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5話 ルイスは……ロリコンだったの?

 俺とリリィは一つの約束というか、賭けを行うことになった。

 リリィが俺の役に立てればリリィの願いを俺が聞く。大雑把に言うならそういう感じの内容だ。

 そこで問題になるのが俺の目的が何なのかってことなんだが、これに関しては明確な一つの目標がある。


「こっかまじゅつし?」


「ああ。それが俺の目指してる職業……って、ちんぷんかんぷんって顔だな」


 指を口元に当て、可愛らしく小首を傾げるリリィ。

 まあ、こんな子供に理解しろというほうが無理な話か。


「分かりやすく言うと国に尽くす正規の魔術師ってこと。これには学園の卒業が絶対条件だから、当面の目的はそれになる」


「それってどれくらいかかるの?」


「それは人によるな。っていうのもこの学園の卒業資格は1組に所属する成績上位者10名に限られてるんだ。半期毎に卒業生が出るとはいえ、年に20人しか卒業できない狭き門……それがこのアンディール魔術学園だ」


 加えて、俺達は入学時に配属された8組から半期毎にクラスの成績上位を勝ち取り、"昇級"しなければならない。そうなると当然、一クラスの人数は限られているので昇級するものがいれば"降級"するものも出てくる。

 成績が振るわなければそれこそアリ地獄のようにこの学園で飼い殺されることになるのだ。


「えっと……ルイスは今、確か4組なんだよね? それだと卒業するまで最短で……」


「2年だな」


「長いよ! きげんは一週間しかないのに!」


「慌てるな。何も俺を卒業させることが条件ってわけじゃない」


「……そうなの?」


「ああ。それは契約が完了した後で良い。というか今更になるが、もしも俺達の契約が成立した時はかなりの長期間お前を拘束することになるが良いのか?」


 学園を卒業するまでに区切っても、何年かかるか分からない道のりだ。下手をすれば5年、10年と続く可能性がある。この学園の規定により10年以上の在学は認められないのでそれ以上ということはないが数年単位の契約になることは疑いようがない。

 確認の意味を込めて聞いてみたのだが、当の本人はあっけらかんとした様子で、


「うん、いいよっ」


 本当に分かっているのか疑いたくなる気楽さで首を縦に振るのだった。

 一生に渡る契約も珍しくない眷属契約とはいえ、リリィは高位の魔物と違い寿命の短い人族なのだ。特に若い頃の数年は重要な価値を持つ。そのはずなのに……いや、そんなことは俺の心配することじゃないか。そもそも契約がなるはずもないしな。


「でもそれだとリリィは何をしたらいいの?」


「んー、それなんだよな。長いスパンの契約内容だけに、短期で結果が出しにくい……まあ、出してもらっても困るんだが(ボソッ)」


「え? なんて?」


「当面は俺のサポートを頼むって言ったんだ。内容は何でも良い。俺が国家魔術師に近付けるように全力を尽くしてくれ」


「んっ……分かった!」


 よし。かかった。

 評価するのが俺なら、実際の成果がどうあれ強引にこの幼女をクーリングオフすることが出来る。昨日の夜、睡眠時間を削ってまで作戦を考えた甲斐があったぜ。


「ふっ、流石は俺。偉大なる大魔術師になるに相応しい、明晰なる頭脳だ」


「ねえ、ルイス」


 俺が感慨に耽っていると、何やら服の袖を引っ張られる感覚が。

 見るとリリィが俺の手を引きながら、周囲をきょろきょろと見渡していた。


「どうした?」


「ん、なんかね。さっきから見られてる気がして……」


 そわそわと落ちつかなそうにしているリリィ。

 俺とはかなり話せるようになってきたけど、基本的に人見知りだったな、こいつ。学務科だと借りてきた猫みたいに大人しかったし。


「そりゃ学園内を歩いてれば誰かには見られるさ」


「う、ううん……そういうのじゃなくて……」


 不安げなリリィがぎゅっと更に強く俺の服を掴んでくる。

 一体何がそんなに……ん?


「確かに……妙に注目されてる、か?」


 この学園には平民出身の生徒が少ない。

 そういう意味で俺は普段から悪目立ちしているから意識的に無視するようになっていたのだが……どうもリリィに視線が集まっているような気がする。


 まあ、確かにこんな場所にいるには相応しくない年齢だからな。

 学園に入学できるのは12歳以上に限られる。リリィはどう見ても10歳にも届いていない。なるほど、注目されるわけだ。


「とはいえ、部屋で大人しくしてろってのも無理な話……だよな?」


「うん! リリィ、がんばるよっ!」


 両手に力こぶを作るリリィはやる気満々だ。

 しかし、今以上に目立ってしまうのは些か具合が悪い。リリィを連れてきたのは間違いだったか?


「──ルイス」


 脳裏に過ぎる後悔に、俺が腕を組んでいると唐突に名前を呼ぶ声がかかった。

 まるで鈴の音のように美しく、そして同時に無機質な声。

 俺はその声に聞き覚えがあった。


「……ティア?」


 振り返るとそこにはこの学園の女子制服に身を包む小柄な女性が立っていた。

 美しい銀髪を靡かせるその少女は眠たげに開かれた瞳で俺をじっと見ている。というか……


「お前、どうしてここにいるんだよ。お前のクラスは別校舎だろ?」


 ミスティア・ブランシェット。

 俺の後輩にあたるこの女生徒は現在5組に所属している。4組以上の生徒が集まるこの校舎で見かけるには珍しい人物だったので問いかけたのだが……


「ルイスに会いにきた」


 まるで恋人同士かのような台詞を無表情のまま言うティア。

 その台詞だけで勘違いしてしまいそうになるが、こいつと俺はそんな甘酸っぱい関係ではない。ただの友人だ。


 俺が言えた義理ではないのだが、ティアは友達が少ない。

 そもそも友達を必要としていないんだろう。無表情の裏で何を考えているかまでは分からないが、研究一筋のコイツは基本的に他者を鬱陶しく感じるタイプだ。

 そんなティアがわざわざ別校舎まで来たのだからきっと相当な用事なのだろう。


「あ、もしかしてこの前話していた術式の魔法陣化が終わったとか?」


「それはまだ。もう少し時間が欲しい」


 ぴんと来たから聞いてみたのに、どうやらハズレだったらしい。

 男の勘は頼りにならんな。


「それなら何でまた?」


「……変な噂を聞いた」


「噂?」


 何だ? 俺に関わることか?

 どうせまた貴族の連中が嫌味なことを言っているんだろう。いつものことだ。

 やれやれと肩を竦める俺だったが、ティアの口から出たのは予想外の言葉だった。


「ルイスは……ロリコンだったの?」


「……………は?」


 いきなり何を言い出すんだコイツは。

 俺がロリコン? 馬鹿を言うな。俺は付き合うなら包容力のあるお姉さまと心に決めている。年下の女なんてわがままを言うばっかりでちっとも役に立たんからな。


「誰がそんなことを言い出したんだよ。ぶっとばすぞ」


「でも……」


 珍しく口ごもるティアが視線を向けた先には、きょとんとした顔で見つめ返すリリィの姿が。

 ま、まさか……


「眷属召喚で呼ばれるのは術者の意思に沿う者と聞いた」


「……つまり?」


「ルイスは幼女趣味の変態野郎」


「直球過ぎる誤解をどうもありがとうよ! くそったれ!」


 確かに嫌な予感はあった。

 副学園長にも"そういう風"に捉えられていたし、実際能力的な面ではなく周囲の世話を任せるために眷属を呼ぶケースも少なくない。

 だから俺が可愛い女の子を侍らせるために幼女を召喚したのだと誤解する馬鹿が一定数はいると思っていたのだが……


「友達ゼロのお前にまで伝わってるってどんだけひどい拡散力だよ!」


「む……友達ゼロは言い過ぎ。ルイスがいる」


「俺以外にはいないだろうが。というかその話、誰から聞いたんだよ」


 もし積極的に広めようとしている奴がいるなら一発殴ってやらないと気がすまんぞ。


「私はマクレガー先生から聞いた」


「あのくされ教師がああああぁぁぁぁ!」


 ティアの口から出たまさかの名前に俺は叫ばずにはいられなかった。

 先生はそういう愉快犯的なことを衝動的に行う少し、いやかなり底意地の悪い性格をしている。柔和な顔立ちに騙されやすいが、基本的にドSなのだ。あの人は。


「くそ……俺に味方はいねえのかよ」


 落ち込む俺に、くいくいっと袖を引っ張り自己主張するリリィ。


「リリィはルイスの味方だよっ!」


 上目遣いでそう宣言するリリィはとても健気で思わず可愛いなんて思ってしまいそうになるが……


「いや、全ての元凶はお前だからな?」


「???」


 結局、何も分かっていない様子のリリィ。

 俺は事ここに至り、一つのことを確信するのだった。

 この子……天然だわ。

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