6話 え、ルイスってロリコンではなかったのかい?
「え、ルイスってロリコンではなかったのかい?」
「俺のどこをどう見たらそんな結論になるんですかね、先生」
ティナから話を聞いた俺は学園案内もそこそこに速攻で先生の研究室を訪ねていた。
何冊もの本や魔法陣の書かれた羊皮紙が散乱する室内は口が裂けても綺麗とは言えなかったが、大体魔術師の研究室ってのはこんなもんだ。
適当に荷物をどかして出来たスペースに俺は現在取り組んでいる研究である魔粒子適性の反作用についての論文を広げ、読解に取り掛かる。
「私もルイスはロリコンだと思ってた」
「ティナ、お前まで……」
別のテーブルには俺と同じように何かしらの作業を行うティナの姿も。
俺とティナは良くこうしてマクレガー先生の研究室に入り浸っている。
それもこれも全ては先生の技術を盗むため。
幅広い技能が求められる魔術師はそれぞれが独自に師匠とも言うべき人間を見つけてその技を盗むことが伝統として推奨されている。正式に魔術を教えるのならば教授は研究会を開き、生徒を募るのだがマクレガー先生は自分の研究で忙しいため研究会は開いていない。
俺たちが勝手に研究室に押しかけているだけだ。
「ルイスの浮いた話は一度も聞いたことがないから、僕はてっきり年下の子が好みなんだと思っていたよ。ミスティアとも仲が良いしさ」
そういって紅茶の入ったカップをそれぞれの前においていく先生。
今日にしても強引に部屋を借りているというのに、嫌な顔一つしない。懐が深いのだろう。流石は先生だ。
「ティアとは専攻が一緒なだけですよ」
「ルイス、照れなくて良い」
「照れてない照れてない」
「嘘は必要ない。ルイスは私のないすばでーに魅了されたの。そうでしょ?」
「お前のどこを見たらナイスボディに見えるんだよ。まな板と寸胴じゃねえか」
確か歳は14歳だったはずだが、色々と足りていないティアは年齢以上に幼く見えてしまう。そもそもお洒落に気を使うようなタイプでもないからな。子供っぽく見えるのは仕方ない。
「……ないすばでーでない私はつまり、ルイスの好み?」
「だから俺はロリコンじゃないと言ってるだろうが」
これでも学園創立以来の天才児と持てはやされているティアなのだが、こうして話しているとそんな知性の欠片も感じられないからビビる。
もしかしたらまだリリィの方が賢いかもしれん。
「……そんでお前はそんな隅っこで何してるんだよ」
「り、リリィはここで良いよ。安心するから」
そのリリィなのだが、研究室に入ってからすぐに部屋の隅に移動して動かなくなってしまっていた。
まあ、慣れない環境で縮こまるのは分からないでもないが、まるでリリィを一人だけ除け者にしているみたいで俺としては居心地が悪い。あれでも一応、俺の眷属(仮)だからな。
「というかまだ二人にちゃんと紹介してなかったっけか。丁度良い機会だ、ほら、リリィ。ちょっとこっち来い」
というわけで俺は二人にリリィを紹介することにした。
といっても、顔合わせはもう済んでるから本当に簡単な紹介だが。
「こいつが今回の眷属召喚で"なぜか"召喚されてしまったリリィだ。しばらくは預かることになるだろうから、二人も何かと気にかけてやってくれると助かる」
幼女召喚は俺の望んだところではないことを理解してもらうため、あえて一部を強調しながら二人に告げる。
「僕も無関係というわけではありませんからね。何か困ったことがあったらすぐに言ってください。出来るだけのことはします」
「流石マクレガー先生、頼りになります」
即答してくれた先生とは違い、無言のままじっとリリィを穴が空くほど見つめるティア。こいつは一体何がしたいんだ。
「……これがルイスの求めている女性像?」
「だから違うと言ってるだろうが」
「これなら私の方がないすばでー。ルイス、今からでも私を眷属に替えるべき」
「人の話を聞け。あとお前の体型も大差ないから。幼児体型だから」
天才というのは人の話を聞く機能が著しく欠如しているのか?
副学園長とは別の意味で話にならない。まあ、元々こいつの助力には先生の十分の一ほども期待していないから構わないが。
「というかお前は人の体型を分析する前に名前を名乗れ」
「……先生もしてない」
「先生は昨日したからもういいの。ほら、リリィもお前にガン見されて困ってるじゃねえか。年長者として少しくらい気を使え」
俺の言葉に、しぶしぶと言った様子で従うティア。
全く、これだから社会不適合者は困る。
「私の名前はミスティア・ブランシェット。魔導具製作に携わる一門の出身。将来は魔巧技師になることが目標。以上」
「清々しいまでに額面通りの自己紹介だな。まあいいけど」
普通、自己紹介する時に付け加えるなら趣味とかだろうけど、コイツの場合は魔導具製作が趣味みたいなもんだからな。
「り、リリィのなまえはリリィ! です! しゅっしん? は分からないけど、目標はルイスの役に立つこと! です!」
敬語を使うことに慣れていないのだろう、妙な口調になりながらもしっかりとリリィは自己紹介を返した。それも相手と同じ内容で。なかなか礼儀正しい子だ。ティアとは大違いだな。
「ルイスの役に立つ?」
「う、うん。リリィがここにいるためにはそうしないといけないから……」
確かにそういう約束をした。
だけど、それを人前で言うのはやめてね?
案の定、ティアと先生が人でなしを見るような目で俺を見ているから。
「ルイス、君は一体こんな小さな子に一体何を要求するつもりですか……」
「何を慄いた風に言ってるんですか。心配しなくても何も要求なんてしませんよ」
代わりに何の要求を呑むつもりもないけど。
先生も俺がそんなことをするとは思っていなかったのか、「それもそうか」と呟くと興味なさげに近くの羊皮紙を拾いながら研究に戻っていった。どうやらさっきの台詞が言いたかっただけらしい。相変わらず性格が悪い。
とはいえ、まあ……
「ルイスの役に立てるのは私。幼児には荷が重い。今すぐ眷属を代わるべき」
「リリィにだってできるもん!」
何の言い合いをしているのか、リリィと同レベルの言い合いを続けているこいつよりはマシだろう。
ティア……お前の精神年齢はいくつだよ。