04 首級
※2017/12/09、一部文言、修正しました。
西軽海城で休息した後、信長さんはわざわざ我々4人を呼び、荷車で持って来ていた行李箱から、3人の部下たちに好きな武器を選ばせてくれた。
どう見ても金1000以上はするものばかりである。
そんな良い武器なら自分が欲しいわ〜とも思ったが、あれだけ言い切った手前、そんなことは言えるはずも無い。
3人は恐縮しながら俺と信長さんに代わる代わるお礼を述べた後、非常に嬉しそうな顔で下がっていった。
信長さんと二人になったところで、俺は秀吉の話を持ち出してみた。
墨俣に行くと言ったきり何処に行ってるのか分からない、と言ってみたところ、「それは予が命じたのだ。墨俣を要害に仕立て上げよとな」と答えたのだ。
そうか、これがやっぱり一夜城か。
「奴め、3日でできるなどと豪語しおったから予も面白半分でな、もし成し遂げられたらその城、くれてやると言ってやったのだ」
あー、売り言葉に買い言葉ってヤツね。
でも、やっちゃうんだろうな木下君。
そのうち木下君とも言ってらんなくなるんだろうな。
「どうした、ヤツが気になるか?女房になるつもりなら、一足遅かったな。去年嫁をもらったばかりだ」
「いえいえ、とんでもない!そんな気さらさらありませんよ」
「ハッハッハ!不思議な女子よのう。まるで男子と話しているような気になる」
「はあ、気をつけます」
「ハッハッ!良い良い、その方が気安くて良いわ」
そう笑った後、信長さんがこちらに顔を近づけて小声で聞いてきた。
「して、その方、本当に褒美は要らぬのか?何なら南蛮の書物などでも良いのだぞ」
「いやいや、褒美なんてそんな、まだ兵もまともに揃ってない領主に勿体ないです」
「そうか、ではこれは貴様にやるのではなく、預けておく。予が必用とする時はいつでも持って来れるよう、身につけておくがよい。よいな」
「あぁ、これは…」
それは「青龍乱紋技剛手甲」という、技量と腕力が共に10ずつアップするという金2000ぐらいする高級防具である。
これがあれば、技量が60に達し、上手くすれば戦闘中にスキルゲットも可能である。
「有り難き幸せ!」
「よいか、預けるだけだからな」
「ははっ心得ました!」
俺は信長様の前から退くと、部下たちのところに戻った。
3人は俺が戻るとまた、3人とも頭を地面に擦りつけて感謝の意をしめしてきた。
「この度は、我々のようなものにこのように望外な褒美を賜り、誠にかたじけなく…」
「良いって良いって、気にしないで」
代表して錦之輔が礼を述べてきたが、長くなりそうだったので、途中で遮った。
「むしろこっちがまともな武器も持たせなくて、悪いと思ってたんだから」
「何より兵も無しで戦に出したりして申し訳ないね」
「恐れながら、それはやむを得ぬ事情というもの。我らを信じ力を示す機会を下さったことこそ、誠に有り難きことかと…」
「はいはい、そこまで言うなら、次の戦いは期待しちゃうからね、良い武器持ってるんだし」
「もとより承知、必ずや手柄を上げてご恩に報いること、お約束いたしまする」
「うむ、頑張って」
そこで、ふと思いついた。
そう言えばこいつら苗字が無かったな。
手柄を上げても苗字無しじゃカッコつかないよな。
よし、名前も付けてあげよう。
えーと、チュートリアルさーん!
※なんでしょう?
こいつらに名前を付けてあげたいんだけど、どうやって入力したら良いんだ?
※紙に書いて、直接渡してあげてください。
あれ?
どっか人事コマンドとかからやるんじゃんないの?
ご希望ならソフトウェアキーボードを表示できるようにしますが、彼らにはきちんと紙に書いてあげた方が良いと思いますよ。
え〜、俺、字下手なんだよな。
あと、難しい漢字書けない。
※もう、面倒くさい人ね。
これをあげます。
これは携帯用の硯箱ですが、タッチペン付の、電子辞書だと思ってください。
ただし、インターネットには繋がりませんので。
わーい、何か凄そうなものをもらっちゃったけど、どう使うの?
※紙の上に筆で字を書くようにして、ひらがなを入力して、それを上の止め金を押して漢字変換。
変換した文字を指でタッチすると辞書が現れ、意味が表示されます。
おおっ!すげえ!
こいつは良い物もらったけど、当然俺にしか使えないんでしょ?
※そうですね。
あ、で、書いた文字は紙を切り取ればそのまま残るわけだ。
すげ〜。
いや〜あんがとね。
※はーい
良かったですね〜。
俺は3人達に向き直ると「突然だが君たちに名前を授ける」と言って、それぞれ名前を付けてあげた。
新九郎と名乗っていたこいつは伊勢新九郎。
錦之輔は中村錦之助。
又右衛門は荒木又右衛門と、みな何処かで聞いたような名前にした。
その方が覚えやすいしな。
本人たちは、そんな理由は露知らず「良き領主に恵まれ、我らは果報者であります」と涙を流して感謝してくれた。
そんなことをしているうちに、辺りはすっかり暗くなってきた。
今日は新月なので月明かりがない。
さらに曇りなので星も見えない。
夜襲をかけるにはもってこいの夜である。
そして日が完全に暮れるのを見計らい、織田軍は行動を開始した。
斎藤軍は十四条村に陣を張り、夕餉の支度の最中であった。
行燈に灯がともり、釜で飯が炊かれているので、光源が多く非常に明るい。
昼間の勝利で気を良くしていたのか、酒まで振る舞われていたようだ。
油断しすぎでしょ、斎藤ちゃん!
「掛かれ〜!!」
と佐々成政が声を発したと同時に、織田軍が休息中の斎藤軍に猛然と襲いかかった。
「夜襲だ!出合え!」
「槍を持て!」
そんな声が飛ぶ中、鉄砲隊の斉射の後、弓隊の火矢が暗闇の空を埋め尽くす。
火矢が射終わると、備えのできていない槍隊を騎馬隊が蹂躙する。
残った者を足軽隊が、ローラー作戦で潰していく。
奇襲はまんまと成功した。
斎藤軍は立て直すこともできず、潰走していく。
こっちは名前の書いてある武将を、片っ端から葬っていく。
その中に稲葉又右衛門の名前もあった。
稲葉と言えば稲葉一鉄が有名であるが、その叔父だったと言う話は後から聞いた。
この時はとにかく、名前が書いてあるヤツを倒すことしか考えてなかった。
「ヤー!」とか言って、槍を突き出してきたので、火炎かまいたちを馬上からお見舞いしてやったら、5mぐらい弾き飛んで、木にぶつかって気絶してしまったようだ。
弱かったから大したヤツじゃないだろうと思ったので、そのままにして行ってしまったが、どうやらかなりの大物だったらしく、俺の後から続いてきた池田さんと佐々さんが2人で首級を上げ、辺りから歓声が沸き上がっていたそうだ。
この首級をめぐっては後で一悶着あったのだが、ともかくこの戦いで斎藤軍は撤退。
織田軍の大勝利に終わった。
俺は2人の武将と3人の足軽頭を倒しただけだったが、一緒にいた3人の部下たちが、それぞれとどめを刺したり、自ら討ち取ったりして5人の武将と4人の侍大将を倒し、再び信長さんから感状を頂いた。
その上、我々の働きに応え、さらに知行も増やしていただいた。
今よりもさらに東寄りの土地も手に入ったのに加え、ここには確か砦があったはずだ。
ここを拠点に開発を進めるのも良いかも知れない。
それでも、今回の勲功1番は俺では無かった。
稲葉又右衛門を討ち取った池田恒興と佐々成政が勲功を分け合う形で、それぞれ褒賞をもらったのだ。
だが、当初はお互いに、相手が討ち取ったと言って手柄を譲り合ってばかりで、らちが明かなかったそうだ。
それはそうだろう、俺が倒し損ねたヤツを後から来て討ち取っただけだからな。
なかなか自分がやったとは言いにくかったろう。
池田さんだけが後でこっそりとやって来て、お詫びの品を置いて帰っていった。
立派な桐箱に入った、紅色の綺麗な簪であった。
戦場に何でこんなもん持っ来てるんだろうなぁと、思ったが深く考えないことにしよう。
さて、織田軍は勝ちはしたものの、損害も大きく、敵地の奥深くでもあり、これ以上戦線を維持するのは難しいと判断。
一旦墨俣まで兵を引くこととなった。
その帰り道で話題に上がっていたのが、墨俣がどうなっているかであった。
秀吉が大急ぎで砦を強化していることは、みんなが知っていたが、さすがに城まで完成させてるとは誰も考えていなかった。
そこで信長さんが「戯れに賭けをやろうではないか」と言い、秀吉が城を完成させているか否かを皆で賭けたのだ。
8割が否に賭ける中、俺と信長さん、それと俺の部下たちは完成させている方に賭けた。
結果は見事、我々の勝ちであった。
つーか凄いな木下君は。
天守まではさすがに無理だったようだが、ちゃんと馬出しや虎口まで付いた立派な城であった。
おかげで我々の軍勢も、全員収容することができた。
見事公約どおり仕事を成し遂げた木下秀吉は、約束通り城主となることができたのだった。
墨俣の周辺の土地も秀吉の所領となり、俺の領地と長良川を挟んでお隣さんになった。
広さでは俺の方が勝っているが、城がある分石高も高くなる。
位も軽く追い抜かれてしまった。
だが秀吉は偉ぶることもなく、「今までどおりで頼まぁ」と剽軽な態度のままであった。
良い奴だ。
さあ、これで今度こそ落ち着いて領地経営ができるだろうと思っていた矢先、尾張から変事の知らせが届いた。
犬山城の織田信清が、謀反の兵を挙げ、城を乗っ取ったというのだ。
まったく!次から次へと問題ばかりだなぁここん家は!
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