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75 視察団2

お待たせしました。

 特設会場では、鐵之助と岡部さんの一番弟子の寺造、それと中村兄妹がスタンバイしてい待っていた。

 まず、開拓した新領地全体を見回してもらうため、20mほどの高さの簡易な櫓を建てた。

 そこからだいたい新領地が一望出来るようになっているので、沼地だった土地がどのように開拓されたか一目で分かるだろう。

 そのついでに、連弩の試射も櫓の上から見てもらうことにした。

 上からだとインパクトに欠けるかも知れないが、まずは安全第一である。

 一応ゲスト全員が乗っても大丈夫な大きさに作ったのだが、高いところに登ったせいで、奇妙丸君がテンション上がりまくりで、走り回るわ手摺から落ちそうになるわで、危なくてしょうがないので玉ちゃんに預けて暴れないようにしてもらった。

 男の子は若いお姉さんが好きだからな。

 俺も若いお姉さんのようなものだが、ずっと相手をする訳にいかないし、ガキの相手など勘弁して欲しい。

 櫓の上から見た開拓地は、見渡す限りきれいに整地されて、実際の面積以上に広く感じる。

 このあと用水路を通して、ほぼ全域を水田にする予定であることを告げると、信長さんは大いに満足したようで「さすが吉子じゃ、天晴れである」と、お褒めの言葉をいただいた。

 それでも400石ぐらいしか増えないんだけどな。


 「それでは、いよいよ新兵器の連弩をご紹介します」

 「ほほう、連弩とな。連弩と言えば諸葛孔明であるな」

 「はい。構造的には諸葛弩と近いものがありますが、アレよりも大がかりで強力であり、長時間発射し続けることが出来ます」


 そこまで説明すると、鐵之助に合図を送る。

 すると、少し離れた小屋から2台の馬車が登場し、鐵之助の側で停止した。

 1台はそのままだが、もう一台は御者台から人が下りてきて、連弩を馬車から外し、開脚式の銃架を拡げ、地面に杭を打って固定した。


 「あちらに2種類の連弩を用意しましたが、連弩そのものは同じ物です。ただ、運用方法の違いを見ていただくため、このように2台並べてご紹介いたしました」

 「なるほど、馬車に載せたものと、地面に置いたまま使うもの、ということじゃな」

 「そうです。まずは連弩の性能をご覧ください」


 俺がそう言うと、およそ430m先に竹の束が並べられ、その後に兵隊に見立てた案山子(かかし)が建てられた。

 ここで言う竹の束は、もちろん単なる竹を束にしたものではなく、鉄砲の弾よけとして竹竿を何十本も束ねたもので、陣地の弾除けにしたり、兵隊が掲げて矢玉を避けながら敵に近づく時に使うものだ。

 だから普通の矢なら、到底貫通など不可能だし、鉄砲でも1発2発なら問題無く耐えられるものだ。

 だが、俺が「あちらをご覧ください」と手で示さなければ、誰もそれが並べられたことに気づかなかったようだ。

 まあ400m以上も離れていたら、ふつう気がつかないわな。


 「何と、まさかあそこまで届くというのか?」

 「あの的まで、およそ4町ほどあります」

 「4町!」

 「まずは、実射をご覧ください」


 俺は鐵之助の方に手を上げ、「撃ち方始め!」といって手を下ろす。

 それを見て、鐵之助ともう一台の射手は同時にハンドルを回す。

 バシュッ!バシュッ!と言う音が同時に響き、2人はなおもハンドルを回し続ける。

 だが、矢が発射されたようには見えない。

 速すぎて見えないのだ。

 するとまた、2秒ほどしてバシュッ!バシュッ!と言う音が、繰り返し発せられる。今度は皆、注意してい見ていたので何かが飛んで行ったことは分かったようだが、やはり目では追えてない。

 的の方を見ると、先ほどまできれいに並べられていた竹束が、だいぶ歯抜け状態になっている。

 さらにバシュッ!バシュッ!と、音がしてその一瞬後に竹束の一部が飛び散った様子が見て取れた。

 ここで俺は「撃ち方止め!」と射撃を止めさせる。


 「では、実際の効果を見てみましょう」

 「うむ、竹束が何本か倒れたようじゃな」

 「そのようですな、人が支えていたとしても、倒されるほどの威力と言うことですかな」

 「実際に近くで見なければ分からん、行くぞ」


 ここから歩きで見に行くのはかったるいので、再び馬車に乗ってもらい、標的近くまで移動していただいた。

 馬車から降りて標的の様子を見た時、全員が凍りついた。

 竹束は倒れたり解けたりしたのではなく、束の中心に食い破られたような穴があき、支えてあった支柱が途中から折れていた。

 そして、後ろに置いてあった案山子はそこから更に5mほど飛ばされて、手足に見立てて縛ってあった竹竿は、これも引き千切られたように折れていた。

 その破壊をもたらした矢は、その更に10m先の地面に深々と刺さっていた。


 「何たる威力じゃ」

 「4町も離れておるのに…」

 「届かせるだけなら5町半まで届きます」

 「鉄砲でもせいぜい2町までだろう、それを……」


 俺は地面に刺さっている矢を引っこ抜いて、矢の実物を全員に手に取らせて見せた。


 「ふむ、重いな、だが、軸は木だ」

 「矢羽根の代わりに紙を使っておるのか」

 「そうです。少し訓練を積めば、誰でも製造することが出来ます」

 「いや、しかし、このような物をあのような速度で次々と撃たれて見ろ、近寄ることもままならぬわ」

 「これなら堀の外側からでも、板塀に張り付いた兵を攻撃出来ます」

 「うむ、これほどの射程ならば長弓でも届かぬかも知れぬな」

 「攻城がずいぶんと楽になりますな」

 「仰るとおり、攻城にも使えますが、この連弩が一番威力を発揮するのは、守城用として櫓などに設置し、高所から一方的に打ち下ろす状況だと考えます」

 「なるほど、お主の城の門が櫓と一体になっている訳が分かったぞ」

 「最初から、これを載せることを前提に作っておったのか」

 「その通りです」

 「まっこと恐ろしき女子じゃな」

 「私はこれを野戦でも使おうと考えています」

 「ふむ、それだからこそ、馬車に載せた連弩を作った訳じゃな」

 「そういうことです」

 「どういう用途を考えておる?」

 「騎馬隊などの突撃を牽制すること、もしくは敵の戦意を挫くことです」

 「ほう、大掛かりな割りには控え目な用途じゃな」

 「連発出来るとは言え、全く近寄れないと言うほど激しいものではありませんし、一発の威力は大きいですが、当たらなければ被害はほとんど無いでしょう。むしろ恐怖心を抱かせることで戦意を喪失させる方が有効だと考えます」

 「そうかもしれんな」

 「馬車に積んだ方は、移動しながらも撃つことが出来るため、敵の追撃などを振り切る時などにも有効かと思います」

 「なるほど、城攻めなどでは地面に置いて撃つ方を使う訳じゃな」

 「そうなると思います」

 「ふうむ、凄いものを作りおったな。じゃが、これで火矢などは撃てぬのではないか?」

 「そうですね、構造上火の付いた状態で撃つことは出来ませんが、着弾した時に火が出るようにする弾を、現在研究中です」

 「ほう、それはたいしたもんじゃ」

 「吉子さんの居る陣営とは、絶対闘いたくありませんね」

 「まったくじゃ」


 連弩の威力と用法については皆さんご理解いただけたようだ。

 全員でまた、鐵之助のところに戻ってきて、連弩本体の構造などを鐵之助から説明させていると、信長さんが決定的な質問をしてきた。


 「して、貴様はこれを美濃攻めで使うつもりなのであろう?どのくらい数が揃えられるのじゃ?」

 「えぇ、そこが問題でありまして、現在製造出来る者が鐵之助以外おりません、5月までに彼がどれだけ頑張っても、おそらく30〜40台がせいぜいかと思われます」

 「であろうな。ならば各武将に一台ずつ渡したらそれで仕舞じゃな」

 「そうです。ですから分けても2部隊ぐらいで、集中的に使っていく方が効果的と思われます」

 「その、鐵之助に倒れられたらどうするのじゃ?攫われることもあり得るであろう?」

 「もちろんそこで終わりです。替えは効きません」

 「それは大事にせんとな」


 そう言いながら、信長さんは近寄ってきて、耳元で囁きかけてきた。


 「それほどの者の奥方が、間者とはな。本当に大丈夫なのか?」

 「そうですね、不安が無いと言えば嘘になりますが、逆に安全なんじゃないかと考えてます」

 「ほう、なぜじゃ?」

 「彼はもちろん優れた才能の持ち主ですが、本人は異常なほど無口で口下手な男です。彼の場合、私がある程度こんな物を作りたいと要求しないと、きちんとした物を作ってはくれません。放っておくと実用性の無い訳の分からない物ばかり作っている只の変人になってしまうのです」

 「なるほど、あ奴だけ連れ去っても使い物にならぬと」

 「そうです、その変人っぷりに愛想を尽かして美紀さんは鐵之助を放り出してしまったのですが、私に雇われたので再び戻ってきたと言う訳です」

 「つまり、貴様の下にいなければ鐵之助は役立たずになるので、そのまま一緒にいる方が得策と考える訳だ」

 「様々な情報も手に入りますしね」

 「だがこれ以上連弩を作らせぬように殺すかも知れぬぞ」

 「殺そうと思えば簡単に出来るでしょうが、その後一切情報が入らなくなることを考えれば、そのままにしておく方が有利と考えるのではないでしょうか」

 「ふん、まあ良かろう」


 連弩のお披露目は、こうして無事終了し、織田家臣団と松平家康に少なからぬインパクトを与えたことだろう。

 視察団のツアーは、この後木曽川の護岸工事を見学、信玄堤の方式を応用した霞堤(かすみづつみ)の工法に皆さん非常に感心しておられた。

 そして、これらの工事を取り仕切っていたのが、今小牧山で秀吉とともに築城に当たっている小一郎だと言うことを説明すると、信長さんの顔が微妙に動くのが感じられた。

 こりゃ間違い無く欲しがっているなぁ。

 バーターで誰か2人ぐらい寄越してくれるなら、それでも良いけどな。

 まあ、でも、秀吉が手放すはずないか。

 後の彼の成功の半分くらいは小一郎のおかげだからな。

 そう思っていると、また信長さんが近寄って来て、耳元に話しかけてきた。

 お、早速小一郎コール来たか?と思ったが、違う話だった。


 「貴様が馬車に拘っていた理由がようやく見えてきたわ。これは戦場と言うより、商売で大きな役割を果たすと見ておるが、相違あるまい?」


 あ、そっちでしたか。


 「もちろんです、人の足より何倍も速く、しかも大量に荷物が運べるなら、商売の形が大きく変わると考えています」

 「だが、未だ道も狭く橋も渡れぬ橋も多いであろう?」

 「そうですね。ですので、身銭を切ってでも橋の架け直しをやりたいと思ってます」

 「さようか、ならば名古屋と清洲は、予がやるとしよう」

 「え?大殿様が?」

 「意外か?馬車を使えば行軍もこれまでに無い速さで出来るのであろう?」

 「そうです。特に荷駄の速度が格段に上がります」

 「それには街道の道幅も拡げねばなるまい、貴様だけの力では足りぬであろう」

 「それは、やっていただけるなら、願ったり叶ったりですが…」

 「小一郎とやらは、土木に通じておると聞く、予の元で力を示すには良い機会と思わぬか?」


 あ〜、やっぱりそういう話だったか。

 うまくバーターの話に持って行かないとな。

 小一郎取られただけだと、損害が大きすぎるからな。


ここまでお読みくださりありがとうございます。

小一郎の代わりに誰が来るのか?

また、大物の予感が……。

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