トックホルムス同盟メンバー、イナリハーレム御一行
※①作者はハイエナを『猫科』と勘違いしていましたが、正しくは『ハイエナ科』です。
(ウェーデンス国では、ハイエナをジャコウネコ扱いします)
※②紫音の造語設定を変更いたします 『異読』→『愚読』
※③ウェーデンス国の言語設定を『ギリス語』から『ケルター語』を変更いたします。
※④国王の口調を変更いたします。
最近改稿した時期は、2019年9月24日。
「『トックホルムス同盟員に加入している タイガ ダストシュート 氏、一昨日、マルウェー国のリザードマウンテン火山の火口に侵入、火山内部にて睡眠中のマグマドラゴンを刺激して起こす。
激昂した例のドラゴンは、火炎の塊を周囲一辺に吐き出し、近隣に被害を及ぼした。
近くにあった魔術師ギルドのマスターが、暴走している例のドラゴンをなだめて、問題を解決したもよう。
死者及び負傷者はいないとのこと。
不法入国及び聖獣不干渉条例に違反して逮捕されたタイガ氏の証言では、
「ウェーデンス国の騎士様がよぉ、宿屋の代わりに溶岩にでも入れっ、つったから、おれはそうしたまでだがなぁ・・・・・・ん?」などと、理解不能な内容の供述であった。
ウェーデンス国の国王は明日にでも容疑者を自国まで送還させると、マルウェー国に対し、通信魔法で意思を表明。
今回の事件により、国際問題に発展。
ウェーデンス国とマルウェー国との関係が険悪になる懸念が浮上』っか・・・・・・
フェイクニュース・・・・・・ってやつじゃなさそうですね、あの嫌魔の魔族のことだ・・・・・・ぜったいやらかしましたね」
昼時の事。
オープンカフェの席に着いて、コーヒーの香りを嗜みながらくつろいでいる放射線使いのボク、ジルコニーが、広げた新聞紙に記載されている内容を音読しては、呆れかえったんだ。
「おおっ、そこにいるのはジルコニー君だな。どうだい? テロ活動には励んでいるかい・・・・・・?」
・・・・・・その声は・・・・・・呼びかけの元までボクが振り向くと、見知った顔が渋茶入りコップを載せているトレイを持ちながら、寄ってきますね。
「ハイアラダニですか」
奴は、この国随一である剣技の達人で、剣聖の称号を国王様から頂いているのです。
見た目の特徴。
種族は人間で、四十代後半のおじさん。
顔つきはごつめで、目堀が深くて角ばっている鼻は低め。
顎ら辺に無精ひげが生えている。
服装は緑の袖なし布服と灰色長ズボンとシンプルなもので、特徴的なとこといえば、くすんだ橙色の、くせ毛が強めな角刈り髪を覆いかぶさるよう、ボクの大っ嫌いな日本刀柄がらの・・・・・・目貫ってやつをモチーフにして染めている鉢巻きを身に付けてありました。
そしてそいつの得物については、ベルトの左腰部分には刀・右腰は上部にレイピアと下部に新月刀・背中には背丈1,5メートル越え、幅五十センチの超重量巨大武器である両刃の両手剣を提げていたのです。
どんだけ装備してんですか、重くて辛いのでは?
おまけに、そいつから今発されるオーラは、強者から出るような威圧的なものよりかは、自分の娘から避けられるかのような、加齢臭混ぜた哀愁が顕著に出てありました。
そこんところは同情しますがね。
「テロ行為とは心外な。
この国を陰から守る正義の鉄槌とか、申し上げてほしいですね。
それよりこの新聞・・・・・・」
ハイアラダニに対し、ボクは持っている新聞を、見せつけます。
「ああ知っているよ。タイガ君がやんちゃやったことだろう・・・・・・。
まあ大丈夫だよ多分。マルウェー国はこっちでは信じられないほどの平和ボケした国だから・・・・・・戦争も起きることはないし、賠償金とかを求められることもないかもね」
トレイを丸テーブルに置き、ボクの隣の席に【追記:背もたれの向きを自分から見て左側になるよう椅子をずらして】着いているハイアラダニの楽観さに、こっちはため息一つして、コーヒーカップを少し傾けました。うん、苦い。
そして大切なことを思い出しました。奴に尋ねます。
「ところでハイアラダニ。
この前ボクは、きな臭い異端な地球オタクってやつと会敵したんですが・・・・・・。
その彼が放射線の知識を持っているみたいなのですよ。
原子とかは別として、放射能等の認知度ってやつは、この国にとってはかなり少数派のはずでは。
もしかしてハイアラダニ・・・・・・君が放射線の情報を所々吹聴している・・・・・・わけではないですよね?」
不満を隠さずボクは、ハイアラダニに詰問するのです。
「いやそんなことはないはずだよ?
そもそも己の能力に関係することをばらすなんて馬鹿な事を、口にするわけないじゃないか」
「う゛っ・・・・・・!!?」
前に山の中腹で、自分の魔法の正体をばらされて、取り乱し、愚かにも肯定するよう自白したことを思い出してしまったじゃあ、ないですか!!
「別に知ってもおかしくはないと思うよ。
ウランをはじめとした放射能力が強いモノなんて、特定の鉱山から取れるものだから、そこで仕事しているドワーフ達とかは、結構放射線の危険性についても熟知しているはずだし、
他にも線属性の妖精や吸線鬼が、他種族に放射能の情報や線属性魔法術式を密かに伝授しているらしいね・・・・・・。
というか、君がその一例だろ・・・・・・?」
ま、まぁ・・・・・・それはそうですが・・・・・・。
渋っているボクに対し、ハイアラダニも何かを思い出したのか、伝えるのです。
「ああそうだ、君のボスから言伝があったんだった。
『ワシに相談もせずに、勝手な行動を起こすのは、慎むように・・・・・・』ってね」
その言葉に、ボクの口内は一瞬で乾き、眩暈が起こるほどのショックを受けました。
こんな時にかぎって、弱っているボクに鞭うつように、傍からバカ騒ぎ声が、いやでも聞こえてきました。
「我慢できないっす、人肉が。入ってくださいな、おいらの胃の中に!!」
「うぎゃぁあああっ!! 来んな倒置猫っ。お人好し何木偶の棒立ちしてんだ、さっさとうちを助けやがれええええええ!!!!!」
※次から舞台を変更いたします。仕立て屋商人へと語り手を変更いたします。
王都にある何の変哲もない仕立て屋。
そのレンガを組み合わせたビルのドアが開かれました。
「いらっしゃいませ・・・・・・」
黒スーツ着の私が、入り口に視線を向けます。
そこには、
一人の老人が、杖の頭を握ったまま突いて入店してきたのです。
壁際の窓から淡い日差しが降り注ぎ、その老人を優しく照らすことによって、その場が宗教画のような神々しい雰囲気を醸し出していました。
彼は、
種族は人間で、白い肌を持ち、七十代のとても恰幅がいい爺やであります。
白くてふさふさな眉毛とカールの白口ひげが特徴的。それと垂れ目。
身に着けている物は、ローブみたいに裾がぶかぶかな緑を基調とした法衣と、肩にはマントを羽織っています。
スキンヘッド頭の上に、フチなしの半球の形を持つ、ローブと同色の布の帽子を被っていました。それと履物は布の靴。
装飾には、左目に片眼鏡をはめ、両耳にはピアス、首や腕や足などいたるところに数珠状の宝具がはめられているのです。
杖頭のデザインは、横に広がる楕円型の格子で、その杖全体が銀色に輝いていました。
「・・・・・・・・・・・・」
服屋の店員でもあり、奴隷商人も兼業していたこの私は、彼のことをもちろん知っていました。ゆえに絶句。
この国・・・・・・いや、この世界の、『スカイエルフ神道』信者なら、誰しもが・・・・・・。
「ほ・・・・・・法王 モルセヌ 様っ!!? なぜ偉大なあなた様が、こんな辺鄙な店に、足をお運びになられたのですかっ!!?」
その私から尊敬と畏怖を込められた視線を受けている法王が、口を開きます。
「尋ねたいことがあるのじゃが、この店では、石造城の刺繍を入れた服を、無断で売っていると部下から聞いたのじゃがなあ・・・・・・本当なのかい?」
・・・・・・わぁ、自分の人生はここで終了かな・・・・・・?
脂汗が、私の体全体からびっしょり溢れ出てくるのがわかりましたよ?
こんな目に遭うくらいなら二十四時間、奴隷大将の世話をしたほうが何倍もましです・・・・・・それももちろん絶対お断りしたいですが。
「そ・・・・・・それは・・・・・・」
しどろもどろしている私に、何かを察した法王は穏やかに諭すのです。
「仕立て屋よ。その石造城の絵は、『石外壁』の一員を表す紋章じゃ。
商標登録されたものではないにしても、その紋章を取り付けた商品を無許可で販売するのは、いささか倫理的でないと思わないかね?」
諭された自分は、一瞬だけ呼吸が止まり、次に無意識に、彼に向かって土下座しました。
「すいませんでしたぁああああああああっっ!!!
なんかこの前、往来している人の服を私はチラッと盗み見したのですが、その時に彼のコートに縫い付けられていた石城のイラストが、あまりにも素敵に映りましたので、つい自分が作った服にオマージュ致しました!
決して、服のデザイン考えるのめんどくさいから、ぱくっちまえ・・・・・・とか考えてませ・・・・・・考えてました。すみませんすみませんご容赦を、ご容赦を、どうか!!」
自白しました! 自棄気味に。
「待て待て仕立て屋よ、結論を急いで決めつけるのは賢いとは言えぬぞ?
今回ワシが参った理由は、別にお主を裁判所まで呼んで、訴えて糾弾するためではない。
この店で『石外壁』の紋章を取り付けた商品を販売することについて、こちら側は承諾すると、お主に伝えるためじゃ」
「ご容赦を・・・・・・・・・・・・は??」
面を上げた私の脳は、法王が放った言葉の最後ら辺が理解できませんでした。実に底から。
「え? なぜ・・・・・・このまま私の店で、例の紋章を取り付けた品を販売しましたら、その・・・・・・誰が誰だか、『石外壁』とかのに属しているかいないか、判別できなくなってしまうのでは!!?」
法王は、制するよう手の平を、焦って雄弁になっている私に向かって軽くかざします。
「そこについては心配はいらぬ。
そもそも『石外壁』とは少数人数で構成されている組織であり、組員全員の顔を、ワシの頭に搭載してある記憶補助装置で記録している」
「搭載? 記憶補助装置?? ・・・・・・よくわかりませんが、それが何か・・・・・・」
「もし、偽の紋章を掲げたスパイが組織の集会場にまぎれようとしても、ワシが間違って見逃すわけがないというわけじゃ。
下手に、例の紋章付き衣装の入手条件が、組に属するだけしかないのであれば、よからぬ輩が、その正式組員から紋章を奪おうとするやもしれん。
・・・・・・最悪、その場合で組員が殺害されてしまうかもな。
だがそうでなかったら・・・・・・? もしスパイが本当にいたと仮定して、その輩が、紛い物ではない組織が認めている紋章を販売されていると知った時、わざわざ危険を冒して、少数メンバーである秘密組織から衣服を簒奪するなんて非効率なことを、やるものかね・・・・・・?
お主の紋章を配る行為は、実は彼らを護った行為かもしれぬ。
・・・・・・ありがとう」
そう長々と呟いた法王は屈んで、腰を抜かして尻もちついている私の手を、しわがれた手で優しく握ったのです。・・・・・・な、なんとも畏れ多くて、感激してしまいます・・・・・・。
「いや、そんな・・・・・・感謝するべきなのは私では・・・・・・?」
まだどういうことなのかいまいちわかりませんが・・・・・・私が悪いことをしでかしたのは理解できますけど・・・・・・。
「ああそうじゃ。ちゃんとこちら側が、お主の店で、例の紋章付きの品を売ることについて、承諾したと国王様に伝えておくから、不安がることはないぞ。
どうか彼に、アンレンス神と聖王アンチヘルのご加護がありますように・・・・・・。
商売の邪魔をしたね。ワシはこれで失礼するよ」
なんと、ありがたいことを・・・・・・。
そしてモルセヌ様は踵を返し、白光に照らされながらゆっくりと杖を突いて去っていきます。
奴隷商人でもある仕立て屋の私は、目にしました。
「・・・・・・・・・・・・」
法王モルセヌ様の肩に着けたマント・・・・・・その布の真ん中に、大きめの刺繍が施されていました。
それは、石造城をモチーフにした、自分もよく知っているものでした・・・・・・。
※次からは、舞台を変更いたします。語り手は騎士の男に変更いたします。
「それで? とりあえずの作戦で、女神が法王に警告している程、常軌を逸している異世界転移者相手に、スパイを送り込んで、様子見だけの対策で済ませるとは・・・・・・えらく楽観的だな、国王様」
「楽観的なのはあなた方ではないのですか? その危険人物がどのような異能を持っているのかもわからないまま、この国最大戦力を考え無しに総出でぶつけるなど、稚拙さに拍車をかけた作戦ですってね。
これだから剣呑な肩書を持つだけのお子ちゃまは・・・・・・」
ウェーデンス国王都の、北部ら辺に位置する場所に、王城が存在するのだがな。
その内部・・・・・・複数ある応接間の一つにて、純白のテーブルクロスを掛けた長方形テーブルを挟むよう、女性のリーダー同士が対面する形で、豪奢な椅子に着いている・・・・・・。
とりあえず状況説明。
俺達がいるこの応接間は・・・・・・豪華絢爛・装飾過多な広々とした部屋であった。
まあ城内なら、他の箇所でもだいたい同様だがな・・・・・・地下牢や武器庫等は流石に違うぞ。
天井にはシャンデリア・タイル床には紫のカーペット・壁には、柱頭にブドウの彫刻が施されている大理石製の柱が等間隔ではめ込まれている・窓がない壁には暖炉・そして金色に輝く額縁に収められた様々な絵画が壁に掛けられ、高級な調度品が、所かしこに散らばっている。
この部屋には、六人いるのだが、
その内の二人は給仕係で、三人目は入り口の前に突っ立って番をやっている同僚・・・・・・そして四人目が、三人目の横に並んで同じ仕事を任されたこの俺だ。
残りの二人についてだが・・・・・・。
五人目は、金髪の角エルフの幼女だ。名前はたしか ダーティー アロガント だったはず。 この前見かけたときは、センザンコウの鱗をモチーフにしているドレスを身に着けていたのだが、
今はオスのクジャクの羽根をデザインしているらしい、鮮やかな緑基調と青目の柄を持つドレスを着ている。
そして最後だが・・・・・・。
種族が人間である二十代後半の美しい貴婦人で、
髪型は、青みがかった銀髪の長い縦ロール・・・・・・詳しく言えば、揉み上げと後ろ髪が巻いていらっしゃるのだ。
(今は整えられていて違うのだが、時たま彼女のつむじにアホ毛が目立っていることがある(もちろんそれも縦ロール・・・・・・それを彼女に向かって指摘すれば問答無用で処刑される))
前髪に、白金色に輝くティアラを被っていらした。
魔王にも引けを取らないきつそうな切れ目も特徴的(これを口にして彼女に聞かれても処刑)。
裾淵と袖淵には、ゼンマイ草の飾りをつけている濃い紫を基調としたロングドレスをお召しになられている。
履物はロイヤリティドレスに合うような、水晶みたいに透き通るハイヒール。
・・・・・・ちなみに背丈は、同年代平均的な女性と比べたら、少し・・・・・・いやけっこう高い。(これを口にしていることを、彼女に感づかれたら、そいつとそいつの親類全員処刑)
そう・・・・・・彼女は、ウェーデンス国のトップである カンディナウィアス バルタース 王女様であられる。
要約すれば、数日前行われた同盟締結と作戦会議では、一応終了したのだが、その時に提案したカンディナ【略】王女とダーティとの意見に相違があり、二人だけで再び本日、討議を開いている。
それはそうと・・・・・・。
「剣呑の肩書なら貴様も負けてはないのでは? たしか民は貴様のことを、 戦場の指揮者 だと呼んで慕っていると耳にしているのだが。
彼らの平和を守るため、異世界転移者を皆殺しにするくらいの気概くらい見せろよ、暴君・・・・・・ははぁ~・・・・・・わかったぞ、なるほどな~」
「何ですの? おっしゃりたいことがあるなら、はっきり言ってくださいですわ」
「私が提案した案だと、カンディナ王女様も作戦の『対象内』になられてしまいますね?
だから、どうしても例の策を却下したいんですね、心情お察ししますよ異世界小説テンプレ主人公様」
「あなた! よほどこのワタクシめを愚弄したいようね!!! ・・・・・・あら? 何の偶然かしら、悪の権化の魔王が、何故かワタクシめの目の前に・・・・・・? 我が民を守護するため、ここで討伐致しましょう?」
彼女らは、滅茶苦茶仲が悪かったのだ・・・・・・なんで手を組んだんだ?
もはや話し合いなどと呑気な雰囲気ではなかった・・・・・・二人の全身から発せられる魔力だのオーラだのと判別できない怒気が、俺と同僚・・・・・・それと殺伐とした空気に全く耐性のなさそうな給仕係達を、長々と炙ってしまう・・・・・・。
うわぁあ吐き気と脂汗とめまいが止まらない・・・・・・すぐにでも失禁したい。
もししたら、二人に絶対殺されるけど。
・・・・・・・・・・・・タイガ君? タイガ君? この前俺が君に、溶岩に入れとかの暴言を吐いたことを謝罪したいのだがね?
もう宿賃などいくらでもくれてやるから、何かあったら、この二人を止めてくれえええええええええっ!!! こいつら抑止できるのタイガ君くらいしかいないのだよぉおお・・・・・・などと無駄な妄想を膨らませている自分であった・・・・・・。
「「・・・・・・」」
俺は幻覚でも見ているのだろうか? 向かい合っている彼女らの瞳から、紫電が出ては、ぶつかり合って火花が散っている・・・・・・この二人の事だから、もしかしたらそれが本物の雷魔法の可能性を払拭できないところが怖ろしい・・・・・・。
「それにしても・・・・・・ダーティー、あなた方は本当良い服の御趣味を持っていらっしゃいますね。
前日はセンザンコウ・・・・・・去年はアルマジロの鱗パーカー。
さすがは見た目同様、精神年齢も若々しいおこちゃまであられますね、動物をモチーフにしているお召し物を揃えるとはある意味、感心致しますわ」
「国王様からお褒めいただき光栄だな。貴殿も年相応の渋めなドレスを着こなしているぞ。
社交辞令のおべっかではないよ。ドエムオス共に好かれそうな切れ目をしている二十代後半ノッポ王女?」
「そこは『私はおこちゃまじゃない』とツッコむところでしょう? 魔杖よりハリセンの方が良く似合うツッコミ魔王様」
「なるほど、それは参考になるな。帰ったらハリセンの練習に励むことにしよう・・・・・・今度王が、私を謁見する時に、見事なツッコミを披露しなくてはな・・・・・・チーレム様を晒しているテメェの頭をどつき回してやる・・・・・・」
うわぁあああやばいやばいますます彼女二人から、どす黒いオーラがあふれ出してくるよ・・・・・・もうこの町は、この国は終わりだ・・・・・・。
ん? 空気の流れが変わったような・・・・・・うまく表現できないが、皮膚の周りに押してくる圧が、一瞬でガラリと一変したと、俺は感じた・・・・・・いや俺だけではなく、同僚も給仕係達も異変に気付いているよう、困惑している。
ああそうか・・・・・・てっきり、『この現象は』魔王と国王様の仕業だと勘違いしていた。
久しく遭ってなかったから、俺とみんなは取り乱してしまったんだ。
この世界にある災害の一つのはずなのにな・・・・・・。
全く、迷惑も甚だしい、『天使の悪戯』というものは・・・・・・。
王二人組は、『天使の悪戯』について何かご存じなのか、同時に叫ぶ。
国王様も、珍しく激しい口調になられていた。
「「あのアホウドリ!! 許可なく世界の科学法則を捻じ曲げやがったなあああああぁあぁあああああああ!!!!!!!」」
次からは、舞台を変更し、時間を少し戻して、語り手を主人公イナリに変更いたします。
「期待してたんすよおいら、やっと人肉が食べられるんだと! もうできませんよ、我慢が!
ガルムさん! 命令ですよ? 主人からの。おとなしくオイラのお腹の中へダイブするっす!!!」
冒険者ギルドで、オレと紫音の国民登録を終えた次の日のことだ。
王都の観光地・・・・・・たとえば、王城が良く羨望できる街の高台までの道のりで、アードがいきなり叫んだのだ!
ガルムが、アードの言葉に驚いた後、一時呆然としたのだが、
「あっ! そういやぁ、うちが買われた理由が、倒置猫用の食材ってこと忘れてた!!」
自身が大変危険な目に遭っていることに気づく。
そうか、アードは一昨日、オレと紫音の肉が食えると喜んでいたが、その望みは結局オジャンとなってしまい、今になって彼女の溜まりに溜まった肉欲【文字通りの意味】が爆発して、暴走してしまったのか!!
そこからは街中が、もう混沌となってしまった。
「待て待てぇえええええっっ!!!!! 絶対遵守ですよ? 奴隷にとって主人が下された命令はね!」
アードが左手に食用ナイフ、右手にフォークを握りしめながら追いかけ、
「誰がテメーの、とち狂った指示に従わないといけねぇんだ!! それとうちの御主人はテメーじゃねえっ! 財・・・・・・カナネご主人様? 今にも、あなたの資産である奴隷が、野蛮なハイエナに狙われていますよ。早く助けないと、せっかくの労働力が無くなってしまう! ってか、さっさと助けろこんチクショォオオオオオオッ!!!」
ガルムが全速疾走で、彼女の魔の手から逃げ、
「はっはぁはっ! 報いを受けたなガルム。イナリを誑かし、性病に侵そうとしたことを後悔しながら、食い殺されるがいい!!」
カナネさんが腕を組んで立ち止まり、うれしそうに嘲笑しながら傍観し、
「あはは~、待て待てでございますよ~」
紫音は紫音で、彼女らの逃走劇が、特殊な鬼ごっこや追いかけっこのお遊びと勘違いしているらしく、アードの後について行き、
「待て待て、お姉ちゃんたち~」
その紫音に続くのは、同じくおいかけっこと間違えている王都の子ども達だ。
そしてオレはというと、
「アード! とりあえずこれ喰ってから、ガルムを追いかけろ!!」
ビーフシチュー入りの揚げパン【カナネさんのお金で買い溜めしておいたもの】を高々に揚げたまま、それをアードの口に入れようと四苦八苦東奔西走していたのだ・・・・・・。
このパンさえ、アードに喰わせれば、彼女は満腹になって、しばらくはおとなしくなるはずだ・・・・・・!
そんなドタバタの中・・・・・・。
「ふははのはっ!! このフォルエルちゃんに対し、遊び事で勝てると思ったのか~この下等生物共め~!!」
なんか背中から翼が生えた女の娘も、飛ばずにオレと並走し、子ども達に混ざって、ガルムの背中に向かって突撃しようとしていた。
・・・・・・・・・・・・天使??
彼女の特徴は、
見た目の年齢は十代後半。
よく光を反射している髪の色はオレンジで、
髪型は、頭両サイドら辺の髪を捻じってポニーテールにしている・・・・・・ツイストティアラとかいうスタイルと他に、襟足ら辺に結んだツインテール【銀杏の葉の形になるよう、毛先をカットしている】があった。(髪の毛を縛っているのは、白いシュシュ)
幼げが残っている顔つき。
首には、雲をモチーフにしているチョーカーを巻き付け、
身に着けている衣服は、白い羊毛のケープとローブであった。
白い靴下に、布の靴。
背丈は、紫音よりも少し低い。
あ、それと、彼女の生えている翼はほとんどが白色だが、翼先だけ、黒くなっている。
そんな天真爛漫な彼女が、なんか偉そうに呟く。
「う~・・・・・・このフォルエルちゃんが、下等生物なんかに負けてたまるか~っ!!
聖術『教科書に落書き』!!!」
一人称がフォルエルちゃんである女の娘が、なんか妙な必殺技名っぽいことを口走った瞬間・・・・・・。
(な・・・・・・なんだ!!?)
オレ・・・・・・いや、フォルエルちゃん? を除くこの場で走っていたみんなの動きが、はるかに遅くなったのだ・・・・・・!?
見えない空気の層や得体のしれない圧みたいなものが、オレの皮膚全体にのしかかる・・・・・・!
呼吸の速度も遅くなったような気がするが、息が苦しくなることはないっぽいな・・・・・・それより声が出ねえ!!!
フォルエルちゃんが、スローに動くオレ達とは違って、流暢にびしっとピースサインのポーズを決めて説明する。なんか彼女の声はしっかり聞こえるな・・・・・・。
「フォルエルちゃんが、速度についての法則を改造してやったのだ!
どうだ、すごいだろ!!? 術を行使している間は、宇宙中にて、本来速いものは遅くなり、遅いものは逆に速くなるのだ~・・・・・・みんな、まいったか!! にゃははのは!!♬
というか、褒めて褒めて~」
腰に両手を添え、よくわからないことを説明し、豪快に笑う彼女は、思い出したようにのろのろ動くガルムに近づき、タッチした。
「よっしゃぁああああああっ!!! これでフォルエルちゃんが鬼だな。やったぜ!
下等生物~・・・・・・鬼と天使の属性を持つフォルエルちゃんのかけっこについてこれるかな?
それでは、繰り出した聖術を解除しよう。ゲーム再開じゃぁあ、かかってこいや~!!!」
聖術って言うものを解いたと彼女が宣言した瞬間に、変な圧が消え、オレとみんなの動きも元に戻る。
フォルエルちゃんは、子ども達から避けるようそこら辺を走り出す。
「あら? 一体何が起きたのでございましょうか・・・・・・?」
「『天使の悪戯』か・・・・・・ここ数年起きてないから油断していた」
なんか、カナネさんが知っているっぽい。
紫音が走るのをやめて息を乱しながら、カナネさんに、オレも気になっていることを尋ねる。
「サイフさん。その『天使の悪戯』とは、一体なんなのでございましょうか・・・・・・?」
「うん紫音、君がわざと呼んでてないと信じてはいるが、実は財布という名は、ガルムが私に付けた蔑称だ!!
『天使の悪戯』とは、稀に世界中の自然法則が狂ってしまう災害で、様々な種類の異変が観測されている。
あらゆる気体が通常と比べて、液体に変化しやすかったり・世界中の物質に、傷をつけられなくなったり・そして今回のように、遅いものが速くなり、速いものが遅くなったりとかな・・・・・・原因は、私は知らない」
とんでもない話だ・・・・・・まさかこの世界の住人は、さっきの滅茶苦茶な災害に、慣れているのか!!?
・・・・・・カナネさんの説明とさっきのフォルエルちゃんが言ってた話と組み合わせてみたら、この災害は人為t・・・・・・・・・・・・これ以上恐ろしいことを考えるのは、やめておこう。
この世界の非常識さに、オレが戦慄していた時に、
『プルルルル・・・・・・』
ズボンのポケットに入れておいた、二つ折りタイプのガラケーからいきなり着信音が発された。
・・・・・・あいつか?
オレは渋々、その電話に出た。
「・・・・・・もしもし?」
『やっほぉ! ズルズル・・・・・・何日ぶりかしら、稲荷君。元気に俺TUEEEEEEライフエンジョイでイキっていたかい? もぐもぐ・・・・・・あなたの専属女神、那賀ですよ~』
・・・・・・あいつだ。
「ああ那賀か・・・・・・久しく感じるな。何の用だ」
『まあ今回は、ズズゥ・・・・・・ちょっとした質問とちゃんとした神託があるから、電話かけたけどね・・・・・・ワサビ入れよう』
時折この電話から発せられる謎のノイズ音は・・・・・・いや、違うな・・・・・・。
「・・・・・・人様に電話かけている時に、何食ってんだお前・・・・・・?」
「蕎麦だよ。盛り十割蕎麦。他にも、蕎麦饅頭・かけ茶蕎麦・蕎麦湯も用意しているのよ?」
「・・・・・・つまりは、そばアレルギーを持つオレに対しての嫌がらせか・・・・・・」
「あら以外にも、察しがいいのね。まあいいわ・・・・・・最初に質問の方なんだけど、なんかあたしの権能で、イナリ勇者様とハーレム御一行の様子を覗こうとしたけど、感知できなくなったみたい。
なんか見覚えあるかしら・・・・・・?」
ん・・・・・・? 腐っても女神である那賀の能力を妨害するなんて高性能な魔法やスキルなど、オレは持ってなかったはずだぞ・・・・・・?
・・・・・・あっ。
もしかして、魔王幹部のメイさんからもらった索敵魔法を妨害する灰入り袋を、オレがベルトに提げているから、那賀の感知神力に、オレとその周囲が、引っ掛からなくなっているのか・・・・・・?
もしそうだとしたら、どんだけ化け物染みてたんだよ。サイソウの魔法は・・・・・・。
『あら、いきなりだんまり決めてどうしたの・・・・・・お~い、量産型主人公? もしも~し? 聞こえますか~・・・・・・』
「OH! その声は那賀様じゃないですか~」
なんか、オレの隣に、さっきまで子ども達とかけっこに興じていたフォルエルちゃんが寄ってきて、ガラケーに話しかけてきたのだが・・・・・・ってか彼女の知り合い!!!??
『フォルエルちゃん? ・・・・・・稲荷君、まさか・・・・・・あたしの知り合いもハーレムメンバーに加えているの? どんだけ女たらしなのよ!!』
いやちげえし!!
彼女も彼女で、
「那賀様、申し訳ございません。フォルエルちゃんは、那賀様よりも早くダーリンといっしょに大人の階段を跳び膝蹴りで昇っております。ね? ダーリン」
クスクス笑いを漏らしながら、平気で自らの上司らしき女神に、冗談を垂れているよ、こいつ。
まさか初対面の通行人から、ダーリン呼ばわりされるなど、誰が予想できたのであろうか・・・・・・。
『稲荷君!! なんと破廉恥な・・・・・・!! このことあなたの学校の担任にちくってやるわよ!!!』
「お姉ちゃんタッチ!」
フォルエルちゃんが通話している時に、王都の子どもが、彼女の腕に触る。
「オウマイガッデス! フォルエルちゃんは、鬼の呪縛を解かれたフォルエルちゃんへと進化したよ~。さあ待てや、下等生物~!!!」
背中に翼をはやした彼女は、首尾一貫テンションマックスのまま、自分をタッチした子どもを追いかけて去って行った。
オレは立ち尽くしたまま、力なく尋ねる。もう疲れた・・・・・・。
「それで? 神託のほうは・・・・・・?」
『ああそれはね、魔王退治の催促だよ・・・・・・なんか、眼鏡の角を持った青髪の娘が、魔王城で、拷問受けているから。
彼女を人間さんが助けたら、あたしの小説を盛り上げるネタになると思うわよ?』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?
那賀の言っていることが、分からないわけではない・・・・・・。
ただ、信じられない、目を背けたい内容を、耳にしてしまったオレは、絶句してしまったのだ・・・・・・。
『もしもし? ・・・・・・もしも~し』
眼鏡角の女の子・・・・・・ああ・・・・・・。
「メイさんが、魔王城で囚われているのかっっ!!? なんで魔王の幹部が、魔王側で拷問受けてんだよ!!!」
オレはそう電話に向けて、喉が張り裂けそうになるくらい叫んだのだ!!
『うわ! 何よいきなり!』
「それは本当の話なのか、那賀?」
『え・・・・・・ええ、冗談ではないわ? ってか、あたしは魔王軍に捕まえられている彼女の名前なんて言ったかしら?
たしかにあの娘、メイ クリスタルホーンって、呼ばれてたけど。
そもそもあたしがそんな嘘をつく理由も・・・・・・』
オレは電話を切った。
やるべきことは決まった・・・・・・彼女が魔王幹部などの肩書を持つ事なんぞ知ったことか・・・・・・。
「ど、どうしたっすか、トライさん・・・・・・」
オレの怒鳴り声のせいか、アードがガルムを追うのをやめ、怯えるよう尻尾を内またに隠して、こっちを見上げる。
他のみんなも、感情を露にしたオレの近くに集まってきた。
オレは、カナネさん・アード・ガルム・紫音に頼む。
「ごめんみんな・・・・・・オレといっしょに魔王城に殴り込みに行ってくれねえか・・・・・・?
魔王城というくらいだから、とても危険な場所かもな。
無理強いは、しない。なんなら、オレだけでものりこんでもいい。
オレは、そこに囚われているオレの恩人・・・・・・この王都を黒炎から護った救世主を助けたいんだ・・・・・・。
お願いだ・・・・・・っ!!」
そんな懇願に、彼女らは、
「イナリの頼みなら、断れないな!」
「魔王城・・・・・・上昇しますね? トライさんの死亡率・・・・・・食べれるチャンスっすか? 彼の遺体を・・・・・・快諾しますよ! おいらはその願い事を」
「いや、否応なしにも、うち一応奴隷だから、拒否権無いんだけどな・・・・・・断ったら、倒置猫に喰われそうだし、いいぜ?」
「まあ、RPGごっこでございますか? 自分もその遊戯に参加したいのでございますよ・・・・・・お弁当は何がいいかしら?」
「ありがとう、みんな・・・・・・なんか、今更になって物凄く不安になってきたんだけどな・・・・・・!」
※次からは、時間を少し戻し、語り手をジルコニーに戻します。
「ん~・・・・・・? なんか騒がしいですね? どこのバ・・・・・・」
騒ぎの元に向かって、ボクが視線を向けたとき、金縛りに似た錯覚を一瞬だけ感じた。
あいつだ・・・・・・異世界オタクの地球かぶれだ。国の文明に仇なす敵だ・・・・・・!!
そいつは、まるでコメディアンってやつみたいに、パンを高らかに掲げたまま、猫(?)女を追いかけている・・・・・・ボクはこんな間抜けに、水でぶっ飛ばされたんですか?
「曝殺しなくては・・・・・・正義の鉄槌を!」
ボクは標的を見据えたまま、席を外す。
「お、おいおいジルコニー君どうしたんだい? 険しい顔をして。
・・・・・・言っとくけど、手前から忠告されたばっかりだってこと忘れてないかい?」
たしかにその通りですが、こちらには、大義名分ってやつがあるのです。
果たさなくてはいけない任務が・・・・・・!
そしてボクは急いで・・・・・・お店にちゃんとお金を支払って、彼らを尾行します。
奴の近くには、あのアラクネ族もいるみたいですね。
もう同じ轍ってやつは踏みませんよ? 要は、こちらが優位に立ってから、姿を現すなどの舐めプをしないだけですけどね。
ずっとこちらは身を潜め、確実にボクの放射線魔法で、彼らの命を削る作戦を実行します。
ただでさえ、放射線は、これ以上ないくらい足のつきにくい暗殺特化の属性ですからね。(防御壁には全然使えませんが)
そして線属性の魔法は、自然放射線と違って、生物に対して超即効性があるよう、改良されています。
ふふふ・・・・・・せいぜい、残りの短い人生を噛み締めるといいですよ?
数分後、彼はあの憎っき、ケイタイデンワとかいうやつを取り出しては、通話を始めたみたいです。
まあもうおしまいで・・・・・・。
「メイさんが、魔王城で囚われているのかっっ!!? なんで魔王の幹部が、魔王側で拷問受けてんだよ!!!」
・・・・・・・・・・・・は?
メイ・・・・・・メイちゃん? あの眼鏡の角を持った娘のことかっ!! 拷問を受けているっ!!!?
しばらくボクは、放心状態で、通りの真ん中で仁王立ちしていたらしい・・・・・・。
気を取り直して見渡してみると、もう夕方になっていて、標的である奴らの姿は見当たらなくなっていました。
「・・・・・・・・・・・・」
ボクは俯き、握りこぶしを胸に添えます。
「異物排除は延期にしましょう・・・・・・メイちゃんを救うのは、ボクの使命です・・・・・・!!」
※この小説においては、『曝殺』は、放射線で殺害するという意味です。
※ちなみに『天使の悪戯』と呼ばれる現象の一つにある『世界中の物質に、傷をつけられなくなる』は、フォルエルの仕業ではありません。
※この話の日付の設定は、最初はイナリ達が国民登録した翌日へと記載しましたが、例の日の明後日へと変更いたしました。
※タイガの苗字を変更いたしました。
※ハイアラダニの一人称を変更いたしました。(己→手前)