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召喚されたのは幼女でした。  作者: 秋野 錦


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36話 水閃

 怪しく燃える瞳が俺を捉える。

 上空を旋回する火竜は俺の攻撃範囲が極めて狭いことを見破っているのだろう。決して俺の刃が届く距離には降りてこず、確実に安全な場所から炎を吐き出し続けている。


 ゴルゾフというよりはむしろこっちの方が厄介といえる。

 というのも今のゴルゾフは精神的に乱されている状態だ。まともな魔術の起動が出来るはずもない。その格闘術は確かに厄介だが魔術がないのなら俺でも十分に対処できる。


 となるとやはり問題は火竜のブレスに戻ってくる。

 だが、それを打開する術を俺は現状の手札では持っていなかった。つまり……


(くそっ! 完全に詰んでるじゃねえかッ!)


 いずれジリ貧になることが目に見えている攻防。

 だが、だからといって諦めるわけにはいかない。諦めた瞬間に俺は消し炭になっていることだろう。火竜のブレスにはそれだけの威力がある。


(何か……何かないか!? 現状を打開できる何か……ッ!?)


 手持ちのカードでどうしようもないのなら、と俺は周囲に視線を向け……


「殺し合いの最中にどこ見てやがるッ!」


「ぐっ……!」


 よそ見した俺の元にゴルゾフの猛攻が降り注ぐのだった

 空から降ってくる炎の渦は、一応ゴルゾフに当たらないコースを選んでいるらしくごく近くで戦闘を繰り広げている俺を直接狙うものではなかった。

 だが、逃げる道を確実に潰されれば動きにくくなるし、万が一でも受けるわけにはいかない攻撃を当たらないからと無視することも難しい。結局、俺はゴルゾフと火竜。完全に1対2の状況に追い込まれていた。


「はあ……はあ……っ」


「息が上がってきたみたいだなッ! 良い具合じゃねえか、オイッ!」


 加えてこの熱量……まるでこの場所だけサウナになったかのようだ。喉をひり付かせる熱はゴルゾフも感じているはずだが……いや。


「火系統魔粒子の『停滞』……被害を最小限に抑えてやがるのか」


 ゴルゾフの魔力光は紅。典型的な火系統魔術師の色合いだ。

 となると、得意なのは『変化』と『停滞』に関する能力だが、空気を媒体として魔粒子を単一情報体である炎へと変化させる『火炎』、逆に変化を留める方向性に働く『保護』系統の能力が候補に上がる。


 今回の場合は炎の発生は完全に眷族に任せて、自分は体に受ける炎の影響を最小限に抑えるように保護しているのだろう。

 どちらも火系統の魔粒子能力だがそのバランスが良い。

 前衛と後衛という立ち回りから見ても抜群の相性といえるだろう。


「まあ、だからこそ眷属として召喚されたんだろうけどよ……逆に支配されてちゃ世話ねえぜ」


「黙れ!」


 いよいよ会話が続かなくなってきたゴルゾフの拳を何とか受け止め、反対側に駆け抜ける。勝てないと分かったなら、まずは逃げることを考えるべきだ。だが……


「ちぃッ!」


 それを火竜が許すはずがない。

 俺が向かおうとした場所に落とされた特大の炎を前に、立ち止まるしかなかった。さっきから繰り返され続けている光景だ。


(持久戦になれば魔粒子保有量が少ない俺が不利だ……その辺を分かって作戦を立ててるなら暴走しながらもちゃんと頭は働いているみたいだな)


 ただ単純に俺をじわじわと嬲り殺したいだけなのかもしれないが、今はこの悠長さが救いだった。向こうが本気になってゴルゾフと一緒に爆撃を始めてしまえば俺に打つ手はなかった。

 だが……何とか間に合いそうだぞ。


「そろそろ魔粒子も限界みたいなんでね……勝負をかけさせてもらう」


 パンッ! と俺は小気味良い音と共に両手を体の前で組み、腕を通して円を作る。魔粒子の循環をスムーズに行うためだ。実際に血流が循環しているわけではないがイメージを強化する意味でもこの体勢が最も魔術を効率よく発動できるとされている。


「すう……」


 乱れた呼吸を整え、意識を自らの深い部分へと持っていく。

 魔術とはいかに自分の世界を広げるかが肝要なのだと言った魔術師がいた。俺もその通りだと思っている。だからこそ自分を見失ったゴルゾフは魔術が使えないし、それに対して妙な落胆を覚えている自分がいることも自覚していた。


「お前は俺にままごとなんかで時間を潰すなと言ったよな。だけどよ……俺だってお前が火竜なんかに言いようにされてる姿を見てるとむかっ腹が立つ。自分でも驚いてるんだが……どうやら俺は思った以上にお前のことを認めていたらしい」


 俺は目の前の男に見せ付けるように魔法陣を展開。

 単一の魔粒子特性を引き出すのではなく、より高度に構築された術式を扱ってこその魔術師だと言外に告げるのだ。


「悪いが……今のお前に負けてやるわけにはいかない」


 そして自らの魔粒子が最も輝いたその瞬間、俺は高らかにその呪文を謳い上げた。


「《清廉なる水精よ、我が身に加護を与え給え》ッ!」


 力強く精霊へと呼びかける。

 魔粒子が魔鉱石を通して魔法陣に流れ込み循環を重ねて自らの体に戻ってくるのを感じる。かつてない純度で発動した魔術に身体能力がどんどんと底上げされていくのが分かる。

 そうか……そうだ。これが……


「──『水閃』ッ!」


 これまでにない錬度で発動した魔術に俺は今の状態こそがこの魔術の完成型なのだと理解した。

 水系統魔術師の奥の手。

 その真髄へと。

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