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残酷な世界で引き金を引け  作者: ネコパンチ三世
22区~絆~
5/6

四射目 『へばりつく違和感』

 朝早くビルを出た甲斐があり昼前にカナと宇佐美は22区の中心の街に入ることができた。この国は先の戦いで滅茶苦茶になってしまっていた。爆撃や市街戦によって建物はその多くが破壊され、コンクリートで舗装されている道がツチノコ並みに見つけれなくなっていた。区の基本構造としては中心に大きな人口密集区域があり『街』と呼ばれそれ以外は『町』というこじんまりとした集落がぽつぽつとあるといった具合だ。


「それにしても……今日も暑いですねぇ……」

 

 カナが額の汗を拭う。太陽は輝き、今日はまだまだ暑くなりそうな事を容易に想像させており二人の目の前の景色は暑さで歪んでいた。


「そうだな、水分補給はしっかりしろよ」

 

 そう言いながら宇佐美はカナに水を手渡した。


「ありがとうございます」


 カナはペットボトルの水をごくごくと喉を鳴らして飲むと水が体の中を下って行くのがはっきりとわかるほど喉が渇いているのに気づく。


「というか上脱がないんですか?」

 

 カナは宇佐美のコートを指さす、会った時からカナは思っていたが宇佐美の恰好はこのかなり異色だ。ぼさぼさの頭に、黒いトレンチコートそれと大きめのリュックというかなり人目を引く格好だ。加えてこの暑さの中でもコートを脱がない姿勢は驚きを通り越しカナの中で尊敬に変わりつつある。


「脱がなくても大丈夫だから」


 --宇佐美さんには暑いっていう言葉はないのかな?

 

 歩きながら宇佐美は答える宇佐美に対してカナはそう思わずにはいられない。

 ふともう一つ疑問がカナの暑さで溶けそうになっている頭に浮かんだ。


「そんな目立つ格好してていいんですか? 統括官を二人も……殺したんですよね? だったら、もっとそれらしい服装にしたほうがいいんじゃないですか?」


「昨日も言ったが各区のつながりは薄いんだよだからたとえ、統括官を殺しても中々連絡なんてまわらない、それが今の現状だ加えて今はもっと重要な事にかかりっきりだろ」


 カナは先日の会話を思い出した、聞きなれない『破銃』という言葉を。言葉の響きからして銃である事は間違いないはずなのだが。


「そういえば、破銃を探せって命令が来てるって言ってましたね。宇佐美さんも持ってますけど、あれって何なんですか?」

 

 宇佐美は顔を曇らせた。内心あまり喋りたい事柄ではないが、だがここまで来てしまっては教えるほかあるまい……と宇佐美は結論を出した。


「あれか……あれはな……」


 宇佐美が言葉を言いかけた時だ。


「助けてくれええええええええええ!」


 一人の男が、あたり一帯に響き渡る声を出しながら路地裏から転げ出てきたのが遠目に分かった。続いて、兵士が男の後を追って飛び出してくる。


「ったく、散々逃げ回りやがって大人しく来いってんだよ!」

 兵士が忌々しそうに言うとほかの兵士たちも続々と集まってきた。


「俺は何も言ってねえよ! 一体何なんだよ!」

 

 男は兵士たちの手を振り払い必死に抵抗しており、体は汚れ服が所々破れている男は息も絶え絶えに訴える。

 すると、一人の兵士が薄ら笑いを浮かべた。それは嘲笑とも憐れみとも取れるなんとも嫌な笑顔だ。


「残念だったなぁ、お前が統括官に対しての不満を言ってたって通報があったんだよ」


 男は驚きの色を隠せずに目を見開き体を震わせる。


「だ、誰がそんなことを……!」


「お前のお友達だよ、反乱分子を見つけましたって喜んで協力してくれたぜ」

 

 ニヤニヤと笑いながら一人の兵士が現実を男に突きつけた。それは明確な友の裏切りだ、信じていた人間に最悪の形で裏切られた時人間の心はいとも簡単に砕ける。

 

「嘘だ嘘だ嘘だ……信じてたのに……殺してやる、殺してやる……!」

 

 男は、壊れたラジオのように空を見上げ同じ言葉を繰り返す。最早その目には希望も明日も正気すら残っていない、あるのはただ裏切った人間に対する恨み、絶望、殺意だけだ。


「怖い怖い、危ないやつが捕まってよかったなあ」

 

 兵士たちはおどけて笑っている。周りの通行人せめて自分には火の粉が飛ばないように必死に口角を釣り上げ愛想笑いの渦を作っている。


 今まで、宇佐美の見てきた兵士は例え自分の目の前で人が殺されようがその犯人を逮捕する振りすらしないような奴らだった。そのため、宇佐美には目の前で起きていることがより異質に感じられる、なぜここの兵士たちはここまでしっかり働くのか? それが宇佐美には疑問だった。

 理由は詳しくは分からないが下手に関わらないのが得策だと宇佐美は長年の経験から判断した。


「理由は、わからんがここの兵士たちは面倒そうだっさっさと離れ……」

 

 声をかけようと目線を向けると隣にいたカナはもう男の元へ走りだしそうになっていた。カナは宇佐美と違い感情で状況を判断してしまったようだ。宇佐美は慌ててカナの肩を掴み声を潜める。


「やめとけ」


「だってあの人……!」


「行って、お前に何ができる? あの男と二人仲良く連れていかれるだけだぞ?」


「とにかく今は耐えろ、いいな?」

  

 うつむいたままのカナを連れ、宇佐美は道を変え少し広い道に出るとたくさんの人と店がある。どこにでもある普通の光景だ。


 だが何か嫌な違和感が宇佐美を襲う。

 答えはすぐに分かる事になる。区の情報を聞くと誰もが口をそろえこう言った。


「この区は素晴らしい所ですよ! すべては優秀な統括官様のおかげだ」


 他の事は普通に話すのだが、区の状況や統括官の話になると途端に同じ言葉を繰り返す。


ーーいくら、統括官の存在が絶対的とはいえ不満の一つや二つあってもおかしくはないはずだがな……。


 宇佐美が思案に暮れていると先ほどから黙ったままだったカナが口を開いた。


「宇佐美さん……おかしいですよこの町……」

 

 カナは得体のしれない物を見るような顔でつぶやいた。見るとカナは宇佐美のコートの裾を掴み震えている。


「おかしい? どこに違和感を感じたんだ?」

 

 宇佐美はちょうどカナの意見を聞いてみたいと思っていたところだった。宇佐美一人では気付けない所に気付いてくれているかもしれない。そしてカナは震えながらその言葉を絞り出した。


「みんな、お互いの事を信用してない……ただの一人も……そんな感じがするんです……」

 

 コートを掴む手はまだ震えていて、空には厚い雲が重くのしかかり始めていた。

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