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第16話

「ん?」


聖力計測という用事をすませ、帰ろうとした迅の携帯端末が鳴った。ディスプレイを見るとそこには【御厨佳那】という名前が映し出されている。


「……無視でいいか」


迅はそんな結論をすぐに出した。

そんな結論を察したかのように携帯端末の着信音が消える。

だが、次の瞬間。


『無視ですか?』

『ホントは出れましたよね?』

『なんででないんですか?』

『なにしてるのですか?』

『ねぇ?』

『ねぇ?』

『返事してください』

『ねぇ?』


メッセージが連続で送られてくる。

その様子に迅はそっとため息を漏らし、電話を掛け始めた。





◇◆◇◆◇

御厨佳那という人間は日本の裏社会──といっても極道などではなく、古代から続く異能力者たちの社会──で知らぬ者は居ない存在だ。


19歳にして東雲家傍系御厨家当主、東雲傘下退魔衆御厨一門筆頭退魔師及び京都守護役第一席に就くエリート。

そして、東雲迅の…………婚約者候補である。


さて、彼女について語るのならまず日本──ひいては世界に於ける異能力者について語らねばならないだろう。

妖魔という存在が世間に出る前から、異能力者というのは古代より存在していた。

その呼称は、ヨーロッパなら【魔女】だったり、日本なら【陰陽師】だったり様々だった。

そんな彼女らの仕事は、怪しげな薬を調合することでも箒に乗って空を飛ぶことでも無く、実は現在の勇者と大して変わってはいない。

各地に存在し、生まれる(あやかし)や魔物の類を滅する、鎮める、対話するなどが主な仕事だった。

それは、妖魔の現れるようになった今も変わらず、世界各地にはかつての異能力者達の末裔が存在し、その能力を揮っている。


妖魔とは厳密に言えば異なる妖の類を相手にする退魔師の1人。

それが、御厨佳那なのだ。


それを踏まえた上で説明をしよう。

日本の退魔社会は東雲家を頂点にピラミッド状のカーストを形成している。

東雲家退魔岐神(くなと)衆を頂点にした現在、その1つ下に東雲傘下筆頭退魔衆として御厨一門、奉槍会、炎天会の3つの退魔組織が存在し、更にその下に各地の退魔組織が存在し、東雲傘下の退魔組織が形成されている。

といっても、東雲家の傘下に退魔などを生業とする全ての組織が入ったかといえばそうでもなく、主なところとして土御門、賀茂、そして蘆屋の三家、そしてそれに追従する六家の九家は独立して存在している。それとこれは余談だが三家の令嬢の年齢は15歳、つまり迅の同級生として朝比奈学園に入学している。


日本の退魔社会における重要人物である御厨佳那。彼女がなぜこのタイミングで迅に電話をしたのか。それは迅が主家の御曹司だから……ではない。


そして言うとすれば、彼女が迅に電話を掛けてくるときは大抵悪いことが起こるのである。





「俺だ」

『迅さん、なんで電話出てくれないんですか?』

「むしろなんで出てもらえると思ったんだ?普通に考えて授業中だろ」

『そんなのわかってますよ、でも迅さん授業うけてなかったでしょう?』

「なんで知ってんだよ」

『単純なことですよ。機関日本支部の重役が日本支部本部から揃って居なくなるなんて普通無いじゃないですか』

「なんでそれが俺が授業受けてないとわかることに繋がんだよ」

『それこそ単純なことです。重役が一斉に動くなんて基本的に本家関連か他の支部関係じゃないですか。でも、それらの情報はこっちに来てませんから。としたら、特例の迅さん関連しかないでしょう?でも迅さんに関して会議するなら本部でこと足ります。にも関わらずどこかに行くんですから、そしたらもう学園くらいしか無いじゃないですか。迅さんは機関関連での検査を受けてないはずですし』

「あー、もうよくわからん。で、なんの用だ?」


御厨佳那のよくわからない理論に辟易としながら迅は用件を言うように促す。自分から始めたものだがこういう会話は適当に切ってさっさと本題に入った方がいい。特にこの女関連ならと迅は思う。


『あ、本題ですか?えーとですね、良い報告と良い報告と悪い報告と悪い報告があるんですけどどうしますか?』

「良い報告から頼む」

『了解です。まず迅さんが、東雲傘下退魔寮統括岐神衆次期岐神頭(くなとのかみ)に決定しました。それに伴って信濃の龍神郷の屋敷の所有権が迅さんに移譲されました』

「マジか」

『マジです。先日の退魔寮所属退魔組織の総会で正式決定しました。一部の3次、4次団体からは迅さんの実力を疑問視する声なども出ましたが、我々御厨一門は勿論、奉槍会、炎天会も異論はありません』

「その疑問視したというのは?」

『最近になって新たに加入した二家と炎天会傘下の鉄火楼です。前者は本当に最近加入したので、迅さんの経歴を知らないためでしょう。鉄火楼に関しては、今まで女だけだった退魔寮のトップが男になるというのに反発したような形です』

「そうか。この件に関しては一応把握した。やりたくは無いけどな。次は?」

『2つめは頼まれてた改造車が完成しました。明日には朝比奈の橘重工の車庫に送りますから受け取ってください』

「わかった。んで、悪い報告ってのは?」

『まず、京都で大規模な戦争が起こりそうです』

「なんで」

『詳しい経緯は不明ですが、付喪神連中と妖怪連中がいざこざを起こしまして』

「酒呑の飲んだくれと鞍馬のジジイは?」

『それが2つ目の悪いことなんですけどね?あの2人が京都から姿を消しまして……それでもしかしたらそっちに行ってるかも知れないんですよ』

「はぁ?おいおいなにしてんだよ、京都守護第一席」


呆れ気味に迅は呟いた。

酒呑童子に鞍馬天狗。京都における二体の大妖怪だ。

京都守護と呼ばれる京都の退魔師の上位陣の仕事にはこの二体の監視も含まれている。にも関わらず、その二体が同時に姿を消し、その行先が定かではないなど大問題だ。

だが、まあ酒呑童子も鞍馬天狗も見た目は少し大柄だったり髭が立派だったりするだけで、もし普通の人間の前に顔を出しても珍しいと思われる程度だ。そう考えると、目撃情報やらが出て来ないのも仕方ないのかもしれない。

というより、基本的に大妖怪やら神霊なんて言われるような連中は往々にして普通の人間のような見た目になったり、動物になったりしてひょっこりと表の社会に出てくることがある。

しかし、それを抑制するか、共に行動して異常な行動をさせないように監視するか、もし何か起こしたらその後始末(場合によってはその妖怪を封印又は消滅させることもある)をするのが退魔師の役目なのだ。

そして、酒呑童子と鞍馬天狗。この二体の監視役は京都守護第一席、つまりこの御厨佳那を含めた京都守護三席までの面々を主として行う事になっている。

そんな彼女がこの二体を見失ったなど非常にまずい事態である。

だが、こういってはなんだが今回の件に関しての責任の一端は迅に有ると言えなくもなかったりする。


『そんなこと言われても困りますよ。だって迅さんがここ数年一度もあの2人のところ行ってないじのが、原因なんですから。楽しみにしてたんですよ?あの2人。迅さんが会いに来るの』

「いや、そう言われても」

『しかも、たまに顔を出すから大人しくしとけって言ったとき迅さん何歳でしたっけ?たしか9歳かそこらでしたよね?それから一度も行ってないんですよね?何年経ちました?6年ですよ?小学校卒業できる長さですよ?さすがにあの2人も待ちきれませんよ?』

「あ、はい」

『とにかく、そういうことなんで、適当に相手したら京都に返してくださいね!ただでさえ戦争が起きそうでピリピリしてるのにあの2人が行方不明なんてタイミング最悪です』

「そっすね」

『ほんとお願いしますね……なに、唯花?え?ルーマニアの吸血鬼が観光?知らないわよ!あーーもう!待ってて!!……すいません迅さん、繰り返しますが本当によろしくお願いしますね!それでは!』


「……なにか美味いもんでも送ってやろう」


切られた電話の向こう側の人間に心の中で合掌し、迅は決意する。

すくなくとも大きな問題が多発し、その上で聞こえたルーマニアの吸血鬼どうこうという話。

大変そうだ、と思いながら迅は愛車のドアを開いた。









◇◆◇◆◇


「で?あのイケメンはだれなのよ」

「さっさと吐いたほうが楽よ」

「というかどういう関係なのよ」

「わざわざ迎えにくるなんて」


「自習!!」と黒板に殴り書きされた教室の一角で、篠宮絢瀬は2人の少女から尋問(?)を受けていた。

2人──矢嶋英菜はな新島にいじま牡丹ぼたんの勢いにタジタジになりながら絢瀬は2人から顔を背ける。

昨日はのらりくらりと躱していたが、今日こそはという2人からの圧力を感じる。


「あーやーせー」

「わかった。ただでは話さないと言うのなら私のオススメの店でパンケーキを奢ろう。なので……話しなさい」


パンケーキ……と、少し気持ちが傾く絢瀬。金額で言えばそれを数十と食べられるだけの物をここ数日食べているが、やはりこの年代ならば甘い物やかわいい物には勝てないのだろう。


「ぐぬぬ……」


そんな声を上げ、絢瀬は迷いに迷う。

正直、彼女たちの言うイケメンつまり迅が一体誰なのか、自分とはどんな関係なのか、と問われれば簡単に説明ができる。

それこそ、昨日英菜に説明したように「高北市に居た時の先輩」と言えばOKだ。

だが、彼女たちが訊いているのはそんなことではなく、何故わざわざその先輩が絢瀬を迎えにくるのか。もしかしてそういう関係ではないのか。ということだ。

なんでもかんでも色恋に持っていくのはどうかと思うが、絢瀬自身も恋話なんていうのは大好物の話題のため、人のことは言えない。

しかも、仮に説明したとしても周りには人が多すぎる。

近くのゴシップ好きの新聞部員を筆頭に、勉強してるように見えて周りの女子達もコソコソと聞き耳を立てている。大方、この学校の生徒会長でありお嬢様の橘紗夜と親しそうだった噂のイケメン()について知りたいのだろう。

加えて、一部の男子なんかも迅のバイクがあーだこーだと話しながら迅の話を聞こうとしている。

もしこの場で、ここ数日迅の家に泊まっていてしばらくその予定だなんて言ったら大変なことになりそうだ。


なんで今日に限ってこの授業は自習なんだ!と、校長室に呼ばれていったこの時間の担当(担任)に呪詛を吐きながら絢瀬はため息を漏らす。


そんな時、胸ポケットの携帯端末がブルブルと震える。

授業中のため、本来なら使うべきではないが生憎と今教師は居らず、しばらく帰ってくる気配もないし、この授業が終わって十分経っても自分が帰ってこなかったら帰宅してよいと担任は言っていた。

だからか、絢瀬は携帯端末を取り出し、届いたメッセージを確認する。


『校門前にて待つ』


簡潔に纏められたメッセージは、迅がこの学校の前に着いていることを指している。迎えに来るにしても早過ぎないか?と、思ってしまうのも仕方のないことだろう。


「なになにー?」

「『校門前にて待つ』だってー。はっ!まさかあのイケメンがすでに此処に!?」


英菜と牡丹のその言葉に、絢瀬が色々と諦めたのも仕方のないことだろう。






さて、この後迅はこの2人英菜と牡丹と邂逅することになるのだが、それはまたの機会に話すとしよう。


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