92 開戦準備 1
毎度遅くなって申し訳ございません。
前田玄以は、さっそく住民台帳作成のための手筈を整え始めたようで、さすが政治力90はダテではない。
迅速な行動はいかにも出来るヤツっぽい感じだ。
そうだ、一応スペックチェックしておこう。
前田玄以
1539年生まれ
年齢:21歳
大谷家:武将
所持金: 800
総合レベル:6
思想:中道
宗教:仏教
名声:8
使用武器:刀
領地:なし
能力値:
統率23、武力31、知略86、政治90
体力62、腕力48、技量32、乗馬2、砲術0、走力5
常駐スキル:鑑定、説法
製造スキル:
なるほど〜、まだ若いんだね。
この説法ってどういうスキルだ?
※僧侶だけが獲得出来る、他の宗教や宗派の人を改宗させられる能力です。
なるほど改宗か。
なんとかロレンソたちとは対立しないで欲しいところだね。
ともあれ、内政の出来る人材を確保出来たことで、俺としては戦の準備に全力を注ぎたいところだが、その前にもう一つやっておかなければならないことがある。
領内の宗教改革である。
とは言え、領内の寺と神社の名前と宗派の確認だけなのだが、なぜそんなことが必要かといえば、言うまでもなくキリスト教の布教を認めさせるためである。
織田領内では基本的に宗教は自由である。
それは、これまで神道と仏教以外の宗教が無かったからなのだが、キリスト教が入り込むとそんなことは言ってい居られなくなる。
必ずお互いに排斥しようとする動きが起こる。
だから、まず仏僧たちに、今度こういう新たな宗教を布教しようとする人たちが来るけど、頭から拒絶することはしないようにしてね、と事前に通達しておくのだ。
仏教も宗派によってキリスト教に対する考え方も違う。
なので、それに合わせて通達の仕方も少し変えていこうという考えなのだ。
ロレンソたちがいつこっちに来るか分からないが、別れる時はすぐにでも出発するような口ぶりだったので、早めに準備をしておかねばならない。
こっちはちょうど手の空いた錦之輔にお願いするとしよう。
それと、彼には前田玄以を連れて来てくれたことに対する、慰労もしてあげないといけない。
錦之輔を呼んで、神社と寺の調査を依頼した後、前田玄以が明日から一緒に働くことになったことを告げると、驚いたというよりホッとしたという表情を見せた。
そして、良くやってくれたと例を述べ、報奨金と新たな屋敷をプレゼントしたのだ。
だが、「ははっ、有り難き仕合わせ」と言った言葉にもう一つ張りが無い。
錦之輔はずっと城に詰めてるので、以前から屋敷など要らないと言っていたのだが、今後ドンドンと出世していけば色んな人と会わなきゃならなくなるだろうし、屋敷も無いようだと見下されてしまうこともあるだろう。
住む住まないは別として、家臣の格としてそういう物も必要となるのだ。
人を雇って屋敷を管理するなり、玉ちゃんに住まわせるなり、物置にするなりは錦之輔の自由だが、それでも一瞬迷惑そうな顔を見せたのを俺は見逃さなかったぞ。
涙を流して喜べとは言わないが、もう少し嬉しそうな顔しても良さそうなもんだろう。
まあ、朽ち果てさせなければ良しとしようか。
さて、内政に関しては、大凡の手は打ったので、そろそろ軍事に取り掛かるとしよう。
そう思い工房に向かおうとしたところ、玄以さんが人を雇う人数について相談したいと言ってきた。
先月は少し売上げが良かったおかげで、今は手持ちに余裕はあるが、今後のことを考えるとあまりいっぺんに使いたくないところだ。
雇うのは多くても100人ぐらいにしてもらわないとな。
だが、玄以さんは「20名ほど雇い入れたい」とえらく恐縮した様子で聞いてきたので、50人ぐらいなら問題無いと言ってやると、ビックリしたような顔をして、「では30名ほど」と言って下がっていった。
もっと効率を考えるように、言っておいた方が良かったかな。
まあ、まずはやってみないと分からないからな。
いろいろやっていくうちに、気がついたら50人超えていた、ってことになるかもしれないしな。
まずは任せて、その仕事ぶりを見極めるとしよう。
鐵之助たちの工房にやって来ると、以前より人数が増えていることに気がついた。
さらに驚いたことに、鐵之助のところにいた例の間者と思しき男2人が、連弩のラインの監督みたいなことをやっているのだ。
俺は鐵之助を工房の外に呼び出して、問い詰めてみた。
「ちょっと鐵ちゃん、あいつらさぁ、間者かもしれないって、伝えたよね」
「はい、ですが憶えも早いし、仕事が丁寧なんで使ってます」
「いやいや。それは拙いでしょ、敵かもしれないのよ」
「はあ、まあ、肝心なことはまだ教えてませんし、今は何より人手が欲しいので…」
「そうだけどさぁ、何もあいつらじゃ無くても良いんじゃない?」
「いや、なかなか居ないですよ、ああいう職人気質の人間って」
「でも、武田に筒抜けになっちゃうじゃない、こっちの作戦が」
「その、間者って話ですけど、美紀に聞いたところあいつらのことは知らないって言うんですよ」
「へえ。まあでも、美紀さんも間者だしなぁ」
「美紀が連れて来た草は、ことごとく切られたと言ってました」
「あ、そうなの?」
「だから、少なくとも武田の忍びでは無さそうです。言葉からしてどうやら伊賀か甲賀の者ではないかと」
「へぇ。それはまた、新たな問題だな」
可能性としては、本当に間者じゃ無いか、別口の間者ということになる。
伊賀か甲賀というなら、後者の可能性が高そうだが、証拠が無いからまだ何とも言えないな。
こういう内偵っぽい仕事は誰に頼めば良いんだろうな。
小六君かな?
とりあえずそれは後で小六に聞いてみよう。
鐵之助の言う通り、今は全力で連弩の生産を急ぐ必要があるからな。
改めて現在の状況を聞いてみると、完成している連弩は全部で8台。
そのうち2台は既に馬車に載せて使う自走式に改造済みだ。
牽引式、あるいは設置式として使えるのはやはり5月の時点では8台がいいところだな。
城の防御用には試作型が既に設置してあるので、当面はそれで間に合うだろう。
馬車の方は11台目が完成してたので、連弩を運ぶには足りているが、補給物資の輸送には3台じゃ到底足りない。
10台は欲しいところだが、贅沢は言っていられないな。
さらに俺の思いつきで言った、フィールドキッチン計画もある。
馬車で移動式の竈を運ぶというアレだが、こっちはまだ試作機を製造中である。
要するに屋台のおでん屋みたいな物なわけだが、現場で温かい食事がとれるとなると、兵士の士気は格段に上がると考えられるので、むしろこちらを優先すべきかもしれない。
俺は鐵之助に、こっちを急ぐよう指示を出して、ついでに馬車と同時に必要となる御者の育成状況も確認した。
こっちは思った以上に順調で、20人は即使える状態で、更にあと20人を教育中で、こちらも今月中にはものになる見通しだという。
よし、こっちは問題無しだな。
そうなると、やはり馬が足らなくなりそうだ。
現在、騎馬隊用と荷役用の馬で合わせて200頭ほどいるのだが、もっと増やさないといけないな。
機動力を重視する点から見ても、200じゃ少なすぎる。
少なくとも騎馬用に400、荷役用に200は欲しいところだ。
ただまあ、そう一朝一夕には行かないだろうから、まずは騎馬用300を最低限確保して、荷役用を100前後というところだろうか。
これは最低限実現しなければならない。
現在、弥四郎を馬車部門の責任者にしているが、彼では騎馬隊の方まで手が回らないだろう。
馬廻り役として、もう1人有能な者が欲しいところだな。
とりあえず今は又右衛門にお願いするしかないか。
城の管理で忙しいとは思うが、まあ、何とかなるだろう。
次に、実際に戦場に出て闘う現場指揮官である新九郎と海老蔵を呼び出し、もう一度俺の戦法を詳しく説明した。
そして、実際に完成している馬車と連弩を使って、城攻めの仮想演習をやろうという話になった。
頭では分かっていても、実際に動いてみないと、分からないことも多いだろうしな。
翌日、見学用に立てた櫓を敵の城に見立てて、連弩を使って演習をしてみた。
城を守る敵将を海老蔵にして、殺傷能力の無い矢を使ってこちらの攻め手を防いでみよと、いわば戦国版サバゲーをやらせてみたのだ。
連弩の矢も弾頭を柔らかい物にして、万一当たっても死なないようにしたものを使ってみたのだが、実際に飛んでくる矢を見ればそんなことは分かっていても恐怖心が先に立ち、板塀の影に隠れていても生きた心地はしなかったようだ。
連弩で仮設の木の門を壊し、板塀も破壊されると、もはや隠れるところも無い守り手は、恐慌状態になって逃げ惑う他は無くなってしまった。
高所からの撃ち下ろしを考慮しても弓矢の射程がおよそ100m。
これが鉄砲だとしても、この時代の鉄砲は、有効射程が200m前後なので連弩のアウトレンジからの一方的な攻撃が、どれほど無慈悲で有効な戦法か、身をもって思い知ったようだ。
そこで、その反省を踏まえ、もう一度シミュレーションしてみると、今度は海老蔵もさすがである。
こちらが連弩を設置する前に、騎馬隊を出して阻止する戦法に出た。
だが、そこで有効なのが自走式連弩だ。
自走式は走りながら撃つことも出来るのだが、当然のことながらまず当たらない。
しかし、追っ手からすれば迫っていく敵の後方から、こちらに向けて大威力の矢が飛んでくるのだ。
迂闊には近づけなくなる。
自走式は一旦停止すれば、命中精度は設置式と変わらなくなる。
敵に追われながらでも撃ち、距離があれば停止して精密な射撃をする、という具合に、牽制するにはもってこいなのだ。
これによって設置式の連弩をスタンバイする時間が稼げるのだ。
騎馬隊が、移動式を無視し設置式に迫ろうとすれば、移動式の精密射撃で実害が出るし、そもそも周囲に槍隊や鉄砲隊が守っているのでおいそれとは近づけない。
連弩を設置してしまえば今度は、移動式の4倍の数の大矢が飛んでくる。
騎馬隊は先頭を潰されると、非常にもろい。
8台の連弩の一斉射撃で、おそらく、400騎程度の騎馬隊であれば十分機能停止に追い込めるだろう。
自走式の残念な点は、進行方向に向かって撃てないことだ。
後方にしか撃てないので、追撃には使いづらいのだ。
構造上やむを得ないのだが、そこは今後の課題である。
それでも設置式よりははるかに機動性があるので、クルクルとループを描きながら移動すれば、敵の殿を潰走させることは出来そうである。
演習終了後、新九郎と海老蔵がお互い黒い笑いを交わしていたのが、何とも不気味であった。
演習で自分達の作戦が有効である確信が持てたせいか、兵たちは以前にも増して動きが良くなった。
このまま順調に訓練を続けていけば、自信を持って美濃攻めに加わっていけることだろう。
自分の目指す方向が間違いでは無いことに確信が持てた俺は、次の段階へと進むことにした。
この戦法を織田軍全体で共有するため、同じ装備を持つ信長さん本隊でも、同様の演習の機会を設けていただくよう、具申するのだ。
俺は、ロレンソたちが来るかもしれないことを全員に伝え、その時の対応を指示して、兵と連弩の一式を引き連れ、再び清洲へと舞い戻った。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
なかなか筆が進まず、申し訳ありません。
もう少しペースを上げたいところですが、いろいろな誘惑に負け続けております。
しばらくは、こんな感じになってしまいそうです。




