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第7話

どの世にも何かが異質な人間というものが居る。

自身の正義を信じて疑わない者もある意味異質であると迅は思う。


だが、この世界で言うのなら。

一番異質な存在は彼自身──東雲 迅である。




◇◆◇◆◇

「あー、諸君。

委員会は決めてきたか?」


朝のHRが終わり、1限のチャイムが鳴ると、速水は口を開いた。

前日に言っていた通り、委員を決めるようだ。

この朝比奈学園における生徒会活動は主に生徒会執行部と各委員会、機関学生連盟の3つの組織によって運営されている。

そして、非公式ではあるものの、この学園には大きな影響力を持つ存在として【十二騎士】と呼ばれる学生が居るがそれについては今は置いておく。


さて。

委員会を決めると言っても、生徒会と風紀委員の2つは基本的に在籍者または教師からの推薦によって決められる。

従って、選択肢としては……


・学級委員

・放送委員

・保健委員

・整美委員

・図書委員


の5つとなる。


「あー、それとクラス代表生も決めないとならない。誰か立候補は?」


『クラス代表生』というのはその名の通りクラスの代表となる生徒だ。とは言っても学級委員とは違い、基本的にホームルームの運営には関わらない。ならその内容はということになるが、それは簡単に言えばクラス間で何か問題があった時の解決や校外学習(と言う名の旅行)でのホテルの優先度などなどを決めるための生徒同士の決闘を行うというものだ。まあ、そんな内容なので基本的にはクラスで一番ランクの高い者がなるのが普通である。

因みに。なぜ妖魔と戦うのが役目であるはずの勇者が対人戦も行うのかというのには理由がある。それは単純に戦う相手が妖魔だけでは無いというのと、機関の収入源の一つとして勇者同士が闘う『トーナメント』が行われるからだ。






「ふむ……クラス代表は決まらないようだな」


30分程が経ち、委員会を決めるのは殆ど終了していた。

決まっていないのはクラス代表のみだ。いや、この場合決まっていないというよりも……


「そうなると、推薦ということになるが……」

「東雲くんが良いと思いまーす」

「さんせーい」


本人が認めるか否かといったところだろう。

その証拠にクラスの殆どの視線が迅に向いている。


「なら……東雲になるが……」

「異議あり!……ですわ!」


突然、そんな声が響く。

声の主はどう見ても日本人には見えない顔立ちの縦ロール。


「なんだ?ウィンフォード」


ヴァンへイムの王女……ではなく、その付き人の1人であるシャルロット・ララ・フォン・アーデンハイム・ウィンフォードだ。


「その殿方がクラス代表となるのは承服しかねますわ!」

「ふむ、ならお前がやるか?」

「いえ!ですが、クラスを束ねる立場に相応しい方がここにいらっしゃるではありませんか!」

「ヴァンへイムか?」

「その通りですわ!それになによりも!その方がどの程度の実力かもわかっていませんのに、クラス代表を任せるなど言語道断ですわ!」

「ふむ。ならば一応聞くがヴァンへイム、君はどうだ?」


速水は今まで口を開いてはいなかった王女、エレオノーラ・フレヤ・ヴァン・クリスティーナ・ヴァンへイムへそう問い掛けた。


「私は別にクラス代表というものに興味はありませんが……そこの男がどの程度の実力かというのには興味があります。なにより!」


「勇者としてのそのランクが適切なものなのか、甚だ疑問です」


エレオノーラからの視線を受け、迅は窮屈そうに軽く動いた。その様子は、自分が当事者ではあるものの、まったく現状に興味を持っていないことを表していた。


「ふむ……そうか。東雲のランクが気に食わんというわけか」


そう言いながら速水は迅をチラリと見た。

実際のところ、迅のランクについてはエレオノーラのみならず多くの勇者や関係者が気になっていたことである。

それもそのはず。迅の戦闘記録など、街頭カメラに写ったあの一度のみ。さらに、聖力に関しては細かい検査などは殆どしておらず、扱えるということしかわかっていない。

ならば、なぜSランクなのか。それは戦闘力や能力云々ではなく、男だから──正確には男の勇者だからだ。

今まで、勇者の素質があったのは女性のみ。だが、男の勇者が現れれば、勇者と勇者による交配ができるというのは説明しなくてもわかるだろう。基本的に勇者というのは遺伝でなるものではない。先祖に勇者(もしくはその前身である異能者)が居なくとも、突発的に生まれることが普通だ。だが、勇者の子が勇者ということも普通にあるのだ。しかし、その場合、生まれた勇者の半分は普通の人間なのである。

だが、男の勇者が居れば、勇者同士の子供が生まれる。仮説に過ぎないがその子供は普通よりも聖力への親和性が高いと予想される。そんな子供、どの国も欲しいに決まっている。対妖魔機関はどの国にも属さない中立組織であるが、勇者の完全な所有権を主張することはできない。なにせ、強力な勇者だ。抑止力として軍に組み込みたいと思うのは普通の反応だ。だから、軍に勇者が居ないというわけではないのだ。まあ、今はそんなことはどうでもいい。

纏めれば、迅のランクは戦闘力ではなく、戦略的価値……ぶっちゃけて言えば種馬としての価値によって付けられており、どの国も迅を欲しがっているということだ。


「東雲、お前はどうなんだ?」


速水は今まで口を開いていない迅へ声を掛けた。


「別にクラス代表なんてどーでもいいですよ。ただ……なにやら聞いていると俺がそこのお姫様に劣っていると遠回しに言われているようで、少し不快です」


迅は使い慣れない敬語を使いながら、こう言った。

それに不快……なんて言っているが、別に大してそう思っているわけではない。むしろ、その男呼ばわりされることの方が不快に感じている。


「ほう。要するに別にクラス代表になりたいという訳ではないが、ヴァンへイムに劣っていると思われるのは嫌だと」

「どうやらあのお姫様は俺のことを大した実力も無いのに男だからSランクになった。とでも思っていそうなので」

「なら、どうするか。……東雲とヴァンへイムはクラス代表にならなくてもいい。だが、ウィンフォードとヴァンへイムは東雲の実力がわからないのにクラス代表をさせたくはない。しかし、クラスの大半は東雲を推す。こんなところか」

「訂正させてもらうと、そこのお嬢様は俺の実力など関係無く、王族であるお姫様にクラス代表をやらせたいから反対している。ですけどね」


迅は皆が分かっていて言わなかったことをはっきりと言った。

言ってしまえばただの挑発だ。


「東雲……まあいい。

なら……そうだな。双方の納得する方法で決めるとしよう」

「……決闘でもしろと?」

「ああ。それが一番わかりやすいだろう?」


速水は迅とエレオノーラを交互に見て口角を上げた。


「私は構いません」

「俺も構いません」

「ならば決定だ。場所は第三訓練場。午後3時開始。

ルールは……第二決闘方式。異論は?」


「無い」

「ありません」


「よろしい」


こうして、突発的に決闘騒ぎが起こったのであった。





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