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召喚されたのは幼女でした。  作者: 秋野 錦


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39話 水蓮

 火竜の火球が俺の肌を舐めていく。

 ちりちりとした痛みを訴える全身を無視して、俺は『水閃』により強化した身体能力で近くにあった木に向かって跳躍した。

 俺が狙っているのは上空の火竜へと直接刃を届かせること。そのためには丁度良い足場が必要だった。そして、俺はそれをずっと探していた。出来るだけ背の高い木。そしてそれが一本だけでは駄目だ。


「はっ!」


 木の幹を足場に、跳躍を繰り返す。

 密集している木々を階段代わりに、俺は上空へ向けて駆け上がる。この勢いなら火竜に恐らく届くだろう。着地のことだけが心配だが今は火竜を何とかするのが先だ。


(頼むっ! これで決まってくれ!)


 まさか人間にここまでの身体能力があるとは火竜も思っていないだろう。絶対的上位種としての驕りだけが俺の唯一の勝機だった。だが、逆に言えば奇襲とも呼べる一撃を外せば俺に次はない。警戒されてしまえば俺の刃が奴に届くことは二度となくなるだろう。

 だから……


「うおおおぉぉぉぉッ!」


 これで決める。この一撃で決める!

 俺は全身の力を振り絞り、白銀の刃を火竜へと構え、そして……


「な、に……ッ!?」


 目の前の光景に愕然とした。

 火竜は俺に攻撃することをやめ、更に高い上空へと逃げ始めていたのだ。


(こいつ……分かってたな!? 俺がこれを狙っていたことを!)


 魔獣と呼ばれる生物は総じてただの獣よりも知能が高い。だからこそ気付かれぬよう細心の注意を払ってこの地点まで誘導したつもりだったのだが……どうやら俺の考えは読まれていたらしい。


 この位置からでは届かない。どうやったって。

 すでに跳躍した俺に行き場所はなかった。翼を持たない人間はただ見上げることしか出来ない。上空を優雅に飛び回る火竜の影を。

 だが……それはもしも俺が唯の人間なら、だ。


「何を見下してやがる。まだ……何も終わってねえぞ!」


 俺は火竜へ睨み返し、先ほど木々の間を通り抜けた際に手にしていた木の実を強く握り締める。


「《清廉なる水精よ、我が呼び声に応え、彼の者に祝福を》!」


 俺が唱えたのは戦いには全く役に立たないとされている系統魔術の呪文だった。物質を活性化し、成長を促進する魔術。直接身体能力を強化できる『水閃』と違い、この魔術は戦闘には不向きだ。


 だが……全ての力は使い方次第。

 そのことをこの二年間で学んでいた俺は強くイメージを固め、その魔術の名を呼んだ。


「──『水蓮』ッ!」


 植物は水系統魔術の影響を受けやすい物質のひとつだ。

 加えて手の中にある木の実は中に含まれる種子の成長が特に早い部類のもの。俺はずっとこの木を探していた。全てはそう……足りないもう一歩を埋めるために。


(頼む……届け、届け、届けぇッ!)


 俺がこの魔術をこの木の実に対して使うのは始めてだった。だからどんな効果が現れるのか、俺が望む結果が得られるのかに自信はなかった。だが、そんな俺に力を貸してくれたのはある恩師の言葉だった。


 ──自分を信じる意思。それこそが最も強い力なのですよ、ルイス。


 魔術とはそもそもが誇大妄想の延長にある。だからこそ過ぎるくらいの自信家が大成するのだと先生は言った。ならば……俺もその言葉を信じてみようと思う。


 自分の限界を自分で決めることはない。

 俺が望む限り俺は何だって出来る。

 なぜなら……


「俺は……魔術師なんだからッ!」


 強くイメージした瞬間、一気に手の中で熱が膨張していくのを感じた。そのまま解き放つように手を振れば、俺の手から飛び出した木の実が圧倒的な速度で発芽し、成長していくのが見えた。

 水系統魔術の一性質、『活性』により異常な速度で成長した木は即席の足場となり、俺の跳躍の基点となった。これで……


「お前に……手が、届くッ!」


 大きく振りかぶった銀色の刃が火竜の喉元を切り裂くその寸前、その小さな瞳に驚きの色が浮かんだような気がした。

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