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召喚されたのは幼女でした。  作者: 秋野 錦


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25話 初めてのおでかけ

「「……………………」」


 目の前で粉々に砕けていく魔鉱石。

 それを前に俺たちはまるで石像にでもなったかのように黙りこくっていた。


 しかし、いつまでもこうしているわけにもいかない。

 10秒、20秒と時間が経っていき、やがて我慢しきれなくなったリリィが口を開いた。


「る、ルイス……ご、ごめんなさい」


 まるでこの世の終わりを悟ったかのような表情。

 一言で言えば絶望していた。

 あまりのショックに涙すら出ないのだろう。ただただ立ち尽くし、震えていた。


「……いや、俺も迂闊だった。リリィの魔力光を見た瞬間に指示するべきだった」


 別にどちらが悪いというわけもない。

 俺はリリィが安心出来るようになるべく優しく語りかけたのだが……


「ひぅっ……うっ、うわぁぁぁぁああああんっ!」


 俺のフォローも虚しくリリィはついに泣き出してしまった。


「ご、ごめんっ! ごめんなさいっ! り、リリィはっ……こんなつもりじゃ……っ!」


「分かってるって。大丈夫だから泣き止めって、な?」


 リリィの頭を出来るだけ優しく撫でる。

 正直、こんなことになるとは思ってもいなかった。


 魔鉱石が魔粒子に耐え切れず粉々になるなんて、滅多に見られる現象ではない。それだけリリィの魔粒子が強力ということなんだろう。もしくは俺の魔鉱石が粗悪品すぎたか。

 どっちにしろすぐにでも手を打たないとな。


「ほら、いつまでも泣いてても仕方ないだろ。大丈夫、何とかなるから」


「ひぐっ、ほ、ほんと……?」


「ああ。治す方法には心当たりがある。とりあえず砕けた魔鉱石の欠片を拾うぞ」


「う、うん……っ」


 俺の言葉に慌てて欠片を拾い集めるリリィ。

 そこまで必死にならなくても良いんだけどな。どの道、近いうちにこうなっていただろうし。少し予定が前倒しになっただけだ。


「よし、こんなもんかな。今の時間、居てくれるかなぁ……」


「ルイス、どこに行くの?」


「工房だ。前に聞いてなかったかな。ティアが個人で経営している工房があってな。そこでなら壊れた魔鉱石も再利用して、打ち直してもらえるんだ」


「そ、それなら早く行こうっ! すぐに直してもらわないと!」


「だな。このままだと試験も受けられねえし、出来るだけ急がないと」


 慌てるリリィを連れて、ティアの工房へと向かう。


「学園の外にあるから少し歩くぞ。大丈夫か?」


「うんっ! リリィのことは気にしないでいいから」


「そういうわけにもいかねえだろ。お前は体が弱いんだから」


 リリィの体調を気にしながら向かう先は学園の外。

 大仰な門を潜り、王都の街並みを眺めながら歩く。

 そういえばリリィが来てから街に出るのはなにげに初めてかもしれない。きょろきょろと周囲に忙しなく視線を送るリリィに思わず笑みが漏れる。


「そんなにきょろきょろしてると田舎者だと思われてスリに遭うぞ」


「ご、ごめんなさい」


「ま、盗られて困るようなものは何も持ってないがな」


「ルイスは何か盗られたことあるの?」


「ん? 俺か? 俺は……どうだったかなあ」


 実は王都に来たばかりの頃、一度やられてしまったのだが男のプライドが口を閉じさせた。男には守らねばならない面子があるのだ。


「わっ、ルイスっ、見てみて! あれなにっ!」


「あれは大道芸人だな。おおっ、火を噴いた」


「あ、あれも魔術なのかなあ」


「んー、魔力光も見えないし、どうにかしてやってんだと思うけど……分からんな。俺には奇術の才能はないらしい」


「あっ、あっちにも人がいっぱい」


「向こうは市場になってるみたいだな。後で寄ってみるか?」


「いいのっ!?」


「ああ。用事自体はすぐに終わるだろうしな……っと」


 余所見をしていたせいで、すれ違う人とぶつかりそうになったリリィの体を引き寄せる。触れ合うほどに密着したことで、リリィのやや高めの体温を感じる。


「る、るる、ルイスっ!?」


 いきなり抱き寄せられてびっくりしたのだろう。

 真っ赤な顔のリリィが俺を見上げていた。


「ガラの悪い奴もいるから気をつけろよ。ほら、手ぇ出せ」


「う、うん……」


 恥ずかしそうにおずおずと手を差し出すリリィ。

 強く握ると、まさしく林檎のように顔を真っ赤にして俯きながら歩き出した。

 子供扱いされて恥ずかしいのだろう。だけど、はぐれるわけにもいかないしこの手は離せないな。


「……なんだか思い出すなあ。昔はよくこうして妹と歩いたっけ」


「そ、そうなの?」


「ああ。妹も体があんまり強くなくてな。それなのに動き回るのが好きでよく付き合わされてたよ。こっちの心配も知らずにな」


「そ、そっか……妹……」


 あれ? なんか急にテンション下がったか?

 どうしたんだろう。人ごみにでも酔ったのだろうか。


「もう少しで着く。もうちょっと頑張ってくれ」


 元気のないリリィの手を強く握り、歩く。

 折角だし、帰りにどこかで美味しいものを食べさせてやろう。そんなことを考えながら。

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