11 小折城
領地に戻ったところでちょうど月末となった。
ここで、領地情報を確認してみる。
○吉子村
領主:大谷吉子
所属:織田家
人口:1210人
石高:320石
金収入:1400
米収穫:2800
総兵数:300(200)雇い兵
商業:210
農業:350
木産:100
鉄産:35
民忠:65
特産品:魚
◇施設
市場:1
砦:1
港:2
◇奉行
勘定:小谷町子(代理)
普請:荒木又右衛門
道中:木下小一郎(出向)
◇侍大将
伊勢新九郎
中村錦之輔
◇下人
弥四郎
海老蔵
まあ、だいぶ人口が増えたとは言え、まだショボショボだな。
この開発具合で城を建てようってんだから、無茶だよな。
念のため、もう100人、兵を募集しとくか。
そうだ、錦之輔が暇にしてるこの機会に鉱山の探索をやろう。
錦之輔を呼びつけ探索の指令を与えると、喜び勇んで飛び出していった。
小一郎が入ったことで、お互いにライバル心が芽生えたようだな。
良い傾向である。
それじゃ、こっちも頑張って金稼がないとな。
募兵の指示を出し、新たに畑を2反開墾するように町子ちゃんにお願いして、俺は新九郎を連れて再び清洲に向かった。
今回はなるべく報酬の高い依頼をこなさないといけない。
今月に入り何件か良さげな依頼が増えたようだが、どうせなら自分の能力向上も図れる依頼を選ぶことにした。
国人衆の懐柔である。
鵜沼城という、犬山城の北東に位置する城を治める大沢次郎左衛門と、その一門への働き掛けが今回の依頼である。
具体的には完全に斎藤方でガッチリ固まってる現状を、織田に付く方が将来有望ですよと伝えに行くだけの仕事だが、城主の大沢次郎左衛門という男が、中々に頑固者な上、それなりに強い武将らしく、城も木曽川に面した小山の上に有り、こちらも難攻不落の堅城であるという。
力で攻め落とすよりは調略で解決するのが望ましいということで、それに繋げるための準備交渉という感じだろうか。
そういう交渉だけなのに金4000もくれるというので、受けることにしたのだが、実は大変な仕事かも知れないと、ちょっと後悔しはじめている。
というのも、そもそも代々斎藤家にベッタリだったこともあり、織田家とのコネクションが全く無い。
現状では話し合いの場すら作れないと言うのが実際である。
誰を頼ったら良いかすら分からないのだ。
到底、昨日今日入った新参者にこなせる仕事では無かったようだ。
そういう人脈的なことは、国人衆同士が案外繋がりを持ってるかも知れないと思い、清洲から直接川並衆の砦へと向かった。
こんなことなら、もうちょっと戦国時代の勉強しとくんだったな。
織田信長ってもっと覇王的なイメージがあったけど、結構地味な交渉やら調略やらでやっとこさ尾張を統一したんだよな。
だからこうやって武田あたりの横槍で寝返るヤツも出てきたりするわけである。
川並衆の砦に着いたが、前野長康は秀吉の仕事のため留守にしているという。
代わりに出てきた坪内玄蕃と言う男に、大沢次郎左衛門に話を通せる奴がいるか聞いてみた。
すると、そういうことなら小折城主の生駒家長を訪ねよと言う。
そこに出入りしている蜂須賀小六という男が、もともと川並衆の棟梁で、前野長康とも義兄弟であるし、一昨年まで織田信清に使えていたそうで、その時期に大沢次郎左衛門とも誼を通じているので、彼に話し合いの調停を頼むと良いと教えてくれた。
ここで出てきたか蜂須賀小六。
秀吉の出世を陰から支えた功労者として有名だが、俺が先に知り合って大丈夫かな?
既にだいぶ歴史変わってきてるかと思うけど、どうなんでしょう?
※あ?あたしに聞いてんの?
あー、何だっけ歴史が変わって大丈夫かって話?
神様ったら、聞いてなかったのかよ。
何でも知ってるとか言って、けっこう最近放りっぱなしだよね。
※いや、私がしゃしゃり出ない方が良いだろうと思ってるだけですよ。
それに歴史が変わるって今さらでしょ。
あなたみたいなブッ飛んだ女武将がいたら、そりゃ世の中だって変わるわよ。
そうですよね〜。
失礼しました。
好きなようにやらせていただきます。
※それがよろしいかと思います。
一旦領地に帰ろうとした時、坪内玄蕃が、小折城に行く前に信長さんに一声かけといた方が良い、と忠告してくれた。
何故なら生駒家長の妹、吉乃は信長さんの側室だと言う。
どうやら織田家中では有名な話だったようで、とんだ恥をかくところだった。
既に3人もお子を生んでおり、正室である濃姫より愛されているともっぱらの噂だそうだ。
いやぁ、無知って恐ろしい。
そう言うことなら先に清洲に行くとしよう。
小折城は明日だな。
坪内さんには丁寧にお礼を言い、ちょうど持ち合わせていた寧々さまのおにぎりを差し上げた。
気のせいかちょっとほっぺたが赤くなったように見えたが、やはり気のせいだろう。
新九郎を領地に帰し、再び清洲に舞い戻った時は、既に夕方近くになっていた。
信長さんは、つい先ほどまでの軍議で小牧山に築城することを決定したばかりだったようで、少し疲れた顔をしていたが、無事会うことができた。
「吉子よ、領地の開発はどうじゃ?」
「はい、おかげさまで少し将来に向け、形が見えて参りました」
「ほう、それは良きことよ。して、用向きとは何じゃ」
「明日、所用で小折城に向かうのですが、生駒様に何かお伝えすることがあれば承りますが」
その瞬間、信長さんは遠くを見るような眼をして「おお、吉乃か、久しく会っておらんな…」と、漏らした。
少し考えをめぐらしたあと「暫し待て」と言って、奥へ行ってしまった。
何か、土産物でも持たされるのだろうと、部屋で待っていると「御屋形様」と言って池田恒興さんが入ってきた。
「あら、久しぶり」と、声をかけると、なぜか急に慌てたような素振りになり「ひ、久しいな…」と言って、また戻って行ってしまった。
何だったのだろう。
今日は別に寧々さまの着物は着ていないのだがな。
暫くして、信長さんが戻ってきた。
案の定、手に美しい蒔絵が施された小箱を持っている。
それを俺に見せて、聞いてきた。
「どうじゃ?女子の目から見て。貰って嬉しく思うか?」
その箱を開けると、中にはこれまた繊細な蒔絵が施された串と簪と手鏡がセットになった、現代に持ち込んだら間違いなく国宝級の小箱であった。
これほどの逸品を貰って喜ばない女なんて居るのか?とも思ったが、信長さんのそのへんの男心が分かるだけに、思い入れの激しさが痛々しくも感じられるのだった。
「それはもう、嬉しゅう御座いましょう」
俺が小箱を受け取ったちょうどその時、池田恒興が部屋に入ろうとしていた。
「こ、これは、ご無礼いたした!」
池田さんは慌てて部屋を飛び出していった。
ん?池田さん?何か落としてったよ。
「どうした恒興?」
「いや、出直して参る!」
「なんじゃ可笑しな奴よ」
「何を落としてったの?」
信長さんがそれを拾って見ると、これまた美しい漆塗りの小箱で、黒地に金のラメ入りのようなキラキラした装飾が施されていた。
中を開けると真っ赤な串が入っていた。
それを見て信長さんはクックックと笑い始め、最後には大爆笑になってしまった。
そしてその箱を俺に渡すと、笑いながら言った。
「恒興の阿呆めが、勘違いしおって!」
こっちが何のことやら分からないという顔をしていると、再び笑いがこみ上げてきたようで「不憫な奴よの」と言って、箱をこちらに渡した。
「あやつはお主のことがずいぶんと気になっておるようじゃ」
そう言われてようやく事態が理解できた。
要するに池田さんは俺が信長さんから告られたと勘違いしたわけだ。
自分が告ろうとした相手に、親分である信長さんに先を越されたと思ったのだろう。
これじゃあ少女漫画にありがちな、勘違いラブコメである。
でも確か池田さんにはれっきとした奥様がいらっしゃったような。
まあこの時代だから、側室やら妾さんやらが居てもおかしくは無いが、いやぁ罪作りだね、俺。
いや吉田ようさんか。
しかし参ったな。
たとえ勘違いが是正されたとしても、俺にとって問題はそこでは無い。
男と一緒には、なれないと言うことだ。
いっそ、勘違いされたままにしておくというのも1つの手か?
いや、ダメだな。
危険すぎる。
ここはやっぱり正式にお断り申しあげよう。
俺は清洲城を探し回り、ようやく渡り廊下のところで項垂れている池田さんを発見した。
だいぶショックを受けているご様子。
思えば軽海で会った時から態度がおかしかったものな。
うーむ、ここで本心を告げると言うことは、想いが破られたところに追い打ちをかけることになるのだよな。
気の毒だけどなぁ。
嫌なものは嫌だしなぁ。
しかし、そのあまりの落ち込みように、つい本心を言うのを躊躇ってしまった。
こういう時の煮え切らない態度が、後々大きな不幸を招き寄せるというのは、ラブストーリーの定番である。
だが、男心も痛いほどわかる身としては、問題を先送りすることにせざるを得なかったのだ。
俺は、信長さんから貰った物は吉乃さんへのプレゼントだ、と言って誤解を解いたが、池田さんが俺に渡そうとしたプレゼントは気づかないフリをして「はい、落とし物だよ!」と言って返したのだった。
そして、あらためて渡される前に、急いでいるからと言って無理矢理その場を逃げ去ったのだ。
あ〜自己嫌悪!
いや、戦国の野望やってて、こんなラブコメ展開あり得ないでしょ。
その後一旦領地に戻ることも考えたが、既に日没間近だったので清洲城に泊まることにした。
誰かさんに夜這いとか仕掛けられないよう、大奥の側使いが寝起きする部屋を借りることができた。
無論、男子禁制である。
なので、肌襦袢姿でウロウロする若いお姉様方が気になって仕方がなかった。
別に寝なくても体調には変化は出ないと思うが、ちゃんと寝ないと眠くなる仕様らしいからな。
そんな状態でも、なんとか5時間は眠れたと思う。
翌朝、単身小折城を目指し出発した。
信長の側室かぁ。
そう言えば、濃姫にも会ったことないな。
どういう人なんだろうねぇ。
まあ、このゲームのことだからきっと綺麗な人なんでしょう。
昔からエーコーのゲームに出てくる女性は、ちょっとおじさま好みの上品な美人しか出てこないからな。
きっとあのゲームプロデューサーの好みなんだろうな。
小折城に着くと、まずは生駒家長に会うことができた。
そこで、自己紹介と訪問した用件を伝え、先に蜂須賀小六を紹介してもらうことになった。
蜂須賀小六正勝。
ゲームの中なので当然だが、ゲームに出てくる画像そのまんまである。
歴史上では前野長康と共に秀吉を支え、墨俣一夜城の築城に貢献したとされる、のだが既に一夜城は秀吉が独力で建てているので、だいぶ歴史とは乖離してしまったようだ。
濃い髭を蓄え、いかにも豪傑といった感じの大男である。
かつては斎藤道三に仕えていたようだが、その後、織田信清に仕え、現在はどこの勢力にも加わらず、生駒家で食客のような扱いになっているようだ。
俺の顔を見るなり、いきなり大声で「こらぁえらい別嬪さんじゃのう」と言って、手を握ってきた。
「こんな別嬪さんが用があるとは、わしにもついに運が廻って来たかのう!ハッハッハ」
「だと良いわねぇ」
「して、用向きとは何じゃ?」
「実は鵜沼城の大沢次郎左衛門と話がしたいのだが、あんたが間を取り持ってくれるかも知れないと、坪内玄蕃から聞いてね、どうだろうやってくれるかい?」
「なんだ、そんな用事なら玄蕃が自分でやりゃ良いじゃねぇか。ははぁん、あいつなんか企んでやがるな」
「企んでる?」
「奴はわしがいつまでもどっち付かずでプラプラしてるのが気にいらんのじゃ」
「へぇ、ってことは生駒家に居るけど、織田方に付いたわけじゃないんだな」
「まあな、もう少し様子を見るつもりだったんだが、別嬪さんに頼まれたんじゃあ腹を決めるしかねぇな」
「じゃあ、仲を取り持ってくれるんだね」
「任してくれ、お安い御用さ」
「それは助かる。で、仲介料はいくら払ったら良いんだ?」
「そうさな、わしを暫く雇っちゃくれないか?」
「は?」
「去年子供が生まれてよ、いよいよきちんとお勤めしなきゃならなくなったんだが、今、織田家中で急速に名を上げてるあんたとなら、面白い仕事ができるかも知れねえと思ってね」
「なんだ、私のこと知ってるんだね」
「こう見えて耳聡い方なんでね」
「そうか、こっちも方々に顔が利く優秀な副官が欲しいと思ってたところでね。そういうことならこれからよろしく頼むよ」
「おほっ、嬉しいことを言ってくれるね、こっちこそよろしく頼まあ」
ということで、蜂須賀小六が仲間になりました。
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