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第6話

「ストーカー?」


朝比奈市の中心部に位置するカフェバーのふりをした飲食店【Blitz】。

時間的にはディナーを食べに来る客が居ても良さそうなものだが店内にはたった今不穏な言葉を口にした迅とその横に座る絢瀬、そしてカウンターの中で料理を作っている若い店主しか居ない。


「はい……家にも入られてるみたいで……」

「ふーん。心当たりは?」

「ないです」

「……一応訊いとくけどさ。お前、葛木中の時のキャラのままなわけ?」

「キャラって言わないでくださいよ!処世術です!」

「はぁ……篠宮?お前さ、あんな感じだったら勘違いされても仕方ないんじゃねぇの?」

「うっ、そ、それくらいはわかってます……」


バツが悪そうに飲み物に口をつける絢瀬を見て、迅はため息を吐く。


「お待たせ。桜ユッケ2つね」

「ありがと、組長」

「それ止めてくれって……それにしてもストーカーねぇ」


組長と呼ばれた店主齋藤総司はどこか遠くを見るようにしてしみじみと呟いた。ちなみに、彼と迅の関係だが……迅と総司の弟が友人でそこから繋がっている。それと、組長の呼び名の由来は名前から察していると思うが新撰組一番隊組長沖田総司と三番隊組長斎藤一からだ。


「組長もなんかあったん?」

「あー、まあ……ストーカーというよりヤバイ女に目ぇ付けられたって感じかな。盗聴盗撮はまだいい方で、何回か刺されたし、血の入ったチョコとか渡されたし……」

「こわっ」

「さすがに私でも引きますね……」

「あ、でも高校卒業したらそういうの無くなったし、実家での修行中もなにも無かったから」

「それ女がパクられただけでは……?」

「でも、俺はこれだけで男だったから良いけど、女の子はもっと大変だよね」


迅と絢瀬が若干引いてるにも関わらず、総司は話を続ける。


「多分だけど……家に入られてるなら盗聴機とか仕込まれてるだろうし、なにか盗まれてるかもしれないからね。それに合鍵でも作られてたら夜に忍び込んでくるなんてこともあるかもしれない。力のない女の子なんかはひとたまりもないよ。

それに、こういうストーカーは自分以外の異性と話していると嫉妬するものだからね。迅がここに連れてきたのは良かったと思うよ」

「そういうもんか……ん、ちょっと待て」

「どうした?」

「どうかしました?」

「篠宮、お前親どうしたって言ってた?」

「先月からヴァンヘイムに出張に……」

「何日間だ?」

「たしか……3か月ですけど……」

「組長?」

「マズイね」


絢瀬の言葉を聞き、迅は総司を見る。

総司も迅の言いたいことに気付いているらしく表情が険しい。


「えーと……絢瀬ちゃん?だよね。

もう一度聞きたいんだけど、そのストーカーに心当たりは無いんだよね?」

「はい」

「一応聞くけど迅は?」

「無い……って言いたいとこなんだけどな……」


迅は頭を掻く。

その脳裏にはある人物が浮かんでいた。


「組長さ、盗聴機の範囲ってわかる?」

「一応ね。高性能なやつなら半径1.5kmくらいは行くけど……自分以外の人間に聞かれる危険性を落とすなら半径100~150mくらいだよね」

「そう。そんくらい。んで……篠宮の家に行った時殺気を感じたんだよな」

「……ワンチャンあるね」

「それで、探ってみたら……こっちを見てる奴が居たわけ。そいつかなぁと」

「ふぅ……本格的にマズイかもね」


「絢瀬ちゃん?

近くに親戚とか住んでたりする?」


総司は気遣うような声音で訊ねた。

その脳裏にはある事が浮かんでいるのだろう。さすが、ストーカー被害のスペシャリストだ。


「居ませんよ?」

「……詰んでない?」

「詰んだな」


絢瀬の言葉を聞き、総司は迅に情けない顔を向ける。

そんな彼に迅は冷静に言葉を返した。


「あの……なにが詰んでるんです?」

「はぁ……あのな?篠宮。お前はこれから3か月1人なわけだろ?」

「はい」

「んで、ストーカー被害に遭ってるわけだな?」

「はい」

「それが不安で俺に相談してるわけだろ」

「はい」

「訊くけどさ。ストーカーがお前一人の時を狙わないと思うか?」

「え……」

「絢瀬ちゃん。そのストーカーは恐らくだけど、君の家の鍵を持ってる。いつもは親御さんが居たけど、今は居ないんだよね?なら、君を襲うにしても障害は無いんだよ?」

「このストーカー被害のスペシャリストの言う通りだ。

今思い出したけど、たしか組長は高校生の時に同じ感じで殺されかけてる」

「殺っ!?」

「話を盛らないでくれよ……そこまでじゃない。ただ、変な薬打たれてそのまま犯されそうになっただけで……」

「それも大問題ですよっ!?」


絢瀬が叫ぶが男二人はそんなのを気にした様子なく話を続ける。


「とにかく、1人にはならないほうがいいんだよ。けど、近くに親戚も居ないとなると……」

「誰か友達に頼む。……無理だな。コイツのことだから一部からは蛇蝎のごとく嫌われてるだろうし」

「普通に考えて3か月泊めてくれるような子は居ないしね。それにどんなとばっちりを喰らうかわかったもんじゃない」


総司の言う通りである。

ストーカーというのは場合によるが手段を選ばない。それこそ、関わったせいで殺されるなんていうのもあるかもしれないのだ。それを考えれば余程親しい友人でも無ければ関わろうなどと思わないだろう。さらに、絢瀬がこちらに来てからおよそ4ヶ月しか経っていない。そこまでの友人は作れていないのは想像に難くなかった。


「だから詰んだってことだな。残念。諦めて手籠めにされてこい」

「迅……」

「先輩……そこは俺が守ってやるとか言うところじゃ無いんですか?」


総司と絢瀬は迅に悲しい物を見る目を向ける。


「えー、ヤダよ」

「なんで?」

「ストーカー恐いしー?」

「迅……ニヤけてんのバレてるからな?」

「ちっ……まあ、冗談は置いといて」

「冗談て……」

「俺は別にお前の保護者でも何でも無いし?頼まれてもいないのにそんなことしねーよ。それに、俺は気紛れで面白そうなことしてたいの」


要約すれば、自己中心的な快楽主義者。

別に、世に言う勇者のように他人の為になんでもかんでも背負おうなんてことは考えていない。それがこの男だ。


「迅。頼まれればいいの?」

「んー、考えてみるってだけだな」

「じゃあ、俺から頼もうかな。迅、絢瀬ちゃん助けてあげてくれないかな」

「なんで組長が言う?当事者でもなければ今日初対面だろ?」

「なんでって……それは俺が似たような経験してたからだよ。今でこそ笑い話だけど、あん時は結構怖かったからさ。だから……」

「助けてあげてほしいと」

「うん。けど、これは俺の頼み。だから絢瀬ちゃんの頼みじゃない。これから先にどうするかは絢瀬ちゃん次第……だろ?」


総司は絢瀬に視線を向けた。

これから先にどうなるかなんていうのは総司にはわからない。絢瀬がストーカーに襲われるかもしれないし襲われないかもしれない。ただ、ひとつだけわかるのは自分がこうやって頼んだところで迅は積極的に手出ししないだろうということ。話を聞いている時点で絢瀬は一応身内……友人なのだろうが、それであっても積極的に手出しをしないというのは予想がついた。何故か。絢瀬自身がなにも言っていないからだ。長年の付き合いでわかってはいるが迅は身内には甘い。今回みたいな場合、寧ろ解決のために積極的に動くことが予想される。しかし、それは迅に言葉にして伝えるからだ。まあ、言葉にしなくても様子から迅が察して勝手に動くこともあるが。

ともかく、今回に限って言えばこの先は本当にわからない。絢瀬が一言言えば迅は少なくとも今以上に動くだろう。




  

「……先輩、助けてください」


結局、この言葉が出たのは五分後だった。

ふう、と総司は溜め息を吐いた。これで一先ずは安心だ。先程、絢瀬には『かもしれない』というような感じで危険を促した。だが、経験から言えばこのストーカーは確実に動く。少なくとも、迅と会ったことが──それも、夜に2人きりで食事をしたことがわかったら何かしらのアクションは起こすだろう。だが、それによる被害は恐らく大丈夫になった。後の問題は迅だが……


「りょーかい」


まあ、平気だ。


「そんじゃ、後のこと考えますか」

「それについては考えてあるよ、迅。登下校を一緒に。それと……」

「3か月間一緒に住めってんだろ?わかってるよ」

「え、ぇええええ!?」

「うるせぇ。話聞いてねーのか」

「いや、聞いてましたけど……」

「少なくとも絢瀬ちゃんの家よりは安全なはずだよ」

「で、でも男女が同じ家なんて……」

「問題ないだろ。なにもおこらん」

「は、はあ……そうですか」

「あと、悪いが登校はたぶん無理だ。特に明日に関しては早朝から色々とやることがある。バスなら宮凪中学までのやつがあるから登校はそれでしてくれ。下校時は迎えに行く」

「なら、それで。朝より夕方のほうが危ないし」

「んじゃ、これで話は終わりと。荷物は帰ったら取りに行くか。じゃ、、、組長。なんかガッツリしたもんを」

「はいはい」


迅のざっくりとした注文に呆れながら総司は頭にレシピを思い浮かべた。










「ああ、迅。待って」


帰り際。

総司は会計を済ませた迅を呼び止めた。


「なん?」

「ああ……ちょっと」

「篠宮、先出といてくれ」


チラリと絢瀬を見る。迅もその意図を察したのか、絢瀬を外に出させた。


「んで?なに?」

「噂……というか、聞いた話なんだけど。警察に保管されてたアレが強奪されたらしい」

「アレが?それで?」

「それが裏で流れてるらしくてね。他にも幾つか表でも『願いが叶う宝珠』なんて言って流れてるらしい。世間には出てないけど幾つか逮捕例もある。一応気を付けてくれよ」

「わかった」


迅はそう返事をすると出て行った。

その脳裏にアレを思い浮かべながら。




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