ここに来れたから
新連載です。
しかし、諸事情により定期的に更新できません。 ご了承下さい。
俺が彼女たちに何をしたのだろうか。俺が彼らに何をしたのだろうか。
こんな世の中がこの先ずっと続くのであれば、俺は死んでしまいたい。
「夢ならよかったのに」
朝起きるといつも思ってしまう事がある。それは消し去りたくても消えてはくれなくて、忘れ去りたくても忘れられない嫌な青春だった。
「早く起きてしまった」
いつもであれば俺は五時半に目覚ましをセットして起きるのだが、嫌な頃の記憶を夢で見てしまったからだろうか四時に目が覚めてしまった。
「はぁー。折角知り合いが誰もいない大学に合格できたと思ったのに、まさか浦瀬がいるとは思いもしなかった」
憂鬱になりながらも単位がかかっているため大学へと向かわなければならない。
大学までは徒歩十分で行き来できる距離だが、俺は三つのサークルに所属しているため朝練をしなければやっていけない。
小学や中学、高校の時に比べて今の大学生活は充実している。十八年間過ごした町を離れて都市部で一人暮らしを始めた。一人親家庭の上に子供が五人いる所謂大家族というもので、そこの末っ子である俺は親に苦労させたくない一心で高校卒業後就職するつもりだったが親が夢を叶えることを応援してくれたため大学の進学を決めた。本当ならば大学に行くのもタダではない、だから東京に進学した姉が借りた奨学金が返済しきるまでの間只々家計とここまで支えてくれた親のために就職して楽をさせてあげたかった。
「おーい、起きろ懸」
「ん、んん~」
「起きろって」
どうやら朝練で疲れて寝ていたようだ。
「ん、なんだ喜春か」
起こしてくれた奴を寝ぼけ眼で見てみるも誰かはわからなかったが、声からして同じ学部で同じ学科の同期で同学科で数少ない男子生徒の一人末田 喜春だった。
「なんだって。早く出欠登録しないと欠席扱いになるぞ」
「マジで、もうそんな時間か早くいかなきゃ」
俺は座りながら机に倒れこむように寝ていたため起き上がり教室の入り口付近にある出欠登録を行うパネルに学生証をかざした。
ピロリンと効果音が鳴ったのを確認して先程の席へと戻った。
◆◆◆◆◆
学食で俺たち二人が食事をしていると、向かい席に座っている喜春が訊ねてきた。
「どうしたんだよ。お前が講義開始直前まで寝ているなんて珍しいぞ」
「嫌な夢を見たんだよ。それが非現実的ならまだしも経験してきたことだったから余計にな…」
「ふーん。あ、」
スマホを操作しながら飯を食っていた喜春がスマホに視線を向け静止したままだったので手を振ってみた。
「どうしたいきなり」
「今日彼女の誕生日だった。やばい何も買ってねぇ」
「あ~らら、四年?五年だっけ」
「四年目、どうしよう。なぁ何買ったら喜んでくれるかな」
「そんなこと聞かれても彼女がいたことない俺にできることなんてないと思うぞ」
深刻そうな表情のまま黙り始めた喜春を見て少し苦しくなってきている自分がいる。
何かないかと自分の財布の中を見て実家暮らしの姉からからもらったあるものの存在に気付いた。
「なぁ、喜春」
「なんだよ彼女いない歴=年齢」
「その彼女いない人がお前に聞こう。お前って彼女とゴールデンウィーク一緒に過ごす?」
「まぁ一応」
「それって一日だけか?」
「いや確か三日ぐらい」
なら丁度いい。俺はこういうものはあんまり使わないし、というか使う機会がないから喜春に譲ろう。
俺は財布から某人気テーマパークの二泊三日間の宿泊券と入場券を喜春に差し出した。
「これ渡してGW一緒に過ごしませんか的なこと言っとけ」
「助かる。これで難関を一つ乗り切った」
先程まで世界の終わりみたいな顔をしていた喜春から安堵のため息が零れた。
「彼女持ちは大変だな」
俺たちの話を聞いていたのか、喜春に向かって気付きにくい茶髪の男子が話に入ってきた。
「おはよう。義弥そういえば一、二講何してたんだ」
「おはよう。寝てた。」
「馬鹿だろ。単位落とすぞ」
俺と喜春は特待生を狙っているからだろうか。
同じコースの男子の中でどの講義も毎回出席しているが、この男 織笠原 義弥はこのように偶に遅刻してくるような奴だ。
「彼女の誕生日忘れる奴に言われても...」
この大学に来てよかったと思えるのは、こいつ等と一緒にこの大学に来れたことだ。
この大学生活で俺は勉学に励み、首席で卒業してやる。
もうあんな人生を送らない為にもな