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召喚されたのは幼女でした。  作者: 秋野 錦


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33話 戦いの幕開け

「る、ルイス……大丈夫なの? まだ怪我が治ってからそんなに経ってないのに……」


「心配すんなって。俺は水系統魔術師だ。治療に関して右に出る奴はいない」


 同じ水系統魔術師なら俺より優秀な奴はそれこそ幾らでもいるだろうが、他の系統の奴に比べれば間違いなく俺は優秀な部類に入るだろう。もっとも『水蓮』は不人気魔術の一つ。使える人間が少ないから他人と比べても自慢にはならないかもしれないが。


 それでも俺は心配性のリリィを納得させるために、そういうしかなかった。

 なぜなら今日は俺にとってどうしても譲るわけにはいかない大切な日。

 アンディール魔導学園の期末試験、その当日なのだから。


「でもでも、試験で怪我するひといっぱいいるんでしょう? ルイスが大怪我なんてしたら……いやだよ」


「……ったく」


 俺はいつまでも納得しようとしないリリィに目線をあわせ、その頭をぐしぐしと撫で付けながら告げる。


「お前なら俺がこの日をどれだけ大切にしてたか知ってるだろうが。俺の夢の為にも黙って見送ってくれ」


「……うん」


 いつからリリィはここまで俺の体を心配するようになったのだろう。

 最初はもっと自分の役目というか、眷属としての役割に邁進していたような気がするのだが……やっぱり先日の誘拐事件が原因か。

 あの時はこちらが引くほどにリリィは俺の体を案じてくれた。起きた後は泣きながら俺に謝ってきたほどに。そもそもの原因がリリィにあるわけでもないのに。


「大丈夫だって。別に死にやしねえよ」


 最後にぽんと頭に手を置いて、俺は学園に向かうことにした。

 今日ばかり傍にずっと付いていてやることも出来ないため、リリィは強制的にお留守番だ。いつどこで誰が狙っているとも知れない状況。リリィの安全は出来るだけ確保してやりたかった。

 それに……俺は今日、自分の試験以外にも確かめなければならないことがある。そして、それはきっと言葉だけでは決着がつきそうにないのだ。そうして、ハードな一日になることを予想する俺の前に……


「よう。良い朝だな、ルイス」


「……ゴルゾフ?」


 学園へと向かう道すがら、唐突にゴルゾフが俺の前へと現れるのだった。そして、その体には何をするつもりなのかすでに魔力光が溢れている。身構える俺の前に……


「そういや、お前の眷属だがよ。まだ元気にしてんのか?」


「……どうしてそんなことを聞く」


「ただの世間話さ。お互い眷属を持つもの同士の、な」


 にやにやと笑みを浮かべるゴルゾフ。その底が見えない。一体、何を考えてこの場にいるのか、それが俺には分からなかった。


「……試験開始にはまだ時間があるぜ。こんなところで何のようだよ」


「はっ、お前はいっつもそればっかりだな。つまんねーやつ。たまにはお前から話しかけてくれてもいいじゃねーか」


「……まあいい。俺もお前には聞きたいことがあったんだ」


「ん? なんだ?」


 本当は試験会場で聞きだそうと思っていたのだが……仕方ない。こうなったら予定を前倒しだ。


「その俺の眷属だが、先日誘拐騒ぎに巻き込まれてな」


「へえ、マジか。そいつは大変だったな」


 馬鹿にするかのような態度であからさまに驚いてみせるゴルゾフ。

 その妙に癇に障る仕草に俺は語気を強めて、問い詰める。


「そんでその犯人の情報を集めて一つの推測を立てたんだがよ……」


 それは数日をかけて辿り着いた俺の一つの結論。


「ゴルゾフ──てめえがその犯人だろ」


「ふっ、はははっ」


 俺の問いにゴルゾフを突然、笑い声を上げた。


「ははっ、おいおい、言いがかりも甚だしいぜ。どうしてそう思うんだよ」


「……リリィを狙っていた男は若い男子学生と聞いてな。だけど、普通の学生には貧困街を歩き回るような時間はないはずなんだ。自分の勉強で忙しいはずの学生でそんなことが出来るのはもう勉強をする必要のない人物……お前みたいな、な」


「たったそれだけか? そんなの証拠にもなりやしねーぜ?」


「ああ、分かってる。だが、今回の件で一番の疑問はそこじゃなくてな」


「あん?」


「俺がずっと気になっていたのはなぜリリィが狙われたのかってことだ。どこにでもいる普通の女の子のはずのリリィをなぜ、そいつは狙うのか。それがずっと分からなくてな」


「ふぅん。で? その理由とやらは分かったのか?」


「いや、まだだ。そこだけはどうしても辿り着けなくてな。だが……その経緯には推測が立った」


「経緯?」


「ああ。要はリリィが()()()()()()()()()()()()ってことだ」


 それは俺がずっと考えていたこと。俺が差出人不明の手紙を受け取ったのは、リリィが来てから僅か一週間程度の段階だった。そして、その間にリリィがしたことは数えるほどもない。犯人がその間にリリィを狙うようになったとは考えにくかった。

 つまり……


「リリィは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。俺はそう睨んでいる」


 全てはあの日、俺がリリィを召喚した日に始まったのだ。


「理由は通常では召喚されるはずのない女の子が召喚されてしまったこと。それ自体があまりにも不自然に過ぎる出来事だからな。そして、その特例で召喚されたリリィが狙われていた事実。この二つを別々に考えろってのは流石に無理があるとは思わないか?」


「……だけど、その眷属召喚はお前の望みが反映された結果なんだろ? 皆、そう噂しているぜ?」


「馬鹿にしてんのかよ、ゴルゾフ。それは俺自身のことだぞ。他の誰に分からなくても俺に真実が分からないはずがねえだろうが」


 あの日、俺は確かに強い眷族を望んだのだ。

 その心に嘘偽りは存在しない。だからこそ、リリィという眷属が召喚されたことはずっと違和感として残っていた。


「だが、そうなるとおかしなことがあるよな。魔法陣の術式が書き換えられていたのなら俺以外の人間にもその影響があってしかるべきだ。それなのに、イレギュラーを起こしたのは俺だけ。これはどういうことか? それはな……」


 俺はゴルゾフを睨みつけ、その推理を口にした。


「お前があの場所で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。次に召喚する俺がリリィを召喚するようにな!」


「……っ」


 俺の断言に、そこでゴルゾフは初めて動揺した様子を見せた。

 もちろん、今の話に証拠なんてない。だが、そのゴルゾフの態度こそが何よりも雄弁にその事実を物語っていた。


「俺にちょっかいかけるだけならまだいい。んなもんは慣れっこだからな。だけど……あんな小さな女の子にまで手を出すなんざ、屑のやることだぞ!」


 俺は怒気を隠すことなく、目の前の男に叩きつける。

 この程度でゴルゾフが怯むわけもないだろうが、今回ばかりは俺も頭にきてんだ。引くつもりはない。一切の躊躇を見せない俺の断罪にゴルゾフは……


「ははっ……良い目だ。俺の好きなお前に戻ったみたいだぜ。そうだよ、俺の知ってるルイス・カーライルって男はそういう目が似合う男だったぜ」


 ここに来てもまだ、俺に執着する様子を見せた。

 リリィを狙う男……ゴルゾフの目的が分からなかった理由の一つにゴルゾフの狙いが俺なのかリリィなのかが計りきれなかったというのがある。ここ最近のゴルゾフの俺への執着には異常なものがあったからな。

 だが……それもひっ捕らえてからゆっくりと吐かせれば良いことだ。


「今の話、肯定するんだな?」


「いやいや、まさか。俺にはお前が何に対して怒っているのかなんて全く分からない。だけど……もしも俺に勝てたら何か思い出すかもなあ」


 安い挑発だ。

 だが、コイツの望みが俺と戦うことなら……いいぜ。


「今度は本気で付き合ってやるよ」


 ティアから借り受けた魔鉱石を使い、魔粒子を活性化させる。

 今の俺はかつてないほどにやる気だった。


「その口、割らせてもらうぞ!」


 これ以上、リリィに危害は加えさせない。絶対に。


「ははっ! いいねえ! 楽しくなってきやがった!」


 笑い声を上げたゴルゾフが駆け出す。

 どうやら場所を変えるつもりらしい。確かにここだといつ人目につくか分からないからな。いつもならこれ幸いと逃げ出すところだが、今日はそういうわけにもいかない。


(待ってろよ、リリィ。お前の敵は俺が全員廃除してやるからな)


 強く握った拳に誓いを込める。

 本当なら体を張ってまでリリィを守る義理は俺にはないのかもしれない。だけど、このときにはすでに俺の中でリリィは見捨てるなんて選択肢が考えられないほどに大きな存在となっていたのだった。

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