02 ようこそ戦国シミュレーションの世界へ
ようやく転生しました
目の前が一瞬暗くなり、何も感じられなくなったと思ったら、すぐにパッと明るい世界に放り出された。
俺は、1人で長閑な、本当に何も無い野っ原に立っていた。
車も通ってない、道も舗装されてない、田んぼでカエルがゲコゲコ言う声だけが響く、超ど田舎な村の入口にいたのだ。
幅が5mほどしかないデコボコの泥道が、これがあの幹線道路だというのか?
辺りを見回して、あらためて苦笑いしか出てこない。
人が住むとこじゃねぇな。
ふと、自分の服装を見て絶句した。
「何じゃあこれは!」
そう、自分は女になっていた。
それもビキニとしか思えないほど露出の激しい衣裳を着た、「大谷吉子」として、転生したのだった。
しまった!
キャラメイクからやり直せば良かったのか。
「おーい!チュートリアルさん!リセットはできないのか?」
「……」
「おーい!聞こえてんだろう!?」
「…………」
「おーい!」
少し間があって「はーい、聞こえてますよう」という面倒くさそうな声が頭の中にひびいてきた。
「何だよ、すぐ返事しろよ」
「リセットとは、このゲームの世界では死を意味します。死ぬと、もうこの世界には戻って来れません。それでもリセットしますか?」
すると、急に目の前に選択肢を決めるチェックボックスが現れた、
□はい
□いいえ
こんなとこまで再現してどうすんだよ。
しょうがないなぁ。
「いいえ、このままゲームを進めます」
「よろしい。あと、あなたは女の子ですから、もう少し言葉遣いとか態度とか考えてくださいね」
「そりゃむずかしいなぁ、なんとか自動で女らしくならないの?」
「なりません!」
「あそ、冷たいな神様は」
「こういう時だけ神呼ばわりしないでください」
「はいはい」
「いちおうチュートリアルとして、説明しておきますと、この世界でもゲームと同じで、ステータス表示とか、コマンドとか、ミニマップとかも使えるのですが、コントローラーという物がありません」
「そりゃそうだ、いちいちあんなモン出してたらおかしなヤツと思われるぜ」
「どうやってコマンド出すか」
「そうそう、知りたい知りたい」
「決まったやり方はありません」
「おーい!」
「はーい」
「何だよそれ!」
「キーボードのファンクションキーと同じで、身体のどこでも好きな部分にアクションを割り当てられます。これはホーム画面でいつでも変更できます」
「ホーム画面?」
「はい、まずそこからでしたね、鼻の頭をつまんでください」
「鼻?あ、何か出た」
「現在あなたのステータスと共に全身の映像が表示されていますね」
「おお、惚れ惚れするようないい女だ」
「それぞれ身体の部位にアクションが設定できます」
「おお、確かに鼻の頭に線が引っ張ってあって『ホーム』って書いてあるな」
「そうです、アクションが設定されている部位にはコマンドの名前が表示されています」
「鼻の頭以外にもデフォルトでいくつか主要なコマンドが設定されていますね、たとえば手の甲とか」
「おお、装備って書いてあるな」
「手の甲を擦ると所持している装備品の一覧が出ます、はいやって見ましょう」
「こうか?おおっ!」
「頭の周りを装備品が取り巻いてるぜ」
「それを選択アクション、つまり右肘に左手を添えて右手で頭上のアイテムを指定すると、即座に装備することができます」
「オーなんかカッコいいね、このインタフェース」
「そりゃどうも」
「あ?あんた考えたの?」
「ま、いちおうゲームの神ですので」
「そっかぁ、ゲームに関しちゃ神として認めよう」
「あら、ありがと…って何でゲームに関してって但し書きが付くのよ!」
「いや、何かそれ以外はダメそうだし」
「あなたは自分の立場が分かってないようね、ここが何の世界か忘れてない?」
「あぁ、そうですね、あなた様が作った世界と言うことですね」
「よくできました」
「色々と気を使わないといけないチュートリアルってどうかと思うがな」
「説明、やめましょうか?」
「はい、続けてください」
「えーと、現在内政コマンドなどは、アクションが設定されてません。内政コマンドのアクションを設定してみましょう」
「はい」
「左手を右肘に添えて右手で右耳を引っ張ってください」
「はあ?バカっぽいなぁ」
「ぶつくさ言わない」
「はーい、何か出ました」
「なんと書いてありますか?」
「新規コマンド設定、とあるね」
「はい、ではその状態で、内政コマンドを始める時のアクションを決めましょう。どう言うアクションが良いですか?」
「どう言うって、コマネチっ!とかでも良いのか?」
「古っ!…まあ、可能ですが色んな人の前でそれをやる勇気があるなら…」
「ありません!」
「もう、真面目にやって」
「そうねえ内政だから、拳の手の甲でおでこを叩くとか」
「はい、その動きで設定されました」
「では実際に内政コマンドを出してみましょう、ハイどうぞ」
「お、おう、こうだな、おおっ!何か出た」
「さっきの装備品と違って、今度は目線より少し下にパネル状のボタンが並んでいますね」
「おぉ、ってこれボタンか、でかいな」
「邪魔なようならもう少し小さくもできますよ」
「ちょっと小さくしたいな」
「ではまた右肘に左手を添えて指でパネルの天地の大きさを動かして、希望する大きさで止めてください」
「ほほう、こんなもんかな」
「それで良ければ左手を離して決定されます」
「なるほど、なんでも選択する時は左手を添えるんだな」
「そうですね」
「ほう、たとえば開発コマンドを選択する時は、左手を添えて、おっ、画面が変わったな」
「現在の開発状況と、今出せる命令が四角く囲ってありますね」
「なるほど!今の所持金が3382で出来るコマンドが…開拓だけかよ」
「そうですね、今5月の21日ですので、あと10日待てば全ての命令が出せます」
「なーるほど、だいたい分かってきた、ちょっと色々やってみるわ」
「そうですね、まずはこの世界に慣れることから始めましょう」
「オッケー、ありがとう、またお願いします」
「はい」
「チュートリアルさん」ことゲーム神は、姿を消し何処かへ行った…わけでは無いと思うが、とりあえず目の前から姿を消した。
恐らく、今こうしている時でも見守ってくれていることだろう。
ちょっとここらで、自分のステータス確認しておくか。
大谷吉子(女)
年齢16
織田家:武将
所持金:3382
総合レベル:11
思想:革新
宗教:なし
名声:82
使用武器:火炎鳳凰緋扇
領地:吉子村
能力値:
統率74、武力70、知略91、政治83
体力78、腕力58、技量50、乗馬4、砲術0、走力7
常駐スキル:鑑定
製造スキル:なし
おお、ちょこっとレベルアップしてるな。
さっきの合戦では、そこそこ活躍したからな。
もともと高いせいか、知略がなかなか伸びないな。
まあ、知略使うような場面がまだ少ないから伸びようが無いわな。
さて、じゃあ領内の見回りでもしますかね。
自分の屋敷までは一本道なので、迷いようも無いのだが、一応マップなどを表示してゲームの時との違いなども確認しながら行くとしよう。
しばらく歩いて行くと、最後に開墾して畑を作ったところに着いた。
こうして見ると、結構な広さの畑である。
サッカー場ぐらいはありそうな広さだ。
ゲーム上ではちっちゃな畑だと思ったけどな。
しかし、誰もいないな。
さっきから15分ぐらい歩いてるけど、誰とも会わないぞ。
あぁ、あの林が植林した林だな。
まだ木は背丈ぐらいの小さな木である。
これがあと1年で大木になるとは考えにくいな。
はたしてどうなるのか。
さらに進むと水田が広がっていた。
最初に2区画まとめて水田にしたところである。
一面に広がる緑の水田はホントに綺麗だな。
今度は人がいるぞ。
ちょっと声をかけてみようかな。
「おーい」
「……」
「こんにちは〜」
「……」
「なんだ、ここのNPCは愛想が無いな」
「ハイハ〜イ、呼ばれてないけど飛び出てジャジャジャジャーン、チュートリアルさんだよ!」
「あんたも古いな、それ知ってるのって30代後半じゃないの?」
「いえ、神は何でも知ってるんです。あなたに合わせたのです」
「で、何しに出てきたんだ?」
「コホン!えーと、今村人に話しかけようとしましたね?」
「はい、しました」
「人に話しかける時は、直接手で触れるか、左手を添えて選択状態にして話しかけるようにしてください」
「えぇ?面倒くさいなぁ」
「そうですか?独りごと言っても聞かれないから良いと思ったんですけど」
「もう少しナチュラルなコミュニケーションが良いな」
「それって村人全員に会話のAI設定しないといけないんで面倒なんですけど」
「あんたの事情は知らない、俺は面倒なんだよ」
「ほら、女の子なんだから俺とか言わない」
「あらごめんなさい」
「キモッ…えーと、分かりました。今から直します」
「え?ホント?出来んの途中から」
「私は神!ですから」
「へぇ、だったら俺のキャラメイクも最初からやらしてくれよ」
「それはダメです、あなたがこの世界にいるよりどころになっているのが、セーブしたところからまた始めたいという心残りなのですから」
「へいへい」
「はい、今この瞬間から、登場する人々とは普通に人間と話すのと同じになりました」
「おぉさすが神」
「ただし、人としてきちんとした応対をしないと、怒ったり泣いたりしますから気をつけてください」
「ほほう」
「特に女性には気をつけて」
「まあ、自分も女性だけどな」
「だったら自覚を持ってもっと女性らしく振る舞ってください」
「気をつけま〜す」
「では戦国ライフをお楽しみください」
※なお、この後私はチュートリアルとしての登場になります。
よろしくね。
なんだ?そりゃ。
まあいい、何だっけ、村人のAIがどうのこうのと言ってたな。
AIで出来てんのか?
さっそく話しかけてみるか。
「お…」
女らしくだったな。
「こんにちは〜」
「はい?」
「精が出ますね〜」
「あぁっ!これは領主様!」
「あぁちょっとちょっと、そんなお辞儀なんて良いから、仕事続けて」
「いや、今どき1年、年貢いらねぇなんていう領主は滅多にいねぇから、ありがてぇやら、もったいないやらで、感謝しとりますで」
「そうなんだ。だって米採れなきゃ納めようも無いでしょうに」
「いやぁ、そんな理屈も分からねぇ領主が多いもんだから、みんな困っとるんですわ」
「ふうん。ま、来年は期待してるからね、その時はよろしくね」
「はあ、まあ、できる限りのことはしますが、なんせ自然相手だで確かなことは言えねえだ」
「はーい、それで十分です、じゃ、お仕事頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」
はて、この辺の地方って、ああいうしゃべり方だっけ?
名古屋弁じゃなかったか?
※ツッコミが細かい!こういうのは雰囲気です、雰囲気。
雰囲気って、あれ?俺喋ってないのに、チュートリアルさん返事したなぁ。
えぇ?
心の中まで分かっちゃうわけ?
※そうです、神は何でもお見通しなんです。
「それってプライバシー的にどうよ」
※ほらほら、道の真ん中で独り言喋ってると変に思われますよ。
「なんだか適当に誤魔化そうとしてないか」
※ほら、通行の邪魔ですよ。
見れば川の方から、騎馬武者が3騎、横に並んで道を走ってくる。
なんだ、道から出ないと避けられないじゃないか。
縦に並んで走れよ。
誰だよ、ってウチの部下達じゃねぇかよ。
とりあえず、道から出て通りすぎるのを待とうと思ったら、全員こっちに気づいて馬から下りて、三人並んで頭を下げる騒ぎになってしまった。
まあ、この出で立ちじゃあ見間違いようも無いか。
「大谷様、こちらにいらっしゃいましたか、お探ししておりました」
「ああ、悪かっ……それは失礼しました」
「とんでもございません、御領主様自ら領内を巡られるとは、素晴らしいことです」
「それで、御用はなにかしら?」
「それが、たたら場の棟梁が面会を申し出ておりまして、今御領主はご不在だからまたの機会にせよと言ったのですが、帰るまで待たせてもらうと言って動かないので、こうやってお探しに参ったしだいでして」
「はあ、棟梁が何の用だろう」
「何でもぜひお渡ししたいものが有るとのことです」
「ふうん、ま、いいや、すぐ戻りましょう」
「では、この馬をお使いください」
「でもそれはあなたのでしょう?」
「私は歩いて帰れますゆえ」
「一緒に乗って帰れないかしら?」
「いや…さすがに、御領主様と相乗りなど、罰が当たりまする!」
「そう…馬の操作が良く分かってないんだけどな」
「はい?」
※ほらほら、人前でそう言うこと言い出すから、気をつけてと言ってるんです。
馬の操作は簡単です。
セグウェ○だと思ってください。
セグ○ェイがわからんわ。
つーか注釈で文句言うの止めてくれる?
※あなたも心でツッコミを入れられるようになったのね。
良い傾向です。
セ○ウェイは前に倒すと前進で後ろに倒すと後進ですね。
それと同じで、馬には体重移動で進む速度と方向を指示するのです。
前に倒せば倒すほど馬はスピードを上げます。
止まる時は身体を戻せばスピードを落としますが、急に止まりたい時などは手綱を手前に引いてください。
なお、実際の馬の乗り方とは違いますので、ご注意ください。
大丈夫。
今後生きてる間に実際の馬に乗ること無いから。
※その通りです。
では、実際に屋敷までひとっ走りしてみましょう。
はーい。
馬の乗り方の習熟をかねて、色々試していたら屋敷をはるかに通り過ぎてしまい、戻ってくるのにずいぶんと掛かってしまった。
まあ、これで戦場でも乗れるくらいに習熟してくれてれば良いんだが、馬術レベルが上がったってアナウンスも無いしな。
そう甘くは無いってことだ。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
この後、3日おきぐらいに更新していければと思っております。
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