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召喚されたのは幼女でした。  作者: 秋野 錦


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27話 いつだって事件は突然やってくる

 ティアのところでかなりの時間を取ってしまったようで、工房の外に出るとすでに夕焼け空が広がっていた。近くの喫茶店で待たせていたリリィと合流し、歩き出すと開口一番、交渉結果の内容を聞いてきた。


「る、ルイス……どうだった?」


 心配そうにこちらを見上げるリリィ。

 やっぱりまだ責任を感じているようだ。


「ああ。予想以上の成果だったよ。むしろ魔鉱石を壊してくれたことにお礼を言いたいぐらいにな」


 そんなリリィの不安を払うように、わしゃわしゃと綺麗な金髪を撫で付ける。

 うー、とかあーとかそんな声を出しながらもリリィは抵抗しなかった。寝癖みたいにところどころはねた髪型が可愛らしい。


「でも、そっかぁ……それなら良かった」


「あんまこういうことをティアに頼むのは気が引けるんだけどな」


「そうなの? 友達ならどんどん頼めばいいのに」


「んー……友達だからこそ、かなあ。あんまり仕事の話とかしたくねえんだよ。金が絡むとどんな関係だって壊れちまうからな」


 特に俺とティアは貴族と平民。決して理解し合えない関係にある。

 どんなに親しくあろうとしても、地位や資産の面で大きく差がある以上、どうしたって対等にはなれない。

 ティアはそんなことを気にするような性格ではないが、それでもどこかで上下関係というものは発生してしまう。俺は数少ない友人のティアの足を引っ張りたくはなかった。そういう事情もあって、学園でもあまり積極的に絡むようなことはしなかったのだが……


(なんつーか、今日のティア、饒舌だったな)


 元は無口な奴なのだが、今日は特によく喋っていたように思う。

 その理由が分からず何とはなしに隣を歩くリリィに聞いてみたのだが、返ってきたのは始めてみるジト目と苦々しさを感じる言葉だった。


「……それってルイスが頼ってきたからじゃないの?」


「俺が頼ったから? なんで?」


「……はあ」


 今度は溜息をつかれた。なぜだ。


「ルイスはさ、仲の良い人がこまってたら助けたいなって思わない?」


「そんなもん思うに決まってるだろ。先生が困ってたら真っ先に助けに行くぞ、俺は」


「そこであの人のなまえが出ちゃうんだ……ま、まあそれは良いんだけどさ。もしも、その人が困っていることを自分にかくしてたらどう思う?」


「む……」


「なんで頼ってくれないんだって思っちゃうよね?」


 リリィの問いに俺は考え、頷いた。

 先生が俺の力を必要とはしないだろうけど、それでも相談くらいはしてもらいたい。俺は先生に本当に感謝しているのだから。どんなことでも力になりたかった。


「だから、そういうことだよ」


「え? 終わり? 結局、ティアの話になってないんだが……」


「もー! ルイス鈍すぎっ!」


 ついに手が出たリリィの拳が俺の腹部にぽかぽかと直撃するが、全く痛くない。むしろ可愛い。


「親しい人に頼られたらたんじゅんにうれしい! ただそれだけのことでしょー!」


「……あ」


「もう! もうもう! 本当に分かってなかったし! ルイスはいっつも一人で何とかしちゃおうとするからそんなかんたんなこともわかんないんだよっ!」


「わ、悪い……っていうか何でお前が怒ってんだよ」


「しらないっ!」


 いつになく怒っている様子のリリィ。

 でも……仕方ないだろ? 俺は人との付き合い方ってのが良く分からないんだ。学園では俺を疎む連中ばかりだし、外に出ても話せるような知り合いはいない。


 誰かに頼るなんて発想がそもそもなかった。

 今回のことだってティアが魔巧技師ではなく、ただの魔術師志望の一般学生だったら頼ることはしなかっただろう。

 でも……そうだよな。リリィの言うとおりだ。役に立つかどうかなんて関わらず友達には頼ってもらいたいよな。


「すまん……俺が分かってなかった」


「むう……次は気をつける?」


「ああ。これからは気をつける。だから許してくれ。何ならそこの出店で何か買ってやるから。ほら、焼き鳥とかどうだ? うまそうだぞ」


「も、もので釣ろうとしてもだめだからねっ!」


「ならいらない?」


「いるぅ!」


「ははっ、分かったよ。少し待ってな」


 リリィをその場に残し、俺は出店に近づきメニューを見る。

 どうやら幾つか種類があるらしい。

 ふーむ。どれもそれなりに美味しそうだ。これから晩御飯もあるし、そんなに多く買ってしまうとそっちが食べられなくなるかもしれない。でも今日は初めてのお出かけなんだから、折角だし少しくらい贅沢をしても罰は当たらない……か?


「ふむ……分からん」


 一人で悩んでいても埒が明かないと判断した俺は、リリィに何が食べたいかを聞いて見ることにした。


「なあ、リリィ。お前、どれが……」


 近くにいるはずのリリィに声をかけながら振り向く。

 しかし……


「…………え?」


 先ほどまでそこにいたはずのリリィ。

 だが俺が振り向いたその場所には……


 ──リリィの姿はどこにも存在しなかった。

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