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召喚されたのは幼女でした。  作者: 秋野 錦


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20/57

20話 始まりは突然に

「う、うう……気持ち悪い……」


「……悪い。調子に乗りすぎた」


 部屋に帰ると、リリィは口元を押さえたままふらふらとベッドに向かい、ぱたりと魔力が切れたかのように倒れこんでしまった。俺は慣れてるから平気だったが、リリィにとっては初体験。調子が悪くなってもおかしくはない。


「リリィ、大丈夫か? ご飯、食べれそうか?」


「う、うん……大丈夫」


 気丈に振舞ってはいるが、見るからに顔色が悪い。ここは食べやすい食事を作ってやるべきだろう。何かあったかなあ。


 ──ちりん、ちりーん──


 俺が献立を考えていると、呼び鈴が鳴るのが聞こえた。玄関に向かい、扉を開けるとそこには俺の鞄を抱えたティアの姿があった。


「……これ、忘れ物」


「ああ。そうだった。わざわざ悪いな」


 後で取りに行こうと思っていたのにどうやらわざわざ届けにきてくれたらしい。

 一瞬ありがたいと思ったが、そもそもこいつらが俺を追い出さなければそんなことにはなっていなかったなと思いなおした。


「上がっていくか?」


「ううん。今日は仕事があるから」


「そっか。あ、そうだ。具合の悪い奴に食べさせる料理って何がいいかな」


「? ルイス、体調悪いの?」


「俺じゃなくて、リリィがちょっとな」


「……さっきまで元気だったのに」


 心配そうに部屋の奥に視線を向けるティア。だけど、そこからだとベッドは見えないだろう。リリィの知り合いであるコイツには何があったかくらいは話しておくべきかもな。


「今はベッドで休んでるよ。ちょっと俺がはしゃぎすぎたみたいでさ」


「? 一体、何をしたの?」


「うーん……」


 事実をそのまま伝えるのはちょっと恥ずかしいな。誰も見ていなかったからこそ、俺もあそこまではしゃいでしまったわけだし。それにティアに言ったら絶対ネタにされる。そして、それが先生に伝わって更にからかわれるのは火を見るより明らか。よし、詳細は省いて説明することにしよう。


「ちょっと軽い運動をしたんだよ。俺は慣れてるから良かったんだけど、リリィには『初体験』だったみたいでな。ちょっと激しくしすぎたみたいなんだ」


「……………………」


 ん? なんだ? フリーズしたのか? ティアの反応がないぞ。

 ま、いいか。


「リリィを気遣ってもう少しゆっくりやれば良かったのかもしれないけど、俺も加減が下手でな。あ、一応言っておくけど俺が無理やりしたわけじゃないからな? むしろリリィから俺に抱きついてきたくらいだし」


「……そ、それは……」


「ん?」


「……その運動って……体が密着するようなアレ?」


「? 当然だろ?」


 リリィは魔粒子が使えないんだから、俺の速度についてこれるはずがない。となると当然俺が抱えるしかないと思うのだが。


「……そ、そう……」


「どうした? お前も具合が悪いのか? 顔が真っ赤だぞ?」


「……う、うるさい」


 まるで林檎みたいに真っ赤な顔で、視線を落ち着かなさそうに周囲に向けるティア。というか、こんなに狼狽した様子のティアは始めて見るぞ。珍しく会話が成立しているし、どうしたんだ? いつもならもっとセクハラ的な冗談をぶちこんでくるはずなのに。


「……る、ルイスはその……小さい子とはそういうこと、するの?」


 もじもじと歯切れ悪く、こちらの様子を伺うように意味の分からない質問をしてくるティア。


「まあ、そうだな。あんまり大の大人とはしたくねえかな」


 いい年して恥ずかしいし。それに重いし。リリィくらいの年齢なら、遊びに付き合ってあげたと言う大義名分も使えるからな。誰だってそうだと思うのだが、ティアの考えは違ったらしい


「……こ、これは……もう、手遅れかも……」


 なぜか、驚愕した様子で俺を見たティアはがっくりと肩を落とすと自分の胸に手を当て「……大きすぎたのかな」なんて独り言を漏らしながら立ち去って行った。

 誰と何を比べているのかは知らないけど、たぶんそれはないと思うぞ。お前が人より大きいのは態度くらいのものだからな。


「……一体、なんだったんだ?」


 奇妙と言わざるえないティアの態度が妙に気になったが、まあそういう日もあるのだろう。そう自分を納得させた俺は部屋に戻ろうとして……


「……ん?」


 玄関のポストに一通の手紙が入っているのを見つけた。

 さっき家に帰ったときには入ってなかったはずだが……ティアが持ってきたのか? いや、それなら手渡せばいいよな。それに他に呼び鈴を鳴らす音もなかったし、配達されたわけじゃないはずだが……。


「あれ? 差出人の名前がないな」


 いつ入れられたのか気になった俺は、それを手に取ってみるのだが普通の配達便と違って真っ白なその手紙は差出人の情報が何も載っていなかった。


「はあ……最近見なくなったと思ったらまたかよ」


 その奇妙な手紙に俺は一つの心当たりがあった。

 俺が何人もの貴族の生徒を蹴落としていた入学当初は、こういった嫌がらせの手紙がよく俺の部屋に送られていたのだ。今はもう、俺に構っている暇なんてないから誰もしないと思っていたのだが、どうやら久しぶりにやられたらしい。


「とはいえ、何かの連絡だったらまずいし……一応、中身だけ見とくか」


 刃物が仕込まれていることまで配慮して、本来とは違う方向に封を切る。どうやらそういう直接的な仕込みはされていなかったようだが……


「……やっぱり悪戯かよ」


 中に入っていた紙にはどう見ても悪戯としか思えない内容の言葉が綴られていた。ため息をついた俺はその紙をくしゃくしゃに丸めて、近くのゴミ箱に投げ捨てた。

 その内容を深く考えることもなく。

 俺が捨てたその手紙には……


 ──『君の眷属は狙われている』。


 無機質な筆跡で、そう綴られていた。

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