安全な白炎、危険な黒炎
よろしくお願い致します。
最近改稿した時期は、2019年8月1日。
今回の最初の語り手はダーティー魔王です。
「あ~・・・・・・会議に集中できねえ・・・・・・」
だいぶ前、私は空間移動を繰り返しながら、裏切り者二人をめぼしい場所中心に捜索していた。
ある時は過疎化している農村を・・・・・・。
ある時は私もよく通うヘルシー料理を取り扱っているレストランを・・・・・・。
ある時はスカイエルフ神道という宗教の総本山である神殿を・・・・・・。
しかし結局奴らのしっぽすら捉えることもできずにとうとう集合時間になってしまって、やむを得ず探すのを切り上げたのさ。
今は室内にいる・・・・・・円卓が部屋の真ん中に置かれており、会議に参加しているメンバーがそのテーブルを囲って椅子に座ってんだよ。ちなみに私は魔法の王だから上座・・・・・・というわけではなく、入り口に一番近い下座にいんだよ腹立たしいことにな!!
なんとか手前のエルフ耳を、誰かのプレゼンテーションに傾けようといやいや努力した時に、事件は起きたんだ。
室内にある無機物という無機物が・・・・・・たとえばテーブル上に置かれた陶器花瓶やタイルとか金属もろもろ等が、いきなり炎に包まれた・・・・・・。
窓に視線を向ければ、・・・・・・まあ窓のガラスや格子自体も燃えているんだが、その奥には街全体が、大火に飲まれている。
「なっ・・・・・・敵襲か!!?」
お偉いさんが、無駄にギャーギャーわめいている。もしや例のカラス共の狙いはこの女か?
うざってぇから私が説明しといとく。
「うざってぇなぁ・・・・・・この炎、白いだろ? さっき山で見かけたぞ。どうやら生物には無害だし熱くねえから安心してくたばっとけ」
お偉いさんはせっかく私が懇親丁寧に教えてやったのに、怒りをあらわにしてワーワー騒いでいる・・・・・・しかし騒乱はそこだけでなく・・・・・・。
「おいおいなんか四方八方から火事に対しての絶叫が聞こえんだがよぉ~お? いきなり出現した炎は安全だってことみんなに伝えなくていいのかなぁ。あ?
・・・・・・ん? なんじゃこりゃ! くそ熱いじゃねぇかその変な火」
あのチンピラサンドバッグがダメージを受けている・・・・・・?
白炎が弱点かこいつ・・・・・・なかなか良い情報を得たな・・・・・・。
「ほっとけチンピラヤンキー。すぐに収まる」
私がそう言った瞬間に、淡い光を放っていた炎が黒く染まった・・・・・・。
嫌な予感が、私の背筋に軽く伝う。見上げて天井に掛られてあるシャンデリアの灯を確認。
それらのろうそくの火はまだ、異常が現れてなかった。色が普通のオレンジ・赤とかな・・・・・・。
「む・・・・・・? 白い炎の色が変化しましたな・・・・・・まあ先程と同じように熱さを感じませんから会議も続行できますよな」
加齢臭と哀愁を漂わせている剣士がそう呟いていた。・・・・・・しかしまあ違うんだよな。
忠告しないといけないな。
「お偉いさんよ。すぐに医療班と水魔法使える下っ端を招集しろ。
痛みがないものは安全だという固定概念も捨てさせておけ。
あと頭痛や吐き気を感じたら、息を止めてその場から離れるということも伝えろよな・・・・・・一般人がどうなろうが私は知ったことじゃねえが、作戦に支障をきたすなら話は別だ・・・・・・」
私は指を鳴らして周辺を鎮火した。
全く・・・・・・光を呑み込む炎は、白い炎よりも嫌になるほど見覚えがあるっつうの・・・・・・。
※次からは語り手を主人公稲荷に、舞台を王都の楼門付近に変更いたします。
なんだ・・・・・・見間違いか・・・・・・? オレが繰り出した炎が全て別の色に変わったような・・・・・・??
片眼をこすり、注意良く目を凝らしてみても・・・・・・オレが魔法を繰り出す前と同じように軒並み全部真っ暗になっている・・・・・・。
「空中に舞っているこれらの灰、普通のとは違うっすね? うまく嗅覚が作用しません・・・・・・変な臭いがして」
地面に鼻を近づけ、クンクン嗅いでいるアードが、泣き言一つ。しかし
「まあ大丈夫な感覚もありますよ、おいらの聴覚の方はね」
と彼女は誇らしげに耳を動かしている・・・・・・そういやハイエナだったね君。
カナネさんは悔しそうに、
「くそ! 私は上半身は人間だから、特に感覚器官が優れた部分が触覚くらいしかない!! 全くもって不甲斐ないな・・・・・・」
叫んでいた・・・・・・つまりはオレ達人間を間接的にディスッているのか?
どうやら検問の門番は今は不在だな。悪いがそのまま進ませてもらおう・・・・・・。
「『墨色光』」
オレはそう術名を唱える。すぐに自身の掌から儚げなと言うべきか、とても淡い茶色の光が現れ、門を申し訳程度に照らす。
その木製扉は壊れていて、そのまま破れた部分に潜り抜けそうだ。
「薄いっすね色が・・・・・・悲しくなってきたなぜか」
アードが呟いたオレの魔法の感想を、無視して進もう。
「あっおいイナリ!!? 待っ・・・・・・」
あっ!?
しまった・・・・・・門前の地面に、警報の透明な魔方陣があること忘れてたっ!!!
しかしもう遅く、現在オレはもう門を通り抜け・・・・・・?
・・・・・・鳴ってない?
なぜだろうか、魔方陣とかをはじめとした魔法の類の知識は詳しくはない・・・・・・カナネさんが嘘をついているとも思いたくないしな・・・・・・もしや・・・・・・。
オレをこの世界までぶち込んだ那賀が気を利かせて、オレの国民登録の手続きを前もってしてくれたのか・・・・・・?
まあそうであろうがなかろうが、今はどうでもいい。その地味な光を頼りにカナネさんとアードと一緒に町の中を探索する・・・・・・。
さっきの発動した炎が消えた原因がわからない以上、もう一度繰り返すのは得策ではないかもな。
いきなり、
「あっおい光だ!! やっと救援が来やがったぞ!!!」
見知らぬ野太い声が、オレ達の横から飛んできた?
声の元の方に歩み寄って墨色光を向けると、一人のおっさんを発見・・・・・・。
「やった、助かった。なぜか炎をつけてもすぐに見えなく・・・・・・何水かけてるんだ!!?」
そうオレは、身を縮ませていておびえている初対面の男に、すぐに『浄魔』を大量に浴びせたのだ。
なぜかって・・・・・・?
そいつの体全体が、得体のしれない黒炎に体全体に飲み込まれていたからだ!! 熱さを感じてないのか!?
しかも彼は、まだ浅い方だが完膚なきまでに火傷状態になっており、服も所々焦げていた。とても外見が痛々しかったのだ。
だがもう大丈夫・・・・・・! この黒炎、普通に水をかければ消えるみたい。
「おい、イナリ気づいたか? 君の光魔法、先程鎮めた気味の悪い黒い火に吸い込まれていたぞ・・・・・・」
「ああ気づいている・・・・・・どうも周りにある光を吸収するらしいなその火は」
しかも、本来ブラックホール近辺を照らすために開発された引力の影響を受けにくい『墨色光』をこうも短時間に、渦を巻くよう吸い込むなんて、すごいな消えた黒炎・・・・・・普通の明かりなら人が視認できないほど素早く呑み込むだろうよ。
さて次は彼の肌を治療しないとな・・・・・・たしか・・・・・・。
「アード。あんたが持っている風呂敷の中に、医療道具が入っていたよな? すまないが彼の手当てのために使っていいか?」
「いいすよ、もちろん」
そう彼女は了承し、
「これ、はい!」
なぜか例の風呂敷から香辛料と塩の瓶をこちらに渡してきたのだ??
怪我を負っている男自体も怪訝な顔を表している。
「アード・・・・・・どういうこと?」
「いやぁだって・・・・・・」
彼女の顔を照らしてみてわかった。
やばい・・・・・・。
「食欲が抑えられるわけがないんすよ、こんな香ばしい香りがしたらね。塩でしょやっぱり焼きは!」
そう舌なめずりをしているアードの口元には涎が流れている。
「あっおっさん逃げて!! 彼女食人獣人だからぁああああっ!!!! カナネさんアードを抑えて!!」
「任された!」
すぐにカナネさんは、怪我人に飛び掛かろうとするアードを、蜘蛛の前足で捕縛する。
おっさんが食人鬼から安全な場所まで逃げるのに成功できた後で、オレは気づく。
・・・・・・おっさんをオレの生命力贈与魔法で、治しとけばよかった。
まあ気を取り直して、軽めにこの状況を考察しよう。
もしかしたら街中至る所にこの黒炎が・・・・・・? 少し本気を出すか!!
「『浄魔 タイプ豪雨』!!」
自分の掌を、天に向かってかざす・・・・・・空を仰いでも雲が見当たらない星空から大量の水の粒がとめどめもなく出現させて降らせる。
範囲はもちろん王都全体!
「雨いやっすよ~!! シャワーと温泉とプール以外の水浴び嫌い!! 雨宿りしましょうよ~、どっかで」
「さてどうしたものか・・・・・・。私は魔法を使えないし、このまま朝まで待って、役人に任せるか・・・・・・?」
カナネさんの呟きに、
「いや、そうもいかないっすね、残念ながら」
アードは否定して次に、
「燃焼音!! 四方八方軒下ら辺から聞こえます、身を屈めて避けろ!!!!」
猛スピードで、地に這って叫んだ!?
オレは無意識に急いで膝を曲げる。その瞬間、彼女の言ったとおりに、周りにある家々の屋根の影が照らされ、そこから炎の矢が表れて突進してきたのだ!!
最初は輝いている通常の火だが・・・・・・すぐに発光効果を失うよう黒く染まり、夜の闇に潜んでしまった。
しかしアードの注意喚起のおかげで、火炎攻撃は石畳を粉砕するだけ・・・・・・かな?
音で適当に判断した。オレとアードはなんとか無傷・・・・・・?
カナネさん背が高いじゃねえか! ちゃんと避けれたのか!?
現在進行形で使っている『墨色光』で、彼女の様子を確かめる・・・・・・ほっ、どうやら横に飛翔してなんとか事なきを得たな。
「上空から人鳥の羽音がします・・・・・・おいらの指さす方に!」
アードはそう口にしながら、とある方向に人差し指を向けた。
「空!? くそっ! 弓矢は宿屋に置いてきてしまったぞ!」
悔しそうにつぶやくカナネさんにオレは安心してくれと答える。
「どうするつもりだ・・・・・・?」
「もしかしたらこの状況を作り出したのとは別の奴かもしれない・・・・・・が、一応飛んでいる奴と会って正体を確かめないと始まらないな。今度はオレに任せとけ」
そう宣言した後にオレは新技を披露する。
「『ムササビマント』!!」
オレは両腕と股を広げる。次に各手と各足の間・踵と踵の間に白くてふわふわな膜を創り出した!
自分の背後に誰もいないことを確認し、その魔法膜を広げ、腹這体制で勢い良くジャンプした瞬間、すかざず次の魔法を発動。
「『非酸爆発』!!」
オレの後ろら辺に、人を軽々と吹き飛ばすであろう威力を持つ純白の爆発を発生させる!
いや実際に吹っ飛ばす・・・・・・自分自身を。
その爆風を利用し、ムササビマントを広げて空気抵抗を極限まで高めることにより、重力に逆らって上空に向かって滑空することができるのだ!! 今の時点では屋根の上まで昇れてる。
しかし結局は滑空・・・・・・爆裂の威力を失えば、ただただ地面めがけて緩やかにオレが落ちるだけ・・・・・・のを認めるわけねえだろ!! 連続で自分の下後方空間に『非酸爆発』を発生させて、目的地まで飛んでやるぜ!!
ドガァアアンボゴォオッンバカッアアアン・・・・・・ッ!!!
うわぁあ、爆裂の風圧思ったとおりにえぐくてきっついな。鼓膜がやぶれそうだ・・・・・・しかし魔力で作った雨の放出層よりも高度な位置まで飛んでいる時に、なんか人と鳥の合成獣らしきシルエットが、空中で羽ばたいているのをオレはなんとか発見! あっもちろん『墨色光』でかざしてだが。
・・・・・・さて準備しとくか。
そいつは女性らしくて、頭に羽飾りをつけていて、三つの鳥の足を持っている。カラス?
近づいてくるオレに向かって、彼女は口を開く。
「な・・・・・・何よあんた・・・・・・」
オレは人鳥というらしい亜人に質問する。
「なんか王都が真っ暗なんだが、あんた原因とか知っているのか・・・・・・?」
「私がしっ知っているわけないじゃない! それよりなんでモモンガみたいに滑空しているのよ!? 他にもっとましな飛行魔法とか使えないの!!? 正直だっさいわよそのフォルム!!」
うっさいわ。もともと神々が不要だと捨て去ったお下がりしかもらってないんじゃ便利な翼をはやす術とか無かったんだよちくしょぉおおおおおっ!!!!
「・・・・・・ところでなんでこんなところ飛んでんだよ? この異常な状況じゃ、犯人だと勘違いされるかもしれないってのに・・・・・・」
「こっちのセリフよ。ちゃんと理由があるの。私は、この町の市民から救援要請が来たから、調査に来た役人で・・・・・・って何落ちようとしているの!!?」
そりゃ、厳密に類すれば飛翔ではなく滑空だからな・・・・・・重力には負けてしまう。
「あっちょっと待って、今爆裂魔法使って・・・・・・」
次に、
「体当たりであんたを戦闘不能にしてやるからよ!!」
そうオレが叫んだタイミングで、足裏の空間に純白の爆発を起こし、その爆風を利用して、彼女の体にボディープレスをかました!!
奴は数メートルまで吹き飛ばされた後、態勢を立て直して再び翼を急いで動かす。
「ぐはぁああっ! なぜ私が犯人だと分かったのよ!!」
「え? 犯人? 良かった当たった」
とうとう奴がこの暗闇騒動の黒幕だと判定できたぞ♪
「えっ!? デマカセッ!!?」
「おう。とにかく怪しいのなら、片っ端から気絶させた方が確実かな~って。良かった良かった」
「良かったじゃないわよ!! もし私が本当の役人なら、あちらさん公務執行妨害で逮捕されるのにだわ!!!」
あ・・・・・・そこまでは考えが及ばなかった・・・・・・。
「えいもうやけくそだわよ!! これでも食らえ!!」
奴の足先全部から、火球がとめどめもなく発射された。しかしスピードはそんなに・・・・・・。
「~からの~、『暗染炎』!!」
そう人鳥が術名を唱えた瞬間に、向かってくる炎全部が黒く染まった・・・・・・犯人確定♪!
オレも空中に『浄魔』を遠慮なしに広範囲ぶちまけて防ぐ。
「なかなかやるわね・・・・・・それじゃ次はどうだ!?」
矢継ぎ早に、乱れ飛ぶ弾状・拡散する霧状・斬撃を伴う鎌状・標的を追尾する稲妻状の火炎攻撃を繰り出す彼女は、大量の水魔法でそれを全て迎撃するオレに、焦りを表し歯ぎしりした。
ふん・・・・・・なんでわざわざ明るい火を発した後黒く染める?
最初っから黒火で出すなら、オレはあんたの攻撃を回避できねえはずなのによ。
「水魔法うざすぎ! せっかく闇と見分けがつかなくなるよう黒く染めて撃っているのに、それを広範囲迎え撃って消火するなんてあんまりよ!!」
「はっはっは。ごり押し最強! ありゃ・・・・・・?」
なんかオレの視界端に、灰が飛び交っているのがわかった・・・・・・火は全部水で消しているはずだから、煙は出ても灰はでないはず・・・・・・?
あれ? なんか耳鳴りがしてきたぞ・・・・・・めまいも・・・・・・そして。
『墨色光』が、オレの背後に向かって弧を描くよう何かに吸い寄せられていた。まるでおふろの排出口に流される水のように・・・・・・。
確か前、黒い炎に飲まれたおっさんは、熱さを感じていなかったような・・・・・・。
急いで膨大な水をぶっかける・・・・・・オレの体全体に。
「ありゃ、気づいてたのね?」
「おいおい燃やすのやめてくれよ、この一張羅借り物なのによ。いつの間にオレの死角を狙って攻撃したんだ? ・・・・・・いや」
オレは話を続ける。
「違うな。あんたは自分の近くからだけじゃねえ、ある程度自分の周囲に自在に発火できるってことだよな? オレみたいによ!」
奴の体全体を純白の火で包ませる。人鳥の全体像がはっきり捉えることができた。
「ぐわぁあああぁあああああっ・・・・・・て、熱くない?」
彼女は数秒もがいていたが、気づいて羽ばたきなおした。
「あんたの黒い火みたいにだろ? 触覚ではとらえきれないところとか。で? どうすんだよそのまま燃え続けるかい?」
「くそっこんなのすぐに制御権を奪ってや」
「火傷したいのならどうぞ」
「う゛っ・・・・・・」
怯む人鳥。オレは顎を使って精神的に畳みかける。
「なんかあんたさっきから、炎放つ時、なぜか最初は普通のしか出さない
・・・・・・いや出せないだろ? 初めっから光を発せないよう黒くしてりゃ、オレは発動のタイミングがわからず成す術もなく気づくことすらままならないまま黒焦げになってるっていうのに」
まだオレは考察の披露を終わらせない。
「そしてあんたが言った制御権を奪うって発言・・・・・・オレがこの街に入る前に繰り出した『非酸』が黒く染まってたんだ・・・・・・。
つまり、あんたは自分が操る火以外にも他人が発動した炎や、もしかしたら自然の火も自在にできるという意味で、その言葉を口にしたんだよな? ただし黒く染めないと操れ・・・・・・」
「はい条件そろった。『消音爆破』」
語り途中のオレの眼前に、見えない爆発が炸裂した。
視界が回り、意識が明滅する。何が何やら混乱してしまう。
爆裂の衝撃によりオレは吹き飛ばされ、滑空がままならなくなってしまって、地面に向かって落下してしまう。
・・・・・・さっき爆音聞こえなかったけど、もしかしてオレが受けた魔法・・・・・・光を発さず闇に乗じる色をしているだけでなく、音も出ないのかっ!!?? 反則過ぎだろ!? そしてな・・・・・・。
オレはめいいっぱい叫ぶ。
「人の話をちゃんと最後まで聞いてけてめええぇええええぇえええええええええええええええっっっ!!!!!!!!」
ご覧くださりありがとうございました。