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なろうテンプレを装ったなろうテンプレでないチーレム小説  作者: 大錦蔵
ジャンクフード店~首都『トックホルムス』
14/23

衣服購入、呑気な魔術師

 最後に改稿した時期は、2019年6月23日。

 最初は、三人称視点から始まります。

ウェーデンス国での主流言語の名称設定を改変致しました。【ギリス語→ケルター語】


 

 奴隷収容所とは、別の地下施設。

天井に等間隔ではめていたオレンジの水晶らから溢れる光が、ここの光源である。

 ガルムがいた場所と似て、鉄格子が通路に沿って、並んでいた。

 しかし、そこで暮らす人達は、奴隷ではない。

 彼らは・・・・・・。


 「おい囚人番号『02021』。面会だ!!」


 「ん~何よもう。こっちは今、読書中だっていうのに・・・・・・」


 八咫烏タイプの人鳥ハーピーであるサイソウは、シーツが茶味がかったベット上に寝そべっており、とあるチンピラから差し入れされた本【異世界地球文化辞典】を読みながら、昼食に残しておいたクルミをつまんでは、文句を垂れている。


 ちなみにその施設には、至る所に床に透明魔方陣が描かれていて、国王に許可を得た者しか魔法が発動できないのだ。


 サイソウが振り向くと鉄格子先には、軍服の上に軽鎧を身に着けた背丈が高めな男の看守がいた。


 「あ、昨晩私こちらの最低魔法で、一撃ノックアウトされた門番だ」

 そう彼は、昨日検問の番をしていて、今日は交代制で牢の管理を任されていたのだ。

 彼女の火炎弾で彼が気絶した時、イナリ達が楼門を素通りしたのは別の話。


 「ふぐぐぐぐぐ・・・・・・国王様からの庇護命令がなければ、散々拷問してやるところだこの極悪人! 見ろっ。貴様のせいで、俺の顔が、包帯まみれじゃねえか!!

 何でこんな奴がくつろい・・・・・・おい、本読むの再開してんじゃねえ! 人の話を聞けぇ!!!」


 「はいはいわかったわかった。面会ね。連れてきたの?」


 そして彼の隣には。


 「いや、誰も見当たらないんだけど。面会室まで移動しなければいけないのかな?」


 「何が、誰も見当たらないだ、このカラスが・・・・・・私だ! 下だ下!」


 え・・・・・・? と、サイソウが、声の元を見下ろすと見知った顔を発見。

 背が低い幼女なので、背丈高めの看守の顔面横に視線をずらしても視界に入らなかったのだ。


 「・・・・・・ダーティー様か~・・・・・・」

 即、読書に戻る。


 「貴様!? 魔王城といた時とは、あきらかに態度が違うぞ!! 裏切る前は私のことをを敬ってい・・・・・・いや、あんまり変わってなかったな貴様の非礼っぷりは」

 なんか早口にツッコむ金髪大角エルフを、サイソウは無視を決め込む。


 魔王ダーティーは、額に手を添え、大きなため息をつくも、すぐに表情や雰囲気を真摯に戻し、本に夢中になっているサイソウに尋ねる。


 「ところで貴様の後輩である根暗眼鏡のことだがな。奴の際も苦手なものはなんだ? さっさと吐け」


 「え~メイちゃんの? 確か・・・・・・他人が苦しんでいるのを見るのが、一番嫌いじゃなかったっけ? あの娘、魔王幹部なのに人が良すぎるから・・・・・・」


 「そうか、信ぴょう性がありそうな答えだな」

 そう答えたダーティーは、感謝の言葉も別れの挨拶も言わずに、代わりに呪文を口ずさんでは、空間移動テレポートでこの地下牢に去っていった。


 その後サイソウも、しばらくは読書に耽っているが、あることに気づく。


 「・・・・・・しまったぁああああぁああああああああ。なんであの魔王は敵である国王と共謀しているのかって、聞くの忘れてたぁ、ここ王都城の地下じゃないのよチクショォオォオオオオオオオォオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!!!!」


 「うるせぇええええええええええええ! 静かにしろ『02021』」


 しきりに叫んだ後のサイソウはなぜかダーティーがメイの弱点を知りたがっているのかを思い出し、気になってしまったのだ。

 (・・・・・・わざわざ面会までして尋ねる内容としては地味だった。

 普通、こっちに自白して欲しいことといえば、共犯者のメイちゃんとの決めておいた合流場所とかじゃないの? 

 まさかメイちゃんもう捕まっちゃったとかっ!!?

 なんで!? 索敵魔法を妨害する灰を持たせたはずなのに!!!

 それで、効率的に拷問させるために彼女の弱点を探ろうとしてたの!!?)

 そう嫌悪溢れる、自身すらも認めたくもない考察を繰り返す彼女であったが、


 (ま、終わったことごちゃごちゃ考えても仕方ないか。え~と、中華料理とかいう異世界食べ物が記載されたページはっと・・・・・・)

 そのうち ま、メイちゃんなら大丈夫だよたぶん と、勝手に都合のいい事をサイソウは考えて思考を切り替え、肉まんや小籠包のイラストを眺めては、涎を垂らしていた。

 

 (・・・・・・・・・・・・)


 「ああそうだ! この料理のように包めばよかったんだ!! そうすればこっちの魔法を水や冷気で消されることもなかったのに・・・・・・。

 あんな男に負けることもなかったのよ!!!

 なんでこんな単純な事も思いつかなかったの!! ガッデムっ!!!!」


 「「「「「うるせぇええええええええぇええええええええっっっ!!!!!!!!」」」」」

 看守と別囚人達との不満の怒号が、地下牢にてこだまする。


 

 ※次からは、イナリの一人称視点に変更いたします。


 「久しぶりの外出だぜ! ああ輝いている太陽、澄んだ青空、瑞々(みずみず)しい路傍の雑草に、かぐわしい馬のクソ・・・・・・何もかもが、素晴らしく感じるなっ!!」

 奴隷収容所から出て、路地裏を抜け、視野が広い大通りにたどり着いた狼女ガルムは、背伸びをしては懐かしそうに天に向かって叫んだのだ。

 ・・・・・・セリフの中半ら辺はスルーで・・・・・・。


 彼女の後に続いてオレ達も元いた通りまで戻った。


 「さて、本来の目的地である服屋に向かおう。

 ・・・・・・服、そう言えばカナネさん。非常に頼みづらいことなのですが・・・・・・」


 「ん? なんだイナリ。なにか困り事か?」


 「ええ、はい・・・・・・」

 すこし言葉を詰まらせるも、彼女の様相を深く眺めてオレは伝える。

 「ガルムの服も買ってくださらないのでしょうか?

 流石にこのぼろ服のまま外出させるのには、わたくし、しのびなくて・・・・・・」


 オレの言葉に、ガルムはなんか目を見開き驚いては・・・・・・。


 「こんのぉお! 可愛いこと言ってくれるじゃねえかこのお人好しはぁ!!」

 なんかオレの頭を右腕で締め上げ、左拳でこめかみをぐりぐりする・・・・・・」


 「う・・・・・・地味に痛い地味に痛い! うれしがってるのはわかったが、やめてくれぇ!!」

 ぐりぐりするのはやめてくれたが、右腕を離してくれないガルムは次に、頬を染め、オレの耳元でささやく。

 「奴隷である、うちに気遣うとは、大したヤローだな・・・・・・この・・・・・・ 処 女 を特別にやってもいいぜ・・・・・・?

 ん? お前その耳の形・・・・・・」

 ええっ!!? いやいやまだボクはジュンシンムクなコーコーセイであり、不純異性交遊などは以ての外で、でもここ異世界だし! しかしやはり勇気が・・・・・・。


 「やめたほうがいい・・・・・・」

 カナネさんが、なんか夢も希望も無いような事を口にしている・・・・・・。

 なんて無慈悲な事を・・・・・・しかし、すぐに彼女がなぜ警告してきたのかを知ることになった。


 「フェンリル教徒は、異教徒に『バーサーク』という自分の性病を感染させようとする特徴を持つ。

 その病気に侵された者は、『ラグナロク』という遥か未来の世界滅亡前の戦争時に、フェンリルという狼神の命令に逆らえなくなってしまうアンデットと化すと伝えられているのだ・・・・・・その者が生きようが、死のうが、転生しようが関係無くな・・・・・・」


 「はぁああっ!!!??」

 急いで、ガルムから離れ、彼女の表情をうかがうと・・・・・・。


 「チッ! うちの情報ばらさなきゃ良かった! せっかくフェンリル様の味方を増やそうとしてたのによ!」

 悔しそうに指を鳴らし、焦るよう言い捨てたのだ。

 まじかよ・・・・・・なんでオレに寄ってくる女の娘は、誰も自分に恋心を抱いてくれないんだぁ!!


 「え~・・・・・・大丈夫なんですか? その人の肉を食べても。感染するのですか? 」

 アード・・・・・・言うと思ってたが、今それどころじゃねえだろ!


 「ガルムよ、ふざけてるのか貴様・・・・・・イナリの提案のおかげで鉄格子から抜けられ、なおかつ服装に対しての心配もされたのにも関わらず、その厚意を踏みにじり、利用するなど・・・・・・」

 ああカナネさんが震えている・・・・・・オレが危険になると・・・・・・。

 「言語道断!! アード!!」

 

 「何っすか?」


 「狼女の活け造り一丁!! 容赦は無しだ! 私が奴を縛り付けるから、貴様のノコギリでじょじょにバラバラにするのだ!! 安心しろ! 食べたくらいでは『バーサーク』は感染しない・・・・・・」


 「オーケーです!!」

 ・・・・・・なぜか不自然なまでに怒ってくれるんだよカナネさんは!!

 アードも装備していたノコギリを鞘から抜いて高々と掲げだしたし・・・・・・ていうかいつから仲良くなったんだあんたらは!!

 

 ガルムの方は、二歩三歩後退りをし、

 「じょ、じょ、じょ、上等だぜ!! かかってこいや・・・・・・べ、べ、別に怖がっているわけでもないしな・・・・・・」

 明らかに動揺を表しては、無理に強がっている。

 両拳を一応は構えているけど、あのタッグに彼女が勝てる要素がオレは見当たらない。


 あ~も~全く・・・・・・。

 「もうやめてくれよ。要はオレがガルムから感染しなければいいだけの話だろ!?」

 オレの叫びに、カナネさんはこちらを振り向き逡巡し、アードは珍しく空気を読んだのか、溜息をついた後、ノコギリを持ったままなのだが、構えは解いたのだ。


 「な・・・・・・なぜだイナリ? まだ奴に情けをかけているのか・・・・・・?」


 「いやだってさ・・・・・・」

 オレは気まずそうに彼女らから目を逸らし、頬を掻く・・・・・・。


 「今更だろ? オレを利用するなんて・・・・・・。カナネさんはカナネさんの親御さんからの催促を何とかしたいから、親しみを持ちやすいオレと婚約したんだし、アードにいたっては、オレの子供を食べたいなんて理由でハーレムの一員になったってのによ」

 あの時出会ったメガネっ娘だって、サイソウを止めたいからオレに接触したんだ・・・・・・。


 「え・・・・・・まじかよ」

 少し引くガルム・・・・・・。

 「お前・・・・・・お人好し通り越してサイコパスじゃねえのか・・・・・・」


 「サイコパスは酷すぎだろ!!?」


 「え、あ~・・・・・・たしかに私はイナリに恋愛感情は・・・・・・抱いていないな、今は・・・・・・」

 物凄くしょぼくれて、肩を下げるカナネさん・・・・・・。


 「ねえどっちですか? 良いんすか、調理して」

 アードはオレの説得に興味無さげだ。


 「もうオレ達は別に、互いに利用し利用される関係でいいんじゃないのさ・・・・・・。

 仲間同士で潰し合うくらいなら、誰かが傷つくくらいなら、そっちの方がいいよ。

 いつか・・・・・・いつの間にか本当の仲間に、オレたち全員がなれるかもしれないから・・・・・・」


 オレが言った後、カナネさんは悲しそうに俯く。

 「・・・・・・確かに、私もガルムもアードも結局は変わらんな・・・・・・。

 もし不純な動機でパーティーに入ることが裁かれる理由になるのなら・・・・・・私も同罪だよ・・・・・・」


 「はぁ、どうも調理はできそうにないっ感じっすね、今は。それに忘れてましたよ、オイラが今満腹であることを・・・・・・」

 ノコギリを元の鞘に戻すアード。


 ほっ・・・・・・。

 どうやら、喧嘩は避けられたようだ。

 さあ、目的地まで行こうか。


 気を取り直して、店に向かい、東北楼門近くの外壁に沿って歩くオレ達に、ある声が傍から流れてくる。

 ローブを着ている人と胸部や腹横部にポケットがたくさんついている作業着を身に着けた人との会話。


 「あ、方陣工事士さん。ここの警報魔方陣も機能しなくなっています。

 早く直してください・・・・・・侵入者が来たら、大変ですよ!」


 「ああ本当だな。なんか魔方陣そのものの効果が無くなっているようだ・・・・・・再び設置(描き)直した方がいいな・・・・・・」


 どうやら、門の外側の地面に記しておいた魔方陣が不調を起こしたという内容だな・・・・・・。

 もしかしたら・・・・・・。

 オレが昨晩繰り出した『浄魔クリアクア』の雨のせいで、警報魔方陣の効果そのものが、

 流されてしまったのではないか・・・・・・??


 ・・・・・・黙っていよう。


 そしてやっとたどり着いた服屋。

 濃い赤のレンガを組み合わせた二階建てのビルだ。

 木戸を開け、入店する。

 ・・・・・・カナネさんの蜘蛛下半身が幅でかくて、少しだけ入り口につっかえたけどなんとか抜けれた。


 室内は、入り口近くには、当たり前だが、レジがあり、

 左右壁際には服や帽子等を掛けたマネキンを、等間隔に奥に並ばせてある。

 同じように置かれたハンガー掛けにも多種多様な服が、掛けられていた。

 レジ奥には大きなタンスも見えた。


 「う~頭痛がひどいな・・・・・・あ、どうもいらっしゃいま・・・・・・」


 ・・・・・・え?

 オレの代わりにガルムが口を出す。

 「おい三下商人じゃねえか。奴隷売り飛ばすお前が、なんでかたぎの仕事なんかやってんだ~?」


 「ひいっ!? あ、それはですね。私の実家がこの店でして、私の仕事に空きがきた時に、両親の手伝いをしているのです・・・・・・それと、奴隷商はこの国ではまっとうな職種ですよ・・・・・・」


 彼の怯えながらの説明に、ガルムは、

 「ま、なんにしてもいいか」

 と、興味なさげに聞き流す。

 「・・・・・・え~と、ブラ・パンチーと白シャツ・短パン、替えの分も必要だな。

 それと・・・・・・この黒いオーバーオールをおごってくれねえか?」

 ガルムの注文に、カナネさんは、 ああ と、ぶっきらぼうに了承。


 「そうそう忘れるとこだったぜ。オーバーオールの臀部の上ら辺に、うちの尻尾が出れるよう、切れ目入れといてくれや、三下」


 さて、

 「じゃあオレはこの胸元にバッテン縫い目のあるクリーム色の布の服に、黒い長ズボン、ベルトで!」

 値段を気にして、シンプルなものを選んでいるオレに、

 「いや、もっとおしゃれに気を使ってもいいと思うぞ!?」

 カナネさんが、気を遣って提案する。


 「そうだぜ? せっかくのイケメン童顔にあぐらをかいて、ファッションを蔑ろにするなんぞ信じられねーな」

 ああ、ガルムも!

 オレはセンスがそんなに良くないから、こういった話は不得手なのに。


 「そうっすね、本当に。あ、買ってくださいカナネさん、青い作務衣と同じ色の短パンと灰色地下足袋たびを」

 ちゃっかりとアードが、一張羅を抱えながらレジに向かっているんだけど。

 「誰が貴様に購入してや・・・・・・なんだそれは!?」

 ほら、カナネさんがアードの分を購入するわけないのに・・・・・・え?


 「これはもしや・・・・・・異世界に存在するキモノとかいうものか!!? 

 ぐう、貴様は憎たらしいのだが、センスは抜群だと認めざるを得ない・・・・・・商人!

 私も奴と同じサムエとかいうものを頼む!!」

 なんか、えらく食いついてきたなカナネさん・・・・・・。

 あっそう言えば彼女は確か、オレが女神から押し付けられた携帯を見ては、興奮してたっけ。


 しかし商人は顔を曇らせ、

 「・・・・・・残念ですが、あなたに合うサイズのその商品は今、在庫切れでして・・・・・・」


 オレ達は各々試着し(※カナネさんがガルムを着替えさせるため、一時的に手錠を解いた)、落胆状態のカナネさんが銀コイン複数払った。

 

 購入して下さった一張羅に着替えたオレ達は、カナネさんと共に店を出る。

 着た方の服とかは、ガルムに抱えてもらっていた。


 「いや・・・・・・カナネさん。そのうちカナネさんが求める服が見つかるよ。元気出して」


 「うう・・・・・・なんであの猫だけ・・・・・・」


 「ところでよ、せっかく買ってもらったのに羽織らないのか? お人好し」

 ああそうだねガルムさん。

 ・・・・・・オーバーオールとか地味なのを選んでるあんたには、言われたくなかった・・・・・・。

 あとちゃんと名前で呼べ!


 赤色のケープをオレは身に着ける。

 右ら辺に、石造城をモチーフに描かれた白い刺繍があるタイプだ。

 「日本出身であるオレは、やっぱりケープとかに憧れるよな~・・・・・・ところでこの紋章・・・・・・なんか、既視感が・・・・・・?

 どこかで見せつけられたような・・・・・・」

 

 「ん~もうちょっと冒険しても良かったんじゃねえか~? これ単体じゃぁなー」


 「いや、格好つけるのに慣れていなくてな・・・・・・どうした? アード」


 「トライさん。見てくださいよ、あれ・・・・・・」

 何だ? オレはアードが示す指の先に視線を移し・・・・・・。


 「おわぁあ何だこれはぁあっ!!?」


 「製作途中の警報魔方陣から青白い光がぁああ・・・・・・!!」


 なんか、

 開いている楼門先に、

 誰かが出現し・・・・・・。


 「うわぁ・・・・・・召喚用以外の魔方陣から人が出てくるなんて聞いたことねえよ・・・・・・」


 「・・・・・・登録してますかね、国民の。食べていいかな~」


 「なんかただならぬ様子だな。近寄らない方がよさそうだイナリ・・・・・・イナリ?」


 オレは歩く。召喚元へ・・・・・・。

 オレは進む。騒ぎの元へ・・・・・・・・・・・・。

 オレは駆ける! そして叫ぶ!!




 「何でここにいんだよ!!? さんかん おん!!!」


 「え!? 知り合いなのか!」


 見間違いかもしれないが、たしかにあの女性は見覚えがある!

 髪は、色は黒で、額が良く見える、前髪を左右に分けて長さを揃えたワンレン。

 後ろ髪の長さは背中まで伸びていた。

 楕円形の眼鏡をかけている。

 セーラー服姿でしかオレは会ったことないけど、いま彼女は、胸元に黒リボンがある白のロングスカートタイプなワンピースと白い靴下を身に着けていた。

 少し垂れ目、いつも軽く首を傾げている癖を持っている。

 背丈は、オレより少し低い。

 運動紐靴を履いており、パンパンに膨れ上がった登山用カバンを背負っていた。


 そして・・・・・・オレと同じで地球で産まれ、東京で暮らし、高校一年生からのクラスメートだ・・・・・・!


 そんな彼女からオレに向かって、言い放つ・・・・・・!!


 

 「あらあら、稲荷さんこんにちは。ところで今何を語っているのか、自分はわかりませんね。

 日本語でおっしゃってくれるとありがたいのですが【日本語】」


 え? あ、そうか今、オレ日本語じゃなくてケルター語でしゃべっているんだった!!

 一日ぶりだというのに、なんかえらく懐かしく感じるな・・・・・・。


 「紫音・・・・・・なぜ異世界であるウェーデンス国にいるんだ? 

 神様が原因で、転移でもやらされたのか・・・・・・?【日本語】」


 オレの質問に紫音は、

 「はぁ。神様と被召喚術との関係はよくわかりませんでしょうけど、自分は『ゐろは式』での陣と『俗祝詞』で、『マイクロホール』を『空虚集合』させて、危険のないことを『占認』した後、『陣磁』を利用し、ここまで入ってきたんですけど・・・・・・【日本語】」

 ・・・・・・同じ言語で語っているはずなのに、何を言っているのか、ぜんぜんわからなかった。

 ようは・・・・・・自力でここまで来たっていうのか!? 

 地球はいつから、魔法が溢れているメルヘンな世界に・・・・・・!?

 

 前々から彼女が、魔術をはじめとしたオカルトにのめりこんでたのは、学校中有名だったんだが・・・・・・。


 「まさか本当にあんたが魔法を使えるとは思わなかった・・・・・・」


 「お、おいイナリ・・・・・・彼女はいったい誰なのだ? 聞き覚えのない言語で会話したみたいだが・・・・・・」

 

 「あら、彼女らは稲荷さんのご友人でしょうか・・・・・・?【日本語】」


 ・・・・・・・・・・・・オレが翻訳者になるしかないな・・・・・・。


 オレは紫音に対しに、彼女らに手の平で指し、紹介する。

 「紫音。彼女らは、オレのハーレ・・・・・・知り合いで、蜘蛛の足があるお姉さんがカナネさん。灰色髪の猫耳はアード。茶髪のスケバンはガルムさんだ。

 紫音にとっては亜人は見慣れてないと思うけど・・・・・・彼女達は悪い人じゃ・・・・・・悪い人じゃ・・・・・・まあカナネさんは信頼できる!! 安心してくれ!【日本語】」


 ガルムがオレの言葉に割り込んできた。

 「なんか、うちのこと悪く言ってないか・・・・・・?」

 言ってない言ってない。


 次に、

 振り向いたオレは、先程と同じ要領でカナネさん達に紫音のことを説明する。

 「彼女は 珊館 紫音 で、同じ学校の友人なんだ。

 変人なんだけど優しい人でもある。敵じゃないんだ。

 だから警戒しないでくれ・・・・・・」


 アード「トライさんと同じ学校・・・・・・? 先ほど召喚術で現れ」


 「と に か く っ !! 紫音はこの国出身ではないからケルター語では話せないんだ・・・・・・だからオレが通訳するよ・・・・・・」


 ん? 誰かオレの肩を優しく叩いて・・・・・・ああ紫音か、どうしたの?


 「どうやら、自分がいた地球と異世界との言語が違うようですね・・・・・・それでしたなら【日本語】」

 紫音は重そうなカバンを地面に下ろし、それから分厚い本・・・・・・国語辞典を取り出す。

 それの表面には、オレが良く知る『ひらがな』どうしを組み合わせたような胡散臭そうである方陣が、マジックで書かれてある。


 「この本を、稲荷さんのご友人のどなたかに渡してくださいな【日本語】」

 え? 何で? じゃあまあ・・・・・・。


 「カナネさん。これ持ってくれないかな・・・・・・?」


 オレの言葉に、彼女は少し、きょとんとするも、迷うこともなくすぐにその辞典を掴んだ。

 「ああいいだろう。イナリの頼みなら疑わなくて済む」

 いや、少しは疑ってくれよ。


 「カナネさんですね。どうでしょうか? 言葉は伝わりますでしょうか?【日本語】」

 

 紫音が語った言葉にカナネさんが、

 「ん!? 伝わっているぞなんだこの魔法は!!」


 「ご友人さん驚いているようですけど、自分の言葉は届いているでしょうか?」

 首を傾げている紫音にオレは、


 「ああ、届いているよ・・・・・・まじで魔法使えるのかよ、あんた!!?【日本語】」


 「自分は魔法ではなく 魔術 と呼んでいますでしょうけどね・・・・・・そのゐろは式で書かれた辞典を持っている者に限り、辞典に記載された言葉・文字を理解・会話できる効果があります。

 手放すと元に戻りますが・・・・・・」


 「なあおい、何を驚いているんだ? うちらのことほっとくなよ」


 「長くなるんですか、話? 長くなるんでしたなら、しばらくオイラ、遊んできていいですか」


 ああ、すねないで。彼女達を置いてけぼりにしちゃった。

 「この分厚い本持つと、紫音の言葉がだいたいわかるらしいんだ」


 「ふ~ん・・・・・・世界は広いな。うちはそんな魔道具なんて聞いたことなかった」


 「魔法とかにオイラうとくって・・・・・・でも、非効率じゃないっすか? わからないのでは、その本を持つ人しか」


 そ、そうか・・・・・・!


 「なあ紫音・・・・・・この魔術って、日本辞典以外では、効果はないのかい? ギリス語の本とかでもできるのか?【日本語】」


 紫音は頷く。

 「はい大丈夫ですよ。化学の教科書でも発動できていましたし【日本語】」

 ・・・・・・その術かけた本を、服に隠してテスト時にカンニングとかしてないよな、あんた?


  「それじゃあ、みんな! 悪いけど今から本屋に行きたいのだが・・・・・・」

 オレの提案に、カナネさん達は逡巡することなく応じる。


 紫音が重そうなカバンを苦労しながら背負い戻した後、

 呆然としたままの方陣工事士達を残して、オレ達は街奥へと進んでいく。


 道すがら紫音がオレに話しかける。普通の音量で。

 「あの稲荷さん。頼みごとがあるのですが・・・・・・【日本語】」

 この感じ・・・・・・もしや・・・・・・!!




 彼女はごく自然に・・・・・・特に何気もなくお約束を、人々が往来する中、堂々と口にする。


 「たしか稲荷さんって、性病とかをお持ちでないですよね。

 無断で確認したことについては、申し訳ありませんでしたけど、占術で自分はその情報を得ていました。

 別に問題がないのでしたなら、性行為とかいかがでしょう・・・・・・?【日本語】」


 「ほら来た!! クラスメートのあんたに言われるとは信じられないが、予想は少しできてたぜ!!

 紫音! オレに恋慕でもしているのか!!?【日本語】」


 顔を赤らめていない紫音は、首を傾げ、

 「特にそんな感情は抱いていませんね。

 そもそも自分は恋をした経験は、今の時点では思い当たりません。

 自分の目的は、非処女でしか繰り出せない魔術を扱いたいからです【日本語】」


 はぁ、やっぱり・・・・・・まあもちろん答えは、


 「却下だっ!! 

 紫音は美少女で、近くにいるとオレはドキドキするけど、不純異性交遊したら、うちの高校では退学処分なるのを忘れたのかぁああっ!!

 そもそもせ・・・・・・とにかくなんでオレなんだよ!!【日本語】」


 怒鳴り散らしたオレに、紫音はとくに怯む様子もなく、逆側に首を傾げては、

 「その理由でしたなら占術で、もし稲荷さんと自分が性行為をした場合、妊娠する確率がそこそこ低いと判明しましたからです【日本語】」


 「そこそこで、処女なんか捧げんじゃねえっ!!!【日本語】」


 なんやかんやあって、カナネさんの案内で、数分後にオレ達は木材建築物の本屋にたどり着いた。


 「ところで稲荷さん・・・・・・今気づいたことなのですが・・・・・・【日本語】」


 何だ? まだ何かあんのか。


 「なぜ稲荷さんは、地球ではなく異世界にいらっしゃるのでしょうか?【日本語】」


 



 い ま さ ら かよぉおおおぉおおおおおおおおおおおぉおおおおおおおっっっ!!!!!

  


 

 

 

 


 


 

 


 


 

 

 

 


 

 

 

 


 

 


 ご覧くださりありがとうございます。

 紫音が語った意味不明な造語の意味。

 ・ゐろは陣・・・・・・ひらがなで構成されている魔方陣。他文明の文や数字と併用も可能。

 ・俗祝詞・・・・・・紫音が独自で作り出した魔術詠唱の言葉。

 ・マイクロホール・・・・・・この小説においての地球や異世界には、どこにでも関係なく異界ゲートが現れ、その異界ゲートの別名のこと。原則としてのマイクロホール大きさは、水素原子よりも小さく、すぐに開閉を繰り返す。

 ・空虚集合・・・・・・周囲にある異界ゲートを一つの場所に集合させて大きくすること。

 ・占認・・・・・・占いで確認すること。

 ・陣磁・・・・・・特定の魔方陣に描かれた者・物が持つ、磁力に酷似したエネルギー。応用することで、指定した物体同士に、引力又は斥力の効果を生み出させる。

 ※紫音の造語を覚えなくても、物語をご覧なるのに、支障はありません。

 

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