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召喚されたのは幼女でした。  作者: 秋野 錦


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42話 もう一度

 熱風が吹き荒れる。

 すでに周囲は灼熱地獄と化していた。

 それは火竜の持つ魔粒子がいかに強力だったかを示す証左。全く衰える様子を見せない火の手に俺は必死に逃げることしか出来なかった。


「あの……馬鹿やろうがっ……」


 ただ一人、ゴルゾフをあの場所に残して。

 込み上げてくる感情を必死に殺しながら俺は走った。体中の痛みを『水蓮』により癒しながら。


「はあ……はあ……くそっ!」


 時折、道を塞ぐように現れる火の手に対しては『水閃』に切り替えて飛び越えていく。魔術の同時使用が出来ない以上、仕方のないことなのだがこのタイムロスは痛い。

 今は、一刻の猶予もないのだから。


(リリィ……リリィ……っ!)


 最後にゴルゾフが俺に与えてくれた情報によると、今まさにリリィは窮地に立たされているはずなのだ。路地裏で戦った魔術師が再び、リリィの前に現れれば今度こそリリィは連れて行かれることだろう。

 今、彼女を守ってくれる人間は誰もいないのだから。


(頼む、頼むっ、無事でいてくれっ!)


 訓練場を抜け、急いで男子寮へと向かう。

 途中で火事に気付いたらしい教師達とすれ違ったが、事情を説明している暇もなかった俺は一目散にリリィの元へと急いだ。そして……


「──リリィっ!」


 バンッ、と勢い良く開けた扉の先には……


「……くそっ!」


 リリィの姿はどこにもなかった。

 返って来ない返事に、思わず壁を殴りつける。

 俺は……間に合わなかったのだ。


「ぐっ……!」


 ぐらり、と視線が揺れる。

 どうやら俺の体の方も限界に近いらしい。これまで相当な無茶を続けてきたのだから、それも当然と言えば当然。特に焦がされた左腕と右足のダメージは深刻だ。

 本来ならすぐにでも医者に見せる必要があるだろう。だが……


「はあ……はあ……ぐっ……す、『水蓮』……っ!」


 俺は痛みの強い箇所を重点的に『水蓮』により、治療することにした。すぐにでもリリィを探しに行けるようにだ。捜索は時間がかかればかかるほど発見が困難になるのは自明の理。俺はすぐにでも動く必要があった。しかし……


「ごほっ……げほっ……!」


 堪らず吐き出した咳には、僅かに血が混じっていた。内臓にもそれなりにダメージが溜まっていたらしい。だが、問題なのはそっちではなく……


(これは……魔粒子欠乏症か……)


 ガンガンと脳みそを直接ハンマーで殴られているかのような激痛に、自らの症状を悟る。これはさきほどゴルゾフを襲った症状と同じ魔粒子欠乏症。これ以上、治療を続ければいずれ俺は完全に体を動かすことすら出来なくなるだろう。


「……くそっ!」


 自分の魔粒子保有量の少なさに腹が立つ。

 俺がもっとまともな才能を持っていれば、まだ動けたはずなのに……


「ちくしょう……ここまで、だってのかよ……」


 自分の不甲斐なさに滲む視界の中、諦めかけた俺に……


「──ルイス?」


 その鈴の音のように澄んだ声音が届いた。

 この聞き覚えのある声は……


「……ティア?」


 振り返ると、そこにはティアがいた。

 傷だらけの俺を見つけたティアはびっくりしたような表情を浮かべると、こちらに駆け寄ってきて……


「ルイス、大丈夫? 一体、何が……」


 その細い指で俺の頬に触れるのだった。


「ティア……お前、どうしてここに……?」


「手紙があったの。ルイスに危機が迫っているから助けてやれって」


 手紙……?


「それ……差出人の名前はあったか?」


「……ううん。なかった」


 まさか、俺の元に届いたのと同じものか?

 だとしたら……まだ希望はある。


「お前、良くそんな得体の知れないもん信じる気になったな」


「……書いてあるのがルイスのことだったから」


「?」


 どうして俺のことだと信じる気になったのかは分からないが……ティアがこの場に来てくれたことのはラッキーだ。


「ティア……悪いが魔法陣を引くのを手伝ってくれ」


「魔法陣? 良いけど……何の?」


 治療もせずに、何を言い出すのかと不思議がるティアに向け、俺は精一杯の虚勢と共に笑顔を浮かべ、言う。


「──『眷属召喚』だよ。俺はもう一度リリィを……この場に召喚する」

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