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なろうテンプレを装ったなろうテンプレでないチーレム小説  作者: 大錦蔵
ジャンクフード店~首都『トックホルムス』
17/23

王都の武器屋、+鍛冶屋

ウェーデンス国では、合成獣キマイラなどのモンスターを、馬や牛の代わりに車を牽引させる文化を持っています。

 最近改稿した時期は、2019年8月13日。

 最初の語り手は、魔王軍幹部である カブ  スライマ です。

 「ダーティー様がご帰還なされてすぐに、呼び出しって、僕何か、やらかしたのかな・・・・・・?

よりにもよって、拷問具ずらりの地下室まで」

 

 見上げても段差が連なる岩天井、見下ろしても石畳、左右見渡しても壁一帯レンガ群。どこを向いても視界は灰色ばっかり。

 ただでさえ僕が降りている場所は陰気臭い螺旋階段で、その上壁には窓もなく、燭台の周辺以外が真っ暗で、通りの幅も狭いため、不快な閉塞感が多々あるんだよ。

 一定のとこまで降りたら、地下牢の広場へと続く錠付き鉄格子のドアがある。それには脱獄防止用の魔法的処理が施されているのさ。 


 先程説明した螺旋階段よりは断然広く、蝋燭もたくさん焚きつけて比較的明るい地下牢スペースへと、僕は入室する。


 「遅いぞ カブ 。早速だが貴様にやってもらいたい仕事がある」

 ドアの向こう側にいらっしゃったのは、腰に手を添えている我らが王と、彼女の背後には複数の蜥蜴リザードマンと・・・・・・。


 「メ・・・・・・メイちゃんっ!!?」!!?

 なぜか同僚である彼女が、左奥の牢屋に囚われている!?

 ベットに腰を掛けて俯いている彼女の顔を窺うと、その瞳からは生気が感じられない。

 まるでこれから自分の人生を諦めるかのように・・・・・・。

 「こっ、これは一体どういうことなのでしょうか・・・・・・?」


 唖然と呟いている僕に対し、ダーティー魔王様は鬱陶しそうに説明した。

 「貴様も知っているだろう、この前私が王都まで出かける前に、幹部共には城で待機しろっ、ていう命令を下したことは。

 実はカラスと、そこで無様に捕まっている内気眼鏡がそれを無視して、勝手に国王おえらいさんの殺害を企てたんだ。

 ・・・・・・まあ残念ながら、未遂で終わったんだがな。役立たずの半端物共が・・・・・・」


 そうだったんだ・・・・・・だからメイちゃん、牢屋に入れられたんだな。・・・・・・あれ?

 「それじゃあ、カラス・・・・・・サイソウちゃんは? どうやらここには見当たらないですし、どこにいるの・・・・・・まさか・・・・・・」


 え? 隠密ステルス特化の魔王軍幹部が、あっけなくお亡くな・・・・・・。


 「ああ、あいつなら、王都の牢屋で悠々自適にくつろいでいるぞ。

 時々例のチンピラから、差し入れをもらっている・・・・・・裏切ったくせにいい身分だな、ったく」


 「いや生きてるんかい! まあでも良かったよ。とにかく全員無事なら・・・・・・」


 魔王様は冷酷にツッコむ。

 「おいおいまさか私の命令しかとしといた奴が、無事で済む訳ないだろ・・・・・・内気眼鏡が何か私に隠し事をしている。貴様にやってもらうことは、彼女に自白させることさ」



 ・・・・・・僕は、先の展開が読めてしまいましたよ・・・・・・。

 この部屋にはアイアンメイデン・ペンチ・木馬・とげとげ椅子・水責め一式【水瓶・ロープ・人を逆さ吊りするための木製機器】・ワイヤー・くすぐり用鳥の羽根・錆びたノコギリ・爪切りに酷似した鉄器などの拷問具がたくさん置かれている。

 秘密を抱えている裏切り者が、この場所まで囚われ、どのような末路を迎えるのを、想像するのは難くないでしょう。

 そして僕はここまで呼ばれた。つまり・・・・・・。

 

 僕の答えは決まっている・・・・・・とっくにね。


 「申し訳ありませんが、拷問の任務については辞退させて頂く所存です。

 僕を見くびらないで頂きたいですね、ダーティー様・・・・・・。

 たとえあなた様のご命令でも、レディを・・・・・・ましてや裏切っても同士に手をあげる程、僕は落ちぶれてなんかいませんよっ!!」


 言った! 言ってやった!! でももう助からない・・・・・・口答えした僕は確実にダーティー様に殺される・・・・・・それも残虐な方法で・・・・・・!!

 うわぁああ・・・・・・体が震えて、息も乱れていますよ今僕は!!


 あれ? ダーティー様は激昂する様子もなく呆れるよう、僕の反論にため息一つ零している。

 「別に貴様に任せることは、眼鏡を傷つけることではないんだがな・・・・・・」


 えっ!? と、驚きを隠せない僕に、ダーティー様は続きを説明する。

 「貴様がフェミニストという名の腰抜けだということくらい、知っているぞ。

 任せることは別の事だ。まあ拷問に関係することは確かだがな・・・・・・」


 「どのような・・・・・・それと、彼女が傷つくことは、どちらにしても僕は賛成しかねますが・・・・・・」


 「安心しろ。痛みを受ける方は内気眼鏡の方じゃない。・・・・・・確か貴様は何年か前、メイの教育係だったよな? 比較的貴様らは仲は良いという記憶が、私にはあるぞ。

 ・・・・・・待てよ、『安心しろ』という言葉は撤回する。今すぐ身を案じるんだな」


 そのタイミングで初めてメイちゃんが何かに気づいたのか、

 「え・・・・・・そんな、お止めください!! ダーティー様・・・・・・」

 こちらを向いて恐慌するよう呟く。


 何が何やら訳が分からない・・・・・・。



 ダーティー様は、邪気を含むように、無邪気に口角を曲げた。

 「しかと烏からの情報だが、内気眼鏡は『他人が苦しむのを眺める』のが、何よりも嫌いなのだと。

 さあここで問題だ。貴様がこれから受ける『仕事』についてのな。

 メイの方が拷問具で傷つかず、本来今回の件とは何の関係もないはずの貴様がここまで呼ばれ、バイオレンスな尋問が今から始まる・・・・・・ヒントは山ほどぶら下げたぞ。

 答えは・・・・・・もう、分かるよな?」


 も・・・・・・もしや・・・・・

 僕は逃げるため、急いで後ろを振り返る。


 振り向いた先には、いつの間にか僕の背後まで回り込んでいる蜥蜴リザードマン達が、捕縛用らしき鎖を掴んで、嗜虐的に笑っていた・・・・・・。




 ※次からは舞台を王都に、三人称視点に変更致します。

 

 「さてさて、今日はボクちん、どんな可愛い子ちゃんを、ナンパしよ~かな~☆」

 王城敷居近くの商店街にて、ハワイアンな恰好をし、軽薄そうなオーラを纏った男冒険者が、往来の人々を見渡しては、自分好みの女性を探していたのです。

 

 「全く・・・・・・我ら二人を侍らせておきながら、よく他の女性を誘おうと考えれるな、ブルーサワー」

 彼に呆れ果てているのは、赤ロングヘァーの女剣士ブリュンヒルドでした。

 その隣には銀髪おかっぱのルミリーが、彼女もちぬしより丈が長い、杖頭部分が雪の結晶をモチーフにしている金色杖を掴んだまま、突っ立っています。


 「じゃあ、ブリュンヒルドちゃんとルミリーちゃんは、ボクちんのハーレムなのお?♬」

 ブルーサワーの質問に対し、ブリュンヒルドは フンッ と心底嫌そうにそっぽを向き、ルミリーはその会話に無頓着そうに聞き流しているのです。


 ブルーサワーは、声を震わせ涙目になり、

 「だよね~・・・・・・ルミリーちゃんは、ロリコン君達のアイドルで野郎なんか選び放題だし、ブリュンヒルドちゃんは、例のチンピラに一・・・・・・」


 「貴様、こちらに寄れ。細切れにしてやる。・・・・・・誰があの下衆魔族に一途だと・・・・・・?」

 禍々しいオーラを放ちながら、ブリュンヒルドが、見せつけるように諸刃の剣を少しだけ抜きました。

 それに驚いた通行人達が、殺意を漂わせる彼女から迂回するよう避けるのでした。


 ちなみに往来している彼らに並んで、籠に入れられた化け物熊を運送しているキマイラ車も通ります。


 「いやいや冗談だよ冗談♪

 それよりルミリーちゃ~ん。ボクちんに『テレパシー』の超能力を授けてほしいかな~? あと、女の子ちゃんを効率よく探せるために『千里眼』の方もお願いね~」


 「ブルーサワーさんが邪な私欲で私に懇願。

 それにより、彼に対しての私の信頼度が低下。

 彼の依頼を、私は不快感を露にしながら承諾致します」


 ブリュンヒルドが「結局承諾するのか!?」と叫ぶのを、ルミリーが聞き流しながら、得物である金色杖を、軽く振ります。

 その杖頭から青色の光が放たれた瞬間・・・・・・。


 「おぉおっ! やっぱすごいね~。頭の中に、見知らぬ人達の言葉とか景色などが怒涛に流れ込んでくるよ~☆」


 「複数の能力を一時的にとはいえ、一人で発動いたしますと、使用者の脳に多大な負荷ストレスを受けるデメリットが存在いたしますので、長時間の使用は推奨致しません。

 デメリットの詳細の説明開始・・・・・・発動後の数時間後に、眠気・倦怠感・眩暈・頭痛等の発作が、能力使用量に比例して起こる可能性あり」


 「いや、超能力は魔力使わないから、昔我は便利だと思ったが、中々地味にきついからなその副作用」

 抜いた刃を鞘に戻しながら、青ざめるブリュンヒルド。


 「ふっふっ~ん・・・・・・ナンパを成功させるためなら、眠気も眩暈もなんのその♪

 可愛い子ちゃんの心の中さえ覗ければ、デートに誘えるための有効なヒントが見つかるからね~」


 全く・・・・・・と、彼の言葉に軽く引くブリュンヒルドをよそに、

 「おっ!! 綺麗な騎士のネーチャン達発見!☆」

 ブルーサワーが嬉々として、王城楼門から出てくる二人組を捉えたのでした。


 一人目は左目をほつれた黒の前髪で隠している、軽い垂れ目が特徴的な、見た目十代後半の女騎士。

 白い着物の上に軽鎧を着ていており、釘を持ち手以外に乱れ打ち込んでいる木槌をベルトポーチに入れてあります。

 ちなみにその鎧の肩当て部分に、『統率リーダーシップウルフ』と針葉樹林を組み合わせた絵が彫られていました。


 二人目は褐色の肌と銀色の短髪の特徴を持つ高身長なグラマラスな女性。

 革製の服に重鎧装備をしていたのです。得物は槍。

 肩当ての部分は、一人目と同じ彫刻の紋章がありました。


 その例の紋章は、着けている者が、ウェーデンス国の騎士だと証明するものです。

 

 彼女らの会話。

 「大丈夫でしょうか・・・・・・、 ネクロ さん・・・・・・。

 ・・・・・・人見知りなのに、例のスパイ任務成功するか・・・・・・どうか不安です・・・・・・ねえ、 レパント 」


 「アンタも大概それだがな ウシミツ 。

 あいつただでさえ人付き合いも悪くて、不気味で、演技下手。

 スパイになった理由だって自薦したからなんだろ? 

 女神様もびびる転移者よそものを密かに調査する任務だから受けたがる騎士ヤツなんざごく少数だ。それで自ら進んで志願する奴が、真っ先に例の任務に就いちまう」


 片目隠しのウシミツは、レパントに向かって震えて答えます。

 「やっぱり不安になってきました・・・・・・! 流石に・・・・・・人選間違いすぎじゃあないでしょうか・・・・・・!!」


 ブルーサワーが、早速ルミリーの魔法で使えるようになったテレパシーで、彼女らの心の中を探ったのです。


 「おいおいブルーサワー、あの騎士共どうも勤務中らしいぞ?

 邪魔しない方がいいのではないか?」


 ブリュンヒルドの言葉に、

 「・・・・・・・・・・・・」

 彼は、沈黙で返します。


 「ブルーサワーさんの呼吸が不安定、発汗作用も一瞬で異常値まで上昇しています。

 どうされました? 顔色も悪いようですが・・・・・・」


 「ねえ、みんな・・・・・・」

 彼女らの方まで振り向いたブルーサワーが、感知能力で何を読み取ったのか、上ずった声で言いました。


 「大変だ・・・・・・黒髪色男ちゃん・・・・・・イナリ君達が危ないっ!!」


 

 

 ※次からは、語り手を主人公イナリに代えます。


 夕方近い時刻のことだ。

 「おいガルム・・・・・・どこから拾ってきたんだ? それ」


 「へっへ~・・・・・・武器屋近くの路地裏だ。

 明らかに捨てられていたものだから再利用しても別にいいだろ?

 今日からこれが、うちの杖だ」


 何かガルムが、ところどころ錆びついている鉄のパイプを、自慢げに肩に添えて見せつけている・・・・・・先端ら辺が、軽くひしゃげている煤けたパイプをだ・・・・・・。

 ただ、彼女から常時放たれるワイルドなオーラとその鉄筒との相性が、なんでか結構マッチしているんだけど・・・・・・。


 「貴様、一応自称巫女ならもっと垢抜けた得物を選ぼうとしないのか。イナリの品位を貶すようなことはしてくれるなよ・・・・・」


 「まあまるで映画に登場するヤクザさんや殺人犯さんみたいなのをお持ちで、とても良くお似合いで素敵でございますよ?」


 「むっ!? 『エイガ』だと! 噂に聞いていた絵が動くというあれかっ!! 是非後で詳しい話を頼む・・・・・・シオン!」


 「もし観るならおいら、ゾンビ映画がいいっすね~・・・・・・適度に腐れ熟れたゾンビの肉、そいつらに喰われる鮮度良しのニンゲン・・・・・・ああ、止まらないっすね、涎が。

 好物なんですよ、グールはアンデットが」


 ひどいなそのガールズトーク・・・・・・今更だな。

 カナネさん達の反応に、ガルムは少し不服そうにして反論。

 「何だよぉ~、せっかく魔杖くらいは、自分で調達したっつうのに不評ばっかかよ・・・・・・」


 「・・・・・・武器屋・・・・・・か」

 そうだ、オレは今まで敵との戦闘では、武器無しのままチート魔法でごり押しばっかやってたな~。

 ・・・・・・やっぱり魔王城に行くには、得物とか防具とかあった方が良いよな。

 となると、やはり『彼女』に頼むしかないか・・・・・・。


 「カナネ様。カナネ様?」


 オレの猫なで声に、ガルムはオレの内心を察したのか、「ウアァ・・・・・・」と軽く引いて呻いている。


 「何だイナリ? 変にかしこまって」


 「大変申し上げにくいのですけど、服とか奴隷とか購入して下さったあなたに、また頼むのは本当に心苦しいのですが・・・・・・武器とかが欲しいのです・・・・・・いかがでしょう?」


 カナネさんは嬉しそうに答える。

 「ああもちろんいいぞ! 遠慮なく上等なものをねだってくれ!」


 オレ達の会話に、紫音は首を傾げて、

 「稲荷さん? もし武器を購入致しましたら、『銃砲刀剣類所持取締法』違反になられてしまうのでは・・・・・・?」

 今更なことを異に唱えたのだ。ここは日本じゃないのだよ。


 「ジュウホウトウケンルイショジトリシマリホウ!? なんすっか、それサンカンさん・・・・・・ダメなのですか? 武器持つの。ノコギリ持ってるんすけど、おいら。嫌ですよ捕まるなんて、役人さんに」


 「お人好しに財布・・・・・・倒置猫と周回遅れ眼鏡の愚問は無視しようぜ。

 それと分かっていると思うが、ここにはそんな法律ねえ・・・・・・」

 ガルムの提案に従うことにした。


 数分来た道を戻り、木造と石造の建物が接合された店・・・・・・ガルムが言ってた『武器屋兼鍛冶屋』まで辿たどり着く。

 そして武器屋の方である木製家屋の入り口へオレ達は入った。

 ・・・・・・実は、建物の出入り口に、カナネさんの蜘蛛の下半身がつっかえてしまっている時、オレとガルムが彼女の背中を押しのけて、抜け出させるのが恒例となってしまっている・・・・・・。

カナネさんには悪いけど、蜘蛛の下半身については、オレはまだ苦手意識が取れてはない。

 ・・・・・・が、まあ少しは触れるようにはなった。


 「やあいらっしゃい・・・・・・」

 赤茶色の髭を蓄えた男の店員が、カウンター越しにオレ達を迎える。

 見た目の年齢は四十代。がたいが良い三段腹。

 彼の服装は、分厚い布の長袖服と、裾が膨らんでいるズボン。その上に革のエプロンを重ねている。

 肩にはタオル・布の靴。

 体の特徴は、耳先が少し尖っていて、背がアードよりもかなり低く、横幅は広い・・・・・・なんかこういう種族って、どこかの本で読んだことあるけど何だっけ・・・・・・? 

 ほら、鉱山とかで土をよく掘るイメージのある西洋ファンタジー系種族・・・・・・あとでカナネさんかガルムにでも聞こう。

 

 「店主、たしか店のほうはあなたの奥さんに任せてあるのでは?」

 知り合いなのか、カナネさんが親しげに尋ねる。


 「ああ、あいつなら風邪でダウンだ・・・・・・何日か前、博物館帰りで水魔法に流されたり、土砂降りに遭ったりが原因なんだろうな。たく、こんな忙しい時期によ」


 ・・・・・・・・・・・・。


 とりあえず店の特徴。

 剣や斧などの刃物はもちろん、それとは毛色が違うような杖や弓などの様々な武器が、棚の上に置かれるやらフックに掛けているやらで陳列されている。


 「おおっと、愚痴言っている場合じゃねえな、お客さんは何をお探しで? ゲストスペースにある商品はほんの一部さ。奥の倉庫にはもっといろんなのを用意してあるぜ?」

 

 オレが、何にしようかなと考えている時に、


 「ではありますか? 不思議な力を宿したノコギリが! 二ノコギリ流ですよ、二刀流ならぬのね」

 ウキウキしているアードが、オレより先に要求してきたのだ。

 そしてもちろん・・・・・・。


 「だから、誰が貴様のために買うものかっ!!」

 了承しないんだよな~カナネさん。・・・・・・まあでも。


 「カナネさん、悪いけどアードの分も買ってくれねえか・・・・・・魔王城に乗り込みに行くんだ。 少しでも勝率を上げたい」

 

 「イナリ・・・・・・わかった。店主、このハイエナにも武器を頼む」

 本当にすまない。


 「あいよ、たしかあんたらから見て右側の卓上にある片刃の弓ノコギリがそれだ」

 いや、この世界は、ノコギリもポピュラーな武具の一種かよ!? 

 ハイエナ耳と尻尾を伸ばして嬉しそうにするアードに、店長は、日本刀程の長さを持つ例のノコギリの特性を説明した。

 ガルムは並べてある商品を眺めながら、ぶらぶらと歩いて暇を潰している。


 カナネさんも特殊な矢をたくさん購入。

 後で、どう普通の矢と違うのかも聞くとするか。


 紫音も店主に尋ねる。

 「ピコピコハンマーやプラスチック製のカタナとかありますでしょうか・・・・・・」

 本当に真面目に聞いてきてるのだ・・・・・・彼女は!!! 何に使うつもりだ!!

 

 「ピコピコ? プラスチック?? カタナや槌ならあるが、そんなものは、わしは知らんぞ・・・・・・初めて聞いた」


 「ごめん、おじさん。彼女のことは適当にあしらっていいから」

 オレがそう伝えると、すぐに入り口の方から、ドアを激しく開く音が響いた。


 「ちょっと店長さん! この前ここで買ってきたくわで、一言あるんだけどさ!」


 「てやんでい! この金槌見てくれやぁ! ふざけた仕事しやがってぇ!!」


 「くそが、クレームだぜ、くそったれ!!」


 なんか憤慨している人々が、金具を掲げたままこの店内へと殺到してくる・・・・・・!?

 ・・・・・・そのうち、冒険者ギルドの庭で会った緑髪のおばさんもいるのだが、たしか・・・・・・ミレーさん?

 この武器屋のゲストスペースが、短時間で人が溢れかえったのだ。

 

 みなさん何か、買った金具に文句言っているけど、この店ってもしかして返品されるような粗悪品ばっかり売ってるのか・・・・・・。


 はらわた煮えたぎっているクレーマー達の口が、開く。


 「おばさんは鍬を買ったつもりだけど、その鍬を、試しに魔力流してみたらそれから発光したり、杖みたいに振ったら暴風を飛ばしたりできたのよ! 畑仕事にそんな機能は必要ないわよ!!」


 「おれもだ! 前に屋根の修繕しといた時に、この金槌地面まで落としたんだがな、それがひとりでに宙に浮いておれの手元まで戻ってきたんだ! どこの巨人殺しの雷神だっつう話だよ! ミョルニル欲しいなんて言った覚えねえぞ、おれは!!」


 「くそが、この蹄鉄、あたしの愛馬の足に取り付けたら、そいつが空の上に、海底、挙句の果てには宇宙空間まで自在に走れるようになったんだ!! 余計な付加エンチャントばっかやりやがってくそったれめ!!」


 ・・・・・・・・・・・・はっ?


 店長も、クレームを飛ばしてくる客たちに怯まず、ブチ切れて反論する。

 「便利じゃねえかよ普通のより。

 それはな、サービスだよ無料サービス!! 不便な欠陥品は何も売っちゃいないぞ! 文句ばっか垂れやがって!

 ・・・・・・そもそも商品を付加エンチャントしたのはうちのカミさんの仕業だ!

 文句ならカミさんにでもぶちまけろ!!」


 え? つまりは、彼らは、買った商品が悪いから文句を言いに来ているわけではなく、ただ不要な機能を店長から無断で加えられたから、怒り心頭になったってことなのか・・・・・・?

 

 「ああもう、商売の邪魔だ! クレームは今いるお客達が商品買った後でゆっくり聞いてやる!

 さあさっさと帰りやがれ!!」

 店長の怒号と手を払うジェスチャーに、ほとんどのクレーマーは、ぶつぶつ文句を垂れながらこの店を出ていく。


 「ああすまんなお客さん。たまにせっかくのサービスに、不満を表す奴らが現れるんだよ、全く・・・・・・」

 息が乱れ、顔を真っ赤にしている店長は、頬の汗をタオルで拭う。


 「ミレーさん、こんにちは」

 ちなみにクレーマーの一人であるミレーさんは、まだこの武器屋に残っていた。


 カナネさんの挨拶に、今までの憤怒の表情から一転して、笑顔で挨拶を返すミレーさん。

 「あらこんにちは、カナネちゃん。ところでいきなりだけどおばさん達とパーティー組まないかしら?

 これから怪鳥討伐の依頼クエストに行くから、射手アーチャーのカナネちゃんがいたら助かるわ~」


 彼女の誘いに、カナネさんは、

 「すみませんミレーさん。私はイナリと魔王城に殴り込みに行きますから、ミレーさんとは残念ながら今回は組めません・・・・・・しばらくはこの街にも戻ってこられないかもしれません」

 申し訳なさそうに断ったのだ。


 「そう・・・・・・たしか魔王城って、とても危険地帯なとこなのよね・・・・・・危なくなったらすぐ引き返しなさいね。

 命あっての物種。何か困ったことがあれば、このおばさんに相談くらいはしなさいよ?」


 「はい、ありがとうございます・・・・・・」

 なんかぶっきらぼうに話すイメージのあるカナネさんが、丁寧語を使うなんて、新鮮だな~。

 ミレーさんが店を出る。

 

 「おいお人好し、何ぼーっと、突っ立ているんだ? この店に来た本来の目的は、テメェの武器買うためだろうが」

 欠伸を噛み締めているガルムが、オレに正論を叩きつける。・・・・・・わかってるよ。


 「ん~店長さん。オレは魔法は使えるが、他の武道の経験がろくに無いんだよ・・・・・・なんかほら、素人でも扱いやすい武器とか・・・・・・ないかな~」

 実際剣道も柔道も、中学の選択体育授業でほんの少しやったことはあるが、全くもっての素人と呼んでいいくらいの腕前だ。というか、荒事が嫌いなオレは喧嘩自体もそんなにしたことが無い。

 やっぱり杖が一番か。


 「あああるぞ! たしか鍛冶屋の倉庫の奥底にあったような・・・・・・値段は張るがな」

 

 「イナリ。お金の心配はしなくていいぞ。金貨五十枚以内なら、なんなく余裕だ!

 たとえ、足りなくても工面してやる」

 頼もしいよ、カナネさん。


 「なんなら、見学していくか・・・・・・? 鍛冶屋」

 店長の提案に、オレたちは軽く賛成して、すぐに全員で向かった。


 部屋が清潔に掃除されていて、店員らの住居スペースにもなっている武器屋とは違い、鍛冶屋の中はところどころ煤まみれで、金槌等の物も乱雑に散らばっている。

 床も壁、そして円の絵が描かれてある天井も石製。

 水桶や熱した鉄を掴むためだろうペンチみたいな金具、風を噴出させるふいごとかいうものもある。

 店長に教えられたのだが、小石を敷き詰めた台が火炉で、熱した金属を置くとこである鉄塊が鉄床。


 「なあがんこ髭、鍛冶屋って頻繁に火を扱うんだろ? こんな建物が密集した場所で、延焼事故を恐れる国からよく営業許可取れたな。なんか裏技でも使ったんじゃねえか?」

 だめだってガルム! 誰彼構わず蔑称付ける癖やめなさい!!


 彼女の無礼な質問に、店長は特に怒ることもなく返答する。

 「天井を見上げろ。・・・・・・魔方陣が描かれているだろ? 

 少しでも規定値を超える程の火の気や熱気、煙がこの部屋に排出されれば、自動でその魔方陣が感知して、そこから沢山の雨が降り注いで消火するから大丈夫だ。ついでに警報魔方陣もあるぞ」

 ああ、スプリンクラーみたいなものだな。


 なんかずっと黙っている紫音の方を向いたら、暇つぶしのつもりか彼女は、二つの輪ゴムであやとりしている。


 「ところで店長、イナリに適した武器は?」


 「ああちょっと待ってろ?」

 奥のかび臭い部屋まで進んだ店長。

 しばらくして、なんか普通の剣の形をしたものを持って戻ってきたのだ。

 片手で扱えそうな武器であり、特徴は三つ編みの形をしている柄に、丸まった刃先。

 

 う~ん、刃物か・・・・・・正直剣とか弓矢は使いたくないんだよ・・・・・・鋭利なもの怖いし、グロ苦手だし。

 

 「おや、もろ刃剣っすか」


 アードの呟きに、店長はにやりと頬を緩める。

 「違うぞ? 実はこれは魔杖だ。しかも相当希少価値のある金属を含んでいる。

 特徴と言えば脆くて、鈍すぎる刃、そして特殊な放射線を放出している」


 「「放射線!?」」

 オレとカナネさんが同時に呟く。どうもジルコニーの件で、トラウマになっているのだ。


 「放射能とか知っているんだな? 話は早い。まあその杖から発されるものは、自然に降り注ぐアルファ線とか違って、ほとんど体に害はない。それどころかかなり素敵な副作用を孕んでいるぞ。

まあ条件として『始祖風【水素のこと】』を大量に摂取しなきゃいけないがな~・・・・・・飯屋で始祖風水【単なる水素水のこと】を頼めばいい。

 そしてこの杖の名前は『ソードフェイカー』だ」


 正直オレは断ろうと思ったのだが、店長のセールストークに折れてしまった・・・・・・。


 

 お求めの物を買った【正しくはカナネさんに支払ってもらった】オレ達は、店を後にした。

 オレの右腰には、剣みたいな杖を鞘に入れた状態でベルトに差してある。


 ちなみに店から出た瞬間タイミングで・・・・・・。



 「へっへっへっ・・・・・・おれの女になれよ」


 「あーれー・・・・・・誰か助けてなんだよ」


 女の子が、『チンピラ』に絡まれているのが、オレ達の視界に入った。

 

 


 


 

 

 

 

 


 

 


 


 

 

 




 


 

 ※ちなみに鍛冶屋中の環境描写は、インターネットで軽く調べた程度の情報ですので、鵜呑みにしないようお願い申し上げます。

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