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5.御伽噺の令嬢

「いた―――御伽噺の外にも」

「え?」


ペトロネラはマクシミリアンの呟きに首を傾げた。


「なんておっしゃったんですか?」

「あっいいえ!何でもありません」


マクシミリアンは姉の命によりまたしても、ペトロネラのエスコート役を務める事になった。フライ男爵家の屋敷まで彼女を迎えに来たのだが、姿を現した可愛らしい令嬢を見て認識を新たにしたのだった。マクシミリアンの鬼姉や従妹のように強かったり変わり者だったりする女性ばかりでは無かったと。この国にはか弱い、守るべき嫋やかな女性も確かに存在する。







子爵家の馬車に乗って二人が向かったのは、ベルンシュタイン公爵邸である。

勿論子爵家次男坊のマクシミリアンはシュバルツ王国三大公爵の一つであるベルンシュタイン家とは縁もゆかりも無い。今回の夜会はベルンシュタイン公爵の次女ゾフィーアの誕生祝で、女学院に所属する学生が大勢招待を受け特に同級の者に対しては全員に招待状が配られたのだ。それを知ったマクシミリアンの鬼姉コルドゥラがマクシミリアンにペトロネラのエスコート役を命じたのだった。


「ベルンシュタイン公爵は太っ腹なお方ですね。身分の上下に関わらず同級の女学生を全員招待するなんて」

「そうなんです。それにゾフィーア様はとてもお優しい方と女学院でも評判なんですよ。女学院では授業中や用事がある場合でなければ上位貴族の方々と男爵家などの下位貴族の者が親しく言葉を交わす機会はほとんど無いんですが、ゾフィーア様は私共の事も気遣ってくださって彼方あちらから声を掛けて下さいますし」


マクシミリアンは女学院内部の序列について、この時初めて耳にしたので不思議に思った。学院でも確かに序列主義の鼻持ちならない上位貴族の息子はいるにはいたが、それはあくまで少数派だった。

上位貴族の頂点に近い者には成績優秀者が多かったし、クロイツやカーのように実力主義を体現している者が学院では憧れの対象となっているので、身分だけを殊更自慢する者はむしろ珍しかった。士官し実世界に接すれば、やはりそう言った身分に縛られた序列は存在するが―――学院内では積極的にそう言う偏見を排除する傾向にあったと思う。


「姉達も女学院に通っていた筈なんだけど、そう言う序列があるとは聞いた事が無かったな」

「―――ああ!それはそうですわ。『コリント姉妹』は当時……身分を超えた特別な存在だったそうですから」

「姉達が?」

「コルドゥラ様とデリア様と知り合わせていただいてから、姉から教えて貰いました。お二人は女学生の憧れの的で、当時女学院で最上位の身分だったクレマー公爵令嬢が『コリント姉妹』ファンクラブの会長だったそうですよ」

「まさか……あの姉達が?冗談ですよね」

「いいえ、本当です。実はそのー大変言い辛いのですが……男性に免疫の無い箱入り娘が多い女学院では強い女性に憧れる学生が非常に多いんです。いわば恋の真似事と言うか……」


その気持ちは分からなくはないが、現在行き遅れ真っ最中の鬼姉達が『憧れの的』であるとか『ファンクラブ』があるとか言う事実が受け入れられない。姉達がクラリッサのような輝くばかりの美女であるなら、まだそんな危うい少女の感情も在り得るのではないかと思うが……見目は悪くないが絶世の美女とは言い難い姉達がそのような存在であるとマクシミリアンには俄かには信じられなかった。

屋敷での彼女達はと言うと―――あの近衛騎士が素敵だとか、あちらの令息が好みだとかいつも適当に噂をして騒いでいるような浮ついた部分ばかりしか思い出せない。


「……そんな人気があるなら、すぐにでも嫁ぎ先が決まると思うのですが……?」

「まぁ!」


疑い深いマクシミリアンを、ペトロネラは目を見開いて窘めた。


「ご存知ないのですね、お二人は男性方にもとても人気があるのですよ。ただ……」

「ただ?」

「私も不思議だったのでお伺いしたのですが……求婚を受ける時に先ずお二人はお相手と手合わせをされるそうなんです。それで勝利した方に嫁ぐと宣言されているそうで……」


謎が解けた。

そしてマクシミリアンは絶望した。




「それじゃあ、今まで姉達と戦って勝利した男性は……」

「いらっしゃらないそうです。負けても諦めずに求婚されている方はいるそうなんですけれど……」




少しでも早く二人には婚姻相手を見つけて家を出て欲しい、若しくは自分が独り立ちして逃れたいと思っていたマクシミリアンにとっては凶報だった。

それでは一生掛かっても、嫁ぎ先に恵まれる事は無いかもしれない。


男性経由で自分にそのような話が伝わらなかった訳も理解した。

例え姉達がコリント家の精鋭だとしても。

妙齢の女性に正々堂々と闘って負けた男達は―――その事実を隠蔽するに決まっているのだから。




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