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召喚されたのは幼女でした。  作者: 秋野 錦


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45話 全ての黒幕

 昔、一度だけ通ったことのある薄暗い通路を進みながら俺は思案に暮れていた。考えるのは今回の事件の発端。その始まりについて。


 俺はずっと疑問に思っていた。

 なぜ俺の行った眷属召喚では幼女が召喚されてしまったのかを。


 普通は人族の女の子が召喚されるなんてことは有り得ないはずだった。幾ら願ったとしても、詠唱を工夫したとしてもその前段階である魔法陣に記載されている以上、指定の霊獣以外は召喚されるはずがないのだ。


 だが、リリィは現実として俺に召喚された。それはなぜか?

 俺はずっと誰かが魔法陣に細工を施したのだと思っていた。だからこそ、先生から魔法陣に異常が見つからなかったと聞いて驚いたのだ。魔法陣開発の第一人者である先生が言うのだからそれに間違いはない。


 なら、どうしてリリィが召喚された?

 考えられるパターンは幾つもない。


 一つは先生の目を盗むほど精巧に術式が隠されていたこと。だが、術式(プログラム)内に紛れ込んだ異分子(バグ)を見つけるというのは実はそれほど難しくない。

 普段、先生が研究している魔法陣のデバック役として俺やティアが駆り出されていることから見ても、それは分かることだ。要はちょっと齧った学生程度でもこなせる業務ということ。その道のプロである先生が一週間もかけて結果、見落としたなんていうのはちょっと考えにくい。


 ならば他の可能性だ。

 他に考えられることは、そもそも使われていた術式と先生が検査した魔法陣が別物だったという線。俺が途中で考えていたのがこれなのだが、俺が眷属召喚をするタイミングに限り魔法陣に細工が施されていたという可能性だ。


 これをするには魔法陣に限りなく近づきつつ、完璧なタイミングでそれを行うしかない。だとすれば、実行可能な犯人はかなり限られてくる。一人は監督官だった教師。そしてもう一人がゴルゾフだ。


 俺の直前に眷属召喚を成功させたゴルゾフなら、周囲の視線を火竜に集めている間に術式を書き換えることも不可能ではなかっただろう。この場合、どうやってその術式を元に書き戻したのかが気になることだったが、俺の前代未聞の幼女召喚によって騒ぎ上がっていたあの会場内でそれをすることは難しくなかったはず。


 そう言った状況証拠から、俺はゴルゾフこそが犯人だと思っていた。

 だが……そのゴルゾフもまた、操られていた。


 それを証明するものが火竜の見せた反転支配だ。術者の意思に反したあの現象は普通の眷属召喚では起こりえないリスクのはずだった。だがそれが実際に起きてしまった。これはつまり、ゴルゾフもまた俺と同じく嵌められた側であることの証明に他ならない。


 加えてゴルゾフが本当にリリィを狙っていたのだとしたら、そもそも火竜を召喚したことそのものがおかしい。一度俺に召喚させるなんて手間をかけなくても、自分でリリィを召喚すれば良かった話なのだから。


 これでまた一つの可能性が消えた。

 もしも、ここまでの情報しか持っていなかったら俺は真実に辿り着けなかったかもしれない。全ての可能性を潰され、他に見える道が存在しなかったからだ。


 そんな俺に光明を与えたのが、ゴルゾフが俺に残したあの言葉。

 その真犯人の名前なのだが……正直、今でも少し信じられない。

 だが、その答えを与えられてしまえば全ての出来事に説明がついてしまうのもまた事実。


(ゴルゾフはただ良いように使われていただけだった。火竜という高位の幻獣を餌にされればどんな生徒だって飛びつくだろうな。それが身の丈に合わないものだとしても)


 もしかしたら反転支配が起こってしまった原因はゴルゾフ自身の実力不足だったのかもしれない。強引に術式により縛られた幻獣が主人に対して牙を向くなんてありふれた話だ。それこそ一昔前の眷属召喚では反転支配なんて珍しくもない話だったらしいしな。


(力を求め、空を目指した天使はその身を太陽に焦がされ、地に堕ちる、か。魔術師も身の程を弁えなければ待っているのは見るも無残な術式事故(アイン・フォール)ってな。自業自得なのだとしても、少しは同情してやるぜ。ゴルゾフ・ディーン)


 すでにこの世を去った同輩に心の中で黙祷を捧げつつ……俺はその扉を開けた。禍々しさすら感じる装飾により彩られたその門は地獄への道か、それとも神秘の扉か。どちらにしろ、俺にとっては過ぎたものだ。

 俺はただ……リリィを返してもらえればそれで良い。


(……その代償がこの現実なのだとしたら、あまりにも無慈悲に過ぎるシナリオだけどな)


 全ての可能性を消された俺は、ゴルゾフの言葉によって真実を知った。

 だが、それは知ってしまえばなんていうこともない話だった。というより、普通はまず真っ先にその可能性こそを挙げるところだろう。


 だが、俺はその可能性に行きつくことはなかった。

 その可能性なんて、頭の片隅にすら浮かばなかった。

 なぜなら……"彼"はそれだけ、俺にとって大きな存在だったから。


「……嘘だと思いたかった。アンタが犯人だったなんて、ゴルゾフが保身のために口走った出任せなんだって、そう思いたかった」


 そう。真実はなんてことはない話だった。

 魔法陣に異常がなかったんじゃない。

 魔法陣に異常がなかったと、俺はそう誤認させられていただけだった。

 だけど、それも当然と言えば当然の話。なぜなら……


「だけど……嘘じゃなかったんだな。"先生"」


 白衣を纏い、俺の前の前で佇む男──マルク・マクレガー。

 彼こそが、そう言ったからだ。

 研究室で、俺に向けて異常はなかったと。彼が言った言葉だったからこそ、俺は疑うこともなくその言葉を信じてしまった。その先生こそが……犯人だとも知らず。


「俺は……アンタを信じていた」


 だけど……事此処に至ってしまえば、もう信じる信じないの次元の話ではない。先生の後ろで磔状態に拘束されたリリィを見てしまえばもう、疑いようなんてない。


「先生、いや……マルク・マクレガーッ!」


 ティアから受け継いだ"白銀"を懐から取り出しながら、俺は恩師に向けてその切っ先を向け、叩き付けるように叫んだ。


「リリィは返してもらうぞ! 例え……アンタを殺してでもッ!」


 俺の絶叫のような怒号に対し、先生はただ……


「僕の研究室にようこそ、ルイス」


 いつものように、俺を優しく笑って迎え入れるのだった。

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