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召喚されたのは幼女でした。  作者: 秋野 錦


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40話 黒幕

 痛い。体中が悲鳴を上げている。

 火竜を倒した俺はそのまま地面を無様に転がりあちこちに打撲や擦過傷を作っていた。出来るだけ衝撃が分散するように着地したつもりだが、もしかしたら右足が折れているかもしれない。


 ズキズキと断続的に脳に送られる痛みに気を失ってしまいそうだ。

 そんな満身創痍の状態で俺はとある場所に向かっていた。


 周囲の木々に火が燃え移り始めており、迅速に対処しなければ大火事に発展しそうだ。とはいえ、今の俺に出来ることは何もない。水系統魔術師とはいえ、水を自由自在に生み出せるわけではないのだから。

 そんな俺がどうして痛む体を引きずりながら、こんな場所に来ているのかというと……


「……おい、起きてるかよ」


 目の前でぐったりと横たわる男、ゴルゾフに用があったからだ。うっすらと瞳を開いているゴルゾフはどこか焦点があっていないような遠い目でこちらに視線を向けた。


「ルイス、か……」


「おう。意識はあるみたいだな。なら立って歩け。お前を担いでいけるほど俺は体力が残ってねえぞ」


「……ぐっ」


 力を加えようとしたのだろう。僅かに身じろぎしたゴルゾフは自分の体が満足に動かせないことに戸惑っているようだった。


「これ、は……魔粒子欠乏症……? 俺は、一体、何を……」


「やっぱり覚えてはねえか」


 どうやら俺の読み通り、ゴルゾフは火竜によって魔粒子を吸われていたらしい。魔粒子欠乏とは即ちそのまま体内の魔粒子が基準値を下回っている状態を指す。

 その状態では、満足に体を動かせないほどの倦怠感が体を襲うというが俺はそこまでの状態になったことはない。その前の段階で強烈な眩暈、頭痛、吐き気に襲われて魔術の行使どころではなくなるからだ。


「いや……何をしてたかは覚えてる。俺は……お前を殺そうとした……」


「……黙って火竜のせいにしておけば良いのに。馬鹿正直な奴だな」


「わ、るい……だが、全部をあいつのせいには出来ない……あいつは俺の中にある感情を引き出しただけだ……支配されている間も、意識はあった……止めようと思えば、止められたはずなんだ……それなのに……俺は……」


 まさしく魂の抜けたような表情のゴルゾフは、空ろな瞳で虚空を見つめながら語る。まるで憑き物が落ちたかのように、内心を吐露するゴルゾフはここ数週間の様子からは想像も出来ないほどに落ち着いていた。


「……置いていけ」


 だからこそ、唐突にゴルゾフが口にしたその意味を、俺は瞬時に計りかねた。


「……なんだって?」


「俺はもう……動けそうにない。だから先に行け」


「馬鹿言うな。今のお前をここに置いて行ったらお前、焼け死ぬぞ」


「……それでもいい」


 このままでは死ぬと言っているのに、それでも助けを求めようとしないゴルゾフに俺は耳を疑った。


「あんなことをしたお前に、何かを頼む権利など俺にはない」


「だからそんなもん火竜のせいにしとけば良いって言ったろうが。お前は反転支配の影響を受けておかしくなっていただけだ。そうだろ?」


「……そうだな」


 ポツリと漏れた言葉に俺はほっと胸を撫で下ろし、肩を貸そうとゴルゾフに近寄る。正直、担いでいく力は残っていないからある程度は自分で歩いてもらわないと困る。


「ほら、掴まれ」


「……ルイス」


 俺が伸ばした手をゴルゾフは……掴まなかった。

 その代わり、俺の襟元を掴みぐいっ! と最後の力を振り絞るかのように引き寄せ耳打ちをした。


「……お前の眷属は今、狙われている」


「そんなことは分かってる。お前が貧困街で浮浪者を集めていたことは俺も……」


「違う」


 俺の言葉を遮り、ゴルゾフは強い口調で否定した。


「……俺は今日、お前の時間稼ぎのために動くよう命令されていた」


「命令されていた、だと? 誰に……いや、何のために?」


「……お前が離れた隙にもう一度、お前の眷属を……攫うためだ」


「な……ッ!?」


 リリィは今、俺から離れて寮で一人俺の帰りを待っているはずだ。

 今日は期末試験の当日。人気のない寮で、幼女を一人誘拐するぐらいわけはないだろう。

 もしもゴルゾフの言っていることが本当なのだとしたら……


「くそっ! 誰だっ! 一体誰がこんなシナリオを考えやがった!」


「…………」


「答えろ! ゴルゾフっ!」


 制服の襟を掴み、強引にこちらを向かせる。

 それだけで体中が悲鳴のような痛みを伝えたが、そんなことに構っている余裕はなかった。ずっと俺たちを付け狙っていた真犯人。ようやくその尻尾を捕らえたのだから。


「……俺たちを嵌めたのは……」


 ゆっくりと口を開いたゴルゾフは、やがて……


 ──その、真犯人の名前を語るのだった。

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