフィンを観光地まで飛ばしたよな? てめえの相棒はどこにいる?」
「それがはぐれてしまってな・・・・・・」
「あいつただでさえ簡単な魔道具も使いこなせない器械音痴の上、方向音痴だろ?」
ご覧下さりありがとうございます。
ちなみにこの世界では水素水を『始祖風水』と呼ばれています。イナリはとある理由でそれを過剰摂取しなくてはいけなくなりました。