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なろうテンプレを装ったなろうテンプレでないチーレム小説  作者: 大錦蔵
ジャンクフード店~首都『トックホルムス』
13/23

王都編突入、奴隷の神官

最近改稿した時期は、2019年8月1日です。 

最初は三人称視点です。

 「稲荷くん! ずっと前から好きでした! 付き合ってください!!」 


 ここは日本の首都、東京のどこかにあるなんの変哲もない高校の体育館裏・・・・・・。

 一人の女子生徒が、高校生に告白しました。

 周りには、誰も見当たりません。二人っきりです。


 好意を寄せられた稲荷は、少し間を置き、頬を軽く掻きながら気まずそうに答えます。




 「いや・・・・・・あたし、普通にイケメンが好きなんだけど・・・・・・」


 「・・・・・・・・・・・・え? っ・・・・・・??」

 告白した相手からのカミングアウトに、女子生徒は、天気が晴れというのにもかかわらずに、雷に全身を貫かれるような衝撃を感じたのです。


 なんということでしょう、この小説にはボーイズラブのタグが付けられていないのにもかかわらず、学ランを着た稲荷は、自分は美男性しか興味がないと暴露してしまいました・・・・・・っ!!


 少女はショックを受け、

 「そ・・・・・・そんな・・・・・・稲荷くんが、『そっち』だなんて私・・・・・・思いもしなかった・・・・・・」

 数歩後ずさりします。


 

 「ごめん、私、稲荷くんのお邪魔虫だったんだね・・・・・・」

 彼女は顔を俯き・・・・・・。

 「う、う、うぁわぁあああぁあああああああぁぁあああああっっっっんんんんん!!!!!!!!」

 顔を両手で塞いで、急いでその場から逃げるように、立ち去りました。

 落ちた水滴が、彼女の走ったところを示してくれます。


 「・・・・・・え?」

 

 なぜかフッた者が呆然と、去った少女を見送っています。


 「あれ? あたし、なんかおかしなこと言ったかな・・・・・・自分が女神だなんてばれるようなことは口にしてな・・・・・・」

 稲荷と呼ばれている者は、彼女が先程衝撃を受けた理由に気づきました。


 「ああ、そういえば、今あたし、男子生徒いなりに変身してたんだっけ?」

 そう特に慌てることも気にすることもなくは呟きます。

 男子に変装している女神なら、別に男性が好みだと言っても、ボーイズラブにはなりませんね? ね?


 「それじゃあ、もうすぐ昼休みも終わることだし、教室に戻るか・・・・・・」

 那賀は校舎の入り口に向かって歩みます。

 廊下を渡っている時に、なんか周囲のクラスメート達が、稲荷に変身している那賀を遠巻きに見ながらヒソヒソ話をしています。

 稲荷・・・・・・たとえ地球に帰ったとしても、理不尽は続きますよ・・・・・・。


 教室へと戻った那賀は、女子生徒達の会話の一つを、耳にします。

 

 「今日、オカルト研究部の紫音しおんさんが、無断欠席してるんだけど、珍しいね」




 次から舞台を、本物のイナリがいるウェーデンス国の首都『トックホルムス』に変更いたします。


 「・・・・・・ここは?」

 下半身が蜘蛛の後半身で、できているアラクネ族のカナネは、不思議な空間にいました。

 360度どこを見渡しても真っ白な場所です。地面と空の境界線が見えません。

 彼女は、このような場所に、見覚えはありませんでした。


 「ママ~♪」

 後ろから、幼い感じの声が聞こえます。

 カナネが背後を振り返ると、子供のアラクネが、八人ほど、いつの間にかいました。


 彼らは大半は紫髪ですが、中には黒髪黒瞳の子が交じっています。

 つまりはそういうことです。


 「そうか・・・・・・私は、イナリと結婚してたくさんの子を授かったのか・・・・・・」

 感無量の表情をしたカナネは、喜びで震えています。

 たとえイナリを恋愛対象として見れなくても、彼女は子供が大好きなのです。


 「きゃっきゃっ♬」

 しばらくの間、カナネとその子供たちは何も見当たらない白い空間のとこで、楽しく遊びました。


 一人の子供が、いきなり声を張り上げます。

 「あ、そういえば今日お姉さんが、ボク達を温泉に連れてくれるんだった!」

 

 「お姉さん・・・・・・・?」

 眉をひそめるカナネ。


 子供たち全員は、ある場所に向かって一目散にその八つの足で駆けて行きます。

 その先には、なかったはずの熱した大鍋と白い液体を満たしたボウルが出現しており、そして側には・・・・・・ハイエナ獣人アードが、すごく長い菜箸とでかいフライ返しを持って立っていました。


 「え・・・・・・あ・・・・・・」

 すぐに彼らの危険を察知したカナネは、急いで助けるために駆け寄ろうとしましたが、なぜか足一本すらも体が動かせなくなりました。


 アードが、その魅惑な口で、可憐な声を発します。

 「良く来ましたね、あなた達。白い粉で体を洗いましょう、まずお風呂に入る前に」


 「「「「「「「「は~いっ!!!!!!!!!」」」」」」」」


 例の白い液体・・・・・・どうやら薄力粉を氷水で溶いたてんぷら粉みたいです。

 たき火で焼かれている大鍋からは、パチパチと水滴が弾け飛んでいます。油ですねそれ。


 「・・・・・・やめてくれ・・・・・・」

 カナネは呟きます。


 しかし、アードも子供達も誰もが、彼女の言葉には耳を貸しませんでした。


 てんぷら粉でずぶ濡れになった子供たちは、満面の笑みで、これから起こる調理という名の惨劇を一辺も想像できずに、鍋の中へと続く架け橋へと進んでいきます。




 「やめてくれえぇえええええええええええええっっっっ!!!!!!!!!!!!!!」

 というところで、カナネは夢から覚めました。


 上半身だけベットに俯せて、下半身蜘蛛の部分は腹を床に付せて寝ていたのです。

 ※スペアのビキニアーマーを装着したままで。

 周りを見渡します。宿屋でチェックインした室内だと認識。

 

 窓際の方には、異世界から来たイナリと、彼の召喚獣である翼モグラが話していました。

 ※彼と彼女らは同じ部屋に健全に休息をとりました。R18なことはしていません。

 それと全然関係ない話ですが、前話に出てきた法王モルセヌ爺の治癒ピアスは今、スイッチオフになっています。

 

 別のところにカナネは視線を配ると、・・・・・・そこにはソファーで寝ているへそ出しアードの姿が・・・・・・。





 ※次からは、語り手を本物のイナリの一人称に変更いたします。


 「そうか・・・・・・良かった」

 召喚獣ホールの報告では、オレが昨晩繰り出した風魔法で吹き飛ばされた木々の落下地点には、被害を受けた人は見つからなかったらしい。

 それと、街中にかけた『非酸ナイトロジェイム』・『浄魔クリアクア』の魔法は解いている。窓越しには、爽快な日の出が表れていた。

 

 「さて、そろそろカナネさん達を起こさなきゃ・・・・・・」

 彼女の方を振り向いた。

 そこには、


 アードの首元を狙っている、矢を掴んだカナネさんの姿が・・・・・・。


 「カ・・・・・・カナネさん!! 何をやっているのですか!!?」

 急いでカナネさんを羽交い絞めにする。


 「は・・・・・・離せイナリ!! こ、こいつは私達の子供を殺そうとしたんだぞ!! アード・・・・・・貴様だけは許さない! 今ここで命を奪わないと・・・・・・っ!!!」


 子供・・・・・・何のことだっ!!?


 そしてそのタイミングでアードが目を覚ます・・・・・・。

 至近距離にあるやじりとにらめっこしながら呑気に目をこすっているよ、こいつ・・・・・・。


  アードが、最初は寝ぼけながらも、数秒で状況を把握したっぽい。

 「むぅー・・・・・・どういうことですか、これは? 成立ですか? カナネさんを食い殺す正当防衛が」

 ちょっ、まさか今から殺し合いが、また起こるのか!!?



 そして・・・・・・。

 彼女たちの暴走を止めるのに、一時間くらいはかかったのであった。


 「・・・・・・あんたらのせいで、宿屋のおじさんにこっぴどく叱られたじゃないか・・・・・・」

 宿屋の一階、今、食堂でオレ達は朝食を取っていた。


 カナネさん以外は、席についていて、隣にはオレが、長テーブル挟んだ向かい側には、アードがいる。

 

 オレは、ハーブティーとハム三切れとパン二つ。

 カナネさんはコーヒーのみ。

 アードは種類もわからない魚の天ぷら。


 「す・・・・・・済まないイナリ・・・・・・夢と現実の区別がつかないでいた」

 俯いて申し訳なさそうにしているカナネさん。どうやら彼女とオレの子供を、アードに喰われそうになる悪夢を見たらしい。

 それと彼女は今、自前のポーチ付きベルトを肩に掛けている。


 ああ・・・・・・オレ達が先ほどいた部屋では、突き刺さった矢や、ノコギリの傷跡がびっしりあるよ・・・・・・それの弁償はカナネさんがしてくれた。


 「ああお腹いっぱい・・・・・・」

 普通のボリュームを持つ料理を結構残したアードは、満足そうに椅子の背もたれに体を預けていた・・・・・・そういえば、アードは小食だったね。

 「だれか食べませんか? おいらの食べ残し」


 「誰が、貴様が口にした料理を食すのだ? それに今は、天ぷらなど見たくもない・・・・・・」


 「じゃあオレが食べるよ・・・・・・ところで、・・・・・・」

 アードの手前にある皿を、オレは自分の近くに寄せながら、彼女らに尋ねる。


 「誰か、オレの服を買ってくれませんか? 未だに黄色いワンピースを身に着けているんだ・・・・・・いつか衣服代を利子付けて返すから」

 そう、オレはこの世界のお金を持っていないのだ。正直、ずっと女物を人前で着たくない。


 それのお願いに対して、カナネさんが答える。

 「ああそれなら私が支払おう・・・・・・お金も返さなくていい、食事を摂ったら早速仕立て屋まで出かけよう。遠慮はするな、私はけっこう貯金はある方なんだ・・・・・・」

 

 ・・・・・・ああ助かるよカナネ様・・・・・・困ったときはカナネさんだね!

 



 オレ達は朝食後、宿屋から出て、目的地まで歩く。


 「なんか・・・・・・こう改めて街中を眺めると・・・・・・新鮮だね~」

 ここの出身ではないオレは、日本の都会とは一線を画している中世西洋風の街並みを観光する。


 家々の屋根は、オレがいた東京の住宅と比べたら一目瞭然に傾斜が激しく、そこから各々覗かせるレンガ製の煙突があった。

 コンクリとは違う石畳上に往来する人々と並んで、自動車ではなく馬車をけん引している馬が駆けていく。

 少し歩くだけでも、井戸が街中に点々と設置されているのがわかる。

 やはり・・・・・・オレが住んでいた場所とは違うな・・・・・・。


 「焼かれたみたいですね。ところどころ」

 

 う゛・・・・・・。

 アードの呟きに、怯んでしまった。

 実は見渡す限り、木造建築は表面だけが炭になっており、石造の物体は煤けていたことがわかる。


 オレが街中に『非酸ナイトロジェイム』を発し、魔王幹部のカラス女サイソウが、本来木々にダメージを与えない炎を、燃える効果を持つ魔法へと変えたために、軽く惨事になっている・・・・・・が、ホールが言うにはなぜか街の中誰にも火傷を負っていないのだそうだ。


 ※作者注・・・・・・イナリが繰り出した炎は、本来熱を微量にしか発っしておらず、そのままの熱量でサイソウが彼の魔法を『暗染ステルスファイア』に変えたため、建造物や生物へのダメージが軽く済んだのです。

 

 それに関しては良かったが、昨夜起きた火事の原因の一端が、オレにもあるからな・・・・・・ハァッ・・・・・・。

 先ほどオレ達がいた宿屋の外観や内装も軽く炙られていたぞ・・・・・・。


 アードがいきなり口を開く。

 「ねえ、あるんですけど、寄っていきたいとこが」


 「いや・・・・・・早く着替えたいんだけど・・・・・・」


 「ふんっ! 貴様の頼み事など却下だ!」


 オレ達の答えにアードは、

 「・・・・・・・・・・・・うう、すぐ済むのに・・・・・・」 

 残念そうに頭と猫耳と尻尾を下げる・・・・・・う~ん・・・・・・。


 「あ~もう、わかったよ。わかったわかった・・・・・・別に急がなくてもいいことなんだし。いいよ・・・・・・アード」


 「いいんすか? トライさん」


 「いいのか? イナリ・・・・・・イナリがそう言うなら、私は・・・・・・」

 うん、思ってたんだけど、なんでカナネさんはオレにそう従順なのだね・・・・・・?



 そして、

 オレ達が立ち寄った先は・・・・・・。


 

 

 

 「「な ん で 寄り道先が、奴隷売り場なんだこのバカ猫ぉおおおおおおっっ!!」」

 そう、オレ達は今、陰気溢れた路地裏から入れる建物の地下室にいる・・・・・・。

 奴隷商と思しき胡散臭いお兄さんが、両手を揉みながらオレ達の後を付いていく。


 湿気が漂い、かび臭く、蝋燭の火の辺り以外はとても暗い。

 幅は狭いが、奥行きが広い廊下みたいな部屋で、左右には鉄格子がずらっと並んでいた・・・・・・が、その中には奴隷らしき人が一人も見当たらない・・・・・・。


 「う~んやはり見当たらないっすね、食材が。もう全部売り切れたのかな」

 アード・・・・・・人をなんだとおもっ・・・・・・ああ、そういえば、こいつ・・・・・・・・・・・・最初っから人権を気にするような奴じゃなかったっけな。


 「・・・・・・ううっ」


 「どうした、イナリ? なんだか顔色が悪いようだが・・・・・・」

 心配してくるカナネさんにオレは彼女に耳打ちをする。

 彼女背が高いから、ヒソヒソ話しにくいな・・・・・・。


 「実はオレがいた国では、人の権利を大切にしていて、奴隷とかいう制度は禁止しているんだ。こういう文化には不慣れで・・・・・・」


 カナネさんも小声でまくし立てる。

 「なぜそれを先に言わないのだ!? 気分が悪いのならいっしょに外に出るぞ。なんなら宿屋まで運ぼうか?」

 いや・・・・・・そこまでひどくはないし、それにカナネさんの蜘蛛の背中で運ばれるものなら、もっと悪化しそうな気が・・・・・・。



 「何こそこそ話しているんですか、二人とも。外で待ってくれてもいいっすよ、おいらは別に」

 しまった、こいつ耳が凄く良いんだった!! まさかオレがこの国の住民登録に入ってないことばれてないよな!?


 「あ・・・・・・あの・・・・・・」

 なんか例の奴隷商の男が、弱弱しく語りかけてくる。

 「一人・・・・・・残っているんです。お安くしときますよ?」


 その言葉にアードの猫耳がピンッと起って、

 「早く言いなさいよ、それを」

 喜々として奥の方へと小走りしていく。

 

 オレもため息一つついて、

 「大丈夫・・・・・・この国の文化を学びたいから、不慣れなこの環境を我慢するよ」

 カナネさんといっしょに彼女に付きそう。


 そして、

 一番奥にいた。

 種族が狼人らしき女の子が・・・・・・。


 名もしらぬ彼女の態度や漂う雰囲気を見てオレは振り向き、背後に隠れている奴隷商に尋ねる。


 「彼女はこの奴隷商を経営している社長ですか・・・・・・?」


 彼は首を横に振り、

 「いえ、奴隷の一人ですよ。牢屋の中に佇んでらっしゃるでしょ? 首輪や手錠もつけているでしょ」


 だよな? 別に彼女が頬づえかいて胡坐あぐらで座り、こちらを見下すような目で見上げ、堂々と不敵な笑みを表しても、あの狼女が囚われていることには変わりはないよな・・・・・・。


 その狼の少女が、

 「有名奴隷店『絶望の入り口』へようこそ・・・・・・おい三下(商人)、お客さん達とうちに茶」

 鉄格子越しにその言葉を渡した後、レストランでウェイトレスに対して合図するみたいに指を鳴らした。


 「なんだ、やっぱり最高責任者か」


 オレの呟いた内容に、商人は焦って取り乱した。

 「違いますよっ!?」

 

 「おい・・・・・・」

 なんか、すごんだ女の声が牢屋から聞こえてきたんだが・・・・・・。


 「うちはお茶を汲んで来いと言ったんだ・・・・・・何をグズグズしてんだゴラッ」


 「は、はいぃぃいいいいっっ!!!!!!! すみませんでしたぁあああああああ!!!!!」

 そう叫んだ商人は、ダッシュで、地下室の給湯室へと向かっていく・・・・・・。


 「え・・・・・・え~と・・・・・・」


 「すまんなうちのパシリがとろくって・・・・・・。ところで自己紹介でも始めたほうがいいか?」


 「あ・・・・・・ああ」

 カナネさんが、信じられないものと出会ったみたいに呆然としている。


 「うちの名はガルム。自称だが通り名は『奴隷(スレイウ゛)大将ジェネラル』だ。治癒系の魔法が得意な神官で、冒険に連れて行くと役に立つぜ? お買い得だ」


 勝気系お姉さんなガルムの特徴は、髪は茶色で、頭頂部近くに紐で縛った長いポニーテール。

 釣り目な美少女。背はオレより少し高めでスレンダー。服はボロいシャツと長ズボン。

 それと彼女の頭から狼らしき獣耳と、ズボンの隙間からふさふさの狼尻尾が出ている。


 「あの・・・・・・カナネさん? この国では奴隷の概念や定義が違うのかい? 奴隷って、平民の上に立つ高貴な者って意味なのか??」


 「い・・・・・・いや、確か奴隷とは主人の命令を絶対に服従しないといけなくて、国から人権を認められてない一番位が低い身分のはずだが・・・・・・」


 カナネさんが答えた後すぐに・・・・・・。

 ドガッ! と、ガルムは座ったまま牢屋を激しく蹴る!?


 「おい・・・・・・うちは自己紹介済んだぜ・・・・・・? てめーら何阿保みてーに大口開いているんだぁ? さっさとてめーらも名乗れよ、あ゛あん?」


 「は、はいすみませんでしたぁあ! オレは 虎威 稲荷 で、オレの隣にいる紫髪のアラクネ族は・・・・・・」


 「カナネだ! パーティーポジションは『射手アーチャー』」


 「アード。オイラの名前のことです。『剣士』っすよ、パーティーポジションは。それと・・・・・・」

 

 「すいませんお茶汲んできました!」

 早!? 奴隷商人がいそいそと四つのティーカップを載せたトレイを持って、こちらまで急いで駆け寄ってくる。まあ気持ちはわかるが・・・・・・。


 そして彼は息を切らしながら、オレ達三人とガルムにカップを配る。


 「たっく、待たせやがって・・・・・・」

 ガルムは、まるで豪傑な日本戦国武将をイメージさせるようカップを高らかに揚げて、仰いで豪快に飲んでいた。


 「ぶっ!? これぬりぃじゃねえかっ!! 何飲ませてんだふざけてんのかてめぇええっ!!」

 少し紅茶を噴き出し、持っていたカップを、鉄柵の間を縫うよう、商人の鼻めがけて遠慮なく彼女が投げる!?


 彼に激突したカップは、床に落ちた後、乾いた音を立てては崩れて散らばる。

 「ぎゃあああぁああぁあああああああああっ!!??」

 哀れ、商人は鼻血を流しては少しの間うずくまり、すぐにオレの背後に隠れた。


 「ううぅ・・・・・・だって仕方ないでしょう。こう短時間だと作り置きしたものしか出せないんですよ・・・・・・時間かけて湯を沸かしても激怒するくせに・・・・・・」


 奴隷商人がぐちぐち呟く様子を見て、ガルムはため息をつく。

 「ああもう情けねえ~なあ~。普通、奴隷が反攻したらブチぎれて鞭とかで黙らせるのが奴隷商人じゃねえかよ? だからお前は万年平なんだよボンクラっ」

 

 「そうか・・・・・・そうなんですよな? そういえば私はあなた達を支配する立場だということを忘れていました・・・・・・」

 彼女の吐いた暴言に対し、商人はなぜか影が差すよう頬が緩み、ベルトについているポーチから『業務用』と思われる鞭を取り出した。

 やばい・・・・・・流石に怒っているな? 立場は彼の方が圧倒的に強いし・・・・・・。


 商人が調子よく鞭を格子にしならせて弾いている様子を前に、ガルムは怯えたり・・・・・・することはなく、彼女もなぜか口元を軽く曲げ、目を細めて嬉しそうに呟く。


 「ほう・・・・・・? たとえ商品を傷物にしてしまうデメリットを見越しても躾をしようとする態度は見事だが・・・・・・この『奴隷大将』をシメようとしてんのかお前は? 上等じゃねえか、かかってこいやゴラァあっ!!

 返り討ちにしててめえの首元を食いちぎってやる!!」

 そう犬歯・・・・・・狼歯を剥き出しにして挑発しようとするガルム!!

 

 恐いんだけどあの姐さん。

 彼女の凄みに、商人の鞭の動きも止み、わかりやすく顔が青ざめた。


 「え? 食っていいんすか商人を? 彼の首は差し上げますから、くださいな、目玉とか脳みそとか・・・・・・」


 「ああいいぜ? 遠慮はすんな」


 しばらく黙っていたアードも、なんか彼女の会話に交じり、とんちんかんなことを言っては、ますます商人の血の気が下がっていく。


 彼は気を取り直して、咳ばらいを一つ繰り出した。


 「・・・・・・・・・・・いかがですかな? ガルムさんを購入いたしますか・・・・・・」

 そう最初はクールを装って尋ねる商人だがすぐに・・・・・・。

 「嫌だぁあああ助けてお客さん! もうこりごりですこの私を自由にしてこのままじゃいつか商品になぶり殺しにされちゃう人助けだと思って買ってくださいよぉおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!!」

 腰を抜かして泣きついてきたのだった・・・・・・。


 「カナネさん・・・・・・助けてあげようよ。それに治療魔法使う人いた方が、冒険とかで助かると思うよ?」

 

 オレの頼みにカナネさんは瞼を閉じ、吐息一つついて、眉間に指を添え仕方なしに

 「わかった・・・・・・商人よ、彼女の値段を教えてほしい・・・・・・」

 そう承諾した。


 彼は彼女の言葉に、この地下室で太陽のように輝きだした。

 まるで囚われた人が、やっと戒めから抜け希望を手に入れたような・・・・・・。


 「はい! ガルムのお値段は銅貨一m」


 「ふ~ん? フェンリル教の巫女であるうちの価値、その程度にしか思ってなかったのか。こりゃ隙をついてリンチだな?」


 「間違えました。金貨十枚でございます」


 う~ん。この世界の通貨の重みがわからないオレにとっては、どういう基準で判断していいかわからないが、金貨とかまじで高そうな先入観が・・・・・・この支出で、カナネさんの財布に負荷をかけたくない・・・・・・。


 「ああその程度なら大丈夫だ。今支払おう・・・・・・」

 カナネさんは肩に掛けていたベルト付ポーチから、膨らんでいる財布を取り出す。


 「はいっ!!」


 もしかしたらカナネさんって、金持ち?


 商人は羊皮紙かもしれない一枚の書類とインクが付いている羽ペンを用意し、彼女に書かせ、その後金コインを十枚受け取った彼は、次に胸ポケットから鍵を取り出し、牢獄のカギを開け、


 「では、取引成立ですね・・・・・・」

 そしてすかさず錠が解かれたドアから離れる。

 

 その格子戸からは、

 「ああ・・・・・・これで怠惰な生活ともおさらばか・・・・・・」

 髪の毛を掻きむしり、欠伸あくびを噛み潰しながら、気怠そうな表情で、ガルムが出る。

 こちらに近づいてくる・・・・・・。


 「よし! これで心配ないですね、しばらく人肉のことについては」

 アード、喜ぶ前にカナネさんに感謝しろよ・・・・・・。


 「カナネさんすみません。オレのせいで、余計な支出をさせてしまって・・・・・・」

  

 「いや、気にするな」


 「まだ終わってませんでしたね、そう言えば・・・・・・」

 アードが、ガルムに寄って、中断された紹介を再開しようとする。


 「普通にしゃべれねえのか倒置猫・・・・・・さっきお前何かジンニクっつうたよな? お前、何のタイプの獣人なんだ・・・・・・?」

 ・・・・・・あ。


 アードが、口を開く。

 「ええ、ハイエナ獣人っすよ? マルウェージャコウネコタイプのね」


 しばらくの間、奴隷収容所は、静寂に包まれた。


 「・・・・・・さっき言ってた目玉や脳みそくれって、冗談じゃなかったのか? ・・・・・・テメ・・・・・・ご主人様は、グール・・・・・・なのですか・・・・・・」


 「はいっす!」


 ガルムの両目が点になり、軽く開いた口が塞がらないでいた。

 ふさふさ尻尾を太ももに隠す様子からは、これまでの横暴な雰囲気が嘘のような、初めて彼女から女性らしさが醸し出されているのを感じとれた。

 まるで怯えている子犬だな~・・・・・・なんか可愛く思えてきた。


 「・・・・・・・・・・・・」

 しばらく黙っていたガルムは、気を取り戻して指を一回鳴らす。

 「チェンジで」


 そんな彼女の命令も、商人はしてやったりといったよう微笑しては、

 「無理です」

 非情なる答えを、冷徹に伝える。


 顔の筋肉が強張り、明らかに動揺して静かにしているガルムは次に、

 「嘘だろぉおおおおおお!!? よりにもよって食人鬼に買われるだなんてざけんじゃねえよおい!! 性処理相手とか戦場の囮なら許容範囲だが、食材って一番最悪じゃねえのかよ、騙しやがったのかぁああっ!!!!!」

 全体に脂汗が流れ、頭を抱えながら、絶叫した。


 「最悪じゃないですよ? 太らせるのです、いっぱい食べモノ食べさせて。だから思うっすよ、役得じゃないですか? ひもじい思いをしている別の奴隷に比べれば」


 「てめぇえこっちに寄んな! うわもうマジかよ!!? あ~・・・・・・・・・・・・」

 しきりに叫んだあとのガルムは、腕を組んで瞳を閉じ、長考・・・・・・。

 「・・・・・・わ~った、腹くくるよ。てめーらと一緒に組んでもいいぜ。だが、うちを食おうものなら、こっちも黙っちゃいないからよ? 寝首を掻かれないよう気をつけなっ!!」

 

 おお承諾してくれた・・・・・・できるだけアードを空腹にしないようにするから。

 

 「ではこちらが、手錠や首輪を解く鍵となっております。契約者様に預からせていただきます」

 商人が、カナネさんに小指くらいの大きさを持つ鍵を渡した時に、

 「それをよこせ!」

 ガルムがその鍵を奪い、器用に手錠や首輪を急いで解除しようとするが・・・・・・。


 「はぁあ・・・・・・?! ぜんぜん回らねえ!!」

 慌ててなんとか拘束を外そうとするガルムに、商人は歪んであった口元をさらに曲げて、

 「残念でしょうが、この鍵は魔法を付加されており、契約した方のみその拘束具を解除することができます」

 説明して、ガルムが落ち込むのを確認した後に、むせた。笑いを我慢できなかったのだろう・・・・・・。


 「チッ・・・・・・」

 髪を掻きむしっているガルムが、カナネさんに鍵を返し、いきなり、


 「痛てっ・・・・・・!?」

 商人のふくらはぎ部分を軽く蹴りで小突いた!!? はらわた煮えたぎってるだろうな・・・・・・。

 かと思いきや、

 「さっきカップをおもいっきり投げたのは、うちもちょっとやりすぎたと思ったよ・・・・・・わ、悪かったな・・・・・・数か月間世話になったな、あばよ・・・・・・」


 なんか、彼女の頬が、少しだけ、ほんの短時間に染まったような・・・・・・?

 すぐにガルムがそっぽを向く。

 自分が謝ってるの、照れてんのか??


 「く~・・・・・・最後の最後までひどい小娘でしたよ・・・・・・あれ?」

 商人が、怒りで顔をゆがませた後、何かの違和感に気づいたらしい・・・・・・。

 「鼻の痛みがなくなって、血も完全に固まっている・・・・・・?」


 もしや・・・・・・

 小突いたタイミングで、

 回復魔法を使用したってことか・・・・・・?

 今まで自分の自由を奪った相手に・・・・・・・・・・・・??


 オレは、自分の体の震えを止められないでいた。

 ああ彼女は・・・・・・。


 

 「ガルムはツンデレキャラだったのかぁああああああああああああああああっっ!!!???」


 「うるせぇえこのボケェエェエエエエエエエエエエエエエッツ!!!!!!!!!」


 おもいっきり、顔を真っ赤にしたガルムに、オレは蹴飛ばされたのであった。


 

  



 


 




 

  


 

 

 



 

 

 

 

 


 


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