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召喚されたのは幼女でした。  作者: 秋野 錦


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28話 魔術師の力

 それは一瞬の出来事だった。

 俺が少し目を離した隙に、リリィは俺の視界から消えていた。

 どこへ行ったのかと慌てて周囲に視線を向けるが、小さな女の子の姿はどこにも見えない。


「リリィ……?」


 何かの悪戯かと思い、すぐに否定する。

 リリィは意味もなくそんなことをするような子じゃない。

 だとしたら……まさか……


「──リリィッ!」


 今度は大声で名を呼んだが、返ってくる声はなく。

 俺は即座に周囲に視線を向け、リリィとは別の影を探す。

 もし、もしも俺の予想が正しければ……


「……見つけたッ!」


 路地裏へと消えるぎりぎりのところで俺はその姿を視界に捉えた。

 それは麻袋を肩に担いで、走り去る男の姿。薄暗くなってきたこの時間帯、周囲の人影も少なくなってきたためスリの注意はしていたのだが、まさかリリィをスラれるとは思ってなかった。


「ちぃっ!」


 考えるより先に動き出した足は全速力で男の後を追いかける。

 俺はこの辺の地理に疎い。一度でも姿を見失えば終わりだ。


(くそっ! こんな堂々と人攫いする奴がいんのかよっ!)


 そういう犯罪に手を染める人間がいることは知っていた。

 だが、ここまで強引な手段を取るとは思っていなかった。

 俺はリリィから目を離してしまったことを後悔しながら、男の背を追いかける。見れば袋が激しく動いており、中に何かが入っているのは確定的に明らかだった。


 どうしてリリィを連れて行ったのかは分からない。

 だが、連れて行かれた先がろくな場所ではないことくらいは俺にも分かる。


(待ってろよリリィ……すぐに助けるっ!)


 体内の魔粒子を活性化させながら走り抜ける。

 もう少しで男の背に手がかかる。その寸前のことだった。

 十人近い男が突然、俺の進路を妨害するかのように現れ道を塞いできたのだ。


「邪魔だっ! どけぇぇぇええッ!」


 中にはナイフを持った奴もいたが、すでに魔粒子を展開した俺にはそれすらも無意味。風系統魔粒子を纏い、物理的な強度を増した俺の拳はナイフを叩き折りながら男をあっさりと殴り飛ばす。

 一般人を相手に無許可で魔術を使用することは法律により禁止されているが、そんなことは言っていられない。こいつらはどう見てもあの誘拐犯の共犯。犯罪者に間違いないのだから。


「ふっ!」


 軽く跳躍し、回し蹴りを男の側頭部に叩き込む。

 身体能力も同時に強化しているので、その一撃はすでに人外の域に達している。きりもみしながら吹き飛ぶ男を尻目に次の相手を。


(こいつら俺が魔術師だと知って突っ込んできてやがる……最初から全部計画済みってことかよ!)


 男達の迷いない陣取りにこれが計画的な犯行だったことを悟る。

 だが……なぜリリィなんだ?


(くそっ、今は考えてる場合じゃねえ! とにかく今は……っ!)


「この場の全員……なぎ倒すッ!」


 渾身の力で振るった拳が三人まとめて吹き飛ばす。

 体術に関しては別に覚えがあるわけではないが、この程度のチンピラ相手ならただの膂力で押し通せる。強引にその場を突破した俺はすぐさまリリィを追うのだが……どうやら少し時間をかけすぎたらしい。


 曲がりくねった裏路地にはすでに人気がなく、リリィを連れ去った男がどこへ向かったかはすでに分からなくなってしまっていた。


「はあ……はあ……くそっ!」


 加えて極度の緊張状態のせいで、魔粒子を過剰に活発化させすぎたらしい。

 すでに体が重い。肉体を強化した反動が現れ始めている。


「ぐっ……!」


 だがここで俺が立ち止まればリリィの行方はそれこそ分からなくなる。

 それだけは……許すわけにはいかない!


「《清廉なる水精よ、我が身に加護を与え給え》」


 俺は静かに詠唱を開始しながら、魔粒子を操作して魔法陣を作り上げる。

 この魔術が体に大きな負担をかけることは分かっていた。だけど、今の俺にはこれしか出来ないこともまた事実。俺は両足にまるで鉄球でもくくりつけられているかのような感覚を味わいながら……


「──『水閃』ッ!」


 全力で、飛翔した。

 建物の外壁を足場に上へ上へと舞い上がる。

 それに伴って徐々に開けて、迷路を上から眺めるかのような視点へと切り替わっていく。隅から隅まで視線をさまよわせた俺は……再びその背中を捉えるのだった。

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