第1話 入学1
春。
桜舞い散る出会いと別れの季節。
ある者は新たな出会いに胸をときめかせ、ある者は別れを惜しむ、そんな季節。
彼は、朝比奈市の中心地──それも都心並みに栄えている──でビルに付けられた巨大モニターを眺めていた。
そこには今流行りの女性アイドルがインタビューを受ける様子が流れていた。
「【勇者】……ねぇ」
彼はヘルメットの下でその仰々しい呼び名を聞いて自嘲気味に笑った。
◇◆◇◆◇
【西暦2113年4月10日午前11時】
関東地方の地方都市朝比奈市に位置する対妖魔機関勇者育成施設【朝比奈学園】。
勇者の力を発現したばかり──大体の勇者は14~15歳の間に力を発現させる──の勇者候補生を集め教育するための施設である。
勇者の力は強力であるのは周知のこと。その力は制御できなければ周りを守るどころか、逆に傷付けてしまう。
それを防ぐため、そして妖魔に対抗するための勇者を養成するためにこの学園は創られた。
しかし、その勇者たちは普通なら高校に通うような年齢である。だが、力の制御ができなければならない。そんな事情を考慮した結果、高等学校という形でこの施設は作られた。
そして、この朝比奈学園は現在、いつもとは違った喧騒に包まれていた。
勇者は女性しかいない、というのは周知の事実だ。
詳しいアルゴリズムはわかっていないが、勇者の扱う【聖力】が男性には扱えず、勇者にはなれないということが今までの研究でわかっている。
そして、ここまで言えばある程度は予想が付くかもしれないが、ここ朝比奈学園は所謂女子校である。
さらに勇者を育成する機関であるため、かなりの敷地面積を持ち、9割の生徒が入居する寮や研究機関まであるとてつもなく大規模な学校だ。
そんな学校がいつもとは違う喧騒に包まれているのは、この日が朝比奈学園の入学式であるのとは殆ど関係ない。
そう、各マスコミが来るのは毎年のことであり、珍しいことではないのだ。
だが、今年は例年以上にマスコミが集まっていた。
まるで、何か特別なことが起きる前兆のように……
◇◆◇◆◇
──視線が痛い。という事象を体験したことがあるだろうか。
なにか、社会的に見て変なことをするとこの事象に直面することは多々ある。
だが、変な事をして……という言葉が付与されるのであれば、現在進行形でそんな視線を受けている東雲 迅はなんとも理不尽な扱いを受けていることになる。
そう、たとえ女子校である朝比奈学園に男である彼が、悠々と入っていき、新入生用の入口から入学式の会場である講堂に入っていたとしても。
そうするべき、正当な理由があるのだから。
ザワザワ……と。
講堂内は騒がしかった。後方(3階)には保護者が前方(1階)には新入生が、中間(2階)には在校生が。
その殆どから話し声が聞こえた。
それでも、前方の声が小さいのは初対面なのが大きいのだろう。
そんな様子を入口から見て、迅は少し懐かしい気分になりながら、なるべく人目に付かないような席を探す。
前方……論外だ。
中間……これまた論外。
後方……2階席の下に位置するようなところの端にでも座るか。
そんな結論を出し、迅は比較的……というより、ほぼ人の居ない最後列の端へ足を向けた。