23話 どんな分野にも天才はいる
「でも得意な適性ってどうやって測るの?」
「ん? ああ、それは結構簡単なんだ。魔鉱石を持って、魔粒子を操作するだけ。まあ、それが難しいといえば難しいんだけどな」
才能があったとしても、いきなり魔粒子を操作出来る者は少ない。
そういう意味では発掘するのが難しい才能なのかもしれないが、一度操作できるようになればもう迷うことはなくなる。そして、その際に現れる魔力光の色合いにより、その人の得意な性質が分かるのだ。
「だから言ってしまえば魔術師戦では互いに得意な手を教えてジャンケンしてるようなもんだな。そいつの魔力光を見ればある程度得意な魔術が分かっちまうんだから」
「ルイスはきれいな白だったね。あれが水系統の色なの?」
「あー……それはまたちょっと違うんだけどな。俺の場合は魔力傾向が陽性Ⅳ種だから……つっても分からないよな。細かい話だから今は考えなくて良い」
「ん、分かった」
頷くリリィに俺は胸元から取り出したネックレスを手渡す。
「これは俺が普段使ってる魔鉱石だ。数ある魔鉱石の中では安物とはいえ気をつけてくれ。平民の俺だと買うのに三年かかる」
「わ、分かった」
今度は震え声で頷き、受け取るリリィ。
そしてそれを手に持ったまま、どうしたらいいか分からない様子で俺を見上げてくる。可愛い。
「魔粒子ってのは高位次元上に存在するとされているんだが、魔術を使うにはまずそれを三次元上に顕現する必要がある。んで、それには触媒が必要になるんだが全ての物体には魔粒子抵抗つって魔粒子を通しやすいかどうかっていう値が決められているんだ。魔鉱石はかなり魔粒子抵抗の低い物質。つまり、魔粒子親和性が高い物質ってことだな。だから魔術の起動には魔鉱石が必要なんだ」
「へえ……魔術師ならみんなもってるわけなんだね」
「そうだ。だけど見ての通り魔鉱石といっても一度に取り込める魔粒子量は限られている。そんなちっこい鉱石だからな。限界があるんだ」
「え? それじゃあどうするの?」
「別のもので代用する。できるだけ魔粒子抵抗の低い物体を使って魔鉱石の補助というか、繋ぎをするんだ。そして、人間の体で最も魔粒子抵抗が少ないのは……"血液"だ」
「血液?」
「ああ。魔粒子は血液を通して全身を巡る。そのことをイメージすると魔粒子操作の助けになると思うぞ」
「そっか……ん、分かった」
ぐっと握りこぶしを作って瞳を瞑るリリィ。
んん~っ! なんて呟いているところ見るに、集中しているのだろう。あんまり力みすぎても仕方ないと思うのだが……とりあえずやりたいようにやらせてみよう。
(しかし懐かしいな。俺が魔術師を目指し始めたのも今のリリィくらいの年齢だったと思うし……まるで過去の自分を見ているみたいだぜ)
俺が魔術師を目指したきっかけは一人の魔術師の存在にある。
お世辞にも栄えているとはいえない俺の地元では農作物の栽培がほとんど唯一の稼ぐ方法だった。
今から約七年前、そんな俺の村に近年まれに見る大凶作が起こった。
このままでは冬を越すことすら危うい。そう思われていたとき、一人の魔術師が村を訪れてくれたのだった。その人は俺と同じ水系統の魔術師で、あっという間に発育不良だった作物を成長させてしまった。
村人全員がその魔術師に感謝し、子供たちはこぞってその英雄の真似をし始めた。当時の俺もその一人。そして、その過程で俺に魔術の才能があると分かり今に至るというわけだ。
言ってしまうならその魔術師に対する憧れが俺の出発点。
あの人のように誰かを救えるような人間に俺はなりたかった。
(……結局それもくだらない幻想だったがな)
かつて幼い頃に抱いた憧れ。そんなものは現実の前に粉々に砕け散った。
誰もがあの魔術師のように正しく生きているわけではない。
元々が誰かを傷つけるために生まれた技術。この学園内で行われているのはまさしく戦争の縮図だ。
憧れのまま目指した場所が地獄だったと知り、少なからず俺は絶望した。
だが未だ歩みを止めていないのは、どうしても譲れない悲願があるから。
俺は国家魔術師にならなければならない。
全てはそう──"アイツ"の為に。
「ルイスっ!」
ぼんやりと懐古していると、嬉しそうに俺を呼ぶ声が届いた。
なんだなんだと視線を向けると、そこには……
「……は?」
「見て見て! 出来たよ、ルイスっ!」
嬉しそうにはしゃぐリリィの周囲に、まるで影が具現化したかのように暗く、黒い漆黒の魔力光が漂っていた。




