01 軍師半兵衛
最終更新から既に二ヶ月経っていたとは……
お待ちいただいた皆様には申し訳ありませんでした。
今回から新章突入です。
●これまでのあらすじ
ゲーマーでミリオタだった大谷吉続は、自宅でゲーム中に不慮の事故で死亡。
神様のはからいで、その時やっていた戦国シミュレーションの世界に女武将大谷吉子として転生する。
現代知識と軍事知識でアッという間に頭角を現すと、それまでの戦の常識を覆す連弩と馬車を開発。
それらを使った近代的な戦法を駆使して、美濃攻略に大きく貢献する。
ただ、人間関係の構築を疎かにしたため、旧臣との軋轢が絶えず、織田家中では孤立を深めていった。
それでも自ら立ち上げた高級菓子ブランド大谷本舗が順調で、経済的には潤っており、新兵器開発も順次行われていった。
菓子と茶の湯は切っても切れぬとあって、堺の商人今井宗久や公家の山科言継の引き合いで、三好家や、京都の宣教師など不思議な人脈も広がりつつあった。
美濃攻略の下準備として有力武将の調略を任された大谷は、竹中半兵衛を味方に引き入れることに成功、更に半兵衛から美濃の諸侯らが反乱を起こすから、それに乗じて美濃攻略を進めるよう提案を受ける。
この案に乗った織田信長は、反乱の隙に乗じると共に、大谷の作った連弩と馬車を駆使して要害の城を次々と落とし、連戦連勝を重ねアッという間に斎藤龍興を追い詰めた。
大谷も攻略途中で一騎打ちで負かした大島光義を味方に付けるなど、補給部隊長だったにもかかわらず大戦果を上げ、名実共に織田家の有力武将となった。
当初斎藤家の存続を画策していた竹中半兵衛だったが、織田家の勢いと大谷の新兵器によって目論見は崩され、当主の蟄居引退をもって斎藤家の滅亡を辛うじて回避させた。
当主斎藤龍興は稲葉山城を明け渡し、これによって美濃平定は完了した。
策を整えた竹中半兵衛は、そのまま大谷吉子の部下となり、軍師に任命された。
美濃平定が一月足らずで終わった事は、近隣の大名達に少なからぬ衝撃を与えたようだ。
徳川、浅井は言うに及ばず、上杉や朝倉からも信長さん宛に書状が寄せられたという。
さらに稲葉山が落ちたという知らせは、京都にも伝わったらしく、公家衆達にも驚きをもって迎えられたようだ。
俺のところにも直々に今井宗久と山科言継さんからも書状が届いた。
山科さんなどは「いち早く浅井と盟を結ばれ、上洛を見据え、備えを怠らぬよう」などと随分と気の早い話も書いてあったが、実際問題まだそんな状態ではない。
斎藤龍興蟄居の後、美濃のほとんどの国人衆が直接挨拶に訪れ、信長さんに恭順を示したが、一部の勢力がまだ独立を狙って不穏な動きをしているので、それらを収めるのにもう少し時間が必要だろう。
だが、こっちはそんなことには係わっている暇は無い。
今、俺は岐阜と吉又城の中間地点に小さな砦を作り、そこに新領地の開発拠点を作ろうとしている。
まさにこの地域全体を見据えた都市計画を練り上げようとしているのだ。
そこには新たに俺の陣営に加わった竹中半兵衛と築城名人の羽柴秀吉、大垣城主に返り咲いた氏家卜全が加わり、さらに大工の棟梁としての立場を大きく超えて大名並の実権を持つに至った岡部又右衛門も加わっていた。
岐阜城の改修は、今回も岡部又右衛門が再び担当することになったのだが、そのための作業場としてウチの領地が使われることになった。
というのは表向きの名目で、実は信長さんが岐阜城の城下町の再整備を内々に俺に依頼してきたのだ。
それならば、この辺一帯を総合的に開発する必要があると意見を述べたところ、「貴様に全て任す」と、全権委任されてしまったのだ。
だが、表立ってそれをやると、またぞろ佐久間・柴田派が反発することは必至なので、表向きには岡部又右衛門に任せた形にしたのだ。
岡部さんに招聘された形で、俺や秀吉が協力するという体裁ではあるが、都市計画などと言う概念が理解できるのは、正直なところ半兵衛と秀吉だけなので、実質は俺が全部仕切ることになってしまった。
つまり岐阜城を北の頂点とし西の大垣城、東の俺の吉又城を結ぶ三角地帯を南岐新都と称して、リアルシ○シティをやることになったのだ。
面積にして162平方キロメートル。
東京の大田区と世田谷区、練馬区を足したぐらいの広大な地域である。
この中に小さな城もいくつかあるが、それらは全て信長さんが召し上げ、直轄地にしてしまったので、この一角は本当に好き放題できるのだ。
ちょうどこの三角の中心付近に墨俣城があるのだが、秀吉も吉子の好きなようにやってくれと言うので、お言葉に甘えるとしよう。
ただ、やはりここでも問題になるのが治水である。
木曽三川と呼ばれる木曽川、長良川、揖斐川がここには流れており、特に木曽川が急流だった流れが急に大きくひろがり、さらに南に折れ曲がっている地域のため、毎年のように氾濫が起こる。
現在の木曽川は明治期に行われた大改修で、それまでぐちゃぐちゃだった三川を長良川、揖斐川と分離され流れが整えられたことで氾濫を抑えることが出来るようになったのだが、この時代はまさにカオス状態。
梅津のあたりから南は、氾濫が起きる度に地形が変わるのである。
岐阜の近辺ではそれ程ではないにせよ、洪水が起きやすいことに変わりはない。
まずは治水工事が最優先になるのは疑いの余地が無い。
その上で、道路計画と治水工事と併せた橋梁計画。
幹線道路の整備などに手を付けるという順番になるだろう。
ただ、ウチの領地でも経験したように、護岸工事をすると砂鉄が取れなくなるという問題がある。
日本では鉄鉱石を使う製鉄法は明治以降からで、この時代、鉄の原料は砂鉄しかない。
治水のために鉄資源が枯渇するのは問題である。
いっそのこと鉱山開発しちゃおうかな……。
あれ?反応がないな。
こういう不穏な思いつきをすると、大抵神様が割って入るものだが…。
※自覚があるなら自重してください。
お、来た来た。
たまには神様の声聞かないと、本当に戦国時代にいる気になっちゃうからな。
※いやいや、そう思ってもらって結構ですよ。
その方が良いと思って、あまり出しゃばらないようにしてるんですから。
いや、あくまで「戦国シミュレーション」の世界なんだから。
「こうやったらどうなるんだろう?」を試す場でないと。
※いろいろ試しすぎです。
少し自粛してください。
えぇ〜。
まあ、ちょっと教えてよ。
このあたりで鉄が取れる鉱山。
チョイっと検索すれば出るでしょ。
※ダメです。
どうしてもやりたいならご自分で探してください。
さらに、鉄鉱石が採れたとして、まだ高炉製造技術がありませんから。
残念でしたね。
文化遺産になった韮山反射炉ってのはどういうの?
※あれは高炉から取り出した銑鉄をさらに加熱して、不純物を取り除くためのもので、作るには耐火レンガが必要です。
もちろんこの時代には有りませんので、諦めてください。
そうかぁ。
なるほど、砂鉄から作る「たたら製鉄」だと最初から炭素が少ないけど、高炉から取り出した銑鉄は炭素が多いのでそのままじゃ使えないってことか。
※そういうことです。
よくご存じで。
そこまで知ってるなら、鉄鉱石から鉄を作るのは無理って分かるでしょう。
そうだなぁ。
ま、ちょっと考えただけだから。
ほら、たまには神様とお話ししたいじゃん。
※お話ししたいって……。
いつでも呼んでくれれば出てきますよ。
ふぅ〜ん…。
神様ってさぁ。
AIなの?
※……いえ、神です。
じゃあ、人間なんだね。
※だから、神です。
まあいいや。
今日はこの辺で。
※はいはい。
いつでもと言いましたけど、あまり用も無いのに呼び出さないようにお願いしますね。
は〜い。
あ、でも神様も24時間勤務ってことはないだろうから、もしかして交代制?
※では、この辺で。
逃げたか。
まあ、そんなことより治水と産鉄をどう両立するかだな。
木曽川は錦之輔がくまなく調べたから分かっているが、長良川、揖斐川はまだきちんと調べてなかったので、まずは現地調査だな。
誰が適任かな?
実は家臣の数も領地加増に伴って少し増えたのだ。
ちょっと整理してみよう。
○プロパー武将
中谷鐵之助
伊勢新九郎
中村錦之助
中村玉尾
荒木又右衛門
伊知川海老蔵
片岡千恵蔵
前田玄以
※次期武将候補
己之助(怪力)
茂吉(忍び)
玉三郎(鉄砲肩)
※親衛隊メンバー
丑五郎
虎之助
龍造
卯芽
馬ノ介
亥之助
猿田彦
戌三郎
○中途採用
竹中重治
竹中重矩
蜂須賀小六
○外部スタッフ
前野長康
坪内玄蕃
大島光義
○派遣
一原悦子(生駒家)
前田慶次(織田家)
○パートタイム
小谷町子
弥四郎
エドワード・マクレガー
中谷美紀
真紀(美紀の妹)
○協力関係
木下秀吉
木下小一郎
氏家卜全
大沢正秀(次郎左衛門)
安藤守就
○その他
岡部又右衛門
今井宗久
曲直瀬道三
○お荷物
奇妙丸
斎藤龍興
とまあ、このあたりが俺の関係者と言える人たちだ。
けっこうな大所帯になりつつあるが、今後は中途採用がさらに増えると思われる。
特に斎藤家に居た人たちは、後に織田家に採用されて出世した人が少なくない。
実力主義の信長さんだから、プロパーだからとあぐらを掻いていると、それこそ必死で仕事をする中途採用の人にあっさり追い抜かれることがままあるのだ。
その点はウチも同じだから、荒木又右衛門あたりはかなり努力しないと生き残れないかもな。
ちなみに領地加増に伴って石高も増えたことで、実質的に昇進した扱いになったのか、俺自身のレベルアップも果たしている。
大谷(飛騨掾)吉子(女)
年齢18
織田家:武将
所持金:19980
総合レベル:21
思想:革新
宗教:なし
名声:165(補正+10)
使用武器:メイン・烈風孔雀翠扇+火炎鳳凰緋扇
サブ・脇差
領地:吉子村
能力値:
統率91(補正+10)、武力84(補正+5)、知略99、政治93
体力85、腕力64(補正+10)、技量62(補正+15)、乗馬8、砲術3、走力8
常駐スキル:鑑定、茶の湯、人たらし
製造スキル:調理
戦場スキル:兵法家、鬼、二刀流
必殺技
火炎かまいたち
火炎ガトリング
地裂火炎真空切り
大かまいたち
クロスかまいたち
爆風陣
大飛翔
大竜巻
大火炎鎌
火炎縄
火炎大竜巻
スペックが微増したのと名声がちょっと上がっただけで、新しいスキルとかは増えてない。
ただ、レベルが20を超えたことで扱える武器などに幅が出てくるようなので、今後に期待するとしよう。
まあちょっと箔が付いたくらいのもんだがな。
ついでながら、月末ではないが領地スペックもチェックすると、こんな感じだ。
○吉子村
領主:大谷吉子
所属:織田家
人口:3956人
石高:975石
金収入:18501
米収穫:3020
総兵数:1149(うち雇い兵300、警備兵100、特務騎兵49)
商業:1611
農業:1080
木産:440
鉄産:20
民忠:61
特産品:魚・菓子・木材
◇施設
市場:2
工房:2
製材所:1
城郭:1(吉又城)
港:2
店舗:2
変わった点と言えば、加増された領地に製材所が有ったので、木産が大幅に増え、特産品に木材が加わったことだ。
これからドンドン築城事業が多くなるだろうから、これはなかなかの拾いモノかも知れない。
民忠が少し下がったので、今は募兵を控えざるをえないが、冬までには総兵数2000人を達成したいところだな。
そのためには何とか人口5000人オーバーを実現しないとな。
そんな腹積もりを半兵衛にボソボソッと伝えたところ、何を思ったのか難しい顔をして「暫し時をいただきたい」と言って自分の部屋に籠もってしまった。
何か俺、難しいこと言ったかな?
別に半兵衛にそれをやれと命じたわけじゃないし、順調に領地が成長を遂げればそのくらいの人口増加は見込めるだろう。
まあ確かに冬までには半年ほどしか無いので、5000人オーバーは厳しいかも知れないが、岐阜城とウチの領地の境目付近に有る黒田城を街道で繋げば、その城下町の発展も促して周辺の地域も活性化するだろうから、1000人ぐらい簡単に増えそうな気がするがな。
だが、半兵衛の悩んでいる事はそんな問題ではなかった。
未だ織田家内で俺の立場が微妙なことと、女であることで家の格というモノが持てないということが、現実問題として今後出世の妨げとなることだった。
俺がいかに功績を挙げようが、仮に軍団を指揮するくらいまで実力を持てたとしても、織田家に所属する限りせいぜい従七位上あたりが限度らしい。
それこそ、皇室かそれに近い公家の家に嫁ぐなどして身分を保障されない限り、今より官位が上がることは無いだろうと言う。
まあ確かに、どこの馬の骨とも分からない女に国の運営など任せられないというのも道理だろう。
俺自身がクーデターを起こし、自身の武力を持って天皇に取って代わるような事でもしない限り、この国全体を指揮下に置くことは不可能だろう。
だが、この国の国民である俺自身が天皇を廃して自身が成り代わるなどという発想が無い。
それが可能だったのはおそらく信長さんだけだったろうし、正にそれをやろうとして暗殺されたと考えられている。
つまり、半兵衛としてはどうやったら俺自身の立場が保証されつつ、将軍、あるいはそれに近い権力を手に入れられるか。
今のままではその将来像が描けないと言うことで悩んでいたのだ。
俺としてはそこまで深刻に考えてなかったのだが、軍師としては、それでは申し訳が立たないと考えたのだろう。
いろいろ考えた末に出した結論が、俺がどこか有力な公家の養子になるという案だった。
候補となった公家は、俺とも面識のある山科言継。
公家でありながら多くの武家とも親交を重ねていた近衛前久。
そして、恐れ多いことだが現実問題としてお金に苦労している皇室に対し、莫大な献金と共に持ち前の経営手腕を持って売り込めば、どこか左前の宮家の一つに加えてもらえるかも知れないという案まで持ち出してきた。
おりしも正親町天皇が先代の後奈良天皇崩御の後、即位するにあたっても財政的に困窮していたため、なかなか即位の式典が行えなかったという。
そこへ中国の覇者、毛利元就が莫大な献金をしたため何とか式典を行えたという話である。
あえて嫁ぐこと無く、宮家の養子になるというのも一つの方策ではある。
ただ、俺としては今の皇室のイメージが強過ぎて、とてもそんな立場を受け容れられそうに無い。
宮中の式典などに出たりするような事態になれば、多分あまりの煩わしさに気が変になるに違いない。
アメリカナイズされた戦後の教育で育った身としては、そんな世界に入ることなど是非とも御免被りたいところである。
ならば、どこか名家の養子になるかと言われれば、これもまたNOと言わざるをえない。
養子と言いつつ、結局は嫁になるようなモノである。
お歯黒塗ったオッサンの慰み者に成るなど、死んでも御免である。
まあ、俺の先見性を理解してこの国の近代化に力を注ぎたいというお公家さんがいるなら、その線も考えられなくもないがな。
しかし、現実問題としてそれは儚い希望だろう。
なにせまだ封建制にすら至ってないのに、中央集権的全体主義国家など理解できるとは到底思えない。
俺が半兵衛には申し訳ないが、そういうことだからその線は諦めてくれと諭すと、「大谷様のお考えに共鳴できるお方なら良いのですね」などと言うので、「まあね」とうっかり返事してしまった。
すると半兵衛は「分かりました。一命に掛けまして…」と言って部屋を出ていった。
オイオイ。
まさか心当たりがあるとでも?
嫌だよ、宮家とか入るの。
だが経験上、こういう時ってまさかと思ったことが起き、嘘だと思っていた言葉が本当だったりするのだ。
奴の目は、確かに本気だったしな…。
もしかして苗字変わっちゃうのか?俺。
大谷は変えたくないなぁ。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
ネタ振りだけで終わってしまいましたが、この章が今後のストーリーの分岐点になると思うので、心して掛かりたいと思います。
スローペースで申し訳ありませんが、引き続きよろしくお願いいたします。




