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第11話

ナリヤンくんの登場理由は後書きにて

「会長!」

「森岡先生も!」

「大変なんです!」

「鶴梨たちが!」

「イケメンが刺されて!」


「落ち着いてください……なんですか、この状況は?」


口々に話す生徒たちを森岡と呼ばれた男性教師が宥めた。

そして、腹にナイフを刺したまま絢瀬と話している迅を見つけた。


「き、君!その怪我は……「迅さん!」……橘さん、知り合いですか?……いや、それよりもその怪我は」

「あ、沙夜じゃん。はろはろー」

「こんにちは!……じゃなくて、何事ですか?……って、ああ大体察しました」

「お、諒も居んじゃん……ああ、そういやお前らが通ってたのここか、そういえば」

「そんなことより!君!その怪我は……というか誰!?」


刺されて脇腹から血をダラダラ流しながら談笑している迅に若干引きながらも森岡と呼ばれた男性は口を開いた。


「ああ!取り敢えず……橘さん達は、この人を保健室に連れて行ってください。私はここで何があったのか聴き取ります」

「わかりました。迅さん、行きましょう。それと……リョウはここに残ってください」

「了解しました。迅さん、沙夜様はお任せします」

「俺、一応怪我人なんだけど。諒くん、ひどーい」

「迅さん、アンタそのくらいで死なないでしょう……忘れてませんよ、山で熊と殴り合ってたの」

「忘れろ。忘れられないなら記憶無くすほどぶん殴ってやる」

「と、とにかく保健室へ行きましょう、迅さん」


そんなわけで、レッツゴー保健室。







◇◆◇◆◇


「『ーーーーーーーーー《治癒せよヒール》』」


迅の脇腹に手を翳し、20代半ばの女性が魔法を発動した。

回復魔法……一部では白魔法なんて呼ばれることもある勇者の中でも珍しい魔法だ。



「これで傷は塞がっただろうけど……失った血は戻らないからね」

「ありがとうございます、白原先生」

「いいよ、別に。それにしても……」


白原と呼ばれた女性はベッドで横になっている迅を見た。

肉体の完成度……筋肉の付き方やバランスなどはこの際置いておくとしても、その身体は些か異常だった。15、6歳の男子の身体にしては傷が多すぎる。その上、刺され、アレだけ血を流していたにも関わらず、それを気にしていないかのような振る舞い。異常……であった。


「……さて、迅さん。説明してもらえますか?あの惨状の原因を……まあ、予想はついてますが」

「なら聞くなよ……まあ、話してやるが。

まず、そこのゆるふわファッションビッチ篠宮を迎えに来た」

「ちょっと待ってください!まずそこからおかしくないですか!?」

「ちょ!誰がゆるふわファッションビッチですか!誰が!」


「賑やかだねぇ……」


「おかしくない。

んで、まあ……他校にバイクで乗り付けた訳だしチラチラ見られる見られる。でも、最悪生活指導に注意されるくらいかなと思って無視してたんだけども」

「まあ……ウチの『黒龍』なんて乗ってたら一部の男子は釘付けでしょうね」

「こ、『黒龍』……見たい、超見たい」

「なんかチャラチャラした猿女たちが来て『連絡先教えろ』だの『バイク乗せろ』だの煩いわけよ」

「安達たちか……」


白原教諭も察する。

猿女たち……という名称で察する辺り、彼女らの素行はよほどのものらしい。


「それはそれは面倒だったから適当にあしらってたら篠宮が来たから帰ろうとしたら……あの……なんだっけ?」

「鶴梨です、鶴梨」

「そう、それが来て因縁着けられて殴り掛かってきたからやり返しちゃった。テヘペロ」

「そして……刺されたと」

「いやぁ……あれだね。勇者って面倒だね。表立って喧嘩とかしようものなら大変だし」

「それは仕方ないですね。まあ……相手から手を出したというのなら反撃も許されるでしょう」

「ちょ、ちょっと待て!今、勇者と聞こえたが聞き間違えか!?」


白原が突然立ち上がった。

その様子に、迅、沙夜、絢瀬の3人は何を言ってるんだ?という表情になり、少しして納得する。


「白原先生、迅さんは勇者ですよ。今は朝比奈学園所属の」

「つまり……?」

「噂の男性勇者ですね」


「え、え、えぇえええ」








◇◆◇◆◇


「「この度は……まことに申し訳ありませんでした!!!!」」


現在、迅が居るのは私立宮凪中学の応接室。

そこのソファに座る迅の前ではこの学校におけるお偉方が皆土下座をしていた。


「え……本当に頭上げてくれない?なんか、俺が親の権力使ってやりたい放題してるクソDQNみたいじゃん……ほんと、やめてよ」


さすがの迅も引き気味だ。

なにせ、本来なら関係ないオジサマ方に土下座させてるのだ。しかも、色々な要素が絡まって(主に実家関係で)自分が立場としては上。迅としてはすごく嫌だった。家の権力を使って好き勝手やっているようで。

使えるものは使う主義だが、流石にこうなるのは御免蒙りたい迅である。

それに、どうせ土下座させるなら当人たちだ。

関係無い人間を土下座させたところで、なんの得も面白みもない。


「迅さん……仕方ないと思います。

東雲家は……この国における特別な家ですし、なによりこの学校のスポンサーですから」


沙夜が迅に言う。

特別な家……それを説明するにはこの国について説明せねばならないだろう。

この国の名は日本……日本皇国。

皇王を象徴とした民主主義国家ではあるが、その中には貴族と呼ばれる家柄が存在する。

と言っても、名前だけ。その実体は皇家から任命されただけの富豪などだ。だが……その貴族の中での頂点、公爵家ともなると話が違う。財界に力を持つ家。政界に力を持つ家など。

迅の実家である東雲家、それは日本に三家ある公爵家の一つである。だが、持つ力は一方面にだけ向くわけではなく全方面へ向く。その力は他の二家を圧倒していた。


「でもさぁ……なんか、ねぇ?

これは限定的な例だけど、犬に噛まれたからと言って、その家の大家に文句は言わないだろ?文句を言うのは飼い主に対してじゃん、普通。

俺は別に学校側になにかしてほしいわけではないし。

それに、この学校のスポンサーどうのっていうのはどちらかと言えば本家じゃなくて分家の……北條がやってるわけだろ?」


迅は少しウンザリとしながら口を開く。

その目線の先には未だ頭を上げない学校の首脳陣がいる。本当にどこぞの貴族にでもなった気分で反吐が出そうになっている。いや、貴族なのは称号として間違いではないが……、やはり昔会った人間を思い出し嫌な気分になる。

それに、言ってしまえば権力どうこうの話なら最初から殴られる前に殴っている。その事実を揉み消せるだけの力は持っているのだから。それをしないというのは迅がそういうことを嫌っているという心中の表れではないだろうか。まあ……多少なら名前を使ったり、権力で喧嘩を売られれば権力を持ってそれを買ったりはするだろうが。


「一応、北條家からということにはなってますが実際は東雲家からというのは上層部だと常識らしいですから」

「あっそ」

「それに、東雲家からのスポンサードが切られると大変ですしね。

残るのは……ウチと彼女……安達家と、その他の家々。運営には差し障りないでしょうが、まあ大変にはなります」

「うん?安達って言うと……」

「さっき説明した通り、迅さんに話し掛けた生徒です。あの香水の」

「ああ、あの幅きかせてる香水キツイ奴か……」

「ここら辺だと結構権力を持ってるみたいですよ。元々、数百年前からここらに根付いていたらしいですし。警察とかにもコネがあるみたいです」

「ふぅん……でも聞いたことないな」

「迅さんが社交界にそれほど顔出さないのも理由としてはあるでしょうけど……やっぱり東雲家が優先的に行くようなパーティーなんかには呼ばれてないですから」


先に言った通り、東雲家は現代においても貴族という称号を得ている。さらに、他の貴族はこれまた先に述べた通り富豪である。

そんな彼らは、その裕福さ故に様々な催しを頻繁に行っている。その生活は我々の知る1800年代の英国貴族やフランス貴族に近いだろう。そして、そんな彼らが開くパーティーには格があるというのは誰にでもわかるだろう。

流石に、この時代故に平等であり、何度も言うように貴族なんてものはただの称号だ。貴族でないからパーティーに呼ばないなどと言うことはない。しかしながら、パーティーに呼べる人数は限られるものであるし、呼ぶのなら実りのある相手を選びたいというのは当然のことだ。

話題に上がっている安達家というのはこの近辺では昔から続く名士ではあるものの、日本経済においてものすごく重要というわけではない。パーティーやら舞踏会やらへの招待はあるにしても同じくらいの家格の家や、男爵家よくて子爵家といったところであろう。

それに比べ、東雲家というのは三公爵家の中で持つ力はトップ。各地の有力者や貴族は勿論のこと、日本と同じような政治形態であり王を立てている大英王国や、共和制ではあるが貴族の残るフランス、そしてヴァンへイム王国の貴族や王家、大企業などなど様々なところから招待が送られてくる。そうなると、必然的に行く場所を選ばなくてはならず、やはり開催する者の格が低かったりしてしまうと後回しにされてしまう。それこそ、男爵家のパーティーなどはほぼ行かないだろう。

故に、迅は安達家という家を知らなかったわけだ。

因みに、迅は日本の貴族家……三公爵家、八侯爵家、十二伯爵家、三十一子爵家、四十五男爵家の親類を分かっている範囲で全て暗記している。その他、貴族ではないが各分野における有力者の家なども。


「地方とかによくあるやつか、要するに」

「はい。日本全体で見れば大した力はありませんが、一部の地方なら大きな力を持つ。そんなところで育てられればああもなるのでしょう」


地方での名士の力は強い。

その名士に嫌われようものなら村八分など普通だし、警察に関しても融通がきいてしまう。

一気に開発が進んだこの朝比奈市においてもそれは変わらなかった。


「そういうもんか。

ところで、俺はこの状況をどうすればいいと思う?」

「私にはわかりません。ただ、恐らくですが」

「ですが?」

「しばらくこのままだと思いますよ?」

「そうか……面倒だな」


迅の呟きは部屋で静かに響いていた。

ナリヤンくんの登場理由……この世界における日本の簡単な説明のため

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